【連載】櫻井ジャーナル

【櫻井ジャーナル】2025.08.07XML :小型核兵器を1発撃ち込めば露国は屈服すると信じる人物が英国防相の戦略顧問に

櫻井春彦

イギリスのRUSI(王立防衛安全保障研究所)で副所長を務めていたマルコム・チャーマースが8月からジョン・ヒーリー国防大臣の戦略顧問を務めている。この人物は2022年5月、ウクライナによるクリミア半島奪取をめぐるロシアとの「ステロイド入りキューバミサイル危機」こそがロシアを屈服させる最善の選択肢かもしれないと提言、今年3月にはエコノミスト誌のシャシャンク・ジョシに対し、イギリスが潜水艦からロシアを核攻撃することに何ら問題はないと述べたことで知られている。小型核兵器を1発撃ち込めばロシアは縮み上がり、屈服するというのだ。

 

正気とは思えない人物を国防大臣の戦略顧問に就任させる政府を持つ国が正気だとは思えないが、その国はかつて海賊行為で富を築き、イスラエルやサウジアラビアを作り上げて中東支配を目論み、軍事力で中国(清)をアヘン漬けにし、明治維新で日本の体制を転覆させ、明治体制に朝鮮半島から中国にかけての地域を侵略、略奪させている。イギリスと同じようにピューリタンの影響を強く受けているアメリカでは先住民が虐殺された。民族浄化だ。同じようなことをイスラエルが行っている。

 

イギリスは19世紀にロシアを侵略する戦略をたて、「グレート・ゲーム」を始めた。その戦略で中心的な役割を果たした政治家はホイッグ党(後の自由党)を率いていたヘンリー・ジョン・テンプル(別名パーマストン子爵)。ビクトリア女王にアヘン戦争を指示したのもこの人物である。つまりロシアと中国に戦争を仕掛けたわけだ。

 

現在、イギリスではグレート・ゲームを再び始めている。その事実をアンドリュー王子も隠していない。この問題で2008年にキルギスタン駐在のアメリカ大使だったタチアナ・グフォーラーから抗議された王子は再びグレートゲームの真っ只中にいると応じ、「今度こそ我々は勝利を目指す」と言ったという。ちなみに、アンドリュー王子は国際的な兵器取引に深く関係してきた人物で、ジェフリー・エプスタインの友人でもある。

 

1970年代にイスラエル軍の情報機関ERD(対外関係局)に所属、87年から89年にかけてイツァク・シャミール首相の特別情報顧問を務めたアリ・ベンメナシェによると、エプスタイン、ギレイン・マクスウェル、彼女の父親でミラー・グループを率いていたロバート・マクスウェルはいずれもイスラエル軍の情報機関、つまりアマンのために働いていた。ロバートは1960年代から、エプスタインとギレインは1980年代の後半からその情報機関に所属してたとベンメナシェは語っている。エプスタインとギレインが知り合ったのもその頃で、ロバートと同じように「イラン・コントラ事件」に関係していた可能性もある。(Zev Shalev, “Blackmailing America,” Narativ, Septemner 26, 2019)

 

証券業の世界にいたエプスタインをロバートに紹介したのはイギリスの「防衛請負業者」のダグラス・リースだと伝えられている。この人物は1980年代の半ば、エプスタインのスポンサーのひとりだった。エプスタインは未成年の男女を利用して世界の要人を罠にかけ、操る仕事をしていたが、それだけでなく武器取引や生体実験にも関係していた可能性が高い。

 

イスラエルの電子情報機関である8200部隊はアメリカのNSAやイギリスのGCHQと連携し、世界規模で通信を傍受し、記録している。この部隊は少なからぬ「民間企業」を創設し、そのネットワークを広げてきたが、これも世界を支配する仕組みの一部だ。

 

グレート・ゲームでの勝利を目指すイギリスの支配層やアメリカの仲間はアメリカやヨーロッパの国々がロシアと友好的な関係を結ぶことを容認できない。ジョージ・W・ブッシュにしろ、バラク・オバマにしろ、ヒラリー・クリントンにしろ、ジョー・バイデンにしろ、ロシアとの戦争へ突き進んでいたが、トランプはロシアとの関係修復を掲げて支持を拡大してきた。

 

大統領選挙を翌年に控えた2015年当時、次期大統領はヒラリー・クリントンで内定したと言われていたが、2016年2月にヘンリー・キッシンジャーがロシアを訪問、ウラジミル・プーチン露大統領と会談したところから風向きが変わった。その後、民主党ではバーニー・サンダースが支持者を集め、共和党ではドナルド・トランプが台頭してくる。

 

3月にWikiLeaksが公表したヒラリーの電子メールは、そうした流れを勢いづかせた。その中にはバーニー・サンダースが同党の大統領候補になることを妨害するよう民主党の幹部に求めるものがあり、サンダースの支持者を怒らせることになった。民主党幹部たちが2015年5月の時点でヒラリー・クリントンを候補者にすると決めていたことを示唆する電子メールもあった。

 

WikiLeaksのジュリアン・アサンジは6月12日、ヒラリー・クリントンのメールを保有しており、公開する予定であると発表。6月14日にクラウドストライクはDNC(民主党全国委員会)のサーバーへ「侵入」があったと発表、6月中旬にジョン・ブレナンCIA長官はイギリスの電子情報機関GCHQのロバート・ハニガン長官と会談した。

 

クラウドストライクはIISS(国際戦略研究所)のデータを分析に利用しているが、そのIISSはクラウドストライクによるデータの使い方が誤っていると主張、IISSとクラウドストライクの報告書との関係を否定し、クラウドストライクはIISSに接触していないともしている。

 

それに対し、​IBMのプログラム・マネージャーだったスキップ・フォルデンは転送速度など技術的な分析からインターネットを通じたハッキングではないという結論に達している​。DNCの内部でダウンロードされて外へ持ち出されたというわけだ。本当にハッキングされたのなら、その証拠をNSAは握っているとウィリアム・ビニーも指摘している。ビニーは情報機関で通信傍受システムの開発を主導し、NSA史上最高の数学者にひとりと言われている人物だ。

 

電子メールをWikiLeaksへ渡したのはDNCのコンピュータ担当スタッフだったセス・リッチだと推測する人は少なくない。その漏洩した電子メールをロシア政府がハッキングしたとする偽情報を流したのはブレナンCIA長官だと言われている。そのリッチは2万件近い電子メールが公表される12日前に射殺体として発見された。

 

リッチの両親が雇った元殺人課刑事の私立探偵リッチ・ウィーラーはセスがWikiLeaksと連絡を取り合っていたとしている。DNC幹部の間で2015年1月から16年5月までの期間に遣り取りされた4万4053通の電子メールと1万7761通の添付ファイルがセスからWikiLeaksへ渡されているという結論に達したという。

 

2001年から2012年までFBI長官を務めたロバート・ミューラーの部下で、サイバー犯罪捜査部門の責任者を務めていたショーン・ヘンリーは下院情報委員会でDNCに関するデータがDNCから流出したことを示す証拠はないと発言している。ヘンリーはFBIを2012年に退職し、クラウドストライクの上級職に就いていた。

 

そして現れるのが「スティール文書」。これは「元MI6」のクリストファー・スティールが作成したもので、スティールは2016年9月22日にワシントンDCで複数の記者と会談、トランプとロシアに関する文書を流布。この文書を根拠にしてアメリカのアダム・シッフ下院議員は2017年3月、下院情報委員会で前年の大統領選挙にロシアが介入したとする声明を出した。

 

同年5月にロバート・マラーが特別検察官に任命されるが、マラーは2019年に捜査を終結させ、疑惑は事実無根だったとする報告書をウィリアム・バー司法長官へ提出している。

 

スティールはソ連が消滅する直前の1990年から93年までMI6オフィサーとしてモスクワで活動していたが、彼は長期にわたるFBIの情報提供者だったとも言われている。そのスティールを雇ったのはフュージョンGPSなる会社。そのフュージョンを雇ったマーク・エリアスなる人物はヒラリー・クリントン陣営や民主党全国委員会の顧問弁護士だ。

 

フュージョンを創設したひとりであるグレン・シンプソンによると、同社は2016年秋にネリー・オーなる人物にドナルド・トランプの調査と分析を依頼している。その夫であるブルース・オーは司法省の幹部で、このオーとシンプソンは2016年11月に会っていた。その直後にブルースは司法省のポストを失い、フュージョンはスティールに調査を依頼することになる。そのスティールの調査結果は根拠薄弱で、信頼できる代物ではなかった。

 

そうした工作の甲斐なく、11月8日の選挙でトランプが勝利。結果として工作の痕跡を消す余裕がなくなり、証拠になる文書が残された。その文書を今回、トゥルシ・ギャバード国防情報長官が公表、民主党だけでなくCIAやFBI、そしてイギリスの情報機関が関係した大規模な違法工作が明るみに出てきた。トランプのスキャンダルを隠すためだとも言われているが、こうした権力犯罪が明るみに出るのは権力層の内部で抗争が勃発したときだ。

 

こうした中、イギリスの支配層はロシアを倒すために中央アジアを狙っている。その前段階としてアゼルバイジャンとアルメニアの対立を煽り、ロシアを追い出しにかかっている。アゼルバイジャンはトルコと連携を強め、アルメニアにはアメリカの傭兵会社が入り込もうとしている。ロシアだけでなく、中国やイランも何らかの対応をするだろう。

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