【連載】今週の寺島メソッド翻訳NEWS

☆寺島メソッド翻訳NEWS(2025年5月6日):ポール・クレイグ・ロバーツ:ロシア国内の専門家の分析。「戦地の優位性を無視し交渉を急げば、軍部からの反発を招き国民感情を損なう」

寺島隆吉

※元岐阜大学教授寺島隆吉先生による記号づけ英語教育法に則って開発された翻訳技術。大手メディアに載らない海外記事を翻訳し、紹介します。

読者の皆様、ご存知のとおり、ウクライナの「和平交渉」に関する私の解釈は、公式見解とは大きく異なります。そこで、ロシアの専門家に「和平交渉」に対するロシア側の見解について説明を求めることにしました。戦略検討会社の代表イヴァン・アンドリアノフ氏が快く回答を寄せてくれました。その答えは以下のとおりです。

ロシア側の平和条件:外交と武力の間で

地政学的危険分析や国際安全保障、政治予測を専門とする戦略検討会社IntellGlobe Solutions(https://igs.expert/)の創設者兼代表取締役イヴァン・アンドリアノフ氏による分析。世界情勢に特化した国際分析プラットフォーム(*)GEOFOR(https://geofor.ru/)の編集長も務める。
*情報共有のための基盤

西側諸国の報道機関や政治家を中心に数々の発言がなされているにもかかわらず、ロシア当局が現在の接触線に沿ったウクライナとの紛争凍結の可能性を真剣に検討しているとは、現時点では断言できません。ロシアの政治家、そして一般市民や水面下の専門家たちは、こうした展開を極めて懐疑的に見ています。

ロシアの報道機関分野と当局者の発言を注意深く研究すれば、すべては本質的に、昨年6月にロシア連邦外務省の役員会でプーチン大統領が示した立場に集約されます。

この計画は、ドネツク人民共和国(DPR)とルハンスク人民共和国(LPR)、そして2022年の住民投票を経てロシアに編入されたヘルソン州とザポリージャ州の領土からウクライナ軍を撤退させることを想定しています。その際プーチン大統領は、ソ連崩壊時の旧ウクライナ・ソビエト社会主義共和国(SSR)の地図に記録されているこれらの地域の行政境界線を越えてウクライナ軍が撤退しなければならない、と強調しました。

ロシア大統領による最近の解釈変更や発言は、ロシア側の立場の変化を示唆するものにはなっていません。これは、ウクライナの和平解決について米国との交渉、あるいはウクライナ側との直接交渉、さらにはいかなる前提条件もなしに交渉に応じる用意がある、とクレムリンが繰り返し表明してきた主張と一貫しています。しかしながら、交渉の経緯自体は本質的に長期化しており、最終的な結果は依然として不透明です。

交渉は数ヶ月にわたって継続しており、ロシア当局が依然として核心的な要求を堅持していることは明らかです。この立場に根本的な変化が生じると予想する理由はほとんどなく、直接的および間接的な多くの要因がこの評価を裏付けています。

まず、米国大統領特使ケロッグ氏へのインタビューに基づいて最近公表された、ドニエプル川沿いのウクライナ分割地図では、ヘルソン州右岸の一部がウクライナ側の管理下に置かれており、ロシアの外交関係者や専門家の間で大きな混乱を引き起こしています。ザポリージャ原子力発電所とその周辺地域(現在ロシア連邦の一部)をウクライナ側に引き渡す、という案についても、同様の反応が引き起こされています。

さらに、ロシア指導部は明らかに国民と軍の感情を考慮に入れています。これは、クルスク地域の一時占領地域における民間人に対する戦争犯罪の報道や、民間人標的への定期的な砲撃に強く影響されています。厳しく制限された公式情報と民間チャンネルからの報道は、軍内、そしてさらに重要なことに、社会において、正義の怒りと敵に対する完全な勝利への渇望を強めています。

社会学的調査や、戦闘地域から帰還した個人(軍事専門家、休暇中の兵士、志願兵など)からの報告が、このことを示唆しています。また、近年、軍との契約を希望する人の数が著しく増加していることも指摘されています。

ロシアの治安機関によって定期的に阻止されてきた一連のテロ攻撃、そして残念ながら実際に実行された一連のテロ攻撃も忘れてはなりません。キエフ政権は最近、参謀本部作戦本部副本部長のヤロスラフ・モスカリク中将を暗殺しました。モスカリク中将が自宅を出た際、玄関の向かいに駐車されていた車が爆発したのです。爆弾を準備したロシア人は翌日拘束され、直ちにモスクワに連行されました。尋問において、彼はウクライナ情報機関の指示に従って行動し、その諜報員として活動していたこと、そして爆弾はウクライナ当局からの携帯電話の信号によって起爆されたことを証言しました。

車両がそこに1週間以上放置されていたことが公式発表されており、これは国民を恐怖に陥れようとする通常の目的を超えて、この行為がウィトコフ米大統領特使のモスクワ再訪問と時期を合わせて、今後の会談を複雑化させるために仕組まれたものであることを示唆しています。

特に注目すべきは、ウクライナ最高会議(ヴェルホフナ・ラーダ)国家安全保障委員会のコステンコ書記が、ロシア将軍暗殺へのウクライナの関与を認め、さらに、停戦はウクライナの特殊部隊がロシアの政治・軍事指導部に対する新たな攻撃を実行するために利用されるべきだと述べたことです(https://youtu.be/F0iT55Gwpic?si=nayoRMWS43Lly-EW)。

この文脈において、専門家の大多数は、このような状況下では、ロシア連邦の一部として正式に定められた領土の割譲を含むいかなる妥協にもプーチン大統領が同意する可能性は事実上皆無であることに同意しています。なぜなら、そのような動きはロシア国民と軍内部の両方から極めて否定的な反応を招くからです。

とりわけ、クルスク地域はつい最近完全に解放されたばかりであり、もはやウクライナ側にとって交渉材料として利用することは不可能です。一方、ロシアはハリコフ州とスームィ州に、正式にはロシアに編入されていない領土を保有しており、また、ドネプロペトロフスク州にも領土を保有している可能性があります。これらの地域からは、ロシア軍がわずか2~5マイルの距離に迫り、今もなお進軍を続けています。一部の専門家は、必要であれば、これらの地域をウクライナ側との交渉において何らかのものと交換する可能性がある、と考えています。しかしながら、ロシア指導部から、そのような展開の可能性を示唆する公式声明は、あるいは間接的な示唆さえも、これまで一切出されていません。

全体として、たとえ米国の仲介があったとしても、ウクライナとの交渉を通じて真の合意に達する見込みについては、ロシア国内に根強い懐疑心が残っています。

専門家たちは、ホワイトハウスによる和平に向けた努力を歓迎する一方で、トランプ政権がウクライナ側とその欧州支援国に対し、敵対行為の停止のみならず、真剣な交渉開始の決断さえも迫る力には限界がある、と指摘しています。米国当局とロシア当局の努力を背景に、EU諸国はウクライナ側に対し政治的・財政的支援、武器、軍事装備、弾薬の供給を継続しています。ただし、ここ数日、交渉のやり取りの開始の可能性に関する彼らの言動には若干の変化が見られます。

ロシアと米国が相互に受け入れ可能な合意に達したとしても(ロシアではかなりあり得る展開である、と考えられています)、ウクライナ側がヨーロッパ諸国、特に英国やフランス、ポーランドの同意と支持を得ておこなっている挑発的な行動のため、合意が履行される可能性は低い、と一般的に指摘されています。ちなみに、ロンドンでのウクライナ問題協議は事実上失敗に終わりました。

この点に関して、複数の軍事専門家によれば、ウクライナ側は現在、前線沿いでの大規模な挑発の準備を最終段階に進めており、実際のところウクライナ軍指導部はそれを隠そうとはしていない、という点を指摘しておくことが重要です。

ウクライナの報道機関やブロガーによると、現在、約5万~7万人の予備軍が編成されているとのことです。ウクライナ側が過去に同様の作戦をおこなったことを踏まえると、これらの部隊は前線部隊の増強ではなく、政治的な挑発行為を実行するために展開されるという説は、十分にあり得るように思われます。同様の事件は、ロシアのクルスク州やベルゴロド州などで既に発生しています。また、外国人傭兵によって増強されることもほぼ確実です(ロシア国防省の公式統計によると、今年だけでクルスク州での戦闘で約2000人のポーランド人が死亡または身元が確認されており、他国の市民は含まれていない、とのことです。同州で死亡した外国人傭兵の総数は約5000人だといいます)。

ウクライナ側は戦車やその他の装甲車両の不足も報告しています。ドローンや砲弾、多連装ロケット弾体系用の弾薬については、依然として十分な量が供給されています。

これらすべてを考慮すると、ロシアでは、特別軍事作戦の激戦期は何らかの形で今年、さらには来年まで続く可能性が高い、という見方が主流となっています。作戦が今年中に終結するかもしれないという時折の予測は、依然として「過度に楽観的」であり、戦場の勢力の力関係や交渉の進捗状況と相容れない、と見られています。

実際には、政治的安定と弾力性を維持するために、ロシア当局は国民と治安当局に対し、何らかの形で勝利に似たものを提示する必要があります。なぜなら、敵対勢力の屈服は見込めないからです。こうした「勝利」の構図には、クリミアの法的承認、4つの地域を事実上ロシア領として承認すること(ロシア人は法的細目など気に留めないでしょう)、そして制裁の解除といった重要な点が含まれるでしょう。当然のことながら、ロシア当局は、たとえ米国の管理下であってもザポリージャ原子力発電所をウクライナに移譲したり、キンバーン・スピットを放棄したりすることには満足しないでしょう。

全体として、これはペスコフ報道官の「トランプ大統領のウクライナ情勢に関する認識には、ロシアの立場と一致する要素が数多くある」という発言と一致します。しかし、依然としていくつかの問題が残っています。その中には、ヘルソン市を含むドニエプル川右岸のヘルソン州の一部、そして行政中心地を含むザポリージャ州の一部が含まれます。現段階では、ウクライナ側はこれらの領土をロシア側に移譲することに断固として反対しており、深刻な矛盾が生じています。さらに、クレムリンはウクライナ軍の規模の制限と、欧州およびNATO軍のウクライナ駐留の禁止を要求することは間違いないでしょう。

さらに、たとえ何らかの合意に達したとしても、ドナルド・トランプ大統領の任期終了後、特に民主党が政権に復帰した場合(ロシア側はそれはかなりありそうな展開だと考えています)どのようにそれが維持されるのかは不明です。

さらに、停戦の可能性が生じた際に、その遵守状況を監視するための明確かつ信頼できる枠組が現在存在しません。この懸念は、イースター期間中の停戦試みによってさらに強まっています。この試みは、ウクライナ当局が停戦の意思を表明したとしても、軍部に対する統制力は限定的であり、軍部は発せられた命令に常に従わなかったことを示しています。

特にウクライナ側には十分な準備時間があるため、5月に停戦がどのように遵守されるかを見るのは興味深いことです。

ロシア社会に話を戻すと、ほとんどの専門家は、プーチン大統領が特別軍事作戦の開始前に表明した以下の要求が実現されることを期待していることに同意しています。

• 非軍事化、すなわち、現時点で我々が判断できる限りでは、ウクライナ軍の規模の大幅な縮小。
• 非ナチ化、すなわちウクライナの権威を完全に解体し、軍事的または外交的手段で置き換えること。
• NATOの脅威の排除。これにはおそらく4つの新しい地域と上記の点の承認が含まれると思われる。
• ロシアは国民投票後に編入された領土を保持する。
• 制裁の解除はロシア社会と企業界の両方にとって依然として重要な期待事項である。

これは最低限の計画であり、最大の目標は古典的な意味でのウクライナに対する勝利、つまりウクライナ側の屈服にあります。クレムリンもこのことを確実に理解しています。

ロシア当局が二度目、事実上一方的に開始した停戦については、いくつかの目的があるように思われます。第一に、人道的側面があります。プーチン大統領が人道的配慮を重視していることは、批判と支持の両面があります。この方策の誠実さを信じる者もいれば、そうでない者もいます。しかし、多くの専門家がこうした取り組みを批判しているにもかかわらず、人道的配慮は依然として無視できない要素です。

第二に、ロシア側はウクライナ情勢をめぐる交渉が完全に行き詰まるか、あるいは完全に失敗に終わった場合に備えて、代替案を残しておこうとしているように見えます。クレムリンは紛争の外交的解決に依然として前向きだが、提案された条件が全く受け入れられないと判断され、また一時停戦がウクライナ当局によって組織的に破られた場合、ロシア指導部は交渉から撤退し、法的に正当化できると主張する根拠に基づいて軍事作戦を強化するための必要な大義名分を得る可能性があります。米国政権がゼレンスキー大統領に圧力をかけていると報じられていることから判断すると、ホワイトハウスもこの力関係を認識しているようです。

したがって、ロシア当局は外交手段による紛争解決に反対しているわけではないものの、ロシア側は現在、そのような展開の現実性に強い疑念を抱いており、その理由はトランプ氏自身やその政権の働きではなく、その後に誰が権力を握るかという点にあります。そしてもちろん、ウクライナ当局とEUは現在、合意が成立しないようにあらゆる手段を講じていることを忘れてはなりません。したがって、たとえ合意が成立したとしても、それは必然的に頓挫するだろうと予想するのは理にかなっています。このような状況で大幅な譲歩をすることは、ロシア当局にとって政治的自殺行為となるように思われます。いずれにせよ、その兆候は明確に存在しています。

※なお、本稿は、寺島メソッド翻訳NEWS(2025年5月6日)「ポール・クレイグ・ロバーツ:ロシア国内の専門家の分析。「戦地の優位性を無視し交渉を急げば、軍部からの反発を招き国民感情を損なう」
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からの転載であることをお断りします。

また英文原稿はこちらです⇒Moscow’s Conditions for Peace: Between Diplomacy and Force
筆者:ポール・クレイグ・ロバーツ(Paul Craig Roberts)。
出典:自身ブログ 2025年4月30日
https://www.paulcraigroberts.org/2025/04/30/moscows-conditions-for-peace-between-diplomacy-and-force/

寺島隆吉 寺島隆吉

国際教育総合文化研究所所長、元岐阜大学教授

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