【連載】今週の寺島メソッド翻訳NEWS

☆寺島メソッド翻訳NEWS(2025年7月4日):米国によるイラン核施設への爆撃がイランにとっての「勝利」となる。

寺島隆吉

※元岐阜大学教授寺島隆吉先生による記号づけ英語教育法に則って開発された翻訳技術。大手メディアに載らない海外記事を翻訳し、紹介します。
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ> 2025年7月4日

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© 写真:パブリックドメイン

イランを転覆させ、ロシア、BRICSと中国を弱体化させようという「長期戦争」は保留されただけで、終わったわけではない。

ある意味においては、イランは明らかに「勝った」。トランプは、リアリティTV番組風の素晴らしい「勝利」を示すことで威厳を誇ることを望んでいた。日曜日(6月29日)の三つの核施設への攻撃は、実際、トランプ大統領とヘグセス国防長官によって、イランの核濃縮計画を「抹消した」と、両者は主張した。「完全に破壊した」とまで。

実際のところ、そんなことは全くなかった。おそらく、今回の攻撃では、表面的な損傷が引き起こされただけだったろう。そして、この攻撃は仲介者を通じてイランと事前に調整されたものであり、「一度きり」のものになったようだ。これは、いつものトランプの手口(事前調整)だ。シリア攻撃やイエメン攻撃、さらにはトランプによるイランのカセム・ソレイマニ将軍暗殺さえも、全ての事件はマスコミからの迅速な「勝利」報道がトランプに与えられることが意図されたものだった。

米国の攻撃後に急速に続いた、いわゆる「停戦」は、多少の問題がなかったわけではないが、急遽組み立てられた「敵対行為の停止」だった(なお、条件が合意されていなかったため、真の意味の停戦はなかった)。いわば「応急処置」だったのだ。つまり、イランと米国のウィトコフ中東担当特使の間の交渉の行き詰まりが未解決のままである、ということだ。

イランの最高指導者は、イランの立場を力強く打ち出した:「降伏はしない」し、核濃縮は中止しないし、米国は、この地域から撤退し、イラン問題に鼻を突っ込むべきではない、と。

費用対効果から考えた肯定的な面をあげると、イランは十分な遠心分離機と450キログラムの高濃縮ウランを保有している可能性が高く、また、今や(イラン以外の)誰も隠し場所がどこにあるのか分かっていないことがある。であるので、イランは核処理を再開できる、ということだ。さらにイランにとっての第二の利点は、IAEAとグロッシ事務局長がイランの主権を余りにひどく破壊してきたため、IAEAはイランから追放される可能性が高い、ということだ。IAEAは、濃縮ウランが存在する場所を保護するという基本的な責任を放棄することになったからだ。

したがって、米国とヨーロッパの諜報機関は、地上での「目」を失うことになり、IAEAの人工知能データ収集(イスラエルの標的の特定がおそらくこれに大きく依存していた)を見送ることになる。

費用面では、軍事的には、イランはもちろん物理的な損害を被ったが、ミサイルの威力は保持している。したがって、イランの空がイスラエルの航空機に対して「大きく開放されている」という米国とイスラエルの言説は、「勝利の言説」を支持するために仕組まれたもう一つの欺瞞である。

ブログ「シンプリシウス」が書いているように、「イスラエル(あるいは、そのことについては、米国)の飛行機が、いかなる時でもイランを頻繁に飛行したという証拠は、一片たりとも残っていない。「完全な制空権」を得た、という主張には根拠がない。最終日までの(映像は、)イスラエルがイランの地上目標を攻撃するために、自軍の大型UCAV(大型監視および攻撃無人機)に依存し続けていたことを示している」のだ。

さらに、イスラエル航空機からの落下タンクがイランの最北端のカスピ海海岸に打ち上げられたのが記録されており、むしろ、イスラエル空軍が北から(つまりアゼルバイジャン空域から)スタンドオフミサイル(敵の防空体系の外から発射できる)発射をおこなっていたことを示唆している。

費用対効果について、もう少し深く見ていくと、より大きな状況を考えねばならない:つまり、イランの核計画に対する破壊は口実であったが、主要な目的ではなかったということである。イスラエル自身は、イラン国家を攻撃する決定は昨年9月/10月(2024年)におこなわれた、と言っている。6月13日の奇襲攻撃で展開されたイスラエルによる複雑で、費用がかかり、洗練された計画(要人の斬首や標的暗殺、サイバー攻撃、無人機を装備した破壊工作部隊への潜入)は、イラン国家の内部崩壊や混乱と「政権転覆」への道を開く、という当面の狙いに焦点が当てられていた。

トランプは、イランが差し迫った崩壊の瀬戸際にあるというイスラエルの妄想を信じていたのだろうか?おそらく、彼はそうだったのだろう。彼は、イランが「核兵器に向かって」加速しているというイスラエルの話(IAEAが利用していた私企業による演算であるモザイク計画によってでっち上げられたと伝えられている)を信じたのだろうか?トランプが、イスラエルと米国のイスラエル・ファースト派の言説構築に、騙された可能性が高い、あるいは、喜んで餌食になった、という方が高そうだ。

ウクライナ問題が、トランプが予想していたよりも手に負えないことが証明されたため、イスラエルが公約した「イランをシリア風に、内破する準備ができている」、つまり、 「新たな中東」への「壮大な」変容が可能である、という言説は、トランプにとって、「イランは核兵器を持っていない」というトゥルシ・ギャバードの主張を無下に一掃するのに十分魅力的だったに違いない。

では、イランの軍事的反応と、国旗のもと集結しようという大規模な民衆の集会が開かれたことは、イランにとって「大きな勝利」だったのだろうか?まあ、それは確かに「イランは政権転覆の瀬戸際にある」という言説を広めている勢力に対する「勝利」だ、と言える。しかし、「勝利」するためにはさらなる洗練が必要だろう。この勝利は「永遠の勝利」ではない。イランは警戒を緩めるわけにはいかない。

「イランの無条件降伏」は、もちろん、今や出す札からは外れている。しかし、現状で頭に置いておくべきことは、イスラエルの支配層や米国の親イスラエル・圧力団体(そしておそらくトランプも)が、イランが決して核兵器保有国になることに向かって動かないようにする唯一の方法は、抜き打ちの査察や監視ではないということであり、イランの「政権を転覆」させ、欧米にとって純粋な傀儡をイラン政府に据えることだということをこの先も信じ続けるだろう、という点だ。

イランを転覆させ、ロシアやBRICSと中国を弱体化させる「長期戦争」が保留されただけで、終わったわけではない。イランは、自国の防衛を怠ったり、気を緩めたりするわけにはいかない。いま危機に瀕しているのは、ドル取引の優位性に対する支柱として、中東とその石油を支配しようとする米国の努力だ。

米国のマイケル・ハドソン教授は、「トランプは、各国が彼の関税の混乱に対して、中国と貿易をしないという合意に達するという対応を期待していた。そして、実際に中国やロシア、イランに対する貿易と金融制裁を各国が受け入れることを期待していた」と指摘している。明らかに、ロシアも中国も、イランが「降伏しない」という現状をめぐる地政学的利害関係を理解している。そして、両国はまた、イランの政権交代がロシアの南部の下腹部をいかに脆弱にするかを理解している。イランの政権転覆により、BRICS貿易回廊が崩壊させられ、ロシアと中国を隔てるくさびとして利用される可能性が高いことも、承知している。

端的に言えば、米国の長期にわたる戦争は、新たな形で再開される可能性が高い。その意味では、イランが、この対立の深刻な局面を生き抜いてきたことは注目に値する。イスラエルと米国は、イラン国民の蜂起に全てを賭けている。しかしそのようなことは起こらなかった:イラン社会は侵略に直面して団結した。そして、国民の気風はより堅牢になった。より断固とした態度を示したのだ。

しかし、もし当局が統一社会の陶酔感をつかみ、イラン革命に新たなエネルギーを注ぎ込むなら、イランはますます「勝利」するだろう。ただ、陶酔感は永遠に続くわけではない。行動が求められる。今の状況は逆説的に、イラン共和国に与えられた予期せぬ好機なのだ。

対照的に、イスラエルは、イラン国家を転覆させるために「精神的衝撃戦争」を開始したが、敵が降伏せず、反撃した状況に直面することになった。イスラエルは、大規模な報復攻撃の標的となった。状況は、経済的にも、防空能力の枯渇においても、ネタニヤフが米国に必死に救助を訴えたことから、明らかにわかることだが、急速に危機的になった。

より広範な地政学的な費用対効果の話に移ると、米国の力と融合したときには難攻不落であるというイスラエルの(地域段階での)立場は打撃を受けることになった。ブログ「シンプリアス」にはこうある。「このように考えてみれば、10年か20年後に、何が記憶されるだろうか…具体的には、(降伏を解除しようとする攻撃と科学者の標的殺害)…あるいは、イスラエルの都市が初めて燃えたという事実だ。この件は後世の歴史書では、「イスラエルはイランの核開発計画を阻止することに失敗し、政権転覆を含む他のすべての主要な目標で失敗に終わった」と書かれることになろう」と。

さらにこのブログにはこうある。「事実は、イスラエルはその神秘性を破壊する歴史的な屈辱を味わったということだ」と。湾岸諸国は、この象徴的な出来事のより大きな意味を消化するのにいくらかの困難を抱えることになるだろう。

そして、トランプ支持有権者は、米国が戦争に最小限しか参加しなかったことに満足しているように見えるが、そして明らかに、誇張された自己満足という病気に包まれて暮らすことに満足しているように見えるが、トランプ連合のMAGA派が、同時に、米国大統領が、自身が激しく批判してきたディープ・ステート体制の一部になりつつあるという結論に達しつつあるという重要な証拠は確かに存在する。

前回の米国大統領選挙では、移民と「永遠の戦争をなくす」という2つの重要な問題が争点だった。トランプは、今日、非常に混乱し、矛盾したトランプからの発信にもかかわらず、「永遠に続く戦争」が選択肢から外れていないことは明らかだ:「もしイランが再び核施設を建設すれば、その展開においては、米国は(再び)攻撃するだろう」とトランプは警告したのだから。

それと、トランプがSNSで呟くますます奇妙な投稿は、この問題でトランプに反旗を翻している大衆層を過激化する効果があったように思われる。

世界の他の国々にとって、トランプによる最近の投稿は不穏なものだ。もしかしたら、これらの投稿は一部の米国民には効果があるのかもしれないが、他の地域ではそうではないのかもしれない。つまり、ロシア政府や中国政府、イラン制服が、このような常軌を逸したトランプからの発信をまともに受け止めるのが難しくなっていることを意味している。しかし、同様に厄介なのは、地政学的な現実からトランプがいかに乖離しているか、ということであり、そのことは一連の事件において、トランプ団が彼らの状況評価の中で証明されている。世界中の多くの政府において黄色信号が点滅しつつある。

※なお、本稿は、寺島メソッド翻訳NEWS http://tmmethod.blog.fc2.com/

の中の「米国によるイラン核施設への爆撃がイランにとっての「勝利」となる。(2025年7月4日)http://tmmethod.blog.fc2.com/

 

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また英文原稿はこちらです⇒What means ‘winning’?
筆者:アラステア・クルック(Alastair Crooke)出典:Strategic Culture Foundation  2025年7月1日

What means ‘winning’?

寺島隆吉 寺島隆吉

国際教育総合文化研究所所長、元岐阜大学教授

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