江東5区マイナス地域の危険性を知っていますか
社会・経済私は、1945年東京大空襲の40日前に東京都城東区(現在は江東区)亀戸に生まれ、母が荒川放水路土手に私を負ぶって逃げて助かり、両親の故郷の富山県に疎開した。その後神奈川県鶴見に引っ越し、10歳で再び江東区深川に転じ、67年住んでいる。
江東区は大正時代の関東大震災と東京大空襲の2度も焦土となり10万人が亡くなった所である。東京大空襲ではアメリカは江東区を焼き尽くしたが、その理由を知りたくて、東京大空襲戦災資料センターで読書会を続けている。
亀戸は、明治40年代に女工さん3000人の工場が4つあり、ニチボウや後のカネボウ等の紡績会社で、軍人が戦争に着るモスリンのオーバーを作っていた。羊毛を輸入するのに都合が良かったためだ。戦前の日本の外貨の稼ぎ手は紡績業で、そこには女性たちの厳しい現実があった。細井和喜蔵が亀戸の会社に10年潜ってルポ『女工哀史』を書いている。
しかし、伴侶の高井としが関東大震災の前後に書いた『わたしの「女工哀史」』によると、「震災時に亀戸事件に巻き込まれ寸前に逃げて助かり、仕上げた」と書かれている。二人が関東大震災時に大垣に逃げていなければ、この名著は世に出ていなかった。
後に彼女は日本労農党活動家高井信太郎と再婚し、戦後はニコヨン(日雇い労働者)をして子供たちを育て、その労働組合を作り大活躍し、斎藤美奈子は「女工快史」と評している。
関東大震災で焦土になった江東区は江戸時代以来の近郊野菜地から工業地帯に転じ、その後、軍需産業・住宅地化し、米軍に徹底的に焼夷弾で焼かれた。2度とも、住民がいなくなったことから工業化しやすかったということになる。
昭和初期から昭和40年まで工業用水に地下水を利用し続け、その後深くなるとメタンガスも採取でき地下水利用は拡大し、地盤沈下が進んだ。最も深いところでは海面より3~5mにも達し、マイナス地域は江東・墨田・江戸川・葛飾・足立の5区に及び、今では250万人が住んでいる。
2019年の台風19号では、激しい豪雨のために荒川が増水し、岩淵水門を閉じなかったら隅田川は越水し、北区以南は洪水になっていたと言う。首の皮一枚で下町が守られたということだ。それを防止しようと荒川下流河口部から堤防耐震強化工事が始まっている。その看板には「洪水・高潮により堤防が決壊した場合には、壊滅的な被害が生じてしまいます」と書かれている。
その荒川氾濫を想定して、江東5区広域避難推進協議会は「ここにいてはダメです」「浸水の外へ」というハザードマップを配布・公開している。
さらに首都直下型地震(関東大震災)が近々30年で70%の確率で発生すると予測されている。その時、堤防が破損し海水が流入し、荒川氾濫が起こることが予測されている。地域の住民はスーパーとコンビニに食生活を依存していて、それらが1階や地下1階に位置することから住民の食生活が崩壊しかねない。
さらに国土交通省荒川下流河川事務所のフィクションドキュメンタリー『荒川氾濫』によると、地域が浸水し、地下鉄にも流入し、地下鉄内を浸水が進み、霞が関までも機能不全になるとなっている。江東5区では海水が流入し交通崩壊が危惧される。
先の東日本大震災時に、千葉県浦安市の液状化が問題になった。住まいが傾き、マンホールが浮き上がり、埋設管損傷に。通常は、土粒子と水が上手く配列されているが、地震発生で両者が分離し、その後完全に分離すると、土圧で地下の水が突出するために生じる。日本中の海岸埋立地は第4紀の新しい地層であり、大阪や名古屋を始め大都市はいずれも埋立地が多く、液状化の危険性は他人事ではない。
しかし、そんな危険が江東5区に存在すると心配する人は少ない。これからは、そのことを多くの人に伝えていくことをライフワークとしたい。荒川放水路の堤防により東京大空襲を助けられた自分が、荒川氾濫の危険に気づき、その危険性を住民に伝えるのは皮肉と思うが、住んでいる人々が「自分事」として、地域の危険性を感じ、自分の避難計画を地域の人と考えて欲しい。
抜本的な解決策は、大都市の人口一極集中を改め、耕作放棄地が埼玉県より拡大した政策を改善することである。江戸時代のように広く日本中に住み、農林水産業・製造業・土建業をベースに楽しい循環型国づくりをすることである。
「資源のない国から自然豊かな国へ」。
(参考)パソコンで「荒川氾濫」で検索すると出てきたら、クリックすると観られます。
※ご支援のお願いのチラシ作成しました。ダウンロードはこちらまで。
1945年生まれ。東海大学海洋学部、法政大学法学部卒、首都大学東京大学院観光科学修士卒。環境調査会社で日本各地の環境アセスメント、海洋環境調査に参加。現在はNPO地域交流センター、江東エコリーダーの会、江東区政を考える会、江東5区マイナス地域防災を考える会等に参加。技術士(応用理学、建設、環境)。著書『屋上菜園エコライフ』『ゆたで楽しい海洋観光の国へ、ようこそ』(七つ森書館)。 中瀬勝義 | ちきゅう座 (chikyuza.net) Email:k.nakase@ka.baynet.ne.jp