【連載】櫻井ジャーナル

【櫻井ジャーナル】2025.04.16XML: シリアのアル・カイダ体制は少数派を弾圧、キリスト教聖職者も拘束、殺害の対象

櫻井春彦

 昨年12月8日にHTS(ハヤト・タハリール・アル・シャム)やRCA(革命コマンド軍)がアル・カイダやダーイッシュの旗を掲げながらダマスカスを制圧、バシャール・アル・アサド体制は倒された。アサド体制が守っていたアラウィー派やキリスト教徒をはじめとする少数派を新体制派弾圧、殺害された少数派は1万人を越すと言われているが、HTSはトルコの傭兵、RCAはアメリカやイギリスの傭兵だということもあり、そうした虐殺が西側では報道されにくい構図になっている。アル・カイダ/ダーイッシュを利用した外部勢力による侵略戦争を批判してきたメルキト・ギリシャ典礼カトリック教会のアグネス・マリアム修道女は逮捕され、刑務所で拘束されている。

 シリアに対する侵略戦争を始めた外国勢力の中心的な存在はアメリカのバラク・オバマ政権。この政権はムスリム同胞団を利用し、地中海の南部や東部の沿岸で体制転覆工作を仕掛けようと計画し、2010年8月にPSD-11を承認した。そして「アラブの春」が始まり、11年2月にはリビアに対する侵略を開始、同年3月にはシリアへの侵略を始めた。

 2011年10月にリビアのムアンマル・アル・カダフィ政権が崩壊、カダフィ本人は惨殺され、アメリカなど侵略勢力は戦闘員や兵器をシリアへ移動させ、さらにアル・カイダ系武装勢力への軍事的な支援を強化している。そうした​オバマ政権のジハード傭兵支援を危険だとする報告書をアメリカ軍の情報機関DIA(国防情報局)は2012年に政府へ提出​している。

反シリア政府軍の主力はAQIであり、その集団の中心はサラフィ主義者やムスリム同胞団だと指摘、さらにオバマ政権の政策はシリアの東部(ハサカやデリゾール)にサラフィ主義者の支配地域を作ることになると警告したのだ。その時にDIAを率いていた軍人がマイケル・フリン中将にほかならない。

 その2012年にCIAはシリアのジハード傭兵を訓練、資金や武器弾薬を供与する極秘のプログラムを初めている。​「ティンバー・シカモア」作戦​だ。作戦の司令部はアンマンにあり、イギリスやサウジアラビアなどの情報機関から支援されている。そしてシリアでの戦争はエスカレートし、2011年以降、シリアでは30万人以上が死亡したとされている。基本構造はウクライナと同じだ。

 このプログラムを提案したのはCIA長官だったネオコンのデビッド・ペトレイアス。ヨルダン国王アブドラ2世やイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相などのロビー活動もあり、承認されたとされている。

 2012年5月にはシリア北部ホムスで住民が虐殺され、西側の政府やメディアは政府軍が実行したと宣伝していたが、同年6月に現地を調査したメルキト・ギリシャ典礼カトリック教会のフィリップ・トゥルニョル・クロス大主教はそうした報道の内容を否定、虐殺を実行したのは政府軍と戦っているサラフィ主義者や外国人傭兵だとローマ教皇庁のフィデス通信で報告した。同大主教は「誰もが真実を語れば、シリアの平和は守られる。紛争の1年後、現地の現実は、西側メディアの偽情報が押し付けるイメージとはかけ離れている」ともしている。修道女のアグネス・マリアムも外国からの干渉が事態を悪化させていると批判していた。

 同年8月にオバマ大統領はNATO軍/アメリカ軍による直接的な軍事介入のレッド・ラインは生物化学兵器の使用だと宣言、12月には国務長官だったヒラリー・クリントンが、自暴自棄になったアサド大統領が化学兵器を使う可能性があると主張。翌年の1月になると、イギリスのデイリー・メール紙はアメリカ政府がシリアでの化学兵器の使用を許可し、その責任をシリア政府へ押しつけてアサド体制を転覆させるというプランが存在すると報道した。

 2013年3月に反政府軍がアレッポで化学兵器が使用したとアサド政権は発表、国連に対してすみやかに調査するように要求するが、それに対して反政府軍側や西側諸国は政府軍が使ったと主張した。

 それに対し、​化学兵器とサウジアラビアを結びつける記事をミントプレスが8月に掲載​、アグネス・マリアムもアル・カイダ系武装勢力や西側の主張に対する疑問を明らかにしている。

 12月には調査ジャーナリストのシーモア・ハーシュがシリアの反政府軍がサリンの製造能力を持ち、実際に使った可能性があるとする記事をロンドン・リビュー・オブ・ブックスに書く。(London Review of Books, 19 December 2013)

 さらに、​国連の元兵器査察官のリチャード・ロイドとマサチューセッツ工科大学のセオドール・ポストル教授は、化学兵器をシリア政府軍が発射したとするアメリカ政府の主張について、ミサイルの性能を考えると科学的に成り立たないとする報告を発表した​。西側が必死に宣伝していた化学兵器話は荒唐無稽だったということだ。

 また、​トルコの国会議員エレン・エルデムらは捜査記録などに基づき、化学兵器の材料になる物質はトルコからシリアへ運び込まれ、そこでダーイッシュが調合して使ったとしている​。

 アル・カイダ/ダーイッシュやアメリカをはじめとする反アサド勢力にとってアグネス・マリアムは目障りな存在だった。その修道女をシリアの新体制は刑務所で拘束したが、それだけでなく少なからぬキリスト教の聖職者が拘束されたり惨殺されている。

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「シリアのアル・カイダ体制は少数派を弾圧、キリスト教聖職者も拘束、殺害の対象」(2025.04.1613ML)
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