第97回 世界を裏から見てみよう:イーロン・マスクのツイッター買収頓挫
漫画・パロディ・絵画・写真国際・タレントの自殺
「聞いてないよォ」「くるりんぱ!」などのギャグで人気を博したお笑いトリオ、ダチョウ倶楽部の上島竜兵さんが急死した。享年61。5月11日午前0時頃、東京・中野区の自宅マンションで妻のタレント・広川ひかるさんがぐったりした上島さんを発見し、119番。救急搬送された病院で1時間後に死亡が確認された。警視庁中野署は自殺とみて調べている。
ここで私が大きな違和感を覚えたのは、上島さんの訃報が流れた直後に放送された、厚生労働省の「こころの健康相談統一ダイヤル」の告知だ。ホームページには「もし、あなたが悩みを抱えていたら、その悩みを相談してみませんか。」とあり、問い合わせ先の電話番号0570-064-556とともに、「おこなおう まもろうよ こころ(ナビダイヤル)」と覚え方が記されている。
しかし、果たして悩んでいる人にどこまで効果があるかは疑わしい。
ここで強く指摘したいことは、有名タレントが自殺で亡くなると、その直後に待ってましたとばかり、メッセージが挿入されることの問題だ。自殺を思いとどまらせるという趣旨にもちろん異論はないが、訃報にピッタリ合わせた告知は悲嘆に暮れる遺族らを置いてきぼりにする無神経なものでは。今回は、自殺と認定されてもいないのに、「自殺予防」の告知が出た。
ダチョウ倶楽部のメンバーがそれぞれコメントを出した。とくにリーダー・肥後克広さんのコメントは心に響くものだった。肥後さんはコントの制作者としてトリオを引っ張ってきた人だ。
〈何をやっても笑いを取る天才芸人上島が最後に誰も1ミリも笑えない、しくじりをしました。でも、それが上島の芸風です。皆で突っ込んで下さい。「それ違うだろ!」「ヘタクソ!」「笑えないんだよっ!」と地面も蹴ってください。上島は天国でジャンプします。皆様もジャンプして下さい。そして、上島の分、3倍笑って下さい。皆にツッコまれる、それが上島の芸風です。ダチョウ倶楽部は解散しません。二人で、純烈のオーディションを受けます。ヤーッ!どんな悲しいことがあっても、みんなでクルリンッパ!〉
上島さんのご冥福を祈ります。
・養老孟司「世界は皆同じか?」
2003年に出版され400万部を超えるベストセラーとなった『バカの壁』の著者・養老孟司東大名誉教授がユーチューブ「養老先生の生活の知恵」で「人はなぜ〈同じ〉を志向するのか」について話している。
「なぜ正しいことを伝えてくれないのか…。今もなお、世界中のメディアが間違い続けるのはコレが原因なんです。全てを鵜呑みにせず話半分に聞きましょう」と養老さんはさりげなく訴える。動画は講演内容をまとめたものだ。以下に要約を紹介する。
〈メディアは同じにする。同じになっていくのが進歩だとどっかで思っていた。それって多分間違いだと思います。同じことを考えられるのは人だけです。
アイちゃんというチンパンジーがいます。数字を(アトランダムに)100並べて10隠して、そこに何があったか尋ねると完璧に答えるんです。カメラアイといって見たものをパンと覚えるんですよ。
たとえば皆さん方(講演会場)、全部違う人なんですけど、でも(メディアは)人として全部同じにしちゃいます。動物はこれを絶対にやらないということです。
訓練していない犬をここに連れてくると必ず逃げる。なぜ逃げるかというと、ここに座っている人が全部違って見えるからです。一つひとつが正体不明だからです。われわれは人って括っちゃうから、人ならこういうことはしないだろうと思うんですけど、犬はそうは思わないんです、多分。
SMAPの歌に「世界に一つだけの花」というのがあります。世界は同じ人ばっかりだと思ってるんでしょう。それが、われわれがこの時代、今までずーっと育ててきたやり方ですよ。その典型がメディアです。メディアが円安に触れ、輸出企業が良くなると報じていますが、輸出企業はGDPの13%にすぎないんです。株高って、株を買ってる人の6割は外国人ってご存知ですか? つまり(私たちには)関係ないんですよ、はっきり言って。〉
養老さんの話はまだ続くのだが、メディアによって物の見方を均一化させられている私たちに対して警鐘を鳴らしているのだ。
話は変わって映画監督でユーチューバーの加治将一氏は、米ロサンゼルスで不動産関係の仕事に従事したのち、ビジネスの傍ら著作活動を続けている。『龍馬の黒幕 明治維新と英国諜報部、そしてフリーメイソン』『幕末 維新の暗号 群像写真はなぜ撮られ、そして抹殺されたのか』など著書多数。
加治氏は4月23日に起きた知床観光船の沈没事故をとり上げ、そもそも事故対応の4つの所轄部署、海上保安庁(国土交通省)、自衛隊(防衛省)、北海道警察(警察庁・北海道知事)、消防(総務省)の連携がスムーズに稼働していなかったことが原因だと指摘した。
さらに、運行会社「知床遊覧船」の桂田精一社長の記者会見について、記者側の追及が甘いと主張。記者たちが故障歴のあった遊覧船の修理状態と修理会社の特定に触れなかったからだ。
4月26日、岸田文雄首相の指示を受け、小型船舶を使用する旅客輸送における安全対策を総合的に検討する「知床遊覧船事故対策検討委員会」が設置された。事故が起きてから検討しても遅きに失した感があるが、加治氏が指摘する「修理内容の検証」については報道がない。そこに彼は、何か不純なものを感じているのではないか。
・ツイッター買収を妨害する勢力
南アフリカ共和国出身のアメリカの実業家イーロン・マスクは電気自動車「テスラ」CEO、子会社「ソーラーシティ」の会長、宇宙開発企業「スペースX」CEO等を務める世界的大富豪として名を馳せている。
そのマスクがSNSのツイッター社を買収すると発表。その額なんと440億ドル(約6兆円)という超巨額。世界をアッと言わせた。マスクは長年にわたるツイッターのヘビーユーザーで、ツイッターの「言論の自由」に疑問を呈していた。
2020年5月、英紙フィナンシャル・タイムズのイベントに出演すると「トランプ前米大統領を追放したのは正しくなかった」「永久追放は詐欺のアカウントなど、そのアカウントに正当性が全くない場合にのみ適用されるべきだ」と述べている。
さらにマスクは「言論の自由」の重要性を繰り返し訴え、ツイッター社の投稿監視のあり方に不満を口にした。
そのトランプは4月、「ツイッターのアカウントが再開した場合でも、ツイッターを再び利用することはない」と述べ、自身が主導する独自SNS「トゥルース・ソーシャル」で発信するという。
表現の自由に制限が加えられる、いわゆる「中央集権SNS」に対して非中央集権SNS「マストドン」の開発者オイゲン・ロッコについて、WIRED(5月7日付)がとり上げている。
記事によると、〈以前はロッコ自身がマスクと同じような状況に置かれていた。不満を抱えながらツイッターを利用するパワーユーザーだった。ロッコは、問題がプラットフォームの中央集権的な構造にあると考えた。中央集権的であることで、株主の気まぐれでプラットフォームが変更されたり、予告なしにルールが変わったりする可能性があった。しかも、プラットフォームが消滅する可能性すらある。(中略)そこで、ユーザーがサーバーを所有し運営すれば、自己統治も含め、より管理を強化できるだろうと考えた。〉
これを読むと、「表現の自由」を担保するSNSの台頭に大いなる期待が抱ける。
ところが事態は一転する。マスクが条件付きでツイッター社買収を一時保留すると発表したのだ。
「ツイッターとの取引は、スパムや偽アカウントが実際のユーザーの5%未満であるという試算が裏付けられるまで、一時的に保留する」とマスクは弁明するが、はたして額面通りに受け取っていいものだろうか。DS(ディープステート)の圧力に屈したのではないかという私の推測が邪推でなければいいが。
(月刊「紙の爆弾」2022年7月号より)
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日本では数少ないパロディスト(風刺アーティスト)の一人。小泉政権の自民党(2005年参議院選)ポスターを茶化したことに対して安倍晋三幹事長(当時)から内容証明付きの「通告書」が送付され、恫喝を受けた。以後、安倍政権の言論弾圧は目に余るものがあることは周知の通り。風刺による権力批判の手を緩めずパロディの毒饅頭を作り続ける意志は固い。