
日航123便墜落事故:産経新聞が報じた「マヌーバーが悪い」との文言について
社会・経済今回の記事では、産経新聞が事故翌日に報じた「マヌーバーが悪い」との文言について、説明する。
「マヌーバーが悪い」との文言については、123便墜落事故を長年調査しているワタナベケンタロウ氏の動画「【日航機墜落事故㉔】田中氏の執念と関係者の秘めた想いが語られ始めた」や、青山透子氏の著書『JAL裁判』および『隠された遺体』でも取り上げられたことがあるので、ご存知の方も多いだろう。
123便墜落事故の事故調査報告書に掲載されているCVR記録には「マヌーバーが悪い」との発言は記載されていない。しかし、事故翌日付の多くの地方紙には、パイロットが「マヌーバーが悪い」と報告した旨が記載されている。
実は、2025年5月1日に「日航機墜落事故40年、拡散される陰謀説 『自衛隊の関与は断じてない』政府が強く否定」との記事を公開した産経新聞も、事故翌日に「マヌーバーが悪い」との文言を報じていたので、紹介する。
私の第三弾目の記事「日航123便墜落事故とさまざまな矛盾」でも紹介した1985年8月13付『サンケイ新聞(大阪本社版)』20面には、以下の通り記載されている。
≪飛行ルートからそれて高根ポイントで降下を始める。
「羽田へ降りるか」(管制部)
「お願いします」。パイロットは大声でこたえた。他社のパイロットの話ではパイロットは、機内の気圧が急激に下がった場合使用する酸素マスクをしている声のようだったという。
同三十八分。パイロットの緊張の声が突然響いた。
「原因が分からない。マヌーバー(操縦性)が悪い」。≫
上記の通り、全国紙の1つである産経新聞も「マヌーバーが悪い」との文言を報じていたのである。
最近になって123便の陰謀説を取り上げ始めた産経新聞には、是非、自社が報じた「マヌーバーが悪い」との文言についても、その詳細を調査・報道していただきたい。
なお、1985年8月12日付のハワイ報知(ハワイの日本語新聞)1面には、以下の通り記載されている。
≪【東京 十三日 共同】十二日午後六時半すぎ、羽田から大阪に向かった日本航空123便のボーイング747ジャンボ機(高浜雅己機長、乗客乗員五百二十四人)が、機体の異常を羽田空港の管制塔に連絡した後、長野県南佐久郡北相木村の御座山(おぐらやま)に墜落、炎上した。(中略)
日航機と羽田管制塔の交信で、「マヌーバー(操縦性)が悪い」とパイロットが報告、事故機が酸素マスクをつけたような声で「コントロール不能」と言っているのを全日空機が傍受していることから、機体後部のドアの異状が発生、機内の気圧低下などが起き、操縦系統の機器に何らかの障害を起こして墜落したものとみられる。≫
上記の記事から、日本の地方紙に掲載された「マヌーバーが悪い」との文言も、情報源は共同通信であった可能性が高いと推測できる。
産経新聞が報じた「マヌーバーが悪い」との文言も、共同通信からもたらされた情報だったのだろうか。
その点も含めて、産経新聞には「マヌーバーが悪い」との文言に関する詳細な情報を報じていただきたい。
●付記:小倉信和氏の主張について
実は、小倉信和氏による興味深い論文があるので、紹介する。(https://www.jstage.jst.go.jp/article/hpi1972/37/4/37_4_206/_article/-char/ja/)
当該論文には、以下の通り記載されている。
≪論文
アルミ合金2024PC-T3材重ね継ぎ手の疲労強度
Fatigue Strength of 2024 PC-T3 Aluminum Sheet Lap-Splice Joint
横浜国立大学名誉教授
小倉 信和 (Nobukazu OGURA)
(中略)
今回行った実験の結果から,一列リベット継手においては,F.S.S.を使用し,なをリベットのかしめ側ヘッドの直径が不足すると継ぎ手の強度は弱まることが分かった。かしめ側ヘッドの直径に対する寸法の規定を設けるべきである。この検査は容易に行うことが出来る検査であり,検査員ではなく作業者自身によっても行うことができる。もし十分なかしめ側ヘッドの直径が確保されていれば,事故の発生までに永い歳月がかかり,その間に疲労亀裂の発見などにより不正な補修に気付いた確率は高い。またこのジャンボジェット機が退役するまで事故は発生しなかったことも考えられる。≫
小倉氏は「一列リベット継手において、十分なリベットのかしめ側ヘッドの直径が確保されていれば、123便墜落事故は発生しなかった可能性がある」と述べているのである。
上記の小倉氏の論文は、注目に値するだろう。金属疲労などに関する専門的な知識を持つ方が、小倉氏の主張について再度調査・研究してくださることを願っている。
【参考文献】
ワタナベケンタロウ. “【日航機墜落事故㉔】田中氏の執念と関係者の秘めた想いが語られ始めた”. YouTube. 投稿日:2021-07-30. https://m.youtube.com/watch?v=olfRK9HXVrc (参照 2025-05-16)
青山透子. 日航123便墜落事件 JAL裁判. 河出書房新社. 2022. 373p.
青山透子. 日航123便墜落事件 隠された遺体. 河出書房新社. 2024. 333p.
運輸省航空事故調査委員会. 航空事故調査報告書 日本航空株式会社所属 ボーイング式747SR-100型JA8119 群馬県多野郡上野村山中 昭和60年8月12日. 1987. p.309-343. https://www.mlit.go.jp/jtsb/aircraft/download/62-2-JA8119-11.pdf (参照 2025-05-16)
日航機墜落事故40年、拡散される陰謀説 「自衛隊の関与は断じてない」政府が強く否定. 産経新聞. 2025-05-01, 産経ニュース, https://www.sankei.com/article/20250501-IBAEULDM6ZNXPFOXSJL26PTXKE/ (参照 2025-05-16)
小幡瞭介. “日航123便墜落事故とさまざまな矛盾(市民記者記事・小幡瞭介)”. ISF独立言論フォーラム. 2024年5月5日公開. https://isfweb.org/post-36982/ (参照 2025-05-16)
「操縦性が悪い 戻りたい」緊迫の交信 叫ぶパイロット 酸素マスク?の声 「着陸地は」に返事なし. サンケイ新聞(大阪本社版). 1985-08-13, 朝刊, p.20.
“全国紙”. Wikipedia. https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E5%85%A8%E5%9B%BD%E7%B4%99 (参照 2025-05-16)
日航機墜落大事故 JALジャンボ機墜落 524人乗せ長野県山中へ. ハワイ報知. 1985-08-12, p.1.
小倉信和. アルミ合金2024PC-T3材重ね継ぎ手の疲労強度. 圧力技術. 1999, 37(4), p.206-217, J-STAGE, https://www.jstage.jst.go.jp/article/hpi1972/37/4/37_4_206/_article/-char/ja/ (参照 2025-05-16)
– – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – –
※ISF会員登録およびご支援のお願いのチラシ作成しました。ダウンロードはこちらまで。
ISF会員登録のご案内