【連載】今週の寺島メソッド翻訳NEWS

☆寺島メソッド翻訳NEWS(2025年7月18日):トランプからの最後通牒は最後通牒ではない。ロシア側もそう理解している。

寺島隆吉

※元岐阜大学教授寺島隆吉先生による記号づけ英語教育法に則って開発された翻訳技術。大手メディアに載らない海外記事を翻訳し、紹介します。

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© ダーシャ・ザイツェワ/Gazeta.Ru

ドナルド・トランプ米大統領は、出すぞ、出すぞと焦らしてきたロシアに関する「重要声明」をついに発表した。数日間、特に親ウクライナ派の間では、これは待ちに待ったトランプからの方針転換が近づいているのではないか、という憶測が飛び交っていた。彼らは、トランプがついに強硬姿勢に転じることを期待していた。おそらくリンジー・グラハム上院議員(ちなみにグラハム議員はロシアでテロリストおよび過激派に指定されている)の強硬姿勢が強まっていることに触発されたのだろう。懐疑的な人々でさえ、トランプがロシアに「クズカの母」を見せようとしているのではないかと考え始めている。この「クズカの母(わが国の本気を見せてやろう、の意味)」とは、冷戦時代にニキータ・フルシチョフが米国側に対して用いた攻撃的な表現として有名なものだ。

しかし、その期待は、トランプのいつもの手により打ち砕かれた。

当初「極めて厳しい最後通牒」とされていたものは、全く別のものだった。トランプはロシアとその貿易相手国に対する関税制裁をちらつかせたが、グラム議員が提案した500%の関税という極端な提案は撤回した。代わりに、トランプが発動を決定し、ロシアが合意に至らなかった場合にのみ50日後に発効する100%の関税案を提示した。

トランプ大統領はウクライナへの新たな武器供与も発表した。しかし、これは贈与ではなく、売却されるものであり、贈与ではなく、欧州の仲介業者を介しておこなわれるものだ。ウクライナはパトリオット・システム17基を受け取る予定だった。しかし、最初の供与は少なくとも2ヶ月後、つまり50日後には到着しないことがすぐに判明した。そして今なお、基本的な疑問は未回収のままである。

トランプが「17のパトリオット」と言ったのは一体何を指しているのか?砲台17個?発射装置?ミサイル?

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もし彼が17個の砲台を意味していたとしたら、それは到底あり得ない。米国自体が運用している現役砲台は約30個しかない。ドイツとイスラエルを合わせても、利用可能なシステムはこれほど多くはない。そのような数の砲台であればウクライナの防空能力を大幅に強化することになるだろうが、おそらくそうとは考えられない。

ミサイルが17発?笑止千万だが、考えられない話ではない。米国側は最近、「軍事援助」予算にパトリオット・ミサイルを10発だけ入れたが、その量はあまりにも控えめで、一度の戦闘でも足りないほどだ。

17基の発射装置?そう考えるほうがより現実的なようだ。通常の発射装置は6基から8基の砲台で構成されるので、これは2~3基に相当する。これはドイツとノルウェーがウクライナのために購入を約束している量よりも多い。しかし、国防総省でさえその詳細を確認できていない。トランプ自身も具体的な内容について曖昧なのではないか、と疑う向きもある。結局のところ、彼の役割は発表することであり、後始末は他の人々に任されているのだ。

いわゆる「7月14日の最後通牒」は、すでにトランプ大統領の外交戦略を示す典型的な例となっている。実際、米国の政治用語に「トランプはいつも尻込みする(Trump Always Chickens Out)」、略してTACO(タコ)、という新しい表現が登場している。この頭文字が示すとおり、これは貿易や安全保障交渉において、大統領が壮大な脅しをかけた後、撤回したり実行を遅らせたりするトランプの習癖を指すことばだ。

今回の件はまさにその好例と言えるだろう。交渉は行き詰まり、トランプ大統領は依然としてノーベル平和賞を渇望している。そして、ウクライナ紛争に巻き込まれることをためらっている。そこで彼は、彼の常套手段である「最後通牒ではない最後通牒」に頼ったのだ。

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この作戦により、トランプは強硬な姿勢を見せつつ、ロシア側に行動の余地、ひいては時間さえも与えることができる。また、彼の支持基盤であるMAGA派を庇護する役割も果たしている。MAGA派の多くはイランやエプスタイン事件といった事態に苛立ち、米国がウクライナ問題にこれ以上巻き込まれることを望んでいない。

トランプの視点から見ると、この政策の真骨頂は、全てを約束しながらも同時に何も約束していないことだ。明確な戦略も、詳細な要求もない。曖昧な期限に裏打ちされた、終わりのない脅しだけ。実体のない圧力、指導力が伴わない影響力でしかない。

驚くべきことに、ホワイトハウスはロシアに緊張緩和を求めさえしなかった。ウクライナへのほぼ毎日の攻撃停止や、戦場での活動抑制を求める声もなかった。事実上、ロシアは意図的か否かに関わらず、50日間の猶予期間を与えられて、都合の良いように行動できるようになった、と言える。このトランプの最後通牒は、クレムリンへの静かな譲歩なのだろうか?あるいは、予期せぬ副作用なのだろうか?おそらく。いずれにせよ、ロシア側が利益を得ることになる。

米国側も有利な立場に立つ ― 少なくとも財政的には。新たな協定では、西欧諸国がウクライナの防衛費を負担し、米国企業は老朽化した装備の売却で利益を得ることになる。トランプの有名な「取引の術」は、最後には米国が笑顔で粗雑品を売ることに過ぎないのかもしれない。しかし、そうだとしても、彼はそれを見事にやり遂げたと言えるだろう。

それでも、政治的駆け引きとしては、結果はより不確実だ。トランプは、タカ派とハト派、NATO同盟国と国家主義的な批判者の間の絶妙な均衡を見つけた、と考えているかもしれない。しかし、あらゆる人に全てを合わせようとする試みは、ほとんどの場合、良い結果にはならない。強硬姿勢を装った宥和政策は、誰にとっても長くは続かない。

トランプ大統領が時間を稼いでいる間、ロシアは主導権を握る。これがこの事件の真相だ。

この記事のオンライン新聞 Gazeta.ruで最初に公開され、RT編集部によって翻訳・編集された。

※なお、本稿は、寺島メソッド翻訳NEWS http://tmmethod.blog.fc2.com/

の中の「トランプからの最後通牒は最後通牒ではない。ロシア側もそう理解している。(2025年7月16日)

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また英文原稿はこちらです⇒Trump’s ultimatum isn’t an ultimatum – and Moscow knows it
米大統領、ロシアに対して新たな戦略を試みている:挑発ではない圧のかけ方で
筆者:ヴィタリー・リュムシン(Vitaly Ryumshin)
記者、政治分析家
出典:RT 2025年7月16日https://www.rt.com/news/621589-trumps-ultimatum-isnt-ultimatum/

寺島隆吉 寺島隆吉

国際教育総合文化研究所所長、元岐阜大学教授

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