
植草一秀【連載】知られざる真実/2025年5月18日 (日) 増税&社会保険負担増だけの暴政
社会・経済「103万円の壁」の大騒動でどのような結果がもたらされたのか。
基礎控除、所得控除が増額されて、課税最低限が103万円から160万円に引き上げられたように〈見える〉。
しかし、年収200万円以上の給与所得者に対する上乗せ所得控除措置が取られるのは2025年度と26年度の2年間限り。
しかも、この所得控除の上乗せ措置が適用されるのは年収850万円までの所得者に限定される。
2025年度、26年度の上乗せ所得控除の恩恵を受ける人数は4600万人だが、27年度以降も上乗せ所得控除の恩恵を受ける人数は300万人にとどまる。
これだけ大騒ぎした減税論議だが、減税規模は総額で1.2兆円に過ぎない。
2024年度には3.3兆円の定額減税が実施された。
この減税措置は1年限り。
25年度は3.3兆円の増税になる。
すると、2025年度の税制改正による増減収額はトータルで2.1兆円の増税ということになる。
国民民主党があれだけ騒いで、あたかも大きな減税を勝ち取ったかのような説明が行われているが、全体では2025年度に2.1兆円の所得税増税が行われることになる。
この事実を報道しているメディアがただの一つでも存在するか。
答えはNOだ。
メディアは財務省の支配下に置かれている。
財務省がメディアを支配する原動力としているのが8%の軽減税率。
新聞業界は8%の優遇税率という〈利益供与〉を受けているため、財務省にモノを言えない。
モノを言えないどころか、財務省の命令によって〈増税〉を〈減税〉と粉飾して報道している。
問題はこれだけでない。
このどさくさに紛れて106万円と130万円の壁が破壊される。
103万円、106万円、130万円など、〈壁〉がいくつも出てきて混乱する。
この〈壁〉のすべてを正確に説明できる市民は極めて少数だ。
中身はよく分からないが〈壁〉が撤廃されて〈手取りが増える〉などと勘違いしている人が大半なのである。
そして、最大の勘違いは〈国民民主党〉が国民に利益をもたらす政策実現に尽力しているという〈勘違い〉。
そのような事実は存在しない。
メディアは事実をまったく伝えずに、国民民主党の人気が上昇していると伝える。
あるラーメン店が美味しくて評判だとするフェイクニュースを流布・拡散して、店の前に大規模な〈さくら〉の行列を作る。
通行人は〈超人気店〉だと勘違いして列に並び始める。
店に入ってラーメンを食べて、美味しいとも感じないが、何となく雰囲気で美味しいラーメン店だと自分に言い聞かせる。
こんなことが起きている。
103万円の壁は所得税負担が発生する最低ライン。
これが引き上げられると非課税の最低ラインが上がる。
課税が生じないように103万円の年収で抑制していた人が160万円まで労働を増やそうと思うかも知れない。
しかし、103万円の壁は、壁を超えても〈手取りが逆に減る〉という事態を引き起こすものでない。
だから、〈壁〉ではなく、単なる〈境界線〉である。
〈境界線〉を超えても不都合は生じない。
しかし、106万円と130万円は違う。
完全な〈壁〉、正確に言えば〈落とし穴〉だ。
従業員51人以上の企業では年収が106万円を超えると社会保険料負担が発生してしまう。
零細企業の場合でも年収が130万円を超えると社会保険料負担が発生してしまう。
このとき発生する社会保険料負担は106万円の壁で約16万円、130万円の壁で約27万円にも達する。
これは〈境界線〉でなく〈落とし穴〉である。
収入が増えると手取りが激減する。
さらに政府は5月16日に年金制度改革関連法案を閣議決定した。
これによって週20時間以上働く労働者の社会保険への加入が義務付けられる。
106万円の壁、130万円の壁が撤廃されることになる。
より多くの労働者に社会保険料負担がずっしりとのしかかる。
減税が実施されるなどという喧伝は事実誤認もはなはだしい。
国民負担激増が強要されることになる。
※なお、この記事は下記からの転載であることをお断りします。
植草一秀の『知られざる真実』
2025年5月18日 (日)「増税&社会保険負担増だけの暴政」
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植草一秀(うえくさ かずひで) 1960年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒。大蔵事務官、京都大学助教授、米スタンフォード大学フーバー研究所客員フェロー、早稲田大学大学院教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ株式会社代表取締役、ガーベラの風(オールジャパン平和と共生)運営委員。事実無根の冤罪事案による人物破壊工作にひるむことなく言論活動を継続。 経済金融情勢分析情報誌刊行業務の傍ら「誰もが笑顔で生きてゆける社会」を実現する『ガーベラ革命』を提唱。人気政治ブログ&メルマガ「植草一秀の『知られざる真実』」を発行。1998年日本経済新聞社アナリストランキング・エコノミスト部門1位。『現代日本経済政策論』(岩波書店、石橋湛山賞受賞)、『日本の独立』(飛鳥新社)、『アベノリスク』(講談社)、『国家はいつも嘘をつく』(祥伝社新書)、『25%の人が政治を私物化する国』(詩想社新書)、『低金利時代、低迷経済を打破する最強資金運用術』(コスミック出版)、『出る杭の世直し白書』(共著、ビジネス社)、『日本経済の黒い霧』(ビジネス社)、『千載一遇の金融大波乱』(ビジネス社、2023年1月刊)など著書多数。 スリーネーションズリサーチ株式会社 http://www.uekusa-tri.co.jp/index.html メルマガ版「植草一秀の『知られざる真実』」 http://foomii.com/00050