
☆寺島メソッド翻訳NEWS(2025年5月13日):元英国外国大使イアン・プラウド氏:戦勝記念日に思う「ウクライナの地で再びどんな人間の中にもある「戦争の犬』を走らせるな」
国際※元岐阜大学教授寺島隆吉先生による記号づけ英語教育法に則って開発された翻訳技術。大手メディアに載らない海外記事を翻訳し、紹介します。
ウクライナの軍犬に餌を与えることは、銃撃戦に巻き込まれた罪のない貧しい人々の不必要な苦しみを長引かせるだけだろう。
戦勝記念日を偲ぶにあたり、私は英国とソ連、米国の連合軍に深い敬意を払い、ヒトラーと大日本帝国の打倒に貢献した彼らの功績を誇りに思う。どの陣営の兵士でも悪事を働くものだ。しかし、ナチス・ドイツと大日本帝国は、打倒されなければならない邪悪な政権だった。今日、ウクライナで戦争が激化する中、戦争において最も苦しむのは常に貧しい人々と罪のない人々であることを私たちは忘れてはならない。
火曜日(5月6日)、欧州戦勝記念日(VEデー)の祝賀行事の一環として、ウクライナ軍の小部隊がロンドン市内を行進した時、私は改めて痛感した。私たちは二度と繰り返さないと言いながら、第二次世界大戦の教訓をいかに早く忘れてしまうものなのか。今日、第二次世界大戦の終結を記念するにあたり、英国では、ウクライナが勝利できないにもかかわらず、ヨーロッパでの殺戮は続くべきだ、という政治的な共通理解が広がっている。
シェイクスピアの「戦争の犬どもを解き放て」という台詞は、シーザー暗殺後のマルクス・アントニウスの復讐の叫びを表している。戦争は、憎むべき敵を殺すために、同情心を脇に置くことを要求する。戦士たちの内に巣食う吠える犬を解き放つために。
第二次世界大戦、またはロシアでは大祖国戦争と呼ばれている戦争中、英国と米国、ソ連の軍が率いる連合軍は、ナチス・ドイツと大日本帝国の拡張主義勢力を打ち負かす、という途方もない課題に直面した。
ロシアではVEデー、あるいは戦勝記念日として知られているこの日は、私たちが殺戮の終焉と、文明的な関係のゆっくりとした再構築を記念すべき日である。そして、そうあるべき日なのだ。わが国の英雄たちもまた、私自身の大叔父たちのように、自国の英雄たちを偲ぶ日なのだ。私の大叔父の一人は中国沖で沈没する捕虜船で亡くなり、もう一人はフランス上空で撃墜されたものの生き残り、レジスタンスの助けを借りて英国に脱出した。勝利は、戦争の犬たちが再び鎖につながれ、傷ついた軍人たちが民間人の生活を再建し、自らの経験の悪魔と向き合うことができる瞬間に刻まれる。私たちは今日、エル・アラメインやスターリングラード、硫黄島での輝かしい勝利を誇りをもって記憶し、戦いで命を落とした兵士たちの死を悼む。
合計すると、約750万人のドイツ軍と日本軍兵士、およびその徴兵兵が勝利のために殺害された。ただしこの数には、ヨーロッパとアジア太平洋全域の膨大な民間人の死者数は入っていない。
戦争行為を規制するための最大限の努力にもかかわらず、あらゆる側で残虐行為がおこなわれた。戦争は恐ろしいものだ。ほとんどの兵士は適切な軍規律に従って行動したと私は信じているが、連合軍の軍隊の中で完全に非難されない軍隊は一つもない。軍とは、犯罪者や殺人者、精神異常者など、社会の様々な層を代表する存在なのだから。
女性や少女に対する集団強姦は、英国軍や米国軍、ソ連軍を含む多くの連合軍にとっての汚点となっている。捕虜の即決処刑事件の記録も残っている。フランス軍も、戦争中、そしてレジスタンス活動中も、その罪から免れることはできなかった。例えば、ドイツ侵攻後の1940年5月20日、アベヴィルで21人の捕虜を虐殺している。一般市民の居住地への無差別破壊はあまりにも頻繁におこなわれた。カナダ軍でさえ、1945年4月14日にフリーゾイテの町を破壊し、上官殺害への報復として20人の民間人を殺害した、として非難されている。
米国軍人が戦利品として日本兵の頭蓋骨を切断することは珍しいことではなかった。フランクリン・ルーズベルト大統領は、日本兵の腕の骨で作られた状切りを贈られ、「こういう贈り物は嬉しい」と言った、と伝えられている。2万5000人の命を奪い、そのほとんどが民間人だったドレスデン夜襲を含む、英国の戦略爆撃作戦には、多くの人が疑問を抱いている。原爆投下は、日本との戦争を継続していたらより多くの命が失われていたという理由で正当化されたが、それでも21万人以上の全く罪のない人々を殺害した。
戦争という名の犬をこっそり忍び込ませると、こういうことが起こる。だからこそ、そもそも戦争を起こさせてはならない、そして、できるだけ早く止めなければならないのだ。戦争は憎しみの温床であり、私たちの同胞を非人間化するのだから。
しかしそれでも、第二次世界大戦は勝たなければならない戦争だった。兵士が悪事を働くことはあっても、ナチス・ドイツと大日本帝国は邪悪な政権だったからだ。彼らは根底にある人種主義と優越主義に突き動かされ、戦争の手段としてではなく、残虐行為そのものを目的とした産業化を進めていた。
ナチス・ドイツは民族国家主義的な政治思想に突き動かされ、英国を含むヨーロッパ全体を征服しようとしていた。この思想を最も象徴するものは、ヨーロッパから特定の宗教集団を根絶することを目指したホロコーストだった。ユダヤ人やスラブ人、ジプシー、政治的反体制派、そして同性愛者の大量虐殺は、大規模におこなわれた。
これには、隠れているユダヤ人を密告する密告者から、ユダヤ人を集めたナチスとその協力者、ユダヤ人を強制収容所に移送した鉄道体系、チクロンBガスを製造したドイツのバイエル社の前身、さらには死体を炉に詰め込んだゾンダーコマンドの囚人まで、残酷な行為を実行するための供給網全体の確立が必要だった。
この計画は、ベルリンのヴァンゼーにある上品な邸宅で、最終解決策として綿密に検討され、ナチス全員が粋な制服を着て、その実現方法を練り上げていた。ヨーゼフ・メンゲレの忌まわしい実験は、ベルリンのカイザー・ヴィルヘルム人類学・遺伝学・優生学研究所と共同で、まるで学術的な目的があるかのようにおこなわれた。ナチスにとって、すべては計画的なものであり、身分証明書を提示したとしても特殊部隊員を殺害せよ、という命令もその一つだった。1944年5月にスタラグ・ルフトIII捕虜収容所から脱走した50人の捕虜を虐殺した有名な事件は、冷酷な手段でおこなわれた、と考えられている。
そして、日本も多くの点で同様だった。1937年から1938年にかけて、大日本帝国軍は、いわゆる「南京大虐殺」で20万人以上を殺害した。その残虐性は、近代戦では見られなかった規模のものだ。日本兵は、民間人100人を刀で誰が一番早く殺せるかを競った。罪のない人々が生き埋めにされた。何万人もの罪のない女性や少女が輪姦された。大日本帝国軍は、戦争中ずっと、女性捕虜を軍の慰安所で働かせた。1940年から1943年にかけて、ビルマへの有名な死の鉄道を建設するため、10万人のアジア系民間人と連合国捕虜がタイで飢え、拷問を受け、死ぬまで労働させられた。そして、大日本帝国は、ナチスと同じくらい計画的で、人種的優越感に突き動かされていた。残虐行為がその信条だった。
もし私たちがナチスと大日本帝国の侵略に抵抗していなかったら、今日のヨーロッパとアジアは全く違った姿になっていただろう。しかし、彼らを打ち負かすために、どれほどの堕落と人間の残酷さという代償を払わなければならなかったことか。
ソ連崩壊以来、ロシアはヨーロッパにとって拡張主義的な脅威ではなく、またこれまで一度もそうであったことはない。そうではないと主張することは、ナチスや大日本帝国の拡張政策を駆り立てたのと同じ人種差別的な論理に陥る危険を冒すことに他ならない。ウクライナの軍犬に餌を与えることは、銃撃戦に巻き込まれた哀れな無実の人々の不必要な苦しみ、そしてそれに伴うあらゆる堕落と人間の邪悪さを長引かせるだけだ。だからこそ、勝利を偲ぶとき、戦争で最も多くの犠牲を払うのは常に無実の人々であることを、そして私たち皆の心のどこかに、抑制しなければならない軍犬が潜んでいることを、改めて認識すべきなのだ。
また英文原稿はこちらです⇒As we commemorate VE and Victory Day, it’s time to tether the dogs of war
筆者:イアン・プラウド(Ian Proud)
出典:Strategic Culture Foundation 2025年5月9日
https://strategic-culture.su/news/2025/05/09/as-we-commemorate-ve-and-victory-day-its-time-tether-dogs-war/