
この日本で起きている、国会議員とマスコミによる驚愕の言論弾圧
社会・経済メディア批評&事件検証1985年8月に起きた日航123便墜落事件を扱った図書に対して、自衛隊出身の佐藤正久参議院議員が「これはフェイクニュースだ、こんな本が文科省関連の推薦図書とは何事か」と国会の委員会で質問する事案が発生した。同じ自衛隊出身の防衛大臣が答弁をしている。そしてこの件をめぐって、産経新聞が、私のような第三者から見て不可解な報道を行っている。私は、この一連の事実に対して、日本における「表現の自由」への露骨な弾圧事例として、多くの国民が実情を知り、かつ同議員・マスコミに対して強い批判を下すべきであると考える。
事の発端は、日航の元客室乗務員だった青山透子氏(これはペンネームであり本名ではない)が、日航123便墜落にまつわる種々の疑問をまとめた数冊の著書を出版したことに始まる。特に2冊目の「日航123便墜落の新事実ー目撃証言から真相に迫る」は13万部を超えるベストセラーとなり、本屋大賞ノンフィクション部門の最終選考にノミネートされた。続く「遺物は真相を語る」「墜落の波紋ーそして法廷へ」とともに、3冊が全国学校図書館協議会選定図書に選ばれている。そして昨年8月には「隠された遺体」が出版され、このISFにも嶋崎史崇氏による書評が掲載されたので、ご記憶の読者もおいでだろう。
そしてこれらの諸著作は、123便墜落の遺族である吉備素子氏が起こした123便のボイスレコーダー開示請求訴訟において証拠資料の一つとして採用された。このような図書を、佐藤議員は何の根拠も示さずに「フェイクニュースだ」と決めつけ、全国学校図書館協議会選定図書に選ばれたことにさえも「けしからん」と文句をつけたわけである。この発言は、国会議員が本来は国民のために守るべき「表現の自由」を自ら弾圧するばかりか、一作家の表現の自由という重要な権利を著しく侵害するものと言わざるを得ない。まるで出版を差し止める勢いであり、明らかな言論の弾圧である。今の日本で、このような事案が起きて良いものか?まるで戦前の言論統制と同じではないか?
そしてそれに輪をかけているのが、産経新聞の本件に関する報道である。見出しがすでに「日航機墜落の陰謀説唱える書籍は「図書館協議会選定図書」 自民の佐藤正久氏が是正訴え」となっており、青山氏の諸作を最初から「陰謀説」扱いしている。そして産経新聞は青山氏に対し、中谷元・防衛相が自衛隊の関与は「断じてない」と発言したことへの見解を書面で求めた、と書いてあるが、当の青山氏によると、その取材方法は常軌を逸したものであったようだ。産経新聞の奥原慎平記者が4月28日に質問状をメールで送って来て、4月30日午後3時までにメールにて当方に答えよ、と書いてあったと。しかも漠然とした内容に対し「どう思う?」という質問で。
相手の都合も聞かずに期限を切り、かつその回答を新聞で公開するという一方的なやり方は、マスコミの思い上がった横暴さを示すものであるが、これに対して青山氏は、5月2日付けの同紙紙面にその回答を載せている。この全文は青山氏ブログに記載された内容と同一であり、その点では産経新聞のジャーナリズムを一定程度評価できる。その一方で、日航社長が「事実は一つ」と述べ、陰謀説を否定したとも伝えている。この記事でも「陰謀説」とあり、青山氏の著作が全編陰謀論であるかのような印象操作がなされている。しかし同氏の著作を読めば明らかなように、東大で博士号を取得した研究者にふさわしく、膨大な資料や公文書を調べ、多くの証言や証拠を集めて推論を重ねるその記述は、学術論文に匹敵する厳密さで書かれたものであり、決して単なる思い込みでなされる「陰謀論」と同一視できるものではない。この点は、長年研究者として暮らし、各種の学術論文・著書を執筆してきた私は断言できる。もしこれらの著作を陰謀論と言うのであれば、少なくとも、なぜそれが陰謀論であるかの確かな根拠(客観的・科学的なデータ及び論理的な考察)を示さなければならない。真に学問的な論争と言うものは、そうしたものである。
また佐藤正久議員は、御巣鷹の尾根にどこかの第三者がおかしなものを立てた、こんなひどい墓碑がある」と国会質疑で発言している。実はこの墓碑は、遺族の一人である小田周二氏が自らの「仮説」を墓碑に刻んだもので、実際にも「真実の仮説」と書かれている。小田氏は、これまでに3冊の著書を書かれており、青山氏よりもはっきりと自衛隊機撃墜説を仮説として展開しておられる。言わば、同氏の信念を明確に墓碑に刻んだものと言える。この墓碑についての発言を、青山氏の著作に関する発言と同時に発することは、あたかも青山氏が自衛隊機撃墜説を主張しているかのような印象を与え、誤解を導くものである。悪質な印象操作と言うしかない。
しかも、この発言がなされた4月10日時点では上野村は閉山中で、佐藤議員が示した写真を撮れるのは、入山が可能だった日航社員の整備担当者だけだったことを考えると、日航と同議員の繋がりも見えてくる。さらには、産経新聞も5月4日の記事で「日航機事故 「御巣鷹の尾根」への登山道に「自衛隊機撃墜説」を伝える慰霊碑は本当にあった」との記事を載せている。ただし後半は有料記事のため閲覧できなかった。一体、これは何のための記事なのか?
小田周二氏の著作を読めば分かるが、同氏の著作も綿密なデータ分析と緻密な論理的な推論を積み重ねるその記述には強い説得力があり、単なる陰謀論として片付けられないほどの重みがある。ぜひ多くの方々に一読していただきたい。なお、故森永卓郎氏が123便墜落に関して自衛隊の関与について踏み込んだ発言をしているが、その内容は小田氏の著作と重なる点が多いことは偶然ではないと私は思う。その小田氏が亡くなった家族の墓標に小さく書いた「仮説」を、あたかも「陰謀論の権化」のように扱う国会議員も産経新聞も、その姿勢は大いに批判されるべきだろう。英国人遺族のスーザンさんという方も、産経新聞に抗議文を送付している。英国ではおよそ考えられない事態であると、憤慨されたそうだ。この辺に人権意識の「国の差」が現れる。
そして、この国の文化界が異常であると思うのは、マスコミはこのような「事件」が起きても何も報道せず、また学者や知識人の多くが知らんぷりを決め込んでいる点である。青山氏も書いている通り、憲法学者であれば、当然、国会議員の事実上の言論弾圧を憲法論の立場から糾弾すべきであり、作家であれば、もしも自作に対し検閲にも等しい今回の佐藤議員のような行為がなされたらどうなるかを考えて、抗議声明を出すべきだし、新聞ならばこのような事態を静観することは当然許されないはずだ。それが、これを書いている5月6日時点では、私の知る範囲で何一つ出ていないようなのだ。
この辺に、今の日本社会が抱えている情報空間上の一つの問題が浮き彫りになっている。この問題に限ったことではないが、大手マスコミやネットの世界で、言わば「タブー視」されている話題が複数存在する。私の認識の範囲では、地球温暖化・脱炭素、コロナワクチン、原発・放射線、ウクライナ戦争、リニア新幹線などに加えて、この日航123便事件関連がある。これらに関して共通して言えることは、大手マスコミ等に出てくる意見・見解は常に一方の側からのものであり、それに対する異論・反論の類いは「ほぼ完全に無視」されるだけでなく、今回のように陰謀論やフェイクニュース扱いされることである。各種学会や国会委員会・審議会などの「権威」が、それを後押ししていることは言うまでもない。
123便事件については、故森永卓郎氏が取り上げてくれてから、いくらか世間に知られるようになったが、青山氏らの議論はマスコミが全部完全無視するので認知度はまだまだ低い。そもそも、123便遺族の吉備氏や青山氏らが求めているのは、事故原因に関する真実の解明であって、フライトレコーダーとボイスレコーダーのデータ完全公開と、相模湾に沈んでいる機体の一部を引き上げて事故原因の解明に役立てよと言っているだけだ。陰謀論でも何でもない。この、ごく当たり前の要求が、ことごとく拒否されていたのが現実だ。いや、拒否されるだけでなく、根拠のない陰謀論扱いされて今回のように攻撃されたりもする。しかも、その多岐にわたる陰湿な攻撃は、実は長年にわたって繰り返されてきた事実がある(青山氏の著作に一部記載されている)。
日航社長は「事実は一つ」と述べたそうだが、その言やよし。その言葉通り、事実はただ一つなのだから、それをそのまま開示していただきたい。何一つ隠すことなく、ボイスレコーダーなどのデータを衆人環視の下で全面公開すればよい。また相模湾に沈んでいる機体の一部を引き上げて詳しく調べ、報告書にあるような「異常外力」が実際に加わったのかどうか、しっかり検証するのがよい。「陰謀論」を葬りたいのであれば、単に事実を明らかにすれば良いのである。
マスコミその他も、このまま「ダンマリ」は許されない。日本における「表現の自由」の危機だからである。
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まつだ・さとし 1954年生まれ。元静岡大学工学部教員。京都大学工学部卒、東京工業大学(現:東京科学大学)大学院博士課程(化学環境工学専攻)修了。ISF独立言論フォーラム会員。最近の著書に「SDGsエコバブルの終焉(分担執筆)」(宝島社。2024年6月)。記事内容は全て私個人の見解。主な論文等は、以下を参照。https://researchmap.jp/read0101407。なお、言論サイト「アゴラ」に載せた論考は以下を参照。https://agora-web.jp/archives/author/matsuda-satoshi