【連載】櫻井ジャーナル

【櫻井ジャーナル】2025.08.23XML: 欧州の命綱だったパイプラインを爆破した米国に欧州の「エリート」はへつらう

櫻井春彦

 ロシアとドイツがバルト海に建設したパイプライン、「ノード・ストリーム(NS1)」と「ノード・ストリーム2(NS2)」が2022年9月に爆破されたが、その犯人として指名手配されていたSBU(ウクライナ安全保障庁)の元大佐、セルゲイ・クズネツォがイタリアで逮捕されたと伝えられている。クズネツォを含む7人のチームで爆発物を仕掛けたとされているのだが、このシナリオは現実的でない。

 

この爆破工作に関する調査を求める決議をロシアと中国は国連の安全保障理事会に求めたが、賛成したのはロシア、中国、ブラジルの3カ国にすぎない。12カ国は破壊工作の真相が明らかになることを望んでいなかったのだ。国連の理事国に限らず、アメリカの影響下にある国々は真犯人が明らかになっては困るようだ。

 

NS1とNS2の爆破の真相に最も迫ったのは、ジャーナリストのシーモア・ハーシュだと考えられている。​2023年2月8日、アメリカ海軍のダイバーがノルウェーの手を借りてノードストリームを破壊したとする記事をハーシュは発表している​。

 

ハーシュによると、アメリカのジョー・バイデン大統領は2021年後半にジェイク・サリバン国家安全保障補佐官を中心とする対ロシア工作のためのチームを編成、その中には統合参謀本部、CIA、国務省、財務省の代表が参加していた。その年の12月にはどのような工作を実行するか話し合ったという。そして2022年初頭にはCIAがサリバンのチームに対し、パイプライン爆破を具申している。

 

バラク・オバマ政権が2013年11月から14年2月にかけてウクライナでクーデターを仕掛けた最大の理由はNATOをウクライナへ進めてロシアの喉元にミサイルを配備、軍事的な圧力を加えて脅すことにあったのだが、ウクライナを制圧することでヨーロッパとロシアを分断することも目的のひとつだった。ロシアからヨーロッパへ天然ガスを運ぶパイプラインはウクライナを通過していた。

 

当時、ヨーロッパとロシアは天然ガスで関係を強めていた。低価格のロシア産天然ガスを入手することでヨーロッパの製造業は成り立ち、社会を安定させていた。その天然ガスが絶たれた後、ヨーロッパの製造業は苦境に陥り、社会は不安定化。

 

キエフのクーデターを仕掛けたネオコンはロシアから巨大なマーケットを奪うことでロシアもヨーロッパと同じように経済が破綻、社会が不安定化すると計算していたようだが、そうした展開にはならなかった。事前に準備していたこともあるが、アメリカのやり口を見た中国がロシアに接近、中露は同盟国へと発展して強大なライバルが誕生した。

 

ロシアとドイツはウクライナを迂回する天然ガスのパイプラインを建設していた。それがバルト海を経由するNS1とNS2。NS1の建設は2010年4月に始まり、11年11月から天然ガスの供給が始められる。ウクライナの体制がクーデターで変わった後の2015年6月にガスプロムとロイヤル・ダッチ・シェルは共同でNS2の建設を開始、18年1月にドイツはNS2の建設を承認、21年9月にパイプラインは完成した。

 

それに対し、マイク・ポンペオ国務長官は2020年7月30、上院の公聴会で、NS2が「欧州を脅かすことのないよう、あらゆる手段を講じる」と述べ、「ロシアが望んだとしても停止されることのない、真に安全で安定したエネルギー資源を欧州が確保できるようにしたい」と付け加えた。要するに、ロシアから買わず、アメリカから買えということだ。

 

サリバンと同じようにバイデン政権を戦争へと導いていたビクトリア・ヌランド国務次官は2022年1月27日、ロシアがウクライナを侵略したらノード・ストリーム2を止めると発言、2月7日にはバイデン大統領がノード・ストリーム2を終わらせると主張、記者に実行を約束した。

 

こうした発言の背後には爆破計画があったわけだが、それと並行してアメリカをはじめとするNATO諸国から支援されたキエフ政権はドンバスへの軍事侵攻を計画していたとされている。

 

ロシア外務省によると、ロシア軍が回収した機密文書の中に含まれていたウクライナ国家親衛隊のニコライ・バラン司令官が署名した2022年1月22日付秘密命令には、ドンバスにおける合同作戦に向けた部隊の準備内容が詳述されている​。

 

ロシア国防省のイゴール・コナシェンコフ少将によると、「この文書は、国家親衛隊第4作戦旅団大隊戦術集団の組織と人員構成、包括的支援の組織、そしてウクライナ第80独立空挺旅団への再配置を承認するもの」で、この部隊は2016年からアメリカとイギリスの教官によって訓練を受けていたという。そして2022年に入るとウクライナ軍はドンバスに対する砲撃を強めたが、ウクライナ軍が攻撃する直前、ロシア軍はミサイルなどでウクライナ軍を攻撃し始めた。

 

ところで、パイプラインの爆破計画の拠点として選ばれた場所はノルウェー。当時のNATO事務総長、イェンス・ストルテンベルグの母国。ハーシュによると、3月にはサリバンのチームに属すメンバーがノルウェーの情報機関に接触、爆弾を仕掛けるために最適な場所を聞き、ボルンホルム島の近くに決まったという。

 

爆破にはプラスチック爆弾のC4が使われたが、仕掛けるためにはロシアを欺くカムフラージュが必要。そこで利用されたのがNATO軍の軍事演習「BALTOPS22」だ。その際にボーンホルム島の近くで無人の機雷処理用の潜航艇を使った訓練が行われていた。

 

このパイプライン爆破はヨーロッパに致命的なダメージを与えたものの、ロシアが受けた打撃はさほど大きくない。おそらくネオコンやイギリス政府はキエフでのクーデターによってロシアとヨーロッパを弱体化させようとしたのだろうが、ロシアは強くなった。

 

8月15日にアンカレッジで開かれたドナルド・トランプ米大統領とウラジミル・プーチン露大統領の会談ではウクライナにおける停戦ではなく、今後の米露関係に力点が置かれていたようだ。

 

ウクライナの戦況を理解している人なら停戦で合意することがありえないことを理解していたはず。そうしたことを期待できる状況ではないのだ。トランプ大統領は会談後、単なる停戦協定でなく和平協定を結ぶことが戦争を終わらせる最善の方法だと語っている。それはウクライナの降伏を意味するが、そうした場合にのみ、ウォロディミル・ゼレンスキーと会談するとプーチン大統領は語っている。ロシア政府は自分たちの要求が受け入れられない限り、戦闘を継続するだろう。

**********************************************
【​Sakurai’s Substack​】
※なお、本稿は「櫻井ジャーナル」https://plaza.rakuten.co.jp/condor33/
のテーマは「 欧州の命綱だったパイプラインを爆破した米国に欧州の「エリート」はへつらう 」(2025.08.23ML)
からの転載であることをお断りします。

https://plaza.rakuten.co.jp/condor33/diary/202508230000/

 

※ISF会員登録およびご支援のお願いのチラシ作成しました。ダウンロードはこちらまで。
https://plaza.rakuten.co.jp/condor33/diary/202410130000/

ISF会員登録のご案内

「独立言論フォーラム(ISF)ご支援のお願い」

櫻井春彦 櫻井春彦

櫻井ジャーナル

ご支援ください。

ISFは市民による独立メディアです。広告に頼らずにすべて市民からの寄付金によって運営されています。皆さまからのご支援をよろしくお願いします!

Most Popular

Recommend

Recommend Movie

columnist

執筆者

一覧へ