【連載】櫻井ジャーナル

【櫻井ジャーナル】2025.06.09XML:対ロシア戦争に執着しているイギリスはシオニズム発祥の国

櫻井春彦

ロシア軍は6月6日、ウクライナに対する大規模な高精度長距離ミサイルや攻撃用ドローンを用いた大規模な攻撃を実施しはじめた。攻撃目標はウクライナ軍の設計局、兵器などを生産したり修理する企業、攻撃用ドローンの組立工場、飛行訓練センター、そして兵器や軍事装備品の倉庫だ。激しい攻撃の様子は西側の有力メディアも伝えている。

 

ウクライナの治安機関SBUが6月1日に約120機のドローンでロシアの戦略核基地、つまりオレニャ(ムルマンスク)、ベラヤ(イルクーツク)、イバノボ(イバノボ)、ディアギレフ(リャザン)、ウクラインカ(アムール)の基地を攻撃、またロシアのクルスクやブリャンスクで鉄道に対する破壊工作を仕掛けしたことに対する報復だとされている。

 

いずれの攻撃もSBUが単独で行うことは不可能。地上での情報収集だけでなく、衛星からの目標に関する情報収集も必要。その目標へドローンを誘導するのも衛星だ。イギリス、フランス、ドイツなどの情報機関が共犯関係にあることは間違いない。こうした攻撃をドナルド・トランプ米大統領はウラジミル・プーチン露大統領に対し、知らなかったと発言したそうだが、情報機関は知っていたはずだ。トランプの発言が事実ならば、クーデターが進行中なのか、地下政府が指導したということになる。

 

ソ連が消滅した1991年12月、アメリカの軍事と外交をコントロールしてきたネオコンは世界制覇プロジェクトを始めているが、彼らがホワイトハウスで完全に主導権を握るのは2001年9月11日にニューヨークの世界貿易センターとバージニア州アーリントンの国防総省本部庁舎(ペンタゴン)が攻撃された後だ。

 

ソ連消滅後、ロシアは米英の強大な私的権力の植民地と化していたのだが、21世紀にウラジミル・プーチンを中心にロシアが動き始めてから再独立ヘ向かう。そこでネオコンたちはロシアを再植民地化しようとするのだが、思惑通りに進まない。その間、NATOを東へ拡大して圧力をかけるが、その結果、2014年2月にウクライナで戦争が始まる。

 

この戦争はクーデター政権と反クーデター派住民との内戦という形で始まったが、ネオコンにとってウクライナ制服は対ロシア戦争の一環にほかならない。NATOがウクライナに入ることをロシアが許さないことは明白であり、大規模な戦争に発展することも想定できた。

 

対ロシア戦争の中心にはネオコンがいるのだが、そのネオコンはシオニストの一派であり、東ヨーロッパで「修正主義シオニズム」を作り上げたウラジミル・ジャボチンスキーと関係が深い。

 

ジャボチンスキーは第1次世界大戦が始まるとイギリス軍の「ユダヤ人部隊」に参加、パレスチナがイギリスの委任統治領になると、そこで「ユダヤ人」の秘密部隊として「ハガナ」を組織。後にハガナが中核となり、イスラエル軍が編成されることになる。彼が「修正主義シオニズム」を創設するのは1925年のことだ。

 

ジャボチンスキーは死の直前、アメリカで住んでいたが、その時代に彼の秘書を務めていたベンシオン・ネタニヤフは現在、イスラエルの首相を務めているベンヤミン・ネタニヤフ。1970年代にイスラエルで台頭した政党リクードは修正主義シオニズムの政党である。

 

シオニズムとは「シオンの地」へ帰るという考え方なのだが、ナチス時代のドイツでも「シオンの地」とされているパレスチナへ行きたいと考えるユダヤ教徒/人は少数だった。そもそもユダヤ人がシオニズムを言い始めたわけでもない。

 

一般的に「近代シオニズムの創設者」とされている人物は1896年に『ユダヤ人国家』という本を出版したセオドール・ヘルツルだが、その前からシオニズムという考え方は存在した。海賊行為で富を蓄積していたエリザベス1世の時代、イングランドに出現した「ブリティッシュ・イスラエル主義」が始まりだと考えられている。

 

その当時、イングランドの支配層の間で、アングロ-サクソン-ケルトは「イスラエルの失われた十支族」であり、自分たちこそがダビデ王の末裔だとする信じ、人類が死滅する最後の数日間にすべてを包括する大英帝国が世界を支配すると予言されているという妄想が広まっていた。

 

イギリスや西側世界にシオニズムを広めた人物としてブリティッシュ外国聖書協会の第3代会長を務めた反カトリック派のアントニー・アシュリー-クーパー(シャフツバリー伯爵)が知られているが、17世紀初頭にイギリス王として君臨したジェームズ1世も自分を「イスラエルの王」だと信じていたという。

 

その息子であるチャールズ1世はピューリタン革命で処刑されたが、その革命で中心的な役割を果たしたオリヴァー・クロムウェルをはじめとするピューリタンも「イスラエルの失われた十支族」話を信じていたとされている。クルムウェルはユダヤ人をイングランドへ入れることを許可したが、稼ぎ方を海賊行為から商取引へ切り替えるためだった灯されている。ユダヤ人は商取引や金貸しに長けていた。

 

エリザベス1世が統治していた1593年から1603年にかけてイングランドはアイルランドで現地の連合軍と戦闘、勝利する。アイルランドを率いていたヒュー・オニールとロリー・オドネルが1607年にヨーロッパ本土へ逃亡するとイングランド王室はアイルランドの先住民を追放し、イングランドやスコットランドから入植者をアイルランドのアルスター地方へ移住させた。

 

クロムウェルは革命で仲間だったはずの水平派を弾圧、さらにアイルランドへ軍事侵攻して住民を虐殺。侵攻前の1641年には147万人だった人口は侵攻後の52年に62万人へ減少した。50万人以上が殺され、残りは「年季奉公」や「召使い」、事実上の奴隷としてアメリカなどに売られたと言われている。

 

ダブリン出身でプリマス・ブレザレンを創設したジョン・ネルソン・ダービー牧師は1830年代から宗教活動を始めたが、彼はキリストの千年王国がすべての文明を一掃し、救われるのは選ばれた少数のグループだけだと考えていた。

 

世界の邪悪な力はエゼキエル書で特定されている「ゴグ」であり、そのゴグはロシアを指すと主張、ユダヤ人がイスラエルに戻って神殿を再建したときに終末を迎えるとしている。つまりキリストが再臨するということだ。

 

19世紀のイギリス政界では反ロシアで有名なヘンリー・ジョン・テンプル(別名パーマストン子爵)が大きな影響力を持っていた。彼は戦時大臣、外務大臣、内務大臣を歴任した後、1855年2月から58年2月まで、そして59年6月から65年10月まで首相を務めている。ビクトリア女王にアヘン戦争を指示したのもパーマストン卿だ。

 

このように始まったシオニズムは19世紀に帝国主義と一体化し、パレスチナ侵略が具体化してくる。イギリス政府は1838年、エルサレムに領事館を建設し、その翌年にはスコットランド教会がパレスチナにおけるユダヤ教徒の状況を調査、イギリスの首相を務めていたベンジャミン・ディズレーリは1875年にスエズ運河運河を買収。そして1917年11月、アーサー・バルフォアがウォルター・ロスチャイルドへ書簡を出してイスラエル建国への道を切り開く。いわゆる「バルフォア宣言」だ。

 

こうして見ると、シオニズムは「ユダヤ人」ではなく、「アングロ・サクソン」が生み出し、イギリスで始まったと言うべきだろう。ガザでの虐殺にしろ、ウクライナでの対ロシア戦争でもイギリスの存在が浮上しているが、これは必然。そのイギリスがアメリカと共同で支配してきたNATOが対ロシア戦争に積極的なのも必然だ。

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のテーマは「 対ロシア戦争に執着しているイギリスはシオニズム発祥の国 」(2025.06.09ML)
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