
☆寺島メソッド翻訳NEWS(2025年8月22日):個人が優秀になることを否定する欧米教育が学業の優秀さを終わらせた。
国際※元岐阜大学教授寺島隆吉先生による記号づけ英語教育法に則って開発された翻訳技術。大手メディアに載らない海外記事を翻訳し、紹介します。
ここ何十年も小学校に足を踏み入れていなかった私には、何か抜けているものがあるような気がしていた。 先日、工芸品祭を見るために母校の小学校を訪れた時のことだ。
「吹き抜けの壁に貼られていた、各年度で学業や運動で優秀な成績を残した児童の顔写真はみなどこへ行ってしまったのだろう?」と私は不思議に思った。90年代初頭の髪型の自分の写真を見て大笑いしたかったのに。それらの写真は取り外されたことがわかった。それはおそらく、カナダ国旗の上に、いくつかの先住民族の旗や虹色の旗が飾られるようになったのと同じ時にそうされたのだろう。
壁を飾っていた優秀児童たちの顔写真は集団で協力した証拠を示す賞状にとって代わられた。集団活動が重要視されているいっぽうで、個人の成功は箱詰めされて、皆から見えないようにされているようだった。 そんなことがあってはならないのだが、優秀な児童たちが存在するということだけで、児童たちの自尊感情が損なわれる、ということらしい。 個人的には、私は そこに飾られた優秀児童たちの顔つきが大好きだった。その写真のおかげで、小さな町で育つ子どもたちが頑張るきっかけになったし、町を出て何かでっかい事をやり遂げたい、という夢を持たせることにもなっていた。「わが校は優秀さを求めます」というのが当時、母校の長年守り続けてきた校訓だった。でも今、壁に貼られているのは、児童による意識調査の結果であり、それによると、75%の児童が、洗面所を使うことにさえ「不快感」を持っている、とのことだった。優秀さの追求の第一段階には、トイレの個室で何をすべきかを習得することも含まれているのだろうか、と考える人もいるのかも。
優秀者に賞品が贈られる、という時代から、いまや児童たちは、四六時中、自分たちに降りかかる泡から逃れる持ち運びできる安全な場所を確保しなければならなくなった。何もかもが危険を生じる可能性があるものとして認識されている。その中でも特に、何が優秀かを決める基準がそうなのだ。だからこそ、カナダの北海岸にあるブリティッシュ・コロンビア州全体が、数学や物理、化学、言語の標準テストの実施を中止したのだ。これらのテストの結果により、この州の全ての生徒の格付けや比較が可能となっていたのに、だ。 代わって実施されているのは、たった二科目のテストだ。つまり、一般的な読み書き能力と算数のみだ。
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高校の学年最終読み書きテストを例に出すと、このテストで取り上げられているのは、『不自由なインディアン』からの抜粋で、 冒険家のクリストファー・コロンブスの功績が過大評価されていることを示唆するものであり、以下のような問が付けられている。それは、「どの雑誌が、コロンブスのカリブ諸島上陸についての以下のような描写を載せる可能性が高いか?」というものだ。そしてその描写は、「この晴天や砂浜、紺碧の潟湖の全てを忘れないでいよう・・・」というものだ。与えられている雑誌の選択肢は?「歴史の年代記」か「新興企業」、「世界旅行」 、あるいは「よりよく生きる」だ。次に高校生たちはエッセイを使ってシェークスピアの古典作品を解釈したりするのかな?
もうひとつの問は、「どの発明品が工場労働者の心配を最もひきおこすだろうか?」というものだ。選択肢は、ユニメットという産業ロボットが登場し、「ゼネラル・モーターズの人間労働者にとって変わった」ユニメットという産業ロボットか、マサチューセッツ工科大学が開発した、感情表現を持つ知性ロボットのキスメットか、家の床を掃除してくれるルンバか、アマゾン社が出した仮想助手のアレクサか。ふむふむ、難しい質問だ。7歳の子どもにとっては、だが。でも大学に進学しようとしている高校生のための問題でない、と思いたいのが普通だろう。
これより教育課程でいうと2歳年下の生徒たちに対する問題例を見てみよう。数学的思考力を問うものとして、以下のような問が与えられている。「この(魚用)罠の大きさは、人々が捕らえようとしている魚の種類と大きさで決まる。円錐形の魚用罠を作るのには、以下のどの要因が最も重要となるだろうか?」。答えとしての選択肢のひとつはこちら。「川にいる魚と同じ大きさ」。こんな問題は、私たちが35年前、対象の生徒たちとほぼ同年齢だった時に受けていた数学の証明問題からはたしかにかけ離れている。今の標準は、「この子どもは、インフルエンサーとしての自身の仕事用の納税申告書の一行を頭がおかしくならないまま、埋めることができるかどうかになっているようだ。(予想される答え:おそらく無理。政府が出させる書類は、植民地主義的観点で出されているから。何と偏屈な答え!)
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2年前、この同じ州がほぼ14歳以下の児童生徒に対してABCによる評価を全て廃止した。A評価やD評価の代わりに、 教員が出来る評価は、当該児童が、「発達中、発達途上、熟達、進捗」でしかなくなっている。その根拠は? おそらく、児童生徒の欠点を強調したくない、ということだろう。実世界で児童生徒たちが自分たちの欠点に直面するのは、もっと大きくなってから自分の愚かさについて容赦なく非難されるときだろう。その時に、そんな嫌な体験をせずに済むようにもっと早く教えておいて欲しかった、と気づくことだろう。
フランスでは、同様の脱知識偏重教育体制を始めようとした取り組みが中途半端な結果を引き起こしている。マクロン大統領政権のもと、2019年、高校の数学の授業が完全に廃止された。しかしその結果はひどいもので、 2023・2024年度で復活された。
今年のフランスの高校生及び中学生向け最終標準試験は最近おこなわれたばかりだが、このことについて、フランスの報道機関がこの試験の採点者のために与えられた一連の指針を報じた。確認しておくが、この試験はフランスの将来のノーベル賞受賞者になるべきものたちのための試験である。指針の一つ目は綴り間違いや文法の間違いで減点しないこと。「大事なのは、綴りの決まりを守っているか、ではなく、文章の分かりやすさである」とフランスのRTL社の報道にある。
こんな回答でいい、ということかな?「Shur, whi not rite a sentins like this won, wear awl the wurdz sound rite but luk lyke they flunked owtta speling skool?” (分かりました。こんな感じで文を書いてもいいのですね。全ての単語が正しそうですが、これで綴りを教える学校に合格できますか?)」。合格できるだろう。国が定める基準に合致しているのだから。職場の新入社員がこんなメールを送ってきたら、どうします?
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おそらく採点者はさらに、動詞の活用を問われた生徒の間違いをゼロ点にしないように言われているのだろう。さらには、間違って書かれた同じ動詞の原形についても、だ。目の前にある動詞を答案者が間違えて書き換えてしまったありえないものについても、語根があっていたらゼロ点にはできない、とされているのだろう。 その間違いについては、満点から半分の点が引かれるだけのようだ。
哲学の最終試験では、「優勢」という単語の意味を説明するよう求められていた、というのも大学に進学しようとする子どもたちには、おそらくこの問題は難しすぎる、と考えられていたためだ、とRTL社は報じている。さらに同通信社の指摘によると、口頭試問の試験官は、学生が20分かけて準備した課題の発表を聞く際は、その生徒の発表の最後の方だけに焦点をおいて採点することになっていた、という。その理由は、生徒の緊張を考慮するため、とのことだった。
生徒の発表にはこんなものがあるかも、ないかも。
「Hai, my naym is Sam. I hav two bruthurs and wun sistur. We lyk to play soker togethur. My mum cuks gud fud and my dad lukes to wach mooviz wif us. I lyk drawin and playin vidyo gayms. Thansk for lisnin! Do I pas high skool now?”(やあ、僕の名前はサムです。兄弟が1人、姉妹が1人いるよ。一緒にサッカーするのが好きなんだ。ママは料理が上手で、パパは僕たちと映画を見るのが好き。僕は絵を描いたりゲームをするのが好きだよ。聞いてくれてありがとう。これで高校、合格できるかな?)」
はーい。評価は「秀の上!!」です。
西側のボケモンならぬ「ウォーク(意識高め)モン」教育界においては、日に日に、新しい発見に事欠かないようだ。事実よりも感情が重視され、綴りの正しさが2次的なものとされる世界においては、学校教育の「卒業生」が実生活において何を知っておかなければならないのか、どんなことを身につけておかなければならないのかは誰にも分からない。でも少なくとも、児童生徒たちの「安全空間」は、整えられるようだ。
※なお、本稿は、寺島メソッド翻訳NEWS http://tmmethod.blog.fc2.com/
の中の「個人が優秀になることを否定する欧米教育が学業の優秀さを終わらせた。」(2025年8月22日)
からの転載であることをお断りします。
また英文原稿はこちらです⇒Here’s why Western education is doomed
華々しい感情第一主義が学校教育において台頭するなか、学業の優秀さは崩壊している。
筆者:レイチェル・マースデン(Rachel Marsden)
特約寄稿者で政治戦略家、英語及び仏語での独立系報道機関制作の討論番組の司会者。
rachelmarsden.com
出典:RT 2025年7月31日https://www.rt.com/news/622319-safe-spaces-killed-education/