【連載】今週の寺島メソッド翻訳NEWS

☆寺島メソッド翻訳NEWS(2025年5月25日):スコット・リッター:ロシアも和平交渉に見切りをつけて、いよいよオデッサに向けて進軍すべきときでは?

寺島隆吉

※元岐阜大学教授寺島隆吉先生による記号づけ英語教育法に則って開発された翻訳技術。大手メディアに載らない海外記事を翻訳し、紹介します。

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ロシアはウクライナに対し、紛争終結の基本条件を通告した。それは、ロシア憲法の観点から母なるロシアの一部を構成する地域からウクライナ軍が全軍を撤退させることである。これらの地域には、ヘルソンとザポリージャ、ドネツク、ルガンスクが含まれる。ロシアはまた、ウクライナがこの条件を受け入れない場合、次回ロシアがウクライナと交渉する際には、ウクライナの4つの州(行政区)(おそらくオデッサとニコラエフ、ドネプロペトロフスク、ハルキウ)を要求に含めることも明らかにした。我々はまさに「オデッサの瞬間」に到達したのだ。

2023年1月、ジョージ・サミュエリとピーター・ラヴェルと共に「ザ・ギャグル」に出演した際、私はロシアが私が「オデッサの瞬間」と呼ぶ瞬間に近づいている、と仮定した。この瞬間は、軍事的および政治的状況の合流点であり、この瞬間に達すると、ロシアは戦略的決定として、2022年9月にヘルソンとザポリージャ、ドネツク、ルガンスクの領土でおこなわれた物議を醸した住民投票を受けてロシアに吸収された領土によって定義された地理範囲を超えて、特別軍事作戦(SMO)を拡大するという決定を下すことになるだろう、と私は考えていた。なおこの住民投票においては、これらの領土をロシア連邦に編入すべきかどうかの自決問題に住民投票で答えが既に出されていた。

(動画あり。元記事参照。訳者)

当初構想されていたSMOは、領土獲得ではなく、ウクライナのロシア語話者の権利擁護を目的としていた。SMO開始から1週間も経たないうちに始まった交渉(最初はベラルーシのホメリで、後にトルコで)において、ロシアは単に、2014年から2015年にかけてウクライナとドイツ、フランスと締結されたミンスク合意で約束されたことの実現を目指していただけだった。この合意において、ウクライナは憲法を適切に改正し、ウクライナ国民であるロシア語話者の権利と地位の保護を保障することを約束していた。

ドイツとフランスの両国(そして米国も)の支援を受けたウクライナは、ミンスク合意を、2014年2月のCIA支援によるマイダン・クーデターの余波で失われたドンバス地方(ドネツク州とルガンスク州で構成)の一部とクリミア半島を奪還するのに十分な軍事力を構築する機会と捉えることを選択した。このクーデターでは、合法的に選出されたロシア語話者の大統領、ヴィクトル・ヤヌコーヴィチが追放され、米国が支援するウクライナ民族主義者が取って代わった。2015年から2022年の間に、米国とそのNATO同盟諸国は、ドネツクとルガンスク、クリミアの領土を武力で奪還するという唯一の目的のため、数十万人のウクライナ兵士を訓練し、装備を提供した。

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2019年12月、マクロン大統領とメルケル首相、ウラジーミル・プーチン大統領と会談中のゼレンスキー大統領

2019年4月、元喜劇役者で政治家に転身したウォロディミル・ゼレンスキーが、現職のペトロ・ポロシェンコを破り、ウクライナ大統領選に勝利した。ゼレンスキーは平和を掲げ、ロシアとの和平案策定のためであれば「膝をついてでも」行動すると公約し、ロシア語圏の支持を取り付けた。ところが、数ヶ月後には軍事評議会を招集し、ウクライナの支配から解放されたドネツク州とルガンスク州の地域をウクライナ軍を用いて奪還すると公約した。

これがゼレンスキーの最初の過ちだった。

スコットはこの記事について、Ask the Inspectorの第264回で視聴者の質問に答える

ゼレンスキーが選んだこの政策のせいで、ロシアがSMOを開始する前で、ウクライナがドンバスを攻撃しようと軍を動員し始めた後の数日間に、ロシアがドネツクとルガンスク両国の独立を承認し、両国と集団安全保障協定を締結し、ドンバスが二度とウクライナの一部とならないことを保証する行動をとることにつながったのだ。

このときが、ゼレンスキーにとって、「ドンバスの瞬間」だった。

兵士の写真

ゼレンスキーの二つ目の失策は2022年4月に起きた。彼は、SMO開始直後にロシアが開始した交渉から離脱したのだ。この交渉は、署名することが可能だった和平合意(イスタンブール・コミュニケとして知られる)の締結へと繋がった。この合意はドンバスの二共和国の独立を承認するものだったが、SMO期間中にロシア軍に占領されていたウクライナ領土の返還も約束したものだった。

ゼレンスキー大統領は、米国とNATOの支持者から圧力を受け、この合意を拒否し、代わりに米国とNATOから数百億ドルの軍事援助を受け取り、それを使って弱体化した軍事力を再建し、その後、イスタンブール共同声明の条件に従い、誠意ある措置としてすでにウクライナから撤退を開始していたロシア軍に対する反撃を開始した。

ロシアはこれに対し、ドンバス地方と、クリミアとロシア本土を結ぶ陸橋を構成するヘルソン州とザポリージャ州の両州で住民投票を実施した。この住民投票は、これらの地域がロシア連邦に編入されるか否かを問うものだった。4州すべてにおいて賛成側が勝利し、ロシア議会による適切な法的措置の後、プーチン大統領は4州すべてをロシア連邦に編入する法令に署名した。

このときがゼレンスキーにとって「ウクライナが小ロシアに戻ってしまった」瞬間だった。

投票する女性
2022年9月のロシア加盟に関する国民投票に投票するヘルソン市民

そして今、ゼレンスキーは新たな岐路に立たされている。

それが「オデッサの瞬間」。

彼には、可能な限り最も有利な条件でSMOを終わらせるチャンスがある。その条件は、ロシアに関してゼレンスキー氏がこれまで誤った決断を下したことにより、ウクライナ大統領と彼が率いる国家が直面している厳しい現実を反映している。

ドンバスは消滅した。そのあとロシアの勢力範囲となった小ロシアも同様だ。これらの損失は政治的にも軍事的にも取り返しがつかない。

ウクライナには今、紛争を終結させる好機がある。しかし、そのためには戦場の現実を尊重しなければならない。

残念なことに、ミンスク合意とイスタンブール共同声明から離脱するようウクライナを促した同じ「友人」と「同盟国」が、今度は第2弾イスタンブール和平交渉に関してもウクライナに同じことをするよう促している。

しかし、欧州からの支援の約束は幻想である。武器庫はとっくの昔に空っぽになっており、軍事的にも政治的にも意味のある軍事介入の可能性はそもそも存在しなかったからだ。

さらに、欧州のいかなる行動も必然的に米国の支持を必要とする。ジョー・バイデン大統領の時代には可能だったかもしれないが、ドナルド・トランプ新政権下では実現不可能だ。イスタンブールでの2回目の会合が進行中だったにもかかわらず、米国は欧州から部隊を撤退させる、と発表したのだ。

ロシアのことは真剣に受け止めなければならない。ウクライナが和平合意に再び難色を示した場合、ロシアが新たに狙っている4つの領土を占領する上で直面するであろう課題は数多く、軽視すべきものではない。しかし、この領土の占領については軍事的な問題であり、ロシア指導部と国家の政治的決意が出すべき最も的確な答えであり、現時点では揺るぎないものである。

昨年、ウラジーミル・プーチンは戦時大統領として統治する権限を獲得した。

先日終了した5月9日の式典が明確に示したように、ロシア国民からのウクライナ打倒の決意は固いものである。

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2025年5月9日、赤の広場で群衆に演説するウラジーミル・プーチン大統領

イスタンブールのロシア首席交渉官がウクライナ側に対し明らかにしたとおり、ロシアは、どれだけ長くかかっても戦う用意があるのだ。だからこそ、ピョートル大帝がスウェーデンを倒すのに21年かかった歴史を持ち出したのだ。

ウクライナにとっては、夏を乗り切れれば恩の字だろう。

ゼレンスキーは、これまで経験したことのないほど、自身が指導者の器として相応しいかの試練に直面している。

彼の政府内に存在する国家主義勢力は、失敗したバンデラ主義の大義を追求するために国家の自殺をいとわない。

ウクライナのかつての同盟国は、その目標が依然としてロシアを戦略的に打ち負かすという冷戦時代の幻想に集中しており、ゼレンスキー大統領に対しロシアの和平条件を拒否するよう圧力をかけており、達成不可能な目標を追求するためには代理としてウクライナを犠牲にすることもいとわない。

もしゼレンスキーが本当に自国と国民のことを気にかけているのなら、自尊心を捨てて彼らを救う唯一の決断、つまり降伏をするはずだ。

しかし、ゼレンスキーは自国や国民を思いやる指導者ではない。彼はすでに、EUとNATO主導の重要性と富の幻想を追い求める中で、ウクライナの国家統一と100万人以上の国民を犠牲にしている。

今はゼレンスキーにとってオデッサの瞬間だ。

そして彼は失敗するだろう。

※なお、本稿は、寺島メソッド翻訳NEWS http://tmmethod.blog.fc2.com/
スコット・リッター:ロシアも和平交渉に見切りをつけて、いよいよオデッサに向けて進軍すべきときでは?」(2025年5月25日)http://tmmethod.blog.fc2.com/

からの転載であることをお断りします。

また英文原稿はこちらです⇒The Odessa Moment
筆者:スコット・リッター(Scott Ritter)
出典:自身サブスタック 記事 2025年5月17日https://scottritter.substack.com/p/the-odessa-moment

寺島隆吉 寺島隆吉

国際教育総合文化研究所所長、元岐阜大学教授

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