
グレン・ディーセン:ウクライナ戦争は「エスカレーションを常態化させてしまった」Glenn Diesen on the War in Ukraine: Escalation Got Normalized 2025/4/18
国際政治米国イスラエルと西欧、日本など西側諸国には奇妙なルールがあるようだ。自分たちは敵とみなした相手をいくらでも威嚇したり、戦争や政権転覆をしかけたりする権利があると思っており、相手側が我慢に我慢の末に少しでも言い返したり、報復したりしようとすると「挑発だ!!!」「テロだ!」「国際社会の責任ある一員として行動せよ!」と大騒ぎして100倍返しの行動に出る。この、「反論、反撃の権利ゼロ」を相手に押し付ける姿勢こそコロニアリズムである。大日本帝国が朝鮮、琉球/沖縄、中国などに行ってきたことだ。米国イスラエルがパレスチナに対してやってきていることだ。NATOがウクライナを使ってロシアに対してやってきていることだ。ニューヨークタイムズは3月29日、「ウクライナ戦争の隠された歴史」というタイトルの、調査報道家アダム・エントゥス氏による長編記事を発表した。それは22年以降、米軍とウクライナはドイツのヴィースバーデンに秘密司令部を設置し、NATO諸国も関与して、共同で作戦を立案・指揮していたという内容であった。米国は兵器供与に加え、インテリジェンスを提供し、次々と「レッドライン」を超え、ロシア領内での殺害作戦にも関与したという内容であった。きょう紹介するのはナポリターノ判事のチャネルから、ノルウェーの 南東大学(USN)教授、ロシア外交政策の専門家グレン・ディーセン教授の4月16日の話である。ウクライナ戦争和平をめぐる欧州の強硬化の過程や背景がよくわかる内容であると思う。ここでディーセン氏が言っている「戦争がいつ始まったか区切ることでナラティブを支配できる」「戦争が始まった日付を決めてしまえばそれ以前のすべての責任を帳消しにできる」という指摘は重要だ。22年2月のロシア侵攻以来、”unprovoked” それまで何の挑発もなしにロシアが突然侵略したといったナラティブが西側を席捲し、それまで続いていた戦争を語ることも、NATOの東方進出を語ることも、米国の介入の歴史を語ることもすべて「ロシアのプロパガンダ」としてフェイクのように扱われるようになってしまった。「代理戦争」という本当のことを言っただけでいきりたつ「ウクライナ連帯」派の人たちは、この戦争の代理戦争ぶりをあますところなく記述した今回のニューヨークタイムズの記事をどう読むのであろうか。一方的な西側のナラティブを垂れ流し続けた新聞がいきなり本当のことを語りだす背景には、政権交代、和平交渉の進行という変化があったのかもしれない。@PeacePhilosophy (青字はナポリターノ判事の質問。強調はこのサイト運営者による)
ナポリターノ:ドナルド・トランプの外交政策チームの中に分裂があるという認識はありますか? 一方にはネオコン、たとえばルビオ長官、ヘグセス長官、ケロッグ将軍などが代表とされ、他方にはロシアとの関係をリセットしようとする「アメリカ・ファースト派」、おそらくウィトコフ氏、ヴァンス副大統領、ガバード情報局長が代表とされる人々がいます。
ディーセン:いいえ、非常にはっきりとした分裂があると思います。イエメンへの攻撃においてもそうでしたし、ロシアへのアプローチにおいても同様でした。ここ数週間にわたって行われた交渉を見れば、それは明確だったと思います。なぜなら、ウクライナ戦争を終結させるための二つの提案が提示されていたからです。
ウィトコフによる提案は、いかなる和平合意も、戦争に勝利しているロシアの核心的な要求を満たす必要があると認識しているものです。その要求とは、ウクライナの中立性の回復、および領土の変化の承認、またはウクライナ側が何らかの譲歩を行うことです。
ケロッグの提案は、おおよそ、ウクライナを一時的に分割すべきだと主張しました。これは、第二次世界大戦後のドイツで行われたことと似ています。これはつまり、NATO諸国から遠く離れたヨーロッパ諸国の部隊がウクライナに駐留することを意味します。そうなれば、ウクライナは中立国ではなくなります。また、いかなる領土の喪失も認めないということになるため、ロシアの主要な要求は一つも満たされません。
つまり、完全に相反する二つの見解が存在しているのです。
なぜ、このようなことになっているのか?私の中の楽観主義者としては、トランプというこのシステムの中に何らかの秩序があるのではないかと考えたいのです。全体を譲り渡したいとは思っていないかもしれませんが、ロシアと交渉をせざるを得ません。ですから、彼はウィトコフによる提案を提示して、「これが我々の譲歩の限界であり、君たちも歩み寄る必要がある。さもなくば、ケロッグによる提案を受け入れることになる」と言っているのかもしれません。
これは一つの説明にはなるでしょう。
あるいは、これは単にトランプ政権内の非常に深刻な分裂であり、政権が二つの異なる方向に引っ張られている状態なのかもしれません。
私は前者であると信じたいですが、後者であると疑っています。
ケロッグの提案は、この番組を含め、アメリカ国内では多くの嘲笑を受けています。ヨーロッパの人々はこの提案をどのように受け止めているのでしょうか? 本当に、彼らはベルリンで行われたように、あるいは1945年から1989年までドイツ全土で実施されていたように、ウクライナの一部を軍事的・政治的に監視し、統治し、確保することに参加したいと考えているのでしょうか?
私はそうは思いません。ヨーロッパにそれを実行する能力も資金もないと思います。これは現在の問題の一部でもあります。ヨーロッパ諸国は、経済が少なくとも減速している中で、深刻な借金に陥っています。本来、ヨーロッパがすべきことはまったく逆のことです。新たなパートナーを模索し、産業化に取り組むべきです。しかし今彼らは、「軍事ケインズ主義」のような方向に進んでおり、ただ新たに大量の資金を刷って軍事に投入すれば、それによって産業化が促進され、経済が再び繁栄すると仮定しています。そうはなりません。私はこの考え方は完全に間違っていると思います。
しかし、これは新しいヨーロッパを構築するための一つの方法とも言えるかもしれません。皮肉なことに、欧州連合の理想とは、本来は二度と第二次世界大戦を起こさないためのものでした。つまり、ドイツとフランスが戦後に再び手を取り合い、貿易を通じて軍事的な衝突を避けるというものでした。だからこそ、多くの人々が冷戦後にロシアを同様に扱うべきだと主張しました。つまり、ロシアをヨーロッパの安全保障の枠組みに組み込むべきだったのです。しかし、もちろんそれは実行されませんでした。
そして再び皮肉なのは、いまヨーロッパが新たな目的を模索していることです。いわゆる「地政学的なヨーロッパ」という概念です。強力なロシアという「悪者(ブーギーマン)」を作り出せば、それが結束の材料になると考えているようです。なぜなら、ヨーロッパ大陸はこれから大きな変化を迎えるからです。アメリカ合衆国は、優先すべきことが変わり、今後はより小さな役割を担うようになるでしょう。そしてヨーロッパの指導者たちはすでにそのことを認識し始めています。
アメリカという「鎮静剤」——つまり、我々が互いの対立する利害を直視することを抑えてきた存在——が後退しつつあるのです。だから彼らは、ヨーロッパを再び一つにするための新たな何かを探しています。そして戦争——「せっかくの危機を無駄にするな」という発想です。
政府関係者の中で、マクロン大統領やスターマー首相、フォン・デア・ライエン委員長など、誰か一人でもケロッグ将軍の提案に賛同、あるいは少しでも関心を示した人はいますか?
いいえ。彼らにとってケロッグは、極端すぎる存在です。あの人たちが望んでいるのは、ロシアが完全に後退し、この戦争ののちにロシアの降伏のような和平合意が結ばれることです。
現在ヨーロッパの首都では、「ウクライナの1991年の国境を回復すべきだ」と語られています。ロシアは賠償金を支払うべきだ、と。カヤ・カラス氏——EUの外交政策責任者——は、ロシアの政治指導部を裁くための特別法廷を設置すべきだと発言しています。
つまり、ヨーロッパ人たちは「共通の価値観」のもとに団結しています。それはある種の「道徳的な罠」です。ある立場を「善」と定義し、それ以外の選択肢はすべて「悪」と見なすのです。
したがって、戦争は「一方的な侵略だった unprovoked」と言えば、ロシアは「悪」で我々は「善」ということになります。すると、和平交渉が「宥和政策」と見なされる以上、唯一の選択肢はロシアの完全敗北ということになるのです。これに異を唱える者は、プーチンを利する者とされてしまいます。あの人たちは、プーチンを新たなヒトラーと見なしており、次はパリに侵攻してくると信じているのです。
この欧州の指導者たちは一体何を恐れているのですか? 夜眠るときに、プーチンがパリやベルリンに文字通り侵攻してくると、本気で恐れているのですか?
そうでないことを心から願います。ただし、過激な考えは存在していると思います。とはいえ、ここで重要なのは、いま何が起きているのか、そしてウクライナ戦争が何を意味しているのかを文脈の中でとらえることです。
私の見解では、この戦争は世界秩序の転換を意味しています。冷戦後、アメリカとEUのペアが「新たな政治的西側世界」を形成するというのが主要な目標となりました——まあ、新しいというより再構築ですが——そしてそれが、世界覇権の基盤となるはずだったのです。
しかし、それは「穏やかな覇権」となるはずでした。なぜなら、アメリカとEU——我々は善の力ということになっていました。自由民主主義の未来は、我々の永続的な覇権にかかっているということになります。したがって、それはある意味で、新たな「文明化の使命」となったのです。これが「穏やかな覇権」です。
過去30年間にわたって、ヨーロッパのすべての政治指導者たちはこの信念、この確信の中で育ってきました。これが政策になったのです。そしてNATOの拡大主義においても、ロシアとの対立を生むことになると欧州指導者たち自身が認識していましたし、多くの警告も発せられていました。しかし、それは彼らがフランシス・フクヤマの「歴史の終わり」論に賭けるうえで、支払うに値すると考えた代償だったのです。
もしロシアが敗北すれば、1990年代に戻ることができる。だからこそ、多くの人々がこの問題を「世界秩序」の観点で語るのです。しかし、実際には今、ロシアが勝利しつつある状況であり、それは「多極化」を意味します。
ヨーロッパにおいて何の発言権も持たないはずだったロシアが、突然、巨大な勢力となっている。そしてもちろん、アメリカも多極的な世界においては、西半球やアジアに焦点を移すことになります。ヨーロッパの未来は、もはやそれほど明るいものではなくなりました。
ヨーロッパのエリートたちは、戦争が終わらないことを望んでいるのですか?
戦争の終結を望んでいるのですが、それはヨーロッパの条件——つまりロシアの降伏——で終わることを望んでいるのです。
しかし、それは現実的ではありません。
これこそが問題です。欧州指導者たちは現実から乖離しており、「善意」が行動を道徳的にすると信じ込んでいる。しかし、もし自分たちが推進している政策が破滅をもたらすのであれば、それは道徳的とは言えません。
たとえば、ロシアの侵攻以前の数年間、彼らは繰り返しこう言い続けていました。「ウクライナはNATOの一員になるだろう。NATOは拡大する。ロシアには発言権がない。拒否権もない」。それは非常に道徳的に正しいことのように聞こえます。なぜなら、「もしNATOを拡大しなければ、それはロシアがウクライナの外交政策に口を出すことを認めることになる」という前提があるからです。それは非常に不道徳なことのように聞こえます。
しかし現実には、それは戦争を事実上不可避にしていたのです。たとえるなら、それはロシアの軍事基地をメキシコに置くようなものでした。我々はどんな道徳的論拠も掲げることができますが、もしその実際の結果が国家の破壊であるならば、それはもはや道徳的とは言えません。
とはいえ、ヨーロッパ人たちは、現実がどうであるかではなく、「世界はこうあるべきだ」という考えに固執する傾向があります。そして往々にして、現実を認めること自体が「不道徳」であると信じ込んでしまうのです。
そして、今まさにそれが起きています。私は、彼らが和平合意を支援すると言いながら、それを破壊しているのだと思います。なぜなら、ヨーロッパ諸国が「和平を保証するためにウクライナに軍を派遣する」と言っているとき、それが意味しているのは、戦闘が止まった瞬間にヨーロッパの軍隊が入ってくるということです。ロシアがそのような停戦を受け入れることは不可能です。
これは、ジェームズ・ベーカー国務長官とミハイル・ゴルバチョフとの有名な会話の記録の一部です。
ベーカー「最後の点ですが、NATOはアメリカのヨーロッパにおける存在を確保するための仕組みです。もしNATOが解体されれば、ヨーロッパにはそのような仕組みは存在しなくなります。我々は理解しています。それはソ連だけでなく、他のヨーロッパ諸国にとっても重要なことなのです。もしアメリカがNATOの枠組みの中でドイツに駐留し続けるのであれば、NATOの現在の軍事的管轄は一インチたりとも東方に拡大しないという保証が必要です。」(安全保障アーカイブから)
これこそが、ラブロフ外相とプーチン大統領が繰り返し主張している発言であり、西側諸国があたかもそれが一度も語られなかったかのように無視しようとしている内容です。
そうです。改めて申し上げますが、アーカイブは公開されています。そしてこれは繰り返し確認されてきたことです。文書をすべて読めば、ベーカーによる一度きりの発言ではないことがわかります。これは何度も繰り返されてきました。
そして今日では、「NATOの拡大がこの事態を招いた」と示唆すること自体が、なぜか物議を醸すようなことになってしまっています。しかし、1990年代を振り返れば、多くのアメリカの指導者たちがこの点を認識していたのです。ウィリアム・ペリー、ジョージ・ケナン、ジャック・マトロックなど、名前を挙げればきりがありません。最初は30人のアメリカ政治指導者による抗議書簡が出され、その後は50人へと拡大しました。彼らはこれが何をもたらすかを理解していたのです。
ゴルバチョフに与えられたこの約束だけではありません。1990年には「新しいヨーロッパがどうあるべきか」という合意にも署名しています。これはヘルシンキ合意に基づくもので、「新ヨーロッパ憲章(Charter of Paris for a New Europe)」と呼ばれています。そこでは「分断線のないヨーロッパ」について言及され、安全保障は「不可分」であるべきだとし、一方の安全保障が他方を犠牲にしてはならないという内容が盛り込まれています。そして1994年にも同様の合意がなされました。
しかしその後、NATOが拡大したことは、事実上、「もはや不可分の安全保障など必要ない。ロシアのことなど考慮する必要はない」という欧州の認識を意味していました。なぜならロシアは弱体化していたからです。これこそが、ウィリアム・ペリー国防長官がクリントン政権の職を辞することを真剣に考えた理由です。ペリーはこれが誤りであると知っていました。しかしロシアが弱いことを理由に、クリントンや欧州はその誤りを受け入れたのです。
これからトランプ大統領の映像を流します。そのあとでお聞きする質問を今のうちにお伝えしておきます。これはトランプ氏によるウクライナ戦争に関する最後の公式発言で、今から3日前、日曜日の「棕櫚の日(パームサンデー)」の夜、彼がフロリダの自宅からワシントンD.C.に向かう途中に発言されたものです。「ウクライナ戦争は今やトランプの戦争なのか?」
記者:「ロシアによる、ウクライナでの『棕櫚の日曜日(Palm Sunday)』の攻撃について、何かご感想はありますか?」
トランプ:「ひどい出来事だったと思う。ロシアが間違いを犯した。この戦争そのものが恐ろしいものであり、そもそもこの戦争が始まったこと自体が権力の乱用だった。」
「これはバイデンの戦争だ。私の戦争ではない。私はまだ就任してから日が浅い。これはバイデン政権下で始まった戦争です。彼はウクライナに数百億ドルもの資金を提供した。あんなことは絶対に許すべきではなかった。」「私なら絶対に、あの戦争を起こさせなかった。私は今、それを止めようとしている。多くの命を救うために。ウクライナ人もロシア人も命を落としています。私が望んでいるのは、それを止めることだ。」
トランプもまた、1月20日就任以降、数十億ドル相当の軍事装備を提供してきました。この支援のためのアメリカの法律では、現金も軍事装備もすべて大統領の裁量に委ねられるとされています。
それではディーセン教授、今やこの戦争はドナルド・トランプの戦争と言えるのでしょうか?
ええ、そうだと思います。今や彼の戦争になりつつあります。もちろん、ロシアがバイデン政権下で侵攻したことを考えれば、責任をバイデンに負わせるのもある程度は妥当です。しかし、あなたも言ったように、トランプは武器を送り続けており、後方支援も行い、インテリジェンスも提供しています。
つまり、アメリカは今でもロシアとの戦争に深く関与しています。そして最近の『ニューヨーク・タイムズ』の記事で明らかになったように、もはやこれは単なる代理戦争ではありません。2022年以降に何が起きたのかを見れば、この戦争はドイツを拠点としてアメリカが非常に直接的に指揮してきたのです。
そのニューヨーク・タイムズの記事を否定している人はいません。アメリカは共同交戦国であり、実際には主導的交戦国なのです。人命の損失という意味ではなく、戦争の遂行、インテリジェンス、戦略という面においてです。
まさにそうです。だからこそ重要なのです。アメリカはNATOのパートナー諸国とともに、今や何万人ものロシア人を殺害する側に回っているのです。問題は、我々はそれを見て見ぬふりをすることもできますが、そうすれば自分自身をごまかすだけです。ロシア人は今、何が起きているのかを理解しています。そして彼らは、いつかバランスを取るために報復する手段を再び探すでしょう。
セルゲイ・ラブロフ外相の発言を見れば、最近スーミへの攻撃についてコメントしています。彼は、「我々はウクライナの軍司令部だけでなく、そこにいると分かっていたNATOの訓練要員も攻撃した」と述べました。NATO部隊がそこに実際にいたのかどうか、私には分かりません。しかし今、彼らが「そこにNATO兵がいたから攻撃した」と公に言っているという事実は非常に重要です。彼らが今やNATOを標的にする方向に動いていることを示唆しているからです。
これをヨーロッパの文脈で見れば、当然のことながら関連性があります。
あなたの同僚であるジェフリー・サックス教授は、これは「アメリカの戦争」と呼ばれるべきだと言っています。なぜなら、トランプはバイデンが始めたことを中断も制限もなく継続しているからです。
すべての責任をバイデンに負わせるのは必ずしも公平ではありません。もちろん、バイデンは2014年以来この件に深く関与しています。しかし、そもそもウクライナ政府が転覆されたのは2004年のオレンジ革命でした。そして2008年、ブッシュ政権下でNATOがウクライナに将来的な加盟を提示したことは非常に重要でした。これがウクライナを戦争への道に乗せたのです。
オバマ政権下では、西側諸国が支援したクーデターによって2014年に政権が転覆されました。
そしてトランプ自身も、最初の政権時に、オバマが「エスカレーションになる」として拒否していたジャベリンミサイルや武器をウクライナに提供しました。オバマはそれが戦争の道を進めてしまうと認識していたのです。
(米国側は)時間を区切って紛争の開始時点を特定してしまいがちです。なぜなら、それによって全体の物語を作ることができるからです。イスラエルの件でも、ウクライナの件でも、いつもそうしてきました。紛争が始まった日付を定めれば、それ以前のすべての責任を帳消しにできてしまうのです。
最後に。マクロン大統領はパレスチナ国家の承認に向けて動いているのでしょうか?
その可能性はあります。ですが、今の時代では、指導者たちの考えを読み取るのは非常に難しいと思います。過去のすべてのルールが投げ捨てられてしまっているので、私にはその質問に答えることはできません。とはいえ、少なくともヨーロッパでは、各国がヨーロッパを一つに保つための新たな役割と新たな構造を必死に模索しているということは言えるでしょう。マクロンは常に、単に紛争を解決するために正しいと思うことをしているだけでなく、EU内部におけるフランスの指導的立場を築こうとしてきました。彼は、誰も従いたがらない「ナポレオン」のような存在であり続けています。
しかし、もし軍事的な対立があるとすれば、経済的に強力なヨーロッパのもとでは、かつてはドイツに指導権がありました。ところが今やドイツは弱体化し、より軍事化されたEUとなったため、自然とフランスに指導権が移ってきています。
ただし、当然ながらイギリスも譲ろうとはしません。だからこそ、イギリスの言葉遣いも非常に強硬なのです。ですので、これは断定するのが難しい。彼らが紛争解決をどう見ているか、そして自国のEU内での役割をどう強化できるか、また国家間の新たな連帯の基盤をどう築くかなど、多くの要素に左右されます。
ここに紹介するのは、ロシア対外情報庁長官であるセルゲイ・ナルイシキンの発言です。彼はアメリカCIA長官に相当する人物であり、NATOの国境での動き、とりわけフランスに関してコメントしています。
「ベラルーシ共和国国家保安委員会およびロシア対外情報庁の前において、我々の国の安全保障を確保するという困難かつ具体的な任務が課されています。それは、敵対的な国々の攻撃的な野心と、我々の国家への脅威に対抗することです。
この方向において、すでにかなりのことがなされています。しかし同時に、我々の国境においてNATO諸国による軍事活動が活発化しているのを目にし、感じています。特にフランス、イギリス、ドイツなどのヨーロッパ諸国が、ウクライナ紛争をめぐるエスカレーションのレベルを引き上げています。したがって、我々は予防的に行動しなければならないのです。」
私はマクロン大統領がパレスチナ国家を承認することを望んでいますが、彼はこのように「熊をつつく」行為(ロシアを威嚇する行為)が何を意味するか分かっているのでしょうか? ナルイシキン氏が言っていることは、プーチン大統領が考えていることそのものです。
私もそう思います。そして、それこそが問題なのです。特に今のヨーロッパでは、政治指導層が自分たちが信じている物語に自らを閉じ込めてしまっているのです。
そして、たとえばドイツの次期首相となるメルツは、ロシアを攻撃するために「タウルス・ミサイルを使用する」とまで語っています。ドイツは再びそのような道を歩もうとしているのです。
しかし彼らにとっては、それは単に「ウクライナを支援する」ことに過ぎず、完全に正当だと考えており、なぜそれが物議を醸すべきことなのか理解していません。つまり、あらゆる反対意見は「プーチンの味方をしている」として切り捨てられてしまいます。
思い出してほしいのは、ロシアの侵攻が始まった当初、F-16戦闘機を送ることは「第三次世界大戦を意味する」とバイデンらが言っていたことです。彼らは大砲を送ることすら非常に慎重でした。しかし今では、この考え方に慣れてしまっています。
ここまで来ると、(ウクライナ・米国側は)エスカレーションを常態化させてしまったのです。そして今では、「ロシアにも報復する権利がある」という当然の事実すら理解されていません。
たとえば、先のニューヨーク・タイムズの記事に戻って想像してみてください。もし、ロシアが我々の都市を攻撃し、軍事作戦の計画を立て、標的を定め、武器を供給し、後方支援まで行い、そしてその武器を実際に操作して、例えばアメリカ兵を何千人も殺しているという記事が出たとしたら、アメリカはどう反応するでしょうか? アメリカは、自国に報復の権利があると考えるのではないでしょうか?
今、ウクライナが崩壊しつつある状況の中で、ヨーロッパが動きを加速させているのをロシアが目にしたなら、彼らは報復に出るでしょう。私は、もはやロシアがこれを黙って受け入れるとは思えません。
これは明らかであるべきことです。しかし、誰もそれを見ようとしていません。
我々は非常に奇妙で非合理的な道を進んでおり、それは非常に危険です。
(翻訳以上)
※この記事はカナダ・バンクーバー在住のジャーナリスト・乗松聡子さんが運営するPeacePhilosophyCentreの記事(グレン・ディーセン:ウクライナ戦争は「エスカレーションを常態化させてしまった」Glenn Diesen on the War in Ukraine: Escalation Got Normalized 2025/4/18)からの転載です。
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東京出身、1997年以来カナダ・バンクーバー在住。戦争記憶・歴史的正義・脱植 民地化・反レイシズム等の分野で執筆・講演・教育活動をする「ピース・フィロ ソフィーセンター」(peacephilosophy.com)主宰。「アジア太平洋ジャーナル :ジャパンフォーカス」(apjjf.com)エディター、「平和のための博物館国際ネッ トワーク」(museumsforpeace.org)共同代表。編著書は『沖縄は孤立していない 世界から沖縄への声、声、声』(金曜日、2018年)、Resistant Islands: Okinawa Confronts Japan and the United States (Rowman & Littlefield, 2012/2018)など。