【連載】今週の寺島メソッド翻訳NEWS

☆寺島メソッド翻訳NEWS(2025年7月18日):キリスト教シオニズムが聖書の歪んだ読み方で米帝国の僕(しもべ)となっている構造

寺島隆吉

※元岐阜大学教授寺島隆吉先生による記号づけ英語教育法に則って開発された翻訳技術。大手メディアに載らない海外記事を翻訳し、紹介します。

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ファイル写真。米国ニューヨークのタイムズスクエアで、パレスチナの旗や横断幕を掲げてパレスチナ人を支持するデモに参加する人々に抗議するため、親イスラエル派のデモ参加者が集まっている。© Fatih Aktas/Anadolu via Getty Images

テッド・クルーズ上院議員は、タッカー・カールソンとの最近のインタビューで、驚くべき地政学的な無知をさらけ出しただけでなく、揺るぎないイスラエル支持を擁護するために聖書を歪曲する厚かましい姿勢も示した。クルーズが引用した創世記12章3節は、恥知らずにも一部が切り取られていた。これは、終末預言におけるシオニストの例外主義に神の正当性を与えるためによく使われる手法である。この節は、キリスト教シオニズムとして知られる戦闘的な世界観の神学的基盤となっている。

イスラエルの国家政策を批判するユダヤ人でさえ、アメリカの福音派の間でこの転移するイデオロギーを煽っている歴史的無知と神学的な粗野さに困惑を表明している。10年以上前、「リンクトレイン」[LinkedIn。世界で10億人以上が利用する世界最大級のビジネス特化型SNS]でユダヤ人とイスラエル人の対話者たちとこの現象について議論したことを思い出す。私はこれを「トレーラー・トラッシュ・カルト」と名付けた。聖書についての無知、終末論的な熱狂、そして地政学的な妄想が融合したものだ。私と同じようにこのテーマで議論するイスラエル人の中には、奇妙なほど軽率な偏見をさらけ出し、クルーズと現国務長官マルコ・ルビオなどはそれぞれ「メキシコ人」でしかないのだから、と言及する者もいた。

キリスト教シオニズムは、聖書に関する無知と恣意的な聖書の盗用を基盤として栄えている。キリスト教シオニズムはしばしば古代の不変のものとして提示されるが、実際には比較的近代的な現象であり、19世紀後半の政治的シオニズムの台頭とともに出現した。キリスト教シオニズムは聖書を神聖視するのではなく、聖書の正典を歪曲し、時代のイデオロギー的要請に従わざるを得ない柔軟な道具へと変質させている。建国の95%近くを戦争状態にあったアメリカ合衆国のような国では、こうした歪曲はしばしば「終わりなき戦争」という教義を神学的に覆い隠すものとして機能し、恣意的に選ばれた聖句が地政学的な侵略を正当化し、新たな敵を作り出すために利用される。

第二次世界大戦後、ソ連が近代イスラエル国家を法的に承認した最初の国となった後、キリスト教シオニズムは熱心に聖書を詮索し、ソ連、特にロシアを終末論的な悪役ゴグとマゴグ[主に旧約聖書のエゼキエル書と新約聖書のヨハネの黙示録に登場する神に逆らう勢力]として描き始めた。アメリカ保守主義の似非宗教的聖人、ロナルド・レーガンでさえ、この異端解釈を繰り返し持ち出し、冷戦を「悪の帝国」との宇宙的戦いと位置付けた。今日に至るまで、何百万人ものアメリカ福音派と世界中の原理主義プロテスタントは、ロシアを神自身の永遠の敵と見なし続けている。この似非神学的なサブカルチャーの広がりと影響力を過小評価すべきではない。しかし、このイデオロギー的倒錯のより広範な影響を解明する前に、まずクルーズ上院議員が手前勝手に誤って引用した聖句を検証してみよう。

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創世記の祝福と呪い

クルーズ上院議員は、イスラエルに対する揺るぎない米国の支援を正当化するために創世記12章3節を引用したが、その引用は明らかに恣意的だった。全文はこうだ。「わたしはあなたを祝福する者を祝福し、あなたを呪う者を呪う。地のすべての民族は、あなたによって祝福されるであろう。」―(欽定訳聖書)

これは族長アブラハムに与えられた預言的な約束であり、最終的には彼の子孫であるイエス・キリストを指し示している。ガラテヤ人への手紙3章16節によれば、キリストを通して「地のすべての家族」は神との和解を与えられるのだ。もしこの祝福が普遍的かつメシア的な範囲に及ぶものであるならば、現代のイスラエルにしばしば帰せられる民族的あるいは国家的な排他性はどこにあるのだろうか。(このテーマについては、ここ, ここ, そして ここでより深く考察した。)

クルーズの神学的枠組みは、実際にはキリスト教の救済論というよりも、タルムードの民族中心主義に近い。ラビ・ハイム・リッチマンがキリスト教徒に向けて述べた、次のような注目すべき主張を考えてみよう:

「あなたたちはただ一人のユダヤ人を崇拝している。それは間違いだ。私たち全員を崇拝すべきだ。なぜなら、私たちは毎日あなたたちの罪のために死んでいくのだから・・・イスラエルの地にいるユダヤ人はオーク(邪悪な敵)に対する防壁なのだ、いいか?オークはあなたたちの近くの劇場ではなく、あなたの家に来るのだ。」

トールキン(*)への言及はさておき(私の知る限り、タルムードのどこにも出てこない)、リッチマンの引用はクルーズが周回するイデオロギーの領域を明らかにしている。それは、ユダヤ人の集合的アイデンティティが疑似神格化され、敵対者は空想上の怪物のように非人間化されるという状況だ。「オーク」とは、この地域のアラブ人を指す大まかな婉曲表現ではないかと疑う向きもある。彼らの多くはイスラエルの隠れた同盟国である。唯一反抗的な「オーク」はパレスチナ人であり、彼らは神によって任命された支配者を受け入れることを拒否しており、これは依然として解決困難な問題となっている。
* ジョン・ロナルド・ルーエル・トールキンは、イギリスの文献学者、作家、詩人、イギリス陸軍軍人。『ホビットの冒険』や『指輪物語』の著者として知られる。ウィキペディア

皮肉なことに、ペルシャ人(イラン人)は伝統的にユダヤ教の聖典において、キュロス大王からエステル記のアハシュエロスに至るまで、はるかに好意的に描写されてきた。したがって、現代の地政学的な敵意は歴史的な逸脱であり、神学的な必然性からくるものではない。

しかし、リッチマンのグロテスクな論理に従えば、この「すべてのユダヤ人への無条件の崇拝」は、最近イスラエルで起きた悪魔崇拝による児童虐待スキャンダルに関与した者たちにまで及ぶのだろうか?一体どの時点で連帯は冒涜となり、イスラエルへの支持は神学的な全面的な放棄を必要とするのだろうか?

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兆候、前兆、そしてパレイドリア(*)妄想
* 心理現象の一種。視覚刺激や聴覚刺激を受けとり、普段からよく知ったパターンを本来そこに存在しないにもかかわらず心に思い浮かべる現象を指す。パレイドリア現象、パレイドリア効果ともいう。ウィキペディア

私がキリスト教シオニズムを、預言を装った神学的に破綻したサブカルチャーと呼ぶのには理由がある。キリスト教シオニズムは、イスラエル軍によるあらゆる戦争犯罪、あらゆる残虐行為を神聖視するイデオロギーである。信奉者によれば、神からの個人的な「祝福」は、近代国民国家への政治的忠誠に付随しているからだ。

キリスト教シオニズムは、聖書、歴史、そして道徳を積極的に歪曲しなくても、何もないところから奇跡や不思議を作り出す。自然現象、特にパレイドリアのような模様は、日常的に神の啓示と解釈される。これは無害な熱狂などではなく、集団思考、感情に駆られた崇拝、そして操作的なレトリックによって条件付けられた、騙されやすい思考様式を反映する。催眠的な音楽、演出された証言、そして綿密に演出された雰囲気は、しばしば信者を期待の熱狂へと駆り立て、騙されやすさが精神的な美徳へと変貌させるのだ。

かつて、エルサレムでワゴン車に乗ったキリスト教徒の巡礼者たちのビデオを見たことがある。彼らは、道端の木々の間を木漏れ日が揺らめく様子に、畏敬の念を抱き、歓声を上げていた。彼らにとって、この一瞬の光の模様は、動きと影の錯覚ではなく、「天使の顕現」だったのだ。(実際、これは動く葉の間を光が透過することで生じるよくある光学的効果だ。)

今日、福音派の信者の多くは、ありふれた出来事を、終末の預言におけるイスラエルの中心的な役割を神が承認した証拠と解釈しようとする。しかし、もし彼らが兆候を探すなら、それとは逆の方向を示す出来事に心が向く可能性はある。イスラエルがイランに対して一方的な攻撃を開始した直後、イスラエル人居住地区の瓦礫の中から、一羽のカラスがイスラエル国旗を引き倒していた。

ユダヤ教のミドラシュでは、カラスは前兆とされている。聖書の物語では、カラスは絶望に瀕していた預言者エリヤを支えるために神が用いた生き物。(列王記上17章)カラスは裁きと恵みの両方と結び付けられた生き物なのだ。では、カラスはどのようなメッセージを伝えていたのだろうか。

では、もしこのカラスがパレスチナ国旗やイラン国旗を引き裂いていたとしたらどうだろう。キリスト教シオニストたちは、集団的な歓喜に沸き立っただろう。ソーシャルメディアの投稿は、これを天からのしるしだと宣言する見出しで溢れかえるだろう。預言ブログは、その「象徴性」を解読しようと躍起になるだろう。テレビ伝道師たちは、寄付の呼びかけの合間にこの映像をループ再生するだろう。しかし、彼らの物語に反する行為であったため、この出来事は意図的に無視された。

これがキリスト教シオニスト神学の分裂的反応である。神の兆候は、それが筋書きを補強する場合にのみ有効である。それ以外のものは、いかに聖書的であろうと、いかに明白であろうと、偶然か悪魔の干渉として退けられる。

祝福と呪い:現実を直視する

よく引用される名言に、「嘘も千回繰り返せば真実になる」というものがある。これはヨーゼフ・ゲッベルスの言葉と言われているが、おそらく最初に使ったのはアドルフ・ヒトラーだ。

キリスト教シオニストたちは創世記12章3節を非常に頻繁に、また非常に熱心に唱えてきたため、その一派の中で立ち止まってこの聖句を聖書や経験的現実に照らして検証する者はほとんどいない。

今それをやってみよう。創世記12章3節にはこうある:「わたしはあなたを祝福する者を祝福し、あなたを呪う者を呪う・・・」―(欽定訳聖書)

これを国家レベルの外交政策に対する包括的な指示と解釈するならば、その証拠は明白であるはずだ。そこで自問自答してみよう。今日、イスラエルの最も忠実な同盟国、特に西側諸国は、本当に「祝福されている」のだろうか?

アメリカ合衆国を例にとってみよう。南北戦争以降、国内の分断はかつてないほど深刻化していると言える。都市は衰退し、ホームレスと薬物中毒が蔓延し、人種間の対立は最悪の状況にある。アメリカ人の40%近くが、借金をしたり、家宝を売却したり、あるいは借金に陥ったりしなければ、400ドルの緊急出費を賄うことができない。しかし、イスラエルには毎年、数十億ドルもの無条件援助が流れ続けている。

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西ヨーロッパも同様の状況。大陸は政治的二極化の深刻化、制度的正統性の危機、そして移民と経済格差に起因する文化衝突の激化に直面している。かつて民主的なコンセンサスとされていたものが、ポピュリズム、無関心、そして不安によって分断されつつある。大西洋横断同盟全体で社会的結束が崩壊しつつある。

これを東アジアや東南アジアと比較してみよう。これらの地域では、ほとんどの国がイスラエル・パレスチナ紛争に対して冷静で中立的な立場を保っている。人口は合わせて24億人近くに達し、無数の民族と宗教が共存するこの地域は、驚くほど安定している。軍事政権にイスラエルの兵器が供給されているミャンマーを除けば、大陸規模の戦争や、欧米を悩ませているような存亡をかけた社会の亀裂は見られない。移民は限られており、社会の調和は比較的保たれており、アジアの主要国はすべて1967年以前の国境に基づく二国家共存を支持している。この地域では、イスラエルに媚びへつらう国は一つもない。

そこで、次のような疑問が自ずと湧いてくる。創世記 12 章 3 節がイスラエルに対する外交政策を評価するために使われているのなら、一体誰が祝福され、誰が呪われているのだろうか。

盲目的な忠誠の帰結は経済衰退にとどまらない。イスラエルの戦略的計算によって煽られた代理戦争を考えてみよう。シリアでは、イスラエルによるジハード主義勢力への支援が、民族的・宗教的少数派の壊滅を招いている。つい先週の日曜日(6月22日)、聖エリアス・アンティオキア正教会で自爆テロが発生し、少なくとも15人のキリスト教徒の礼拝者が死亡した。これらは単発の悲劇ではない。キリスト教シオニズム、すなわち現実政治と神の使命を混同する神学の成果である。

世界中のキリスト教徒を危険にさらす

なぜこの物語に立ち向かい、正すことが不可欠なのだろうか?クルーズ上院議員とその同類が喧伝する宗教的イデオロギーは、真のキリスト教とは全く似ても似つかないからだ。それは危険な神学上の偽物であり、まさにマタイによる福音書7章15節が警告しているとおり、羊の皮をかぶった狼の巣窟だ。

キリスト教シオニズムは信仰を守るどころか、世界中のキリスト教徒を積極的に危険にさらしている。パックス・アメリカーナを擁護し、現代のイスラエル国家を偶像化し、時事問題をでっち上げた終末論的な筋書きに無理やり当てはめようとする熱意の中で、現実のキリスト教共同体を地政学と終末論的幻想の祭壇に犠牲にしているのだ。

世界最古のキリスト教の伝統の一つ(その起源は旧約聖書にまで遡る)を受け継ぐ者として、私ははっきり言う:殺人的な偶像崇拝者たちと交わりを持つな。(コリントの信徒への手紙一 5:11)。

彼らはキリストを唱えながら、帝国の野望、人間の妄想、そしてサタンの策略に仕えている。もしそれが「祝福」の意味だとしたら、あなたの教会は実際に何を崇拝しているのかを自覚すべきだ。

※なお、本稿は、寺島メソッド翻訳NEWS http://tmmethod.blog.fc2.com/

の中の「キリスト教シオニズムが聖書の歪んだ読み方で米帝国の僕(しもべ)となっている構造(2025年7月18日)

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からの転載であることをお断りします。

また英文原稿はこちらです⇒How Christian Zionism distorts scripture to serve empire
アメリカの「祝福されたイスラエル」への執着が教会、世界、そして真実を危険にさらす理由
筆者:マシュー・マーヴァク博士。
システム科学、グローバルリスク、地政学、戦略的先見性、ガバナンス、人工知能の研究者
出典:RT   2025年6月29日https://www.rt.com/news/620745-israel-us-christian-zionism/

寺島隆吉 寺島隆吉

国際教育総合文化研究所所長、元岐阜大学教授

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