
「知られざる地政学」連載(94):第三次世界大戦を引き起こす男:「悪者=ゼレンスキー」(上)
国際
今回は、第三次世界大戦を引き起こしかねないウォロディミル・ゼレンスキー大統領について詳しく分析する。
私からみると、「悪者」でしかないゼレンスキーを支援する欧州や日本の気が知れない。講談社の運営する「現代ビジネス」において、拙稿「ウクライナで恐ろしい「バス化」=路上強制兵役連行が頻発中」で指摘したように、新聞やテレビといったオールドメディアは、「人々が聞きたくないことを伝える権利」である「言論の自由」を放擲している。BBCのわずかばかりの報道が気を吐いているにすぎない。その結果、日本でも、大多数の人々はゼレンスキーの悪辣非道さを知らない。不勉強な者ばかりが目立つ国会議員もまた「悪者=ゼレンスキー」を支援することの過ちに気づいていない。参議院選挙を前に、いまでもウクライナを支援するという公約を掲げる政党があれば、そんな政党には絶対に投票してはならない。日本の外交について、真っ当な政策判断さえできない政党に信を委ねてはならないのである。
最近、何が起きたのか
まず、ウクライナ戦争をめぐる最近の出来事について説明する必要があるだろう。最初に紹介したいのは、おそらくほぼ100%の日本人が知らない出来事だ。5月30日に、極東のウラジオストクにあるデサントナヤ湾付近で二度の爆発があったという話だ。ウクライナ侵攻にも参加している第155海兵旅団が駐留していた場所で発生したもので、その背後には、ウクライナのキーロ・ブダノフ中将が率いる国防省情報総局(GUR)がいた(「キーウ・インディペンデント」を参照)。
ロシア側はこの出来事に蓋をすることで、自らの不名誉を隠蔽しようとした。しかし、6月2日開催予定のトルコ・イスタンブールでのロシア・ウクライナの第二回直接協議を前に、ウクライナによる立て続けの妨害工作が起きた。プーチンを怒らせることで、戦争を継続させようとするゼレンスキーの「悪だくみ」である。
三つのテロ攻撃
6月4日に開かれたウラジーミル・プーチン大統領の出席のもとでのビデオ会議で、連邦取り調べ(予審)委員会トップは、三つのテロ攻撃について報告した。最初のテロは、5月31日22時33分に起きた。ウクライナと国境を接するブリャンスク州で、モスクワ行き列車が走行中、爆発物3個が爆発し、線路上に設置された道路高架橋の支柱が破壊され、列車は落下した陸橋の破片に衝突した(下の写真)。機関車と先頭の2両が脱線し、122人が負傷し、うち運転手と乗客6人の計7人が死亡した。
第二のテロ攻撃は数時間後に起きた。クルスク州の高速道路の交差点で鉄道橋が爆破されたのである。現場検証の結果、五つの即席爆発装置が線路上と鉄橋の支柱の下で同時に爆発したことが判明したという。
第三のテロは6月1日午前、ブリャンスク州で発生した。機関車が走行中に、線路の下で五つの爆発物が爆発した。
この報告を受けて、プーチンは、「ブリャンスクとクルスクで最近起きた線路爆破は、間違いなくテロ行為である」とのべた。さらに、決定は、「もちろん、ウクライナの政治レベルで下された」と指摘した。
2025年6月1日、ロシア西部ブリャンスク州で、旅客列車に衝突した橋の現場で作業するレスキュー隊員。 写真 EPA-EFE/ロシア緊急事態省
(出所)https://novayagazeta.eu/articles/2025/06/01/seven-dead-as-bridge-collapses-in-apparent-sabotage-operation-in-russias-bryansk-region-en-news
無人機による奇襲攻撃
実は、6月2日にトルコのイスタンブールで二回目のロシアとウクライナとの停戦・和平をめぐる協議が予定されていた。それにもかかわらず、ウクライナは6月1日、驚くべき奇襲攻撃(surprise attack)を行った。攻撃は少なくとも四つの空軍基地に集中し、もっとも遠い基地はキーウから4000km以上離れていた(The Economistを参照)。ウクライナは100機以上の無人機(ドローン)を使い、トラック内の隠し区画からほぼ同時に出現させ、自爆させた。作戦を指揮したのはウクライナ保安局(SBU)であった。SBUは、核兵器搭載可能な爆撃機や早期警戒機を含む、少なくとも41機の航空機を損傷または破壊したと主張、衛星画像によれば、13機以上の損失が確認されている。
その2日後、ウクライナは占領下のクリミアとロシア本土を結ぶ橋を攻撃した(こちらは大した損傷は与えなかった)。
馬脚を現した戦争継続派ゼレンスキー
もう少し詳しく、この6月1日の奇襲攻撃をみてみよう。6月2日付のNYTによれば、ウクライナは、6月1日、117機のドローン攻撃を行い、ロシアの数十機の航空機に損害を与えたとした。ロシア国防省は同日、ウクライナの無人機が五つの地域の飛行場を攻撃したと発表した(下の写真)。ウクライナ保安局(SBU)はこの計画を「蜘蛛の巣作戦」(Operation Spider’s Web)と呼び、ドローンはロシア全土の軍事基地の近くに設置され、同時に起動するまで待機していたとされる。
ウクライナ側は、ロシア空軍基地の戦略巡航ミサイル輸送機の約3分の1にあたる41機が被弾したと発表した。NYTは、「4機のTu-95爆撃機(下の写真)と1機のアントノフ貨物機が被弾したことを確認した」と報じている。
2025年6月1日、ウクライナ保安庁が公開したビデオから引用した、シベリアの飛行場に駐機していた戦略爆撃機に対するドローン攻撃の余波を示す画像。
(出所)https://www.wsws.org/en/articles/2025/06/02/jgyh-j02.html
2015年5月9日、モスクワの赤の広場上空で戦勝記念日のパレードを行うTu-95MS。 写真:Yuri Kochetkov / EPA
(出所)https://novayagazeta.eu/articles/2025/06/02/kakoi-uron-operatsiia-sbu-nanesla-armii-rossii
核戦力を攻撃したゼレンスキー
この奇襲攻撃は、核戦力を構成する戦略爆撃機を攻撃したという重大な意義をもつ。通常、核戦力には、核弾頭に加えて、核弾頭を運搬するための地上・海上・空中発射ミサイルという核戦力「3本柱」がある。具体的には、地上発射の大陸間弾道ミサイル(ICBM)のほか、潜水艦発射弾頭ミサイル(SLBM)、さらに戦略爆撃機から発射される戦略巡航ミサイルがある。
つまり、核兵器搭載可能な戦略爆撃機を攻撃したゼレンスキーは核戦力を破壊したのだ。もしその爆撃機に核弾頭が搭載されていれば、その空港周辺は間違いなく放射能に汚染されていただろう。その意味で、彼のやったことは「核攻撃」に近い。ゆえに、激怒したプーチンが報復としてウクライナを核攻撃したとしても、それを一方的に非難するのは難しい面をもつ。
それだけではない。第一期トランプ政権で、国家安全保障問題担当大統領補佐官だったマイケル・フリンは6月4日につぎのように今回の奇襲攻撃の問題点を指摘している。
「ロシアと米国の戦略爆撃機は一般的に、衛星監視から視認できることが協定で義務づけられているため、このような視認可能なターゲットへの攻撃はこれまでだれも行ったことがない。ロシアの爆撃機が堂々と攻撃できるのであれば、米国の爆撃機も同様だ。この行動によって、ウクライナ政府はロシアを弱体化させただけでなく、米国を危険にさらしたのだ。こうして、空爆を命じたウクライナ政府関係者は、ロシアだけでなく米国をも敵に回したことになる。さらに悪いことに、この不当な攻撃の後には、ロシアとクリミアを結ぶケルチ海峡橋へのウクライナ軍の攻撃が続いた。」
なお、6月4日付のWPは、「WPがグーグル・アースで公開されている画像を検索したところ、ノースダコタのマイノット空軍基地とルイジアナのバークスデール空軍基地では、B-52爆撃機が野外に置かれていた」と書いている。奇襲攻撃が提起した問題は深刻なのである。
「米国を敵に回す」奇襲だけに、ゼレンスキーは米国に知らせずにウクライナだけで行ったのだろう。それは、最初の奇襲攻撃と同じである。もし米国が今回の奇襲攻撃を事前に知っていれば、確実に止めるように命じただろう。なぜなら奇襲攻撃がロシアの核兵器による報復を誘発し、それが第三次世界大戦勃発の起爆剤になりかねないからである。
ゼレンスキーの「論理」はネタニヤフと同じ
ゼレンスキー自身は、作戦終了後、ウクライナ保安局のヴァシル・マリウク長官から報告を受け、「まったく見事な結果だ」とXに投稿した。「計画開始から効果的な実行まで1年6ヶ月と9日」とまで書いている。つまり、2025年3月、トランプに脅されて仕方なく停戦に合意して以降、プーチンには「30日間の無条件停戦」を要求しておきながら、実際には停戦などまったく眼中になかったことがこの記述からわかる。
もちろん、この奇襲攻撃がプーチンを激怒させることは確実だから、これを決行すれば停戦どころではなくなる。それにもかかわらず、ゼレンスキーが奇襲攻撃に出たという事実は、彼がずっと戦争継続派であった証拠と言えるだろう。
それだけではない。ゼレンスキーは同じXにおいて、「ウクライナは自国を守っており、それは当然のことだ。私たちは、ロシアにこの戦争を終わらせる必要性を感じさせるためにあらゆることをしている」、とのべた。これは、ゼレンスキーの屁理屈にすぎない。この男は、ウクライナという国家を名目にしながら、自分の権力の維持だけのために「あらゆることをする」と宣言しているのだ。
それを確信できる言葉がつぎに出てくる。「ロシアがこの戦争をはじめたのだ」というのがそれである。この言葉は、ガザでパレスチナ人を根絶やしにしようとしている、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相の理屈に符合している。2023年10月7月未明、ガザを牛耳るパレスチナのイスラム原理主義組織ハマスは、イスラエルに向けて2000発以上のロケット弾を発射、千人以上のハマスの戦闘員がイスラエルとガザの国境を越え、イスラエルの国民を人質にとる事件が起きた。ネタニヤフはこれを理由に、5万人以上のパレスチナ人を死に追いやってきた。攻撃をはじめた側が悪であり、殲滅の対象になるというのである。
ゼレンスキーはこのネタニヤフと同じく、損害を受けた側は加害者をどんなに痛めつけてもかまわないという論理を振りかざしていることになる。そこには、軍人と民間人の区別は存在しない。
「知られざる地政学」連載(94):第三次世界大戦を引き起こす男:「悪者=ゼレンスキー」(下)に続く
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1956年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。学術博士。評論家。『帝国主義アメリカの野望』によって2024年度「岡倉天心記念賞」を受賞(ほかにも、『ウクライナ3.0』などの一連の作品が高く評価されている)。 【ウクライナ】 『ウクライナ戦争をどうみるか』(花伝社、2023)、『復讐としてのウクライナ戦争』(社会評論社、2022)『ウクライナ3.0』(同、2022)、『ウクライナ2.0』(同、2015)、『ウクライナ・ゲート』(同、2014) 【ロシア】 『プーチン3.0』(社会評論社、2022)、『プーチン露大統領とその仲間たち』(同、2016)、『プーチン2.0』(東洋書店、2012)、『「軍事大国」ロシアの虚実』(岩波書店、2009)、『ネオ KGB 帝国:ロシアの闇に迫る』(東洋書店、2008)、『ロシア経済の真実』(東洋経済新報社、2005)、『現代ロシアの経済構造』(慶應義塾大学出版会、2004)、『ロシアの軍需産業』(岩波新書、2003)などがある。 【エネルギー】 『核なき世界論』(東洋書店、2010)、『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局、2007)などがある。 【権力】 『なぜ「官僚」は腐敗するのか』(潮出版社、2018)、『官僚の世界史:腐敗の構造』(社会評論社、2016)、『民意と政治の断絶はなぜ起きた:官僚支配の民主主義』(ポプラ社、2016)、Anti-Corruption Policies(Maruzen Planet、2013)などがある。 【サイバー空間】 『サイバー空間における覇権争奪:個人・国家・産業・法規制のゆくえ』(社会評論社、2019)がある。 【地政学】 『知られざる地政学』〈上下巻〉(社会評論社、2023)がある。