【連載】百々峰だより(寺島隆吉)

「お人好しプーチン!」再論――キエフとエルサレムの敗北は歴然としているのに、先が見えない「ウクライナ戦争」「イスラエルの民族浄化作戦」(上)

寺島隆吉

国際教育(2025/07/14)

OPCW (Organization for the Prohibition of Chemical Weapons、化学兵器調査機関)
MAGA(Make America Great Again「米国を再び偉大な国に」、トランプ大統領の公約)

UPA (Ukrainian Insurgent Army、ウクライナ反乱軍・蜂起軍)
OUN(Organization of Ukrainian Nationalists、ウクライナ民族主義者組織 )

ヴォルィニ虐殺(Volyn massacre、ウクライナのナチス協力者が、ヴォルィニ地方と東ガリツィア地方で最大10万人のポーランド人を虐殺した事件)


 

アメリカでは国民が持ち家をちゃんと所有しているのか?
米国の貧困「家がもてない!」
今や「花のサンフランシスコ」は消え失せた!!
https://strategic-culture.su/news/2025/06/25/who-owns-homes-in-america-a-state-by-state-breakdown/


 

「翻訳グループ」の皆さん
Cc: 研究所の皆さん


プーチン大統領は最近、国際会議の記者会見でトランプ大統領を「勇気のある人物」と礼賛しました。
しかし、その礼賛した人物が相変わらずゼレンスキー大統領とネタニヤフ首相に武器を送り続けているのですから、これでは「ウクライナ戦争」と「イスラエルの民族浄化作戦」に先が見えないのも当然ではないでしょうか。
元財務次官ポール・グレイク・ロバーツは、ロシア軍が2022年に「特別作戦」でウクライナに進攻した当初から「お人好しプーチン!」と批判し続けてきましたが、それが再確認された観があります。


かつてソ連軍が、米国によるイスラム原理主義集団を使った政権転覆工作によってアフガニスタンに誘(おび)き出され、結局はそれが一因でソ連は崩壊しましたが、この戦争は1978年から1989年まで約10年間も続きました。
同じことをオバマ政権が画策し、2014年のカラー革命(いわゆる「尊厳の革命」)の結果、親ロシア派のヤヌコーヴィチ大統領の失脚となりました。この革命は「尊厳の革命」と呼ばれていますが、実は選挙で選ばれた大統領を暴力的に放逐し、親米政権を成立させるものでした。
このことは当時、国務次官補としてキエフに在していたヌーランド女史がニューヨークでおこなわれた講演で、この政権転覆のために30年の年月と50億ドルもの莫大な金をかけたと語っていることからも明らかです。ですから今度はロシア軍をウクライナに誘き出してプーチン政権を転覆させようとしたのがウクライナ紛争だったわけです。
その詳細は拙著『ウクライナ問題の正体』全3巻で詳述したの、ここでは再論しませんが、ソ連を崩壊させるのに10年ものアフガン戦争が必要だったわけですから、今度のプーチン政権を崩壊させるのに同じくらい長時間をかけてもよいとEU・NATO幹部は考えているに違いありません。


もちろん当初は、経済制裁でプーチン政権は簡単に倒れると考えていたので、ゼレンスキーがロシア軍との戦いに負けて和平交渉に応じようとしたときも、当時の英国首相ボリス・ジョンソンが慌てて駆けつけてきて戦争を継続させました。
そのときにゼレンスキーには「もうすぐ経済制裁でロシアは崩壊するから、もうしばらく頑張れ。金と武器の援助はするから」と言ったに違いないのです。だからこそゼレンスキーはいまだに欧米に対して声高に武器と経済援助を要求しても平気なのです。
ところが事態はEU・NATO幹部の予想どおりには進みませんでした。それどころかウクライナ軍は敗北に敗北を重ね、正規戦では勝てないことが分かり、民家や公共施設を爆撃したり個人の暗殺に精力を注ぐようになりました。
ロシア軍の強さ・優秀さはシリアでも明らかでした。当時のアサド大頭領の要請でシリアに出陣したロシア軍は裏でCIAに支援されたイスラム原理主義集団ISISを各地にで打ち破り、残された勢力がトルコ国境近くの小さな地域だけになってしまったのですが、どういうわけかプーチン大統領は、この勢力を壊滅させることに消極的でした。
この勢力はトルコ大統領エルドアンからも支援されていたので遠慮したのかも知れませんが、元財務次官ポール・クレイグ・ロバーツに言わせれば、またもや「お人好しプーチン!」ということになるでしょう。というのは、この温存された勢力が今やシリアの支配者となり、今やシリアに残っていたアサド派の住民やキリスト教を殺しまくっているからです。


いずれにしても、EU・NATO幹部は、かつては「侵略軍を追い出しプーチン政権を打倒しよう」と言っていたのに、ウクライナ軍が負け戦だと分かると、今度は「ウクライナ軍が負けるとロシア軍はEU侵略に乗りだすからそのための備えをする」と称して、軍備増強のため軍事予算を増やし、地下鉄の駅を避難場所にする準備をする始末です。
今までは「ウクライナ軍は勝っている」ので「ロシア軍を撤退させるためにキエフへの援助を!」と叫んでいたのに、その嘘がバレると今度は「オオカミが襲ってくる」と言いつつ国民を恐怖に陥(おとしい)れ、国民の批判の眼が自分たちの方に向かわないよう、必死の防御対策に走っています。おかげで軍産複合体は大儲かりです。
このようにEU・NATO幹部は、かつて10年もかけてソ連を崩壊させたのだから、プーチン大統領政権を倒すのに同じくらい時間をかけても仕方がないと思い始めているようです。しかしその前に、ロシアに対する経済制裁の「ブーメラン効果」で、EU経済が崩壊するかも知れません。
なにしろ、ロシア制裁の「ブーメラン効果」のため、EUの牽引者であるはずのドイツで、倒産件数がこの6か月で1万2千件にも及んでいるのですから。
*12,000 German companies went bust in six months – economic tracker
https://www.rt.com/news/620721-germany-corporate-insolvencies-record/
28 Jun, 2025


しかし「俺が大頭領になればウクライナ紛争は24時間で解決してみせる」と豪語していたトランプ氏にしてみれば、これは大きな誤算でした。
それどころか、トランプ氏の閣僚からイーロン・マスクのような反乱者が出来てきたり、MAGA(Make America Great Again「米国を再び偉大な国に」)を公約にして内政だけに専念すると言っていたのに、イラン爆撃に乗り出したりと、トランプ政権の行方も定かではありません。
イスラエルも、ガザ地区の惨状があまりにも非道いので今までは一方的にイスラエル支持だったEUからも批判が出始めました。いよいよEUも世論に押されて、イスラエルの蛮行に目をつむるわけにはいかなくなったようです。

*EU to propose sanctions on Israel – media(EUがイスラエルに対する経済制裁を提案)
https://www.rt.com/news/621033-eu-propose-sanction-israel/
5 Jul, 2025

そのような世論の眼をかわすためイラン空爆に乗りだしたのですが、準備不足で弾薬が尽き、トランプ大統領に慌てて支援を要請するという始末でした。
イスラエルがイランを爆撃し、そのイランからの反撃でイスラエルの 各都市や軍事施設に多大な損害が出ました。つまりイスラエルの防空体制は十分に機能せず、実質的に敗北していたのです。イスラエルの「盤石な防空体制」という神話はもろくも崩れたのでした。

*Here’s Proof That Israel Lost the War (and signs that the conflict is about to resume)
https://www.unz.com/mwhitney/heres-proof-that-israel-lost-the-war/
Mike Whitney • June 28, 2025


イスラエルはこの度の爆撃で、イランの多くの核科学者の自宅を爆撃し家族もろとも爆死させました。この非人道的な攻撃は明確な「戦争犯罪」です。しかも、この情報を提供したのはIAEA(国際原子力機関)だと言われています。
これでIAEAの権威は完全に失墜しました。今までイランはIAEAにたいして核査察を許してきましたが、これを機にイランの国民は「核保有」を強く求めるでしょうし、政府もそれを拒否できなくなるでしょう。
しかもイラン国内に潜んでいたスパイが国内各地の爆撃に協力していたとも言われています。イランの新大統領が今まで親欧米的態度をとってきたからスパイの出入りも自由になったのだという批判もありますから、今後の外交姿勢も大きく変わる可能性があります。
つまりイランの核保有を許さないという理由でネタニヤフ首相もトランプ大統領もイラン攻撃をしたのですが、それが全く逆効果だったことになります。なぜなら、イラン国民はネタニヤフ首相が期待していた政権転覆に動くどころか、逆に核保有を求めてますます団結を固めた観すらありますから。
要するに今度のイラン攻撃は、ネタニヤフ政権にとってもトランプ政権にとっても、民間人の死傷者をふやすだけで、あまり得るところのない戦闘行為だったのではないでしょうか。とりわけ国際社会におけるネタニヤフ政権の人感感覚・倫理的評価も完全に失墜したのではないでしょうか。


他方、プーチン大統領にしてみれば今まで「お人好しプーチン!」と揶揄されても、人道的態度でキエフに対してきたのですが、これからはウクライナへの大爆撃をしなければロシア軍もロシア国民も納得しないでしょう。
ですからプーチン大統領も、今後10年を見通した長期戦も覚悟しなければならないでしょう。次のドミトリー・トレーニン高等経済学院研究教授の論考はそのことをよく示しています。

*Dmitry Trenin: The West’s war on Russia will go beyond Ukraine(ウクライナ紛争は世界規模であり、まだ始まったばかりだ)
https://www.rt.com/news/621262-dmitry-trenin-long-war/
9 Jul, 2025

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しかし明るい希望もあります。それは西側に対抗する経済圏BRICSも着実な進展を見せているからです。
リオデジャネイロで開かれたBRICS会議は、トランプ氏の脅迫に動揺しながらも、ブラジル大統領ルラ氏はそれによく耐えて、何とか会議は成功したからです。
次の論考も、そのことをよく示しているからです。とりわけPepe Escobarの論説の最後の一文「戦争がしたいのか?やってみろ」が象徴的で、私に強い印象を残しました。

*What just happened in Rio should terrify the West(ブラジルのBRICS会議は、西側諸国の力に対する意志表明・協調的拒絶だった)
https://www.rt.com/news/621315-brics-in-rio-global-power/
10 Jul, 2025、Farhad Ibragimov

*Trump terrified by BRICS strategic threat(ブラジルBRICS会議の成功はトランプ大統領にとって悪夢)
https://strategic-culture.su/news/2025/07/12/trump-terrified-by-brics-strategic-threat/
July 12, 2025 Pepe Escobar

11
以上のようなことを念頭において、今回の『翻訳NEWS』素材情報を編集しました。
例によって「翻訳グループ」の皆さんは、食指の動くものから挑戦していただければと思いますい。
山野さん(仮名)お手数ですが、例によって「番号づけ」を御願いします。
また、すでに下訳済み・校正済み・掲載済みのものが混ざっているかも知れません。その節は、どうか御容赦ください。


 

「お人好しプーチン!」再論――キエフとエルサレムの敗北は歴然としているのに、先が見えない「ウクライナ戦争」「イスラエルの民族浄化作戦」(下)に続く

寺島隆吉 寺島隆吉

国際教育総合文化研究所所長、元岐阜大学教授

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