
植草一秀【連載】知られざる真実/ 2025年5月 8日 (木) 対米交渉の戦略上の誤り
社会・経済トランプ経済政策で右往左往する日本政府。
基本戦略が間違っている。
ものごとは大局から判断しなければならない。
日本サイドが慌てふためいて譲歩すべき事項であるのか。
それとも、非は先方にあり、先方が誤りに気付いて引き下がるのを毅然と見守るのか。
中国の対応と日本の対応が好対照をなしている。
トランプの高率関税政策に矛盾がある。
矛盾は必ず米国に災厄を招く。
米国は自らの誤りによって窮地に陥り、上げた拳を降ろすことを迫られる。
この大局の読みがあれば慌てる必要はない。
毅然とした対応を示すことが最善だ。
これを実行しているのが中国。
やがて米国が譲歩するしかない。
これを見越して王者の振る舞いを示している。
日本は高率関税に慌てふためいて米国に馳せ参じ、御用聞きに回っている。
この卑屈な対応によって足元を見透かされる。
赤沢特命相に至っては「格下も格下」と公言して朝貢外交にいそしむ。
国益を損ねるだけだ。
米国はレアアースの95%を海外に依存している。
そのうち、70%以上が中国への依存。
保護主義を貫いて窮地に陥るのは米国である。
米中貿易戦争が始動したのは2018年。
当初、中国は一方的譲歩の姿勢を示した。
ところが、中国の譲歩にあぐらをかいてトランプ大統領が傍若無人の行動を示し始めた。
2019年5月のこと。
閣僚級会合が予定されるなかで、突然、トランプ大統領が高率関税の上乗せを一方的に通告した。
中国はワシントンで予定されていた閣僚級会合を1日延期させた。
しかし、キャンセルはしなかった。
しかし、トランプ大統領の傍若無人の振る舞いを確認して基本姿勢を転換した。
一方的譲歩を中止して、米国の強硬対応に見合う強硬対応を示す対応に切り替えた。
一方的譲歩を評価して穏当な着地を探るような相手ではないことを認識し、譲歩せずに対等に立ち向かう方針に転換した。
その結果、最終的に譲歩に転じたのは米国である。
第一次米中貿易戦争は最終的に米国が要求を取り下げて2019年12月に決着した。
中国はこの経緯を教訓として積んでいる。
しかも、戦略産業に必要不可欠なレアアースについて米国は中国依存から抜けられぬ状況に置かれている。
米国は保護主義関税を設営しているが、他国には自由貿易を要求している。
究極のダブルスタンダード。
中国は米国が保護主義に突き進むなら対米関係では足並みを揃えるスタンスを示している。
米国は輸入の門戸を閉ざすが、その行為が米国の首を絞める結果につながる。
やがて米国が白旗を上げざるを得なくなることは明白なのだ。
だから、中国はまったく慌てない。
王者の戦いを演じている。
これと対照的なのが日本。
米国のご機嫌を伺いに朝貢外交を展開する。
しかし、慌てふためいた行動がもたらすのは不必要な日本の譲歩の結末だ。
飛んで火にいる夏の虫である。
日本が絶対に〈やってはいけない〉ことが三つある。
その三つを日本がやらされるリスクが高まっている。
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スリーネーションズリサーチ株式会社
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植草一秀(うえくさ かずひで) 1960年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒。大蔵事務官、京都大学助教授、米スタンフォード大学フーバー研究所客員フェロー、早稲田大学大学院教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ株式会社代表取締役、ガーベラの風(オールジャパン平和と共生)運営委員。事実無根の冤罪事案による人物破壊工作にひるむことなく言論活動を継続。 経済金融情勢分析情報誌刊行業務の傍ら「誰もが笑顔で生きてゆける社会」を実現する『ガーベラ革命』を提唱。人気政治ブログ&メルマガ「植草一秀の『知られざる真実』」を発行。1998年日本経済新聞社アナリストランキング・エコノミスト部門1位。『現代日本経済政策論』(岩波書店、石橋湛山賞受賞)、『日本の独立』(飛鳥新社)、『アベノリスク』(講談社)、『国家はいつも嘘をつく』(祥伝社新書)、『25%の人が政治を私物化する国』(詩想社新書)、『低金利時代、低迷経済を打破する最強資金運用術』(コスミック出版)、『出る杭の世直し白書』(共著、ビジネス社)、『日本経済の黒い霧』(ビジネス社)、『千載一遇の金融大波乱』(ビジネス社、2023年1月刊)など著書多数。 スリーネーションズリサーチ株式会社 http://www.uekusa-tri.co.jp/index.html メルマガ版「植草一秀の『知られざる真実』」 http://foomii.com/00050