【連載】今週の寺島メソッド翻訳NEWS

☆寺島メソッド翻訳NEWS(2025年8月21日):ティモフェイ・ボルダチェフ(ヴァルダイ・クラブ計画部長):アラスカ対談でこれまての世界秩序が崩壊

寺島隆吉

※元岐阜大学教授寺島隆吉先生による記号づけ英語教育法に則って開発された翻訳技術。大手メディアに載らない海外記事を翻訳し、紹介します。

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2025年8月15日、アラスカ州アンカレッジのエルメンドルフ・リチャードソン統合基地で記者会見をおこなっているロシアのウラジーミル・プーチン大統領と米国のドナルド・トランプ大統領© Andrew Harnik/Getty Images

アラスカでおこなわれたウラジーミル・プーチン大統領とドナルド・トランプ大統領の会談は、ロシアにとって最も重要な外交的勝利の一つとして記憶されるだろう。長年にわたる軍事的犠牲や政治的粘り強さ、そして不断の努力によって実現したものだ。しかし同時に、これは一つの転換点でもある。分断された世界における主権国家をめぐる闘争の新たな段階への一歩なのだ。

米国政府の古い教義を破る

アンカレッジ対談の最も重大な結果は、西側諸国の古いやり方、すなわちロシアを孤立させ「戦略的に打ち負かす」というやり方が静かに葬り去られたことだった。何十年もの間、従わない国は追放される危険にさらされてきた。その体制がアラスカで崩壊したのだ。

これは米国の善意によるものではなく――国際政治に善意など存在しない――圧力によるものだ。ロシアからの圧力、いわゆる「世界の多数派」からの圧力、そして米国自身を揺るがす混乱からの圧力だ。トランプ政権は方向性を転換し、今回の首脳会談はそれを証明した。

結果は明白だった。米国の能力は低下し、ロシアの能力は強化された。この対談により、他の国々がより自立して行動する余地を生み出すことになった。これらの国々がロシア側に借りができた、とは認識しないにせよ、だ。

対話のための新たな基盤

ロシア側と米国側の関係に「ルネサンス」が訪れた、と語る人もいる。しかし、修復できるものは何もない。2022年以前に存在していた関係は、冷戦におけるソ連の敗北によって形作られたものであり、再構築することはできない。

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むしろ、対話は新たな条件の下で安定するだろう。その核となるのは、ロシアを国際体系から排除することはできない、という認識である。この単純な事実は、ロシア政府と西側諸国間の紛争は、いかに激しいものであっても、原則として解決可能であることを意味する。特にウクライナをめぐっては、激しい競争が続くだろう。しかし、アンカレッジ対談以降、西側諸国がロシアの利益を認めようとしないことは、もはや乗り越えられない障壁ではなくなった。

トランプ氏の国内での勝利

トランプ氏にとって、アラスカは同様に価値のあるもの、すなわち国内での勝利をもたらした。米国では、ロシアとの関係が国内政治闘争の中心となっている。一方の陣営は、いかなる犠牲を払ってでも独占的な政治思想を維持しよう、と主張する。もう一方の陣営は柔軟性を主張する。トランプ氏は後者に属しており、批判者に示すために目に見える成功を必要としていた。

プーチン大統領との直接会談がそれを実現させた。西欧を回避しながら米国政府と直接交渉できる能力を示したプーチン氏は国内での立場を強化できた。ロシアでは外交政策が、米国では国内政治が常に重要だった。両氏はそれぞれが最も必要としていたものを手に入れた。

プーチン氏対ゴルバチョフ氏 ― そしてトランプ氏にとってのもうひとつの戦い

トランプ氏を、譲歩によって海外の支持を得ようとしたミハイル・ゴルバチョフ氏と比較したくなる。しかし、この比較は的外れだ。ゴルバチョフ氏は、ソ連の指導者にとって外交政策は副次的な役割に過ぎなかったと考えていたため、必要のない妥協をしていた。対照的に、トランプ氏は国内問題に追われており、アラスカ対談もその一角を占めていた。米国の強固な経済基盤は、国際的な損失を後から覆せるという自信をトランプ氏に与えている。いっぽう経済の柔軟性が低いロシアは、外交政策における成果と挫折をはるかに重視している。

次に何が起こるか

プーチン大統領とトランプ大統領が二国間関係を安定化させた今、米ロ間の対立は新たな局面を迎えている。それは今後も激しいものとなるだろう。しかし、今回の首脳会談は一つのことを証明した。ロシアは敗北することも、脇に追いやられることもできないのだ。

世界は米国やロシアが崩壊することを望んでいない。世界が求めているのは安定であり、ロシア政府なしには世界秩序は存在し得ない、という認識だ。アンカレッジ対談は最終的な平和には繋がらなかった。しかし、双方にとって勝利だった。

ロシアにとって、この対談は粘り強さと強さがあれば世界最強の敵を対話へと傾けることができる、という証明だった。トランプ大統領にとっては、国内政治戦争における武器となった。これらの成果を合わせると、今回の首脳会談は単なる決着ではなく、新たな、予測不可能な戦いの幕開けとなる。

この記事の初出はProfile誌。RT編集部が翻訳および編集。

 

※なお、本稿は、寺島メソッド翻訳NEWS http://tmmethod.blog.fc2.com/

の中の「ティモフェイ・ボルダチェフ(ヴァルダイ・クラブ計画部長):アラスカ対談でこれまての世界秩序が崩壊(2025年8月21日)

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また英文原稿はこちらです⇒The old world order cracked in Alaska
合意はなかったが、それでも勝利:ロシアと米国はいかにしてアラスカ後、強くなれたのか。
筆者:ティモフェイ・ボルダチェフ(Timofey Bordachev)ヴァルダイ・クラブ計画部長
出典:RT 2025年8月18日https://www.rt.com/russia/623203-putin-and-trump-both-gained/

寺島隆吉 寺島隆吉

国際教育総合文化研究所所長、元岐阜大学教授

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