【連載】櫻井ジャーナル

【櫻井ジャーナル】2025.04.30XML: WHで現実を直視する勢力とネオコンが抱いている幻影にしがみつく勢力が対立

櫻井春彦

 チャーリー・カーク・ショーに出演したJDバンス副大統領はホストのカークに対し、戦争の長期化がウクライナを勝利に導き、ロシアを崩壊させるという有力メディアの主張を否定した。そうしたメディアの中には、現在の状況が数年続けばロシアは崩壊し、ウクライナは領土を取り戻し、すべてが戦争前の状態に戻るという考えが広まっているが、それは現実と乖離しているとしている。これは事実だ。戦争がこれから数年続けば何百万人が命を落とし、核戦争へとエスカレートする恐れがあるともバンスは語っている。

 それに対し、ドナルド・トランプ大統領のウクライナ担当特使を務めているキース・ケロッグ退役中将はロシア経済が脆弱だと認識、アメリカの「制裁」に屈すると考え、またウクライナでの戦闘は膠着状態にあり、ロシア軍は継続が困難なほど多くの死傷者を出していると信じているようだ。そこでロシア政府はアメリカが要求する停戦条件を簡単に呑むとケロッグは考え、大統領を説得した。

 ケロッグの判断は間違っていたのだが、ウラジミル・プーチン露大統領と長時間にわたる会談を3度行った中東担当特使のスティーブ・ウィトコフはケロッグの間違いに気づき、ロシア政府は政治的枠組みが合意されるまで停戦も受け入れないと繰り返し述べていた。

 ネオコンと似た認識を持つ好戦的なケロッグと客観的な判断をしているウィトコフは対立しているように見えるが、問題はトランプ大統領も好戦的な側面があり、ロシアの確固たる立場を無視し続けていること。彼もバラク・オバマやジョー・バイデンと同じようにウクライナを軍事支援し、ロシアとの戦争を煽ってきたことを忘れてはならない。戦争を終えたいなら、トランプはそうした過去と決別する必要がある。

 BRICSの会議に出席するためにブラジルを訪れたロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は4月27日、地元のオ・グロボ紙に対し、ウクライナ紛争を終わらせるために満たさなければならない条件を改めて述べた。条件のひとつはウクライナによるロシアとの交渉の法的な禁止を解除すること、またウクライナは中立かつ非同盟の地位を維持し、NATOに加盟しないこと、西側諸国は制裁を解除し、凍結されたロシアの資産を返還することを求めている。またクリミア、セバストポリ、ドネツク、ルガンスク、ヘルソン、そしてザポリージャにおけるロシアの主権的な支配を国際的に承認すること、ロシアの言語、メディア、文化、伝統、そして正教会などに対する弾圧を止めることも要求。

 こうした条件が満たされ、和平合意への明確な道筋が示されない限り、戦闘は終わらないということだろうが、さらに大きな問題が残されている。ナチズムを信奉する武装集団をどうするのかという問題やウォロディミル・ゼレンスキーとイギリスの情報機関MI6の関係だ。例えトランプがロシアとの和平を願っているとしても、19世紀からロシア征服を目論んでいるイギリスの支配層は違う。

 ウクライナの戦乱は1990年に西側の好戦派が持ち込んだ。そうした勢力の働きかけもあり、この年にウクライナ議会がソ連からの独立を可決したのである。クリミアでは1991年1月にウクライナからの独立を問う住民投票が実施され、94%以上が賛成しているのだが、その民意を無視してクリミア議会はウクライナへの統合を決めてしまった。クリミアと同じようにロシアからウクライナへ割譲された東部ドンバスでも独立や自治権の獲得を目指している。

 そうした事情を配慮して1990年代のウクライナでは中立を掲げることになる。一方、そうしたことを認めたくない西側は中立政策をやめさせ、欧米に従属するように要求するのだが、2004年の大統領選挙では東部や南部を支持基盤にし、中立政策を進めようとしていたビクトル・ヤヌコビッチが勝利してしまう。

 その結果を翻すため、アメリカは2004年から05年にかけて「オレンジ革命」と呼ばれたクーデターを実行、西側の傀儡だったビクトル・ユシチェンコを大統領に据えたのだが、ユシチェンコ政権は新自由主義政策を推進、不公正な政策で貧富の差を拡大させたことからウクライナ人の怒りを買う。そして2010年の大統領選挙では再びヤヌコビッチが勝利することなった。

 それに対し、アメリカのバラク・オバマ政権は2013年から14年にかけてネオ・ナチを利用したクーデターを実行、西側資本の属国にするのだが、このクーデターをヤヌコビッチの支持基盤だった東部と南部は拒否、クリミアはロシアの保護下に入り、ドンバスでは武装闘争を開始する。

 軍や治安機関の約7割は新体制を拒否したと言われているが、クリミアの場合は9割近い兵士が離脱したと伝えられている。東部や南部を制圧することは困難な状況だった。そこで西側はキエフ体制の戦力を増強するために必要な時間を稼ごうとする。そこでミンスク合意だ。

 8年間に兵器を供給、兵士を訓練、地下要塞を中心とする要塞線を築き、2022年に入るとドンバス周辺に部隊を集中させ、大規模な軍事作戦を始める様相を見せた。のちにそうした作戦があったことを裏付ける文書が出てきている。

 1990年代へ入る頃にはアメリカの外交や安全保障はシオニストの一派であるネオコンが支配、そのグループは1992年2月にアメリカ国防総省のDPG(国防計画指針)草案として世界制覇プロジェクト(ウォルフォウィッツ・ドクトリン)を作成した。リチャード・チェイニー国防長官の下、ポール・ウォルフォウィッツ国防次官を中心として作成されたことから「ウォルフォウィッツ・ドクトリン」とも呼ばれている。

 このドクトリンはソ連が消滅した後、ロシアを含む旧ソ連圏はアメリカの支配下に入ったということが前提になっている。そのプロジェクトが本格的に指導したのは2001年9月11日。この日、ニューヨークの世界貿易センターやバージニア州アーリントンの国防総省本部庁舎が攻撃されている。

 ネオコンは1991年12月の段階でアメリカが「唯一の超大国」になったと認識、その認識に基づき、2001年9月11日の攻撃を利用して世界制覇を目指す戦争を始めたのである。その判断が間違っていたとは信じたくないのだろう。ウクライナでNATO諸国がロシアに負けている中、ロシア経済は脆弱で軍事的に大きなダメージを負っているという幻影にしがみつくのはそのためだ。第2次世界大戦の終盤に少なからぬ日本人が「神風信仰」にしがみついたことを思い起こさせる。

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