【連載】櫻井ジャーナル

【櫻井ジャーナル】2025.07.02XML:米国は新たな対ロシア戦争の前線をアゼルバイジャンに作ろうとしている可能性

櫻井春彦

イランの北西部、カスピ海に面したアゼルバイジャンとロシアとの関係が緊迫化している。ロシアとアゼルバイジャンの関係は戦略的パートナーシップ協定に基づいて友好的な関係が築かれそうに見えた。2022年2月にロシアがウクライナを攻撃した直後、アゼルバイジャンの反政府派はロシアを非難したものの、両国の関係は悪化せず、2024年8月にはウラジミル・プーチン露大統領がバクーを訪問している。

しかし、アゼルバイジャンはイスラエルとアメリカの情報機関、つまりモサドとCIAがイランに対する秘密工作の拠点に利用している国で、6月13日にイスラエル軍はイランを攻撃したが、その際、同軍はアゼルバイジャンの領空からミサイルとドローンを発射している。

 

アゼルバイジャンを含む中央アジアの地下には石油があり、アメリカをはじめとする西側諸国に狙われてきたのだが、1991年12月にソ連が消滅すると、具体的な動きが現れた。その象徴的なプロジェクトがカスピ海周辺の石油を輸送するためのパイプライン建設計画。ジョージ・H・W・ブッシュ政権はアゼルバイジャンのバクー(B)、ジョージアのトビリシ(T)、トルコのジェイハン(C)を結ぶBTCパイプラインを計画したのだ。その発案者はBPだった。BPはイランの再植民地化も狙っている。

 

しかし、このパイプライン計画には問題があった。すでにチェチェンのグロズヌイを経由するパイプラインが存在していたのだ。この競争相手を機能できなくするためにチェチェンを戦乱で破壊する計画が持ち上がり、その工作を指揮することになったのがブッシュと親しいCIAのグラハム・フラーだ。ズビグネフ・ブレジンスキーが始めたアフガニスタンにおける秘密工作でジハード傭兵の仕組みを作り上げた人物だ。その下で活動したリチャード・シコードはベトナム戦争やイラン・コントラ作戦でCIAの秘密工作に参加している。ちなみに、1992年9月から93年11月までアゼルバイジャン駐在のアメリカ大使を務めた人物は、クーデターの仕掛け人とも言われるリチャード・マイルズだ。

 

シコードはアゼルバイジャンでメガ石油を設立、またアル・カイダ系戦闘員数百名をアフガニスタンからアゼルバイジャンへ移動させるためアゼルバイジャンで航空会社を設立した。1993年までにメガ石油は2000名の戦闘員を雇い、カフカスでの工作に使ったとされている。

 

アゼルバイジャンでの活動は単なる石油ビジネスではなく、ロシアを念頭においた戦略の一環でもあった。アメリカ人ジャーナリストのジェフリー・シルバーマンによると、そうしたジハード傭兵はチェチェンの反ソ連/ロシアのムジャヒディンやアゼルバイジャン軍に合流している。(F. William Engdahl, “Manifest Destiny,” mine.Books, 2018)

 

BTCパイプラインが通過するジョージアでは2002年5月から05年8月にかけて「バラ革命」と名付けられたクーデターがあり、アメリカの傀儡であるミヘイル・サーカシビリが大統領に就任した。2002年5月から05年8月にかけてジョージア駐在アメリカ大使を務めた人物はリチャード・マイルズにほかならない。

 

アメリカ国防総省系のシンクタンク「RANDコーポレーション」が2019年に出した報告書「ロシアの拡大」には、ロシアを抑え込む手段として、ウクライナへの強力な武器供給、シリア反政府勢力(アル・カイダ系武装勢力)への支援再開、ベラルーシにおける政権交代(クーデター)の促進、アルメニアとアゼルバイジャン間の緊張関係の活用、中央アジアへの働きかけ強化、そしてトランスニストリア(モルドバ内のロシア占領地域)の孤立化を挙げている。

 

ウクライナに対する軍事支援は2014年のクーデターから続けてきたことであり、シリアではバシャール・アル・アサド政権を倒すことに成功、アル・カイダ系武装勢力の体制になった。ベラルーシでのクーデターは失敗したが、アルメニアとアゼルバイジャンの対立は深刻化、トランスニストリアは孤立している。アゼルバイジャンの状況はアメリカ国防総省の思惑通りだと言える。ウクライナやジョージアでアメリカが仕掛けたクーデターはアゼルバイジャンの現状とも関係している。

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のテーマは「米国は新たな対ロシア戦争の前線をアゼルバイジャンに作ろうとしている可能性 」(2025.07.021ML)
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