【連載】櫻井ジャーナル

【櫻井ジャーナル】2025.07.27XML:シリアで内戦が激化、外国勢力を巻き込んで軍事的な緊張が高まっている

櫻井春彦

 ​ロシア軍に所属する3機のSu-35戦闘機がシリア南部のアル・タンフにあるアメリカ軍の基地を攻撃したと伝えられている​。この基地はバグダッドとダマスカスを結ぶ幹線上にあり、アメリカ軍のほかイギリスの特殊部隊も駐留、アル・カイダ系の戦闘員を訓練する場所でもあった。攻撃の24時間前にロシアはアメリカに攻撃を通告したというが、軍事的な緊張を高めたことは間違いないだろう。

 

1980年代からイラク、シリア、イランを制圧しようと目論んでいたネオコンは2003年3月、ジョージ・W・ブッシュ政権を操り、アメリカ主導軍を使ってイラクを先制攻撃してサダム・フセイン体制を倒したのだが、親イスラエル体制を築くことには失敗した。

 

アメリカ大統領おは2009年1月にバラク・オバマへ交代、翌年の8月にオバマ大統領はPSD-11を承認し、ムスリム同胞団を使った体制転覆作戦を始動させる。そして始まるのが「アラブの春」だ。その流れの中でリビアやシリアも攻撃するが、その際、ムスリム同胞団だけでなくサラフィ主義者(ワッハーブ派、タクフィール主義者)も参加している。

 

イギリスの外相を1997年5月から2001年6月まで務めたロビン・クックは2005年7月、「アル・カイダ」はCIAの訓練を受けた「ムジャヒディン」の登録リストを意味すると書いている​が、その通り。そのムジャヒディンの供給源はムスリム同胞団やサラフィ主義者である。このシステムを作り上げたのはオバマの師にあたるズビグネフ・ブレジンスキーにほかならない。

 

リビアのムアンマル・アル・カダフィ体制は2011年10月、アル・カイダ系武装集団のLIFG(リビア・イスラム戦闘団)とNATO軍によって倒されたが、シリア軍は倒れない。そこで戦闘員や兵器をリビアからシリアへ移動させると同時に、オバマ大統領はシリアのアル・カイダ系武装集団への軍事支援を強化した。

 

しかし、アメリカ軍の情報機関DIAはそうしたオバマ政権の政策を危険だと判断、警告する報告書を2012年8月に提出している。オバマ政権は「穏健派」を支援していると主張していたが、そうした武装集団は存在しなかった。

 

DIAの報告書によると、外部勢力が編成した反シリア政府軍の主力はAQI(イラクのアル・カイダ)であり、その集団の中心はサラフィ主義者やムスリム同胞団だと指摘、オバマ政権の政策はシリアの東部(ハサカやデリゾール)にサラフィ主義者の支配地域を作ることになると警告している​。その時にDIAを率いていた軍人がマイケル・フリン中将にほかならない。

 

この警告通り2014年には新たな武装集団ダーイッシュ(IS、ISIS、ISIL、イスラム国などとも表記)が登場する。この武装集団はこの年の1月にイラクのファルージャで「イスラム首長国」の建国を宣言、6月にはモスルを制圧。その際にトヨタ製の真新しい小型トラック、ハイラックスを連ねてパレードし、その後、首を切り落とすなど残虐さをアピールし、NATO軍の介入を誘った。

 

その一方、オバマ大統領は政府の陣容を好戦派へ入れ替える。例えば2015年2月に国防長官をチャック・ヘーゲルからアシュトン・カーターへ、同年9月には統合参謀本部議長をマーチン・デンプシーからジョセフ・ダンフォードへ交代させ、アメリカ軍をシリアで侵攻させた。そして作り上げた20以上の基地のひとつがアル・タンフである。

 

アメリカ政府はシリアへの軍事侵攻を正当化するため、ダーイッシュを殲滅するためだと宣伝していたが、その後、ダーイッシュは勢力を拡大、それを口実にしてリビアのようにNATO軍を本格的に介入させる腹積りだったのだろうが、デンプシー議長が退任した直後、シリア政府の要請でロシア軍が9月末に介入、ダーイッシュを敗走させてしまう。それ以降、アメリカはクルドを手先として使い始めた。

 

その後、ロシア軍はシリア国内でも賞賛されるが、それがシリア政府軍との亀裂を産むことになり、その政府軍は欧米諸国の経済戦争で疲弊していき、昨年12月、バシャール・アル・アサド政権はハヤト・タハリール・アル・シャム(HTS)を中心とする武装勢力に倒された。

 

HTSはアル・カイダ系のアル・ヌスラ戦線を改名した組織で、その前身はAQI。現在はトルコを後ろ盾にしているが、名称を変更する前はアメリカの影響下にあった。

 

HTSを率い、暫定大統領を務めているアフマド・アル-シャラア(アブ・モハメド・アル-ジュラニ)はダーイッシュの元司令官。アル・アサド体制を倒そうとしてきた欧米諸国は彼を穏健派だとしているが、それは彼らのイメージ戦略にほかならない。

 

アル-シャラアの暫定政権はアラウィー派やキリスト教徒を殺害、現在はそのアラウィー派のほか、南部のドゥルーズ派や北部のクルドとも対立、戦闘が始まっている。クルドはアメリカやイスラエル、ドゥルーズ派はイスラエルが支援、ここにきてロシアがアラウィー派の戦力を増強させているという。アル・アサド政権時代のシリアは欧米などの経済戦争で疲弊していたが、HTS時代になって生活はさらに悪化、外国の勢力も含め、内戦が激しくなる可能性がある。

 

イランは7月22日、ロシアと中国の代表団を招き、核問題と西側諸国による制裁解除について協議した。イランはアメリカとイスラエルに空爆され、報復攻撃でその戦闘能力の高さを示している。その際、中東にあるアメリカ軍の基地を攻撃しなかったが、今後もないとは言い切れない。NATOはウクライナで事実上ロシアに敗れ、イランに対する攻撃でアメリカとイスラエルの弱さが露呈。アメリカは中国を狙っていると言われているが、勝てる見込みはゼロに近い。この3カ所の出来事は互いに関連しているとも言える。

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