【連載】今週の寺島メソッド翻訳NEWS

☆寺島メソッド翻訳NEWS(2025年6月24日):トルストイ、ないしはクラウゼヴィッツをテヘランが読めば・・・

寺島隆吉

※元岐阜大学教授寺島隆吉先生による記号づけ英語教育法に則って開発された翻訳技術。大手メディアに載らない海外記事を翻訳し、紹介します。

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©写真: パブリックドメイン

イラン側のゲームプランの明らかな弱点は、「次善の策」があるようには見えないことだ。

人間には何が正しいか、何が間違っているかを判断する能力は与えられていない。人間は永遠に間違いを犯してきたし、これからも間違い続けるだろう。それも、自分が正しい、あるいは間違っていると考えることにおいてだけだ。~レフ・トルストイ『戦争と平和』

戦略家の才能とは、決定的な点を特定し、そこにすべてを集中させ、二次的な戦線から戦力を引き上げ、より小さな目標は無視することである。〜カール・フォン・クラウゼヴィッツ『戦争論』

その日、わたしはエルサレムをすべての民にとって重い石とする。それを持ち上げようとする者は皆、深い傷を負う。地のすべての国々がそれに向かって集まり、エルサレムに立ち向かう。~ゼカリヤ書 12:3

彼は自信たっぷりに話していたため、彼の言ったことが賢いのか愚かなのかは誰にも分からなかった。~レフ・トルストイ『戦争と平和』

征服者は常に平和を愛する。征服者は抵抗なく我が国を征服することを好むだろう。~カール・フォン・クラウゼヴィッツ『戦争論』

主はシオンから叫び、エルサレムから雷鳴を轟かせる。地と天は震える。~ヨエル3:16

戦争とは、他の手段が混ざり合った政治の継続にほかならない。~カール・フォン・クラウゼヴィッツ『戦争論』

平和は力の均衡によって維持され、この均衡が存在する限り続くものであり、それ以上続くことはない。〜カール・フォン・クラウゼヴィッツ『戦争論』

イラン国民がNATO、アゼルバイジャン、イスラエルのハイテク兵器の脅威に直面する今、本棚に手を伸ばし、そこからどんな叡智を得られるかを探ることが最善だ。ニューヨーク・タイムズ紙のベストセラー作家、アザール・ナフィーシとその仲間たちは、1979年のイスラム革命の際、アヤトラ・ホメイニ師の計画はそっちのけで、ベッドシーツの下でナボコフの『ロリータ』を読んだのである。『テヘランでロリータを読む』は、夜の読書としては陰鬱な内容だが、現在の状況下ではイラン国民は読書の選択にもっと集中する必要がある。私は、すべてのイラン国民にとって必読書となるべき古典として、トルストイの『戦争と平和』とクラウゼヴィッツの『戦争論』を推奨したい。

私よりもはるかに偉大な評論家たちがトルストイの叙事詩を称賛してきたとはいえ、そこに確かに存在するのは、皇帝アレクサンダーを取り巻く卑屈で利己的な追従者たちだ。ヴァシリー・クラーギン公爵、その息子アナトーリ・クラーギン、マドモアゼル・ブーリエンヌ、負け犬のマック・フォン・ライベリヒ将軍といった堕落者たちは、ロシアに計り知れない損害を与え、マックの場合はオーストリアにも損害を与えたため、権力の座に近づくことを決して許されるべきではなかった。自国にそのような人物があまりいないと考えるイラン人がいるとはとても思えない。私はイラン国内でそのような人物に数多く出会っただけでなく、イラン滞在中に愛国心に溢れた人々から、さらに多くのそのような人物を指摘されてきた。

さて、クラウゼヴィッツ。彼の天才を否定する者は明らかな愚か者だ。ましてや私がここでクラウゼヴィッツを、現代の戦争の芸術と科学——すなわち、常に進化し続ける暗黒の芸術の現代の巨匠たちが理解するその本質——の略語として用いているのだから、その愚かさは隠しようもない。

トランプ大統領は、自らが名目上指揮するアメリカ軍は世界史上最も勇敢で最強だと謳っているが、英国やイスラエルをはじめとする国々にも当然の敬意を払うべきだ。1922年にMI6がBBCを設立した際、その設立の柱の一つは、プロパガンダは包括的でなければならないという点だった。その使命は、『我が闘争』の大嘘にもあるように、一つか二つの論点をただ強調するだけでなく、イギリスの核心的なニーズに応えるエコシステム全体を構築することだった。だからこそ、英国人は孫子の「最高の兵法は戦わずして敵を屈服させることである」という格言に従うことができるのだ。

イスラエル国防軍は、その名誉のために言っておくと、強迫観念にとらわれた厄介者であり、その手腕はドイツ国防軍や赤軍といった多様な軍隊から受け継がれてきた。独立戦争の退役軍人の多くが、赤軍に所属していた。彼らの被害者意識や、キャッチーな国歌「希望の歌」に込められたパレスチナ、シリア、レバノンの領土に対する優越主義的な主張も加えると、彼らは恐るべき敵となる。さらに、NATO諸国が、公然たる理由であろうと隠れた理由であろうと、彼らの絶え間ない鼓動に踊らされていることも加えると、彼らと戦う前によく考える必要がある。

そこにクラウゼヴィッツの「戦争の霧」が加わる。これは『戦争と平和』の最初の部分がアウステルリッツで終わる場面で、ナポレオンの軍勢が文字どおり早朝の霧の中から予告もなく現れ、第三次対仏大同盟を粉砕する。そして、1812年のロシアの大祖国戦争で最終的にボナパルトを破ったクトゥーゾフ公だけが、この生意気なコルシカ人(ナポレオン)が何を企んでいるのかを見抜くだけの抜け目なさを持っていた。

イラン人がクラウゼヴィッツ、トルストイ、そして聖書(英国の偉大さの源泉)を読みながら人生を謳歌できればよいのだが、現状では、イスラエルとNATOのスズメバチの大群が耳元でブンブン飛び回っており、さらに敵がイランを全滅させようとしていることもあり、彼らはまさに窮地に立たされている。

しかし、イラン人は喜ぶべきなのだ。なぜなら聖書があり、彼らがアメレク人であることを彼らに思い出させるからだ。創世記や旧約聖書の無数の他の書物が、最も残酷な方法で私たちに告げているように、彼らは絶滅させられることになっている。一方、イスラエルの主人によって割り当てられた水平的な役割を果たすラハブのような売春婦は、神が選んだ策略によって高められ、高く評価される。

イラン人がなぜ自分たちが呪われ、裏切り者の売春婦が世俗的な聖人扱いされているのか疑問に思うなら、故サダム・フセインとホルムズ海峡で激戦を繰り広げたタンカー戦争のような出来事を省みるべきだ。また、イランと戦った後にサダムがクウェート侵攻に誘い込まれた不幸な出来事についても考えてみるべきだ。この不幸な出来事は、サダム政権下のイラクの崩壊だけでなく、西アジアの大部分をアメリカ軍とその湾岸諸国、ISIS、ムスリム同胞団の代理勢力が実効支配することにつながった。こうした出来事のすべては、イランがイスラエルをはじめとするNATOの地域攻撃犬による直接的・間接的な攻撃に非常に脆弱な状況に陥る原因となった。

現状では、イスラエルはイランにひどい仕打ちを与えており、それはクイーンズベリー・ルール(*)にも国際的に合意された戦争のルールにも沿わないもののように思われる。後者については、イスラエルとその支援国であるアメリカは、これまであまり真剣に受け止めてこなかった。
* 19世紀のイギリスではじめてボクシングの競技にグローブ着用などを義務づけた現在のボクシングの基礎となるルール。

イランは、ホルムズ海峡を再び封鎖することがその狙いだと繰り返し主張している。これは、数十年にわたり、特定のレッドラインを越えれば、NATOはイランがこの重要な商業動脈を封鎖することを防ぐための何らかの対策を講じてきたと推測できる。その対策の一つは、レッドラインはNATOの敵国に適用され、NATO自身には適用されないというものだ。NATOは、先祖が滅ぼすことに成功した先祖たちと誠意を持って交渉する必要すらなかったように、誠意を持って交渉する必要すらない。

イランの戦略における明らかな弱点の一つは、彼らには「次善の策」がないように見えることだ。これは、タイガー部隊がイラク国境で退却させられた場合、英雄的なシリア アラブ軍に「次善の策」がなかったのと同様である。

イランの逃げ場は時間とともに狭まってきたが、西側のイランの敵は、長らく宣言してきたペルシャへの道に、無数の幹線道路や迂回路が開かれているように仕組んできた。また、国際原子力機関(IAEA)内のスパイなど、道を切り開く好位置の支援者も多数おり、米第5艦隊が拠点を置くバーレーンや、シーア派の中心地であるアゼルバイジャンやイラン自体にも、彼らを応援し、イラン、そしてさらにその地域の同盟国には欠けている戦略的な縦深攻撃能力や指揮、統制、調整の結束を与えている。

イランはこれらの同盟関係を再構築し、残存する同盟関係を強化しなければならない。その一つの方法は、読書クラブを設立することだろう。テヘランでロリータを読むという冒険を現代風にアレンジしたようなものだが、無害な西洋小説の代わりに前述のような大作を取り上げ、読書会はイランだけでなく、ロシア、北朝鮮、中国の軍事計画担当者に限定する。そして、クラウゼヴィッツの格言「原則と規則は思考する人間に基準を与えるためのものである」に基づき、理論と実践の両面から努力を重ねることで、アメリカ帝国の衰退を加速させ、私たちの多様な才能すべてにふさわしい、より本質的な何かの台頭を促すことができるかもしれない。

聖書が遥か昔に「太陽の下に新しいものは何もない」と説いているように、上記のいずれにも特に新しいものや斬新なものは何もない。真珠湾攻撃後もアメリカにとって日本は遠い国であり、何も知らなかったため、彼らは直ちにアリゾナ州北東部のホピ族の専門家であるルース・ベネディクトに『菊と刀:日本文化の型』の執筆を依頼した。この本は今日に至るまで日本研究の基盤となっており、CIAの支援を受けて地域研究の台頭にも貢献した。この地域研究は今もなお、CIA、MI6、モサドなどの関連機関の様々な思惑に直接影響を与えている。

これは、中東をめぐる戦いがプリンストンやオックスフォードの図書館で勝利すると言っているのではなく、クラウゼヴィッツがプロイセンの図書館を攻撃することでこれほどの永遠の傑作を生み出すことができたのなら、ロシア、イラン、中国、北朝鮮の最高司令部は、テヘランでクラウゼヴィッツとトルストイの教訓を読み、うまい解決策を見つけることも悪くないということを言っている。

※なお、本稿は、寺島メソッド翻訳NEWS http://tmmethod.blog.fc2.com/

の中の「トルストイ、ないしはクラウゼヴィッツをテヘランが読めば・・・(2025年6月24日)

からの転載であることをお断りします。http://tmmethod.blog.fc2.com/

また英文原稿はこちらです⇒Reading Tolstoy – and Clausewitz – in Tehran
筆者:デクラン・ヘイズ(Declan Hayes)
出典:Strategic Culture Foundation 2025年6月19日https://strategic-culture.su/news/2025/06/19/reading-tolstoy-and-clausewitz-in-tehran/

寺島隆吉 寺島隆吉

国際教育総合文化研究所所長、元岐阜大学教授

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