【高橋清隆の文書館】(2025年03月31日):都内で3200人が国の農業政策変更を訴え行進、「農家に欧米並みの所得補償を!」 全国14都市で「令和の百姓一揆」

高橋清隆

 国の農業政策の転換を訴える集会とデモ行進が3月30日、全国14都市で催された。名付けて「令和の百姓一揆」(令和の百姓一揆実行委員会・菅野芳秀代表)。東京では港区の青山公園に約3200人が集まりリレートークを行った後、トラクターを先頭に「農家に補償を 欧米並みの所得の補償を」「国産残そう 限界超えてる農家を守ろう」などとシュプレヒコールを上げながら六本木方面へデモ行進した。


東京・港区内を進むデモ隊(2025.3.30、筆者撮影)

 わが国では至る所で離農が続く一方、農産物の価格は高騰している――。政府は食料自給率を37.6%と発表するが、鈴木宣弘・東大特任教授の試算によれば、肥料や種を考慮に入れた食料自給率は9.2%。稲作農家の時給はわずか10円。ほとんどの農家は善意だけで家業を続けている。

 今回の集会は、農業の危機を回避するため、政治的・社会的立場を超えた大連携を呼び掛けるもの。そのため、多様な農業と人間を尊重し、他の団体や農法、人間への批判をしないことなどを事前に申し合わせた。北海道から沖縄まで、14都道府県で同時開催された。


全国から農業者・市民が集結。公園から人があふれた(2025.3.30、筆者撮影)

 午後2時半すぎ、公園には人があふれていた。敷地の規模から、主催者は1500人程度の参加を想定していたが、隣接する在日米軍「六本木ヘリポート」への坂にも人が立ち並ぶ状況に。農家をはじめ、消費者である一般市民や政治家も多数駆け付けた。

 全国の会場で計300台のトラクター・軽トラックが集結した。東京会場に並んだトラクターは30台。農民運動全国連合会(農民連)2台の他は、インターネットの呼び掛けで名乗り出た農家の人たちだ。「もっと参加希望者がいたが、警察から30台までにしてくれと言われた」と山田正彦・元農水相は明かす。

 トラクターだけのデモ隊が代々木公園に向けて出発した後、農業者や政治家によるリレートークが持たれた。


あいさつする大河原議員(2025.3.30、筆者撮影)

 大河原雅子(おおがわら・まさこ)衆院議員(立憲・東京21区)は、「本当にこの国は滅びるしかないんでしょうか」と口を開いた。「生きるための農業を再生して、農家さんに頑張ってもらえるように、政治を変えなければいけません。百姓一揆。百姓の力を見せつけてやりましょう」と参加者を鼓舞した。


登壇した藤松さん(右、2025.3.30、筆者撮影)

 人によるデモ行進にも、1台トラクターの参加が許された。それに乗る藤松泰道(ふじまつ・やすみち)さんが紹介される。浜松市で有機によるコメと野菜を育てる農家だ。「食を守ることは、未来の子供たちを守ることになる。ぜひ今日は心を1つにして、同じ道を未来に向かって共に進んで参りましょう」と呼び掛けた。


阿部議員(2025.3.30、筆者撮影)

 阿部知子衆院議員(立憲・神奈川12区)は、「福島第1原発事故のとき、つくづく思った。父を返せ。海を返せ。あのウシたちを、そして生きとし生けるものの命を返せと。トラクターデモは日本を変える大きな一歩です。ご一緒に頑張りましょう」とあいさつした。


呼び掛け人の山田元農水相(2025.3.30、筆者撮影)

 コールを練習した後、呼び掛け人の1人、山田氏が紹介される。段取りに奔走した山田氏は、「今日は本当に多くの皆さん方に集まっていただき、ありがたいと思っている」と破顔した。農家への所得補償は欧州で8割、米国でも4割に上るのにわが国はないに等しいことや、自身が農水相のとき40億円の戸別補償を付けただけで農家の所得が17%上がったことを説明。「だから、日本も欧米並みにやらなければ食べていけない。所得補償の声を上げていきましょう」と訴えた。


演説の声をかき消す爆音をとどろかす米軍ヘリ(2025.3.30、筆者撮影)

 集会の間、米軍のヘリが相次いで離着陸を繰り返す。爆音で声が聞こえなくなるほどだった。関税引き下げや食管法の廃止、ミニマムアクセス米の購入、食品添加物の規制緩和と食品表示の不透明化を要求し続けてきた張本人は米国である。


出発を待つ藤松さんのトラクター(2025.3.30、筆者撮影)

 デモ行進は、300人ほどで1つの梯団(ていだん)を組んで出発。第10梯団まで続いた。第1梯団は農業者を中心に構成され、藤松さんのトラクターが先頭を務めた。愛機のボンネットには、しめ縄がくくり付けられている。「『令和の百姓一揆』が日本の農政とこの国の転換点になると思っている。そういう意味でしめ縄を作らせていただいた」と説明。

 出発を待つ間、「あと5年もしたら、本当に農家は半分になる。特に誰が困るかと言えば、国民です。それに多くの人がまだ気付いていない。補償が海外に比べたら全然少ないので、それを多くの人に知ってもらいたい」と真剣な思いを吐露した。


第1梯団(2025.3.30、筆者撮影)

 ホラ貝の音とともにデモ隊は公園を出る。公園に待機する参加者から、「いけ! いけ!」と応援の歓声と拍手が湧いた。シュプレヒコールを上げながら六本木通りへと向かう。

「農家に補償を 所得の補償を 欧米並みの所得の補償を」
「農業を守ろう 農村守ろう 国産守ろう」
「お米を食べよう 牛乳を飲もう 野菜を食べよう 果物食べよう 未来の子供に国産残そう」
「限界超えてる農家を守ろう」
「今動かなくちゃ農業守れない みんな立ち上がれ 今が正念場」


米軍「赤坂プレスセンター」の前を過ぎる第1梯団(2025.3.30、筆者撮影)

 山形県長井市で野菜農家を営む渋谷孝雄さん(73)は地元、置賜(おきたま)地方の仲間と参加した。動機について、「このままでは日本農業は駄目になるから。やる人がいないというのは、もうどうしようもない。農家に所得補償をした上で、跡継ぎが安心して百姓ができる国にしていかなければ、国自体が駄目になってしまう」と切実な胸中を打ち明けた。


水島社長(2025.3.30、筆者撮影)

 開催方針通り、参加者の顔ぶれは思想的左右・官民の立場を超えていた。チャンネル桜の水島総(みずしま・さとる)社長の姿もあった。鈴木氏や山田氏を番組に迎えてきた水島氏は、所得補償を中心に日本の農業を守る重要性を説いた上で、「農業はGDP(国内総生産)の1%しかないが、日本の伝統や文化の重要な面を担う。農家とわれわれは生産者と消費者の関係だけでなく、その中に日本の自然や伝統という心が入っている。田んばはコメの生産工場として捉えるだけでは十分でない。自然への畏敬や感謝の念を育んできた」と強調した。


むしろ旗を広げ、デモ隊にエールを送る男性(2025.3.30、筆者撮影)

 デモ行進する沿道で、「天下分け目の闘いに!」と書かれたむしろ旗を広げる男性がいた。相模原市に住む65歳のNPO法人の役員とのこと。「もう本当に一揆を起こさなければいけないくらいの状況だ。もっと怒っていいと思う。この国の農業政策が本当にひどいから。なし崩し的な事実上の減反政策がいまだに続いている。政府は責任を持って施策をコントロールしていかないと、本当に日本の食文化は守れない」と危機感を露わにしていた。

 近くに住むという20歳の女子大学生は、1人でデモ行進を見ていた。「長崎の知人からデモの話を聞いていたので、ちょっと見てみようと思って」。デモ隊の主張について評価を尋ねると、「農家さんと話していて、日本の農業所得補償が低いというのは知っていました。農家の人口も減っていて、(一般消費者が)お金があれば何でも買えると思っているのも原因かなと思って……」と考えを整理していた。

 夕方、明治記念館では約400人の総括集会「寄り合い」も開かれた。実行委員のメンバーのほか、多くの要望を受け、参加した各団体から1~2人が代表として一堂に会した。この日のデモ行進の報告と、今後、この活動をどう広めていくかについての意見交換が交わされた。

 同実行委員会は活動資金を集めるため、クラウドファンディングで寄付を募ってきた。この日まで集まった募金総額は、1900万円を超えている。


北口雄幸(きたぐち・ゆうこう)北海道議(左端)ら「食料自給の確立を求める自治体議員連盟」の面々も参加。2月14日には、国会内で食料・農業・農村基本計画に関する要請も行っている(2025.3.30、筆者撮影)


川田龍平・参院議員(2025.3.30、筆者撮影)

※なお、この記事は「高橋清隆の文書館」2025年03月30日のブログ記事
「都内で3200人が国の農業政策変更を訴え行進、「農家に欧米並みの所得補償を!全国14都市で「令和の百姓一揆」http://blog.livedoor.jp/donnjinngannbohnn/archives/2065952.htmlからの転載であることをお断りします。

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高橋清隆 高橋清隆

反ジャーナリスト。金沢大学大学院経済学研究科修士課程修了。元ローカル新聞記者。著書に『偽装報道を見抜け!』(ナビ出版)、『亀井静香が吠える』(K&K プレス)、『山本太郎がほえる~野良犬の闘いが始まった』(Amazon O.D.)など。翻訳にデーヴィッド・アイク『答え』第1巻[コロナ詐欺編](ヒカルランド)。2022年3月、メディア廃棄運動を開始。 ブログ『高橋清隆の文書館』http://blog.livedoor.jp/donnjinngannbohnn/

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