
☆寺島メソッド翻訳NEWS(2025年7月16日):ドミトリー・トレーニン:これからの世界秩序は核兵器武装によるものになるだろう。
国際※元岐阜大学教授寺島隆吉先生による記号づけ英語教育法に則って開発された翻訳技術。大手メディアに載らない海外記事を翻訳し、紹介します。
多極世界は、その本質において核兵器の世界である、と言えます。多極世界における紛争は、ますます核兵器の存在によって形作られつつあります。ウクライナ紛争のように、間接的に戦われる戦争もあれば、南アジアでの紛争のように、より直接的な形で展開される戦争もあります。中東では、ある核保有国が、より強力な核兵器保有同盟国の支援を受け、他国の核兵器開発の可能性を先取りしようと試みています。一方、東アジアと西太平洋における緊張の高まりは、核保有国間の直接衝突の危険性をますます高めています。
冷戦期に核兵器による大惨事を回避した一部の欧州諸国は、その後、かつて核兵器保有に伴っていた警戒感を失ってしまいました。これにはいくつかの理由があります。冷戦が「成熟」した時期、特に1962年のキューバ危機以降、核兵器は本来の目的である抑止力と威嚇力を発揮していました。NATOとワルシャワ条約機構は共に、大規模な対立は核紛争に昇華するという前提で活動していました。この危険性を認識し、米国側とソ連側の政治指導者たちは、考えられない事態を回避するために尽力していました。
注目すべきは、米国がヨーロッパに限定された限定的な核戦争の構想を抱いていた一方で、ソ連の戦略家たちは依然として強い懐疑心を抱いていたことです。ソ連と米国の対立が数十年続いた間、すべての軍事紛争はヨーロッパから遠く離れた場所、つまり両大国の核心的な安全保障上の利益の及ばない場所で発生していました。
冷戦終結から35年が経った今、地球規模の破滅という物理的な可能性は依然として存在するものの、かつて指導者たちを抑制していた恐怖は薄れつつあります。当時の政治思想的な硬直性は消え去り、グローバリストの野望と国家利益の間の、より曖昧な対立が生まれています。世界は依然として相互に繋がっているものの、分断は国家間だけでなく、社会内部においてもますます深刻化しています。
世界の覇権を狙う米国は、安定した国際秩序の構築に失敗しました。代わりに私たちが手にしたのは、歴史的に「普通」な世界、すなわち大国間の対立と地域紛争の世界です。常にそうであるように、力関係の変化は対立をもたらします。そして、不均衡を是正するために力を用いるのもそのような世界においては常におこることです。
この新たな常態とは、核兵器が依然として強力ではあるものの、その存在は遠い存在のように思われる状況です。絶滅の脅威は覆い隠され、もはや人々の意識からは消え去っています。戦争は通常兵器でおこなわれ、核兵器は暗黙の禁忌に縛られ、使われずに放置されています。核兵器の使用を真剣に考える人はほとんどいません。なぜなら、論理的に判断すれば、核兵器を使用すれば守ろうとするものが破壊されることが明らかだからです。
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しかし、問題は次の点です。つまり、通常戦力は依然として国家全体を破壊できる、という点です。そして、核兵器と並んで強力な通常戦力を保有する国は、両者を切り離そうとする誘惑に駆られるかもしれません。こうした状況下では、たとえ通常兵器によるものであっても、存亡の危機に瀕する国家が核兵器という選択肢を放棄することは期待できません。
代理戦争を通じて核保有国に戦略的敗北をもたらそうとすることは極めて危険な行為です。核による反撃を誘発する危険性があるからです。こうした戦略を立案するのが、権威主義体制ではなく「先進民主主義国」の政治家であることは、驚くべきことではありません。例えば、英国とフランスの指導者たちは、独立した外交政策や軍事政策を遂行する能力をとうの昔に失っているからです。両国は挑発行為を仕掛けることはできるかもしれませんが、その結果を管理する能力を欠いています。
これまでのところ、ロシアが攻撃を免れているのは、クレムリンの戦略的忍耐力によるところが大きい、と言えます。ロシアは、自国領土への攻撃が計画・調整されている外国の拠点への攻撃を控えているからです。
ウクライナによるザポリージャ原子力発電所への砲撃に対する今日の無関心と、1986年のチェルノブイリ原発事故後のヨーロッパ全土に広がった警戒感を比較してみてください。ロシアのクルスクとスモレンスクの原子力発電所に対するウクライナの無人機攻撃、そして今年6月のイスラエルと米国によるイランの核施設への攻撃に対しても、同様の無関心が見られました。こうした行動は、従来の核方針が想定していた範囲をはるかに超えているのに、です。
こうした状況が永遠に続くはずがありません。ウクライナ紛争への欧州諸国の関与の拡大により、ロシア側の自制心が試されています。2023年、ロシアは核方針を拡大し、連合国の一員であるベラルーシへの脅威を含む新たな状況を包含しました。2024年後半にオレシュニク・ミサイルシステムによってウクライナの軍需産業施設が破壊されたことは、こうした変化の深刻さを如実に物語る出来事となりました。
欧州の主要国は、警戒を示すどころか、無謀な反抗的な態度で対応しました。ウクライナ紛争は今、新たな重大な局面を迎えているのかもしれません。外交的解決は、米国側がロシアの安全保障上の利益を考慮に入れようとしないこと、そしてEUが長期戦を通じてロシアを弱体化させようとする野望によって、行き詰まっています。
西側諸国はロシアの血を抜きたいと考えています。軍事力を疲弊させ、経済を疲弊させ、社会を不安定化させるためです。一方、米国とその同盟諸国はウクライナへの武器供与を続け、教官や「ボランティア」を派遣し、自国の軍事産業を拡大させています。
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ロシアはこの戦略を決して成功させないでしょう。核抑止力は、近いうちに受動的な姿勢から積極的な行動へと移行する可能性があります。ロシア側は、自国の存在に関わる脅威を認識し、それに応じた対応をとる姿勢を明確に示さなければなりません。次のようなものが、冷静な信号になり得ます。
• 非戦略核兵器を戦闘任務に配備
• ロシアによる欧州やチュクチ自治管区、ベラルーシにおける中距離・短距離ミサイル配備の保留の撤廃
• 核実験の再開。
• ウクライナ国外の標的に対する報復攻撃または先制攻撃の通常攻撃の実施
一方、西側諸国の対イラン政策は裏目に出ています。イスラエルと米国による攻撃は、イラン政府の核能力を除去できませんでした。今、イランは選択を迫られています。米国による濃縮禁止を受け入れるか、公然と核兵器開発を進めるか、です。これまでのところ、その中途半端な方向性は実を結んでいません。
経験上、米国の介入に対する唯一の確実な保証は核兵器の保有です。イランは近いうちに、必要に応じて核兵器を迅速に製造できる能力を持つ日本や韓国のような国々が辿った道を辿るかもしれません。台湾も米国の保護への信頼を失った場合、独自の「核兵器」の保有を検討するかもしれません。
核兵器は、通常戦争から逃れる手段とはならなくなりました。ロシアの核抑止力は、ウクライナへの欧州の介入を阻止できませんでした。また、2025年4月には、カシミールでのテロ攻撃をきっかけにインドがパキスタンを攻撃し、核保有国同士の一時的な衝突を引き起こしました。どちらの事例でも、核兵器は戦争の激化を抑制することにはなりましたが、紛争を阻止することはできませんでした。
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今後、次の 5 つの流れが形成されることになるでしょう。
1. ウクライナにおける積極的な核抑止力。
2. フランスの野望、ドイツとポーランドの核への願望を含む、欧州における核問題の再燃。
3. 核不拡散体制の深刻な危機とIAEAへの信頼の低下
4. イランの核開発計画が、国際的な監視の及ばないところまで進展
5. 日本や韓国、そしておそらく台湾も核独立に向けての準備を前進
結論として、多極化した核世界がより安定するためには、相互抑止力を通じて戦略的安定性を強化する必要があります。しかし、そのためには、核保有国間の直接戦争だけでなく代理戦争も終結させる必要があります。さもなければ、核の激化、ひいては全面戦争の危険性は増大し続けるでしょう。
この記事は最初に雑誌Profileに掲載され 、RTチームによって翻訳および編集されました。
※なお、本稿は、寺島メソッド翻訳NEWS http://tmmethod.blog.fc2.com/
の中の「ドミトリー・トレーニン:これからの世界秩序は核兵器武装によるものになるだろう。」(2025年7月16日)
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また英文原稿はこちらです⇒Dmitry Trenin: Why the next world order will be armed with nukes
西側諸国の無謀さによりロシア側の核に対する忍耐力が試されている。
筆者:ドミトリー・トレーニン(Farhad Ibragimov)
高等経済学院研究教授、世界経済・国際関係研究所主任研究員。ロシア国際問題評議会(RIAC)の一員でもある。
出典:RT 2025年7月11日https://www.rt.com/news/621362-dmitry-trenin-nukes-world-order/