中国の社会と経済：陰の米中競争―日本に欠けている視点と論点の紹介―（中）
国際ウクライナ戦争に目を奪われる中、中国でここ数か月間に建設・進展した世界規模のプロジェクトをいくつか紹介する。
この6月、タクラマカンという世界二番目に大きい砂漠を一周する環状鉄道が開通した。
世界初の砂漠鉄道環状線 和若鉄道が開通–220616人民網日本語版 (people.com.cn)
総延長は825キロメートル、総延長の65％を占める534キロメートルの区間が砂嵐エリアにある典型的な砂漠鉄道。2018年12月着工。格爾木（ゴルムド）〜庫爾勒鉄道若羌〜庫爾勒区間、南疆鉄道庫爾勒〜喀什（カシュガル）区間、喀什〜和田区間と共に、総延長2712キロメートルの環タクラマカン砂漠環状線を形成した。
この歴史的壮挙はどういうわけか、日本の主要メディアでほとんど報じられていない。「新疆」が悪者になっているから、新疆の将来に多大な影響を及ぼすこの地球レベルの大プロジェクトも無視されるのか。
同年6月、中国の地理・気候の南北境界線である秦嶺山脈を横断する、「南水北調」（南方の川水を構造的に水不足する北方に調達すること）の西ルート（東と中部ルートはすでに開通）で98.3キロにわたるトンネルが貫通した。
历经8年，中国终于打通秦岭山脉，将15亿方长江水引入黄河 220609头条 (toutiao.com)
長江の最大支流である漢江は秦 嶺を通り、黄河の最大支流である渭河に補給される。引漢済渭プロジェクトはトンネル導水方式を採用し、秦嶺の敏感な生態地区を避ける。8年かけての大プロジェクトで、今回のトンネル開通により、年内に南方の水の北方大量輸送が始まり、関中地区の水問題が大幅に緩和される。1000万人が南方からの水を飲めるようになり、300万～500万ムーの耕作田で灌漑が再開され、渭河の生態環境の悪化を食い止める上で重大な出来事になる。
「引漢濟渭」と呼ばれるこの巨大プロジェクトに関する動画は以下の通り。
值不值？中国用15年打穿秦岭！逆天工程—引汉济渭【三维地图看世界】 220309 YouTube
5月1日、世界文化遺産でもある中国の1700キロにわたる北京から杭州までの大運河が百年ぶりに全線開通したと発表された。
传奇归来！刚刚，京杭大运河全线通水！_220501新浪网 (sina.cn)
水源の減少し、水量不足、ひどい汚染、悪い水質、水利施設の老朽化に加え、沿線の産業構造により、水が大量に消費され、重度汚染企業の割合が比較的高く、一部地域のフッ化物などの汚染物質が安全基準を達成しないなどの原因で、大運河はとぎれとぎれになっていた。
2500歳を過ぎた京杭大運河を再び全線通水させ、斬新な姿を作り上げるのは、懐かしさと夢を探すだけでなく、今なお重要な現実的・応用的価値のある重要な水利プロジェクトだからだ。
そこで水利部は北京市、天津市、河北省、山東省の4省・自治区と共同で、京杭大運河2022年全線貫通水補給活動を開始し、環境対策とともに、南水北調東線第1期北延プロジェクトの給水を統一的に計画した。地元の水、黄河の水、再生水、雨と洪水などの多種の水源で黄河以北の区間に水を補給し、100年ぶりに京杭大運河の全線通水を実現した。
商魂たくましい経営者はさっそく、大運河の船観光プロジェクトを開始した。
千年水道获新生 京杭大运河京冀段实现游船通航 220615新华网 (news.cn)
昨年末、中国雲南省からラオス首都ビエンチャンまでの1035キロの鉄道が運用を開始したのに続き、今年5月に入って、ミャンマーの港までつながる「中緬国際大通道」の中国領内の鉄道330キロのうち、75%の距離を占めるトンネルが全部開通した。地理的な難関である横断山脈を貫通したもので、工事は14年もかかったが、レールの敷設に入り、年内の試運転が開始すると発表された。
中缅国际大通道大瑞铁路特长隧道群全部贯通_220509中国网 (china.com.cn)
チベット鉄道は青海省からのルート（青藏鉄路）開通に続き、今、四川省からのルート（川藏鉄路）も半分開通したところだが、ネパールにつながる鉄道ルートに関して、中国とネパールの間で具体的協力と実施に関する合意がこの3月に正式に交わされた。
中尼外长会晤：将加快项目进展 把铁路修到加德满都 220328新浪网 (sina.com.cn)
抜粋の翻訳：
1973年、当時のネパール国王ビランドラは北京で毛沢東主席と会見し、中国との関係をさらに強化したいとの意向を示した。毛主席は「中国はラサに通じる青蔵鉄道を建設し、最終的にはカトマンズまで通じる」と応じた。
3月26日、王毅外相はカトマンズでカドガ外相と会談した中、中国側はネパールが「一帯一路」建設にさらにコミットすることを支持し、「特にクロスボーダー鉄道プロジェクトを推進し、ヒマラヤをまたぐ立体的な相互接続ネットワークを建設する」と述べた。
ネパールのメディアによると、署名された9件の文書のうち2件は鉄道協力に関するもので、うち1件はクロスボーダー鉄道の実現可能性研究に関する中国側技術援助計画で、もう1件は2022年1月に行った両国の鉄道協力強化会議の覚書だ。
ヒマラヤ山脈を貫通する地域はユーラシアプレート沿いの「衝突スプライスバンド」にあり、6つの重大な地質問題が存在するが、鉄道の約98.5%が橋またはトンネルとなり、建設コストは1キロメートルあたり35.5億ネパール・ルピーに達する、という。
中尼铁路境内尾段投建 2022完工 _200314大公网 (takungpao.com)
すでに運用中のチベット首都ラサからシガツェまでの鉄道の延長部分に当たるが、総延長は724キロで。国境のシ吉隆（ギロン）口岸までは540キロ、もともと2022年中に完成する予定だったが、コロナの影響で来年に延びることになっている。
驻尼泊尔大使：凭中国高超基建技术，中尼铁路终将建成_220504 (sohu.com)
この5月初め、中国の駐ネパール美人女性大使が取材を受ける中で、「中国の高度なインフラ建設技術により、両国の歴代指導者と人民の夢を運ぶこの鉄道が近い将来完成すると信じている」と発言し、いよいよヒマラヤ山脈を貫通するプロジェクトの実施をほのめかした。なお、ほかに中国はネパールで二本の幹線道路、三つの空港の建設を「一帯一路」の一環として実施していると説明された。
中国南西部の貴州省にある世界最大口径の電波望遠鏡FAST（通称：中国天眼）は、地球外文明の探索で大きな進展を遂げた模様。
「中国天眼」、地球外文明が発信したとみられる信号を発見 220615AFPBB News
北京師範大学天文学部宇宙学科・地球外文明研究チームの中国地 球外文明探索チーフ科学者である張同傑教授はこのほど、同チームが「中国天眼」を通して地球外からとされるテクノロジーの痕跡と地球外文明の「候補」となる信号をいくつか発見したことを明らかにした。以前に発見した狭帯域電磁放射線とは異なるもので、現在、詳細な調査を急いでいるとのこと。
本当に地球外文明かをめぐる解釈に異論もあるようだが、夢ある話で追っかけていきたい。
海外でも、中国企業が建設を請け負ったエジプトのラマダン十日城ライトレール鉄道が7月3日、試験運行を開始した。中国とエジプトの「一帯一路」協力旗艦プロジェクトの一つと位置づけされ、エジプト初の電気鉄道である。シシ大統領、マデブリ首相らが開通試験運行イベントに出席し乗車した。同プロジェクトの開通はカイロ旧市街と新首都を行き来する500万人の住民に通勤サービスを提供し、東部地域の経済発展と工業化プロセスの推進に寄与する。プロジェクト第1期は全長70キロ近く、時速最高120キロ、1日当たり36万人乗車する見込みで、最終的には100キロ以上に延長されるという。
エジプト初のライトレール、試運転開始 中国企業が建設 220705新華社通信 (nordot.app)
以下の動画は映像で「ラマダン十日城ライトレール鉄道」を解説したものだが、米国が6月末のG7で打ち出した、「一帯一路」構想に対抗するための「グローバル・インフラ投資パートナーシップ（PGII）」も取り上げて、「大山鳴動して鼠一匹」にしないで、着実に途上国のためにやれと、呼び掛けている。
中国承建埃及首条电气化轻轨开通，埃及网友：外观很像中国高铁！拜登6000亿基建成笑话 -220705 YouTube
この6月、地政学的に重大な意義を持つもう一つのプロジェクトについにゴーサインが出された。中国からヨーロッパに至るまでのシベリアルート、カザフルート（いずれもロシア経由）と並行して、キルギスタン・ウズベキスタン経由の第三の鉄道の建設は、20数年ぶりにプーチン大統領の許可を得て、来年から着工されることになった。
中欧間の鉄道輸送、新路線設置で８日短縮も – NNA ASIA・中国・運輸
物流の専門家によると、「欧州までの路線距離はロシア経由に比べ900キロ短縮され、輸送時間は7～8日間短くなる」という。
何よりもその政治的意義である。それを解説した遠藤誉さんの記事が参考になる。
ウクライナ戦争で乱舞する中央アジア米中露「三国演義」（遠藤誉） 220612 Yahoo!ニュース
プーチン大統領はウクライナ戦争で手一杯だし、ウクライナ戦争の相手は「アメリカ」であることは十分に承知しているはずだ。この「アメリカ」の存在がなければ、プーチン大統領と習近平国家主席の間にも多少の競争心が芽生えるかもしれないが、今はそれどころではない。「戦友」である「習近平国家主席」が中央アジアを経済支援するというのであれば、何でも譲ろう。線路の幅だって中国型にしても構わない。
この中ではプーチン大統領が「戦友」の中国に「譲歩した」として、やはり「中ロ一体論」から抜け出せないが、見方を変えれば、中国と中央アジア諸国は、ロシアの限界を見抜き、ここでプーチン大統領に突き付けて、やや強引に承諾させ、したたかに「火事泥」的に実利を勝ち取ったとも解釈できる。これにより、中国物流の対ロシア依存が軽減し、中央アジア諸国が中国経済圏に組み込まれる決定的な一歩になる。この重大な意義をプーチン大統領は知らないはずはないが、現時点で中国や中央アジア諸国をこれ以上離せないので、渋々と認めざるを得なかったのだ。
米国を意識した中国の対外案件も最近、2件ある。一つは、イラクで1000校の小中学校の校舎を建設すること。
“美国轰炸，中国建设！“中国在伊拉克兴建1000所学校220622 (qq.com)
抜粋の翻訳：
イラクのシャファジ通信社が6月18日に伝えた「中国がイラクで千校を建設」というニュースが、海外のネットユーザーの注目を集めている。中国がイラクで1000校の学校建設を支援する教育プロジェクトは同日、起工式を行い、正式に全面的に着工し、米国主導の「イラク戦争」後の教育システムの再建を支援する。多くの外国人ネットユーザーからは、「米国が爆撃し、中国が建設する」、「大国レースに、中国は米国が永遠に理解できないレベルで参加している」との声が上がった。
「世界難民の日」（20日）の日、あるネットユーザーは、米国が難民支援に力を入れていると自賛するブリンケン米国務長官に、「中国はイラクに1000の学校を建て、米国はイラクで1.6万人の民間人を直接殺害した。中米両国がいかにイラクで人権を実践しているかだ」とあざけった。
中国は2021年12月にイラクとこのプロジェクトに調印し、ここで本格的に着工する。
調印された協定によると、中国は2年以内に1000校の建設を完了させる。中国電力建設集団は679カ所、中国国際技術股フェン有限公司は321カ所を建造する。
イラク首相は、このプロジェクトを「民生と国運に関わる偉大なプロジェクト」と評価した。その完成後、社会に奉仕し、将来の国のリーダーを育成するからだ。
建設費用はイラクの石油製品で返済する。
もう一つは、中国の三大航空会社は一気に、ヨーロッパからエアバス旅客機を370億ドル以上（5兆円近く）で292機購入するという「超大型契約」が、7月1日に発表されたことだ。「新型コロナ発生後、中国が初めて行った航空機の大量注文」と評された。
中国、欧州のエアバス292機を購入…米ボーイング「地政学的な違い」に不満（ハンギョレ新聞）220704 Yahoo!ニュース
中国のネット記事は今回の大規模契約の対米けん制の意義を解説した。
中国拿美债兑美元，买292架欧洲客机，美企破防，要促进中美沟通 220703(baidu.com)
今回、中国はエアバスA320NEO旅客機292機に372.57億ドルを拠出した。このことを分かりやすく言えば、米国債を売却し、米ドルで欧州の旅客機を買い、これにより、ドルを米国に還流させなかっただけでなく、米国と欧州の間の隙間を埋めたことだ。
もしこのタイミングで我々が米ボーイング社の旅客機を大量に購入したなら、FRBが自らドルを回収するという目標を達成することに成功し、中国が保有するドル建て国債を300億ドル以上消費したことになる。しかしそうならなかった。
なぜボーイングではなくエアバスの旅客機を選んだのかとの質問に対し、中国側は「非経済的な要因」と説明した。この解釈は聞き手に様々な想像の余地を残した。
一方、ボーイング社は「地政学的な対立が米航空機の（中国）輸出を制限し続けている」とした上で、米中両国に「生産的な対話」を働きかけていく考えを示した。
〇「中国の社会と経済：陰の米中競争―日本に欠けている視点と論点の紹介―（下）」は7月28日に掲載します。
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