
【高橋清隆の文書館】:2025年05月22日08:00 ニュース研究:江藤農相失言報道のてん末=農協つぶし
メディア批評&事件検証同書には、農政に精通したわが国を代表する論客15人が登場し、権力におもねない告発を展開する。各口述の合間には編集部の筆による豆知識がちりばめられ、楽しく読み進むことができる。F1種(1代雑種)の意味や農業協同組合(JA)の仕組み、遺伝子組み換え(GM)作物の現状など、今さら聞けない疑問に答えている。
種子法は1952年の成立以来、日本の主要農産物(稲、大麦、はだか麦、小麦、大豆)を守ってきた。各都道府県に優良な種子を維持するよう予算措置などを義務付け、専門的な人材や施設を確保させてきた。おかげで日本のおコメは安全・安心で、ほぼ100%の自給率を維持してきた。その効力が18年3月末で、完全になくなる。
同廃止法案が参院で審議されていた17年4月10日、「日本の種子を守る有志の会」が議員会館前で抗議行動を展開していた。その中心にいたのが山田正彦元農水相で、同書の1番手に登場している。
山田氏は同法廃止によって、稲の苗の価格が5~10倍に高騰していくと指摘する。税金で育ててきた公共品種が失われ、民間企業に提供され置き換わってしまうからである。すでに野菜の種子がF1種になり、1粒1円か2円だったのが海外の種子企業で生産され、1粒40円か50円になったように。
多様性も失われる。同法廃止に合わせて成立した農業競争力強化支援法8条3項では、多様な銘柄を集約するとなっているからだ。民間品種は高いだけではない。日本モンサントの「とねのめぐみ」の契約書では、農家が代理店の指示に従わない場合、農家は日本モンサントに損害賠償責任を負うとされている。住友化学「つくばSD」や三井化学「みつひかり」にも同様の規定がある。
鈴木宣弘・東大大学院教授は安倍政権の進める農業改革の本質を「大企業が稼げる農業」と断じる。そこでは農家・農協が犠牲にされるが、利益が出なくなれば「大企業が稼げる不動産業」に転じる二段構えだと看破した。農家の大規模化・法人化の推進と並行して、農地転用の規制を緩和する地方分権一括法案、地方再生改正法案を閣議決定したほか、企業の農地保有を解禁する戦略特区改正法案も閣議決定する方針だったからである。
農協改革は①JA全中の指導・監督の撤廃および一般社団法人化②JA全農の株式会社化が2本柱だが、真の狙いは①「抵抗勢力」である農協つぶしと②独禁法の適用や買収への道を開き、農協を企業に食い荒らさせることと指摘する。モンサントやカーギルが虎視眈々(こしたんたん)と市場を狙っており、GM作物が一気に流入する危険性もある。
金融財政学者の菊池英博氏は農業改革で380兆円の農協マネーが米国に略奪されると警告する。安倍政権の進める農業改革は2014年6月に閣議決定された「規制改革実施計画」に基づくが、在日米国商工会議所(ACCJ)の意見書と酷似している。意見書をまとめたのはACCJの保険委員会と銀行・金融・キャピタルマーケット委員会で、彼らの狙いがJAバンク(貯金残高91.5兆円)とJA共済(保有契約高289兆円)にあるのは明白だと指摘する。
これは郵政民営化と同じではないか。規制改革会議の農業ワーキング・グループは「准組合員の事業利用は、正組合員の事業利用の2分の1を超えてはならない」と提言しており、竹中平蔵氏が金融相時代に『年次改革要望書』に沿って小規模共済をつぶしたのと同じ手口である。
元農水官僚の篠原孝衆院議員は、霞が関の上級官僚約600人を統括する内閣人事局制度によって官邸言いなりの官僚がばっこしている現状を嘆く。篠原氏は彼らを「政僚」と呼び、同制度の廃止を主張する。奥原正明農水事務次官は「農業が産業化し、農水省が要らなくなることが理想だ」と発言したことを問題視し、「農業を一産業と捉え、経産省が管轄している先進国は世界でどこにもない」と糾弾する。
もともと農政は農政審議会(現食料・農業・農村政策審議会)の意見を参考に推進されてきたが、現在は官邸に設置された規制改革推進会議や産業競争力会議(現未来投資会議)が差配する。それらのメンバーは財界寄りの主張をする御用学者や御用経営者ばかり。このままでは日本の農業・農村は滅び、日本の存立自体が危うくなると指摘する。
「食政策センターVision21」代表の安田節子氏は、米モンサント社による食の支配に警鐘を鳴らす。GM作物の開発を展開し、世界の種子市場でシェア1位を誇る独占的企業の実態は、何度聞いてもぞっとする。12年、仏カーン大学のセラリーニ博士を中心とする研究チームが同社のGMトウモロコシをラットに与え続けた結果、3カ月で巨大な腫瘍ができた。4カ月すぎに大多数にがんが確認され、寿命(約24カ月)前の早期死亡率は雄50%、雌70%だった。
同社はGM作物の種子に特許を掛け、種取りも、種の交換も、種の保存も禁止している。年間1000万ドル・75人の訴訟部門を設置し、モンサントポリスと呼ばれる監視員が農地を回り、GM種や雑交種を見付けると無断栽培だとして農家に損害賠償を求める訴訟を起こす。一方、「害虫に強く、収穫量が増える」との触れ込みのGM綿花の種子と肥料・農薬をセットで購入したインドの農家は想定の利益が得られず、10年間に17万人が自殺している。
種子法廃止という喫緊の問題に対しては、山田氏の促しで「日本の種子(たね)を守る会」(会長・八木岡努JA水戸代表理事組合長)が組織され、種子法に代わる法律を議員立法で制定するなどの運動に取り組む。八木岡氏の主張も同書に収められている。
わが国の農業を取り巻く現下の問題を知るのに、これ以上の本はない。書店売りもあるが、お近くの店頭にない場合は、ネット書店か『月刊日本』にご注文を。「瑞穂の国の農業、美しい棚田を守りたい」(安倍首相)なら、一読を勧める。
※なお、この記事は「高橋清隆の文書館」2025年05月22日 のブログ記事
「ニュース研究:江藤農相失言報道のてん末=農協つぶし」http://blog.livedoor.jp/donnjinngannbohnn/archives/2066448.html
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反ジャーナリスト。金沢大学大学院経済学研究科修士課程修了。元ローカル新聞記者。著書に『偽装報道を見抜け!』(ナビ出版)、『亀井静香が吠える』(K&K プレス)、『山本太郎がほえる~野良犬の闘いが始まった』(Amazon O.D.)など。翻訳にデーヴィッド・アイク『答え』第1巻[コロナ詐欺編](ヒカルランド)。2022年3月、メディア廃棄運動を開始。 ブログ『高橋清隆の文書館』http://blog.livedoor.jp/donnjinngannbohnn/