【連載】百々峰だより(寺島隆吉)

「超越人」岡田元治さんへの手紙――IT企業の社長がなぜ独立メディアの運営と農業経営の援助に乗り出したのか(下)

寺島隆吉

「超越人」岡田元治さんへの手紙――IT企業の社長がなぜ独立メディアの運営と農業経営の援助に乗り出したのか(上)はこちら

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私はもうすぐ81歳になりますが、私が教員になった頃は「終身雇用」「全員正規雇用」は当たり前のことでした。ところが「派遣制度」が認められるようになってきてからは、これが全く崩れてしまいました。
これが最近は、「会社は従業員の雇用を保障しつつ企業としても儲けも追求する」という姿勢から、「会社は株主を設けさせるためにある、だから派遣社員を増やして社員の賃金を削り、そこで生まれた儲けを株主にまわす」という姿勢に大きく変わりました。
しかし、これでは従業員は安心して働くこともできず、安い賃金では結婚も出来ませんから、労働人口は減るばかりです。これでは将来の年金生活者を支える財源も減ることになってしまいます。これでは国家としての存続も危うくなります。
これを岡田社長さんは上記の引用で次のように述べられていました。

会社というのはできるだけ多くの人に安心して働いてもらえる、安心して過ごせる日常を提供することが役割です。・・・
会社と働いている人がお互いに支え合う関係がない組織は、健全にはならない。だから「正規雇用」というのは決して特別なことではなく、私の世代の経営者にとってはまだ当たり前のことでしたし、人を安易なコスト削減として扱うのは大きな間違いです。

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そこで岡田社長さんの会社では、「全員正規雇用」「変動定年制(年金受給開始年まで勤務可)」「累進子ども手当(1人目2万円、2人目3万円、3人目4万円・月額)」を社内制度として実施しています。
これは本来、政府が制度として取り組むべき仕事ではないでしょうか。事実、プーチン大統領のロシア政府でも最近、「累進子ども手当」を制度化しました。そうしないと人口が減り続け、宏大なロシア領土を国家として維持できなくなるからです。
にもかかわらずEU・NATO諸国の幹部は、「ウクライナが敗北すると、ロシアは次にEU諸国に侵略してくる」と言って、国民の恐怖感を煽り、今までのロシア制裁・ウクライナ援助の「ブーメラン効果」で経済が崩壊しつつあることの批判が自分たちに向かわないよう必死です。
しかし豊富な鉱物資源を有し食料生産地としても宏大な領土を維持するために、人口対策に追われているロシアが、これ以上の領土を拡大する必要がどこにあるのでしょうか。それどころかロシア政府は「土地を無料で提供するからロシアに移住しないか」と呼びかけてすらいるのです。
私の知人の息子は「派遣社員制度」が猛威をふるっている頃に大学を卒業し、正社員のなる機会を失って、派遣社員を転々として、今は「生活保護」を受けています。私は、RTの放送で移住を呼びかけるロシア政府のニュースを視聴したとき、その彼に「いっそのことロシアに移住したらどうか」と呼びかけたいという思いすらしました。

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話が少し横に逸れたので元に戻します。
岡田社長さんの「超越人」たるところは、「コロナ騒ぎ」で露骨に展開された大手メディアの偽情報に対抗するために独立メディアへの資金を提供したり、本来は国家がすべき人口対策や国民の生活保障のために独自の社内制度をもうけることに終わっていないことです。
それは2010年から岩手県下閉伊郡岩泉町の自然放牧「なかほら牧場」の経営支援に乗り出したことにも現れています。通販ギフトサイト事業で「なかほら牧場」の経営が赤字続きなのを知り、当初は終身雇用を守るため、高齢化する社員の受け皿になればという思いで経営を引き受けることにしたそうですが、現在の思いを氏は次の語っていました。

人間の体は食べ物と飲み物でつくられています。どんなに医療が発展しようとも、この2つがまともなものでなかったら病気になる。
まともな食とまともな農業に関わるのは、企業の責任とは言いませんが、知ってしまった以上は支えようと(中略)こういう時代だからこそ、我々の胃袋を支えてくれる農業をこちらが支え返さないといけない。
それは貢献でも、還元でもなく、自分の体を守ることであり、当たり前のことだと思います。

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農業を支えることは「食の安全保障」という観点から見ても、これも本来は国家がやるべきことです。
国家や民族を破壊したり抹殺するには武器は要りません。それはイスラエルによるガザ地区の惨状を見れば明らかです。
ネタニヤフ首相はガザ地区への水資源を奪い、世界中から寄せられる食糧支援を阻止することによってパレスチナ人を餓死させ、「民族浄化作戦」を完成させようとしています。
いかに食料の自給が国の安全保障と直接に関わっているかが如実に分かる事例ではないでしょうか。
ところが日本政府は食料の自給率を高めるために農業を援助するのではなく、ひたすら米国に巨額の血税を投入し米国の農産物や米国製の中古武器を購入することに熱心です。これでどうして日本を守ることが出来るのでしょうか。
調べてみると岡田社長さんは既に経済紙『フジサンケイ ビジネスアイ』の連載「IT企業の現場から」(4)で次のように語っておられます(2008年4月24日)。

食料自給率の低下も止まらず、とうとう39%にまで下がってしまった(東京は1%-)。この憂うべき事態の原因ほ大きく分けて2つだ。
1つ目は、安値信仰と大量生産。輸入食材・大量生産・大量流通によって食材は確かに安くなったが、代償として、食べる側のことなど考えない現場や外国で作られる「工業食品」が増えた。・・・
2つ目は市場開放要求のわな。例によって米欧は「日本の関税は高い」と非難に忙しいが、農業保護は各国で公然と行われ、自給率は、加145%、米128%、仏122%、独84%、英70%。日本への押しつけは、どうやらCO2削減枠に似た構図らしい。

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御覧のとおり、カナダ、アメリカ、フランスでは農業保護を公然とおこない、それぞれ自給率は145%、128%、122%です。ところが日本に対しては「日本の関税は高い」と非難するばかりです。
こうして日本の食糧自給率は落ちるばかりです。しかも敗戦直後の日本に対して米国は余剰農産物を処理するために「学校給食」という制度をつくりパンと牛乳を子どもに食べさせる政策をとりました。
そして、この政策を受け入れさせるために「米を食べると頭が悪くなる」「日本が無謀な戦争を始めて敗戦を迎えたのは米食のせいだ」という宣伝まで繰り広げました。このような「洗脳政策」「洗舌政策」のため、今では朝食に「ご飯とみそ汁」ではなく「パンとコーヒー」をとる高齢者が激増しています。
そして政府は農産物を輸入させる米国からの圧力に屈して減反政策を強行し、ますます食糧自給率が減るという悪循環を繰りかえしています。このような現状をふまえて岡田社長さんは上記連載(4)の末尾で次のように書いておられました。

 高騰する穀物をめぐって暴動・輸出制限・禁輸が顕在化するなか、人口増と就農人口の減少が続く世界の現状を考えれば農業保護は当然だが、敗戦後60余年を経てなお事実上の連合国占領下にあるこの国の「対等な外交など望むべくもない惨状」にあって、自らの農と食は国産選択、給食の米飯回帰などによって守るしかあるまい。
インターネットと国産食材の流通を書くつもりで大きく悲しい話になってしまった。お許しを。

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上記で岡田社長さんは、「農業保護は当然だが、敗戦後60余年を経てなお事実上の連合国占領下にあるこの国の『対等な外交など望むべくもない惨状』にあって、自らの農と食は国産選択、給食の米飯回帰などによって守るしかあるまい」と嘆いておられるのです。
おっしゃるとおり自らの農と食は「国産選択、給食の米飯回帰」などによって守るしかないのですが、敗戦直後に「洗脳洗舌」政策をもろに浴びた子どもは今や高齢者となり、いまだに「ナイフとフォーク」の食事こそハイステータスな生活だと信じているひとが少なくないのです。
しかし和食から洋食へと変化した結果、日本人に生活習慣病と癌による死亡者が激増することになりました。ところが逆に米国では有名な「マクガバン報告」や米国・英国・中国3カ国の壮大な研究「CHINA STUDY」の結果、和食が米国でも賞賛を浴びるようになりガンによる死者も確実に減りつつあります。
ですから岡田社長さんがIT企業「リンク社」を経営する傍ら、独立メディア「ISF」の運営に資金援助し、なおかつ日本の食を守るため「なかほら牧場」の経営援助にまで乗り出しておられることは、まさに「超越人」の面目躍如だと思いました。

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私たち夫婦は、定年退職をしてから近くの畑で自然農法(無農薬・無肥料)の野菜づくりを始めました。そして原則として「1日1食」の夕食では、この畑で採れた野菜を食べています。
不思議なことに自然農法で育てた野菜の方が、近所の化学肥料や有機肥料で育てた野菜よりも見事なできばえで、近所の農家からの妬み(ねたみ)や嫉み(そねみ)の対象になっているくらいです。
他方、無農薬の玄米を手に入れることが意外に難しいのです。日本では減反政策の結果、あちこちに耕作放棄地があふれています。ですから、これを自然農法の稲作地に変えるにはどうすればよいのか、この間ずっと考え続けています。
私の生まれは石川県羽咋郡ですが、最近ここではローマ法王に献上されたことで「神子原(みこはら)米」が無農薬米として有名になってきています。それで、注文してもすぐ売り切れになって手に入りにくいという状況が続きました。
そういう意味でも、日本人の命と健康を守るために無農薬米(自然農法の玄米)をどうすれば日本全国に広げることが出来るのか、岐阜でもそんなことが可能なのかの勉強を続けていきたいと思っています。

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最後に岡田社長さんにお尋ねしたいことは、「どうすればイベルメクチンを市販薬にして売り出す企業を日本でもつくりだすことができるか」、その手立てです。
というのは先日、拙著『コロナ騒ぎ 謎解き物語』全3巻、『ウクライナ問題の正体』全3巻、『コロナとウクライナをむすぶ黒い太縄』全4巻の計10巻を一括購入したいとの電話がありました。
その岩垣さん(仮名)と話していたら、「イベルメクチンを日本でも市販薬として買えるようにすることが自分の生涯の目標だ」と言われたので驚いたからです。イベルメクチンは万能薬、いわば「薬王」だからだと言うのです。
私もインドやインドネシアで可能だったことがなぜ日本で出来ないのか、もし可能なら日本でもそんな工場をつくって売り出したいとすら思ったことがあったので全く岩垣さんの意見に同感でした。
イベルメクチンは今では新薬としての特許権を失い、インドやインドネシアでは「後発薬品(ジェネリック)」として安く製造販売することが可能になり、それでインドでは多くのひとが救われた実績がありましたから、日本でも同じことを実現したいと思ったのでした。
インドネシアでも、起業家であり慈善家でもあるハリヨセという人物が個人でイベルメクチン配合「イベルマックス12」を製造販売し、売り上げは急上昇しました(『コロナとウクライナをむすぶ黒い太縄』第14巻24-26頁)。このようなことが可能なら日本でもできないのかと思ったのです。
でも、どうすればそんなことが可能なのか、そのノウハウが全く分かりません。どれくらい資金があればそんな会社がつくれるのでしょうか。それは最近話題になっている「クラウドファンディング」で実現可能なのでしょうか。そんなことなどが分かれば岩垣さんにも教えてあげたいと思った次第です。

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仕事に追われ、さぞかしお忙しい毎日を過ごされているであろう岡田社長さんに、最後になってこんな質問をして申し訳なく思っています。
急ぎませんので、お返事は時間があるときで結構です。あるいは、電話ですむ話であれば、こちらから電話を差し上げます。都合の良い日時をお知らせください。
繰り返しになりますが、御礼の手紙を書くつもりが最後になってとんだ質問になってしまったことをお許しください。ただでさえお忙しい岡田社長さんの貴重な時間を奪うことになってしまったのではないかと怖れています。

※なお、本稿は、百々峰だよりの(「超越人」岡田元治さんへの手紙――IT企業の社長がなぜ独立メディアの運営と農業経営の援助に乗り出したのか(2025年7月10日)からの転載になります。

寺島隆吉 寺島隆吉

国際教育総合文化研究所所長、元岐阜大学教授

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