
☆寺島メソッド翻訳NEWS(2025年5月16日):ポール・クレイグ・ロバーツ:トランプ大統領の提案する「和平案」は何を意味するのか?
国際※元岐阜大学教授寺島隆吉先生による記号づけ英語教育法に則って開発された翻訳技術。大手メディアに載らない海外記事を翻訳し、紹介します。
米国の外交政策は、米国の教育制度がこれまでに生み出した最も無能で、最も無知で、最も無謀な愚か者たちの手に握られており、彼らの後継者も、もしいるとしても、さらにひどいものとなるだろう。
米国の世界に対する侵略行為は、「国防」という婉曲表現の下に隠されている。婉曲表現が現実味を帯びるようになる以前は、国防長官は陸軍長官と呼ばれていた。
米国当局はメキシコに対して戦争を遂行した。アメリカ連合国に対しても、アメリカ先住民に対しても。ワシントンがキューバとフィリピンを奪取したスペインに対しても。そして、様々な中南米諸国に対しても。アメリカ最高勲章を二度授与されたスメドレー・バトラー米海兵隊司令官は、自分と海兵隊員はラテンアメリカにおけるユナイテッド・フルーツ社とニューヨーク銀行の執行部隊であり、米海兵隊の銃剣に支援され、ラテンアメリカを徹底的に搾取していた、と語ったことを思い出してほしい。
陸軍省の名称は変わったが、朝鮮戦争やベトナム戦争、カリブ海戦争へと進み、中南米の様々な国を転覆させてきた。その後、アフリカでは指導者や政府が転覆された。ユーゴスラビアでも同じだった。中東では、米国政府がイスラエルのためにイスラエルの反対勢力を排除した。南オセチアではロシアと戦った。
そしてウクライナでも再びロシアと戦った。そして今、米国はイランと中国との戦争を控えており、ロシアとの戦争はヨーロッパに負担を転嫁することで継続しようとしている。
こんなものは決して「国防」ではない。
米国政府の覇権政策が継続しているのを我々は目撃している。米国政府がロシアや中国、イランと交渉する目的はただ一つ。彼らが到底受け入れることのできない「和平協定」を提示し、米国側は和平を試みたがロシア、中国、イランが和平提案を拒否した、と主張することだ。
「和平提案」は、ロシアや中国、イランの主権放棄に等しい。各国は米国側の指示に政策を従わせなければならない。イランは国防体制を解体し、通常ミサイルを破壊しなければならない。イランは中国にも、他の誰にも石油を売ることはできない。イランは平和目的でウラン濃縮をおこなうことはできない。ロシアはウクライナにおけるロシア領の征服をすべて手中に収めることはできない。ウクライナは非武装化されない。プーチン大統領が合意内容を把握する前に停戦に同意しなければ、ロシアはさらなる制裁を受けることになる。ウクライナは西側諸国との相互安全保障条項を伴う事実上のNATO加盟国となることができる。中国は経済的に米国よりも成功し続けることはできない。トランプ大統領は、ポール・ウォルフォウィッツの米国覇権主義を放棄するどころか、それを支持している。
米国は米国政府が考えているほど強くはない。実際、米国は他の西側諸国と同様に、非常に弱い。軍事面だけでなく、感情面、精神面でもだ。西側諸国の大学による何世代にもわたる西洋文明への非難は、人々が自らの帰属意識の拠り所を見失う原因となっている。大学が信仰体系に与えた被害は甚大だ。米国が中国やイラン、ロシアと今後繰り広げるであろう戦争において、米国の若者たちはイスラエルと軍需産業の利益のため以外に、一体何のために命を落とすというのだろうか?
なぜ米国民はウクライナとイスラエル、そして軍需産業の利益のために命を落とさなければならないのか? 誰もこの疑問を問うたり、答えたりしようとはしない。
男女間の関係、そして少数民族と彼らの専制的な西側諸国政府との関係は、おそらく修復不可能なほどに断絶している。西側世界全体における信念体系は、何十年にもわたる白人リベラルとユダヤ教の喧伝広報によって崩壊しつつある。その喧伝の中身は、西洋全体が人種差別主義や女性蔑視主義、同性愛嫌悪、反ユダヤ主義であり、抑圧的な白人異性愛者、つまり「ろくでなしのトランプ一派」を二級市民として受け入れることで償いをしなければならない、というものだ。そしてこの「抑圧的に白人異性愛者」という民族的かつ性的階級こそ、移民と白人の葛藤を描いたフランスのジャン・ラスパイユの小説『聖者のキャンプ』に登場する階級であり、その階級が消滅させられているのだ。
どうやって米国民は自分たちを信頼できるようになるだろうか? 絶えることなく、「お前たちは全ての悪や抑圧の根源である」と告げられ続けているのに。白人の子どもたちに対する、自分たちの人種は邪悪である、という刷り込みは、教育の初期段階から始められているのだ。その中味は、人種に対する批判的な考え方であり、嫌悪感に満ちた人種思想だ。米国政府の戦争喧伝広報家たちは、西側の大学機関が白人を怪物にしている以上に、プーチンや習近平、イランの指導者を怪物扱いできるのだろうか?
さて、現状は以下のとおりだ。一方では、ネオコン及びアメリカ第一主義のリベラル派が、国民に対して、「我々は国民から支配権を付与された」と伝えている。他方、民主党や左派は、国民に対して、「あなたがたは救いようのない人種差別主義者だから、排除されなければならない」と伝えている。
トランプ政権が作り上げた戦争の台本では、米国は勝てない。この先に起こりそうな多くの可能性のうちの一つを考えてみよう。米国側はウクライナの戦争から手を引き、それを欧州に任せるが、米国側が中国との戦争に取りかかる前に、ネタニヤフが彼の傀儡である米国政府にイランと戦争するように仕組む。イランはプーチンとは違い、受けてたつことを決意する。中東に米国の戦艦が配置される。中東に米軍基地が置かれる。イランが有するロシアが提供した防空体系により、米空軍の武器の大部分が消滅させられる。米国は大敗を喫する。そうなれば次は核兵器しかない。
プーチンの優柔不断さのせいで、米国の自滅が幇助され促進されているのだ。プーチンによると、ロシアは西側からの攻撃に単独で立ち向かう、と言っている。その西側はロシア連邦を多くの小国に分割することで、ロシア連邦を終わらせようとしている。それは、米国政府がソ連にやったのと同じことだ。その結果、歴史上初めて、独立国家としてのウクライナが誕生した。この国はまだできて30年しかたっていない。米国が作った国だ。
プーチンはこの和平交渉がわざと失敗するように仕組まれた偽物であることを理解しているのだろうか? 実際に起こっているのは、米国が望んでいるロシアや中国との戦争は継続される、ということだ。というのも、米国は力が不足しており、選ばれたいくつかの敵国と同時には相手ができないからだ。
ウクライナでの米国政府による対露戦は、米国とEUが袂を分かつよう見せかけられる中で、欧州に押しつけられようとしている。ゼレンスキーもプーチンもトランプが出している和平条件はのまないため、トランプは、やっかいごとから逃れるという方法で、この戦争から米国を離脱させることができ、この戦争の続きをEUに任せることができる。そうなれば、米国の支配者層は、欧州に武器を売りつけることで、この戦争から金儲けを継続できるし、中国との戦争を激化することでも金儲けができるだろう。
トランプがイランに出している条件は非現実的すぎて、全く真剣味にかける。この条件は、イランが独立国家でなくすることと同じことだ。トランプの発表によると、イランから石油を買っているすべての国に制裁をかけるというものだが、まったく思慮に欠ける。米国側は中国が石油を入手しないようにしているようだが、これはFDRが日本にやったことと同じ手口だ。そうやって、FDRは望んでいた日本との戦争に導いたのだ。トランプは米国の支配者層と取引をおこなっているのだろうか? それとも彼の政権がそうしているのだろうか?
しっかりと目をこすって状況をみていただきたい。
西側はロシアが西側を脅威に陥れているので、それを抑えるために戦争を正当化しようとしているが、ロシアはいったい、何で、どうやって、西側を脅威に陥れている、というのか? ロシアが西側諸国を脅しているなどということは全くないし、ロシアがやっていることといえば、西側との相互安全保障の締結を懇願していることだけだ。そしてその懇願を西側は拒絶している。
イランが西側に対してどんな攻撃を加えたというのか? 何もない。イランが標的になっているのは、イランがイスラエルの最後の残敵である、小国イエメンのフーシ派という小集団と、小国レバノンの斬首された軍団、ヒスボラを支援しているからだ。米国政府は、イスラエルのために米国民の命や血税を犠牲にして、イランやリビア、シリアにイスラエルの敵を消滅させてきた。 もはやアラブ世界は存在しない。米国がイスラエルのために消し去ってしまったのだから。
米国のユダヤ系記者ノーマン・ポドレツがユダヤ系雑誌「Commentary 」で論じたとおり、中東における21世紀の米国の戦争の目的は、大イスラエル構想を推進するために、アラブ諸国を転覆させることだったのだ。米国政府はイスラエルに盲従してきたのだ。今日唯一残存しているアラブ国家は、サウジアラビアだけになった。さらにそう遠くない過去に、あるイスラエルの大臣は、「サウジアラビアの半分を大イスラエル構想に加える」とも述べている。いまやイスラエルはシリアの一部を占拠し、そこに居座り続ける、と主張している。今週、イスラエルはパレスチナの完全制圧が進行中である、と発表した。
21世紀の最初の四半世紀はイスラエルのものだったのだ。イスラエルが有する米国の傀儡政権はイスラエルのために、米国民の命と血税を犠牲にして、イスラエルの敵であるアラブ諸国を破壊してきた。いまやネタニヤフは、彼のとんでもない傀儡であるワシントン政権にイランと戦うようけしかけようとしている。
※なお、本稿は、寺島メソッド翻訳NEWS http://tmmethod.blog.fc2.com/
「ポール・クレイグ・ロバーツ:トランプ大統領の提案する「和平案」は何を意味するのか?」(2025年5月16日)http://tmmethod.blog.fc2.com/
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また英文原稿はこちらです⇒Will America Survive?
筆者:ポール・クレイグ・ロバーツ(Paul Craig Roberts)
出典:自身ブログ 2025年5月6日