【連載】櫻井ジャーナル

【櫻井ジャーナル】2025.08.26XML : 米英金融資本は中露を破壊する「自爆兵器」として日本や欧州を利用している

櫻井春彦

 ヨーロッパ経済を牽引してきたドイツの製造業が破綻しつつある。例えば、​大手自動車メーカーのフォルクスワーゲンでは昨年10月、経営者が従業員代表に対し、ドイツ国内の少なくとも3工場を閉鎖する意向を伝えた​。また大手化学/製薬会社のバイエルはフランクフルト・ヘキスト工業団地の工場を閉鎖、労働者500名を解雇すると伝えれている。ドルマーゲン工場でも200名の人員削減が計画されているという。

 

経済が失速したドイツにおける今年4月の倒産は個人と法人を合わせて1626件に達し、ハレ経済研究所(IWH)によると、この数値は2008年から09年にかけて世界を揺るがした金融危機の当時を上回り、2005年7月以来だ。

 

こうした状況に陥った直接的な原因は、ドイツの製造業を支えていた安価なロシア産天然ガスを入手できなくなったことにある。その天然ガスを運んでいたパイプラインが通過していたウクライナでアメリカのバラク・オバマ政権がクーデターを仕掛けた上、ウクライナを迂回し、バルト海を経由して運ぶために建設しされたパイプライン、「ノードストリーム(NS1)」と「ノードストリーム2(NS2)」が2022年9月26日から27日にかけての間に破壊された。

ドナルド・トランプ政権下の2020年7月には国務長官のマイク・ポンペオがNS2を止めるためにあらゆることを実行すると発言、2021年1月に大統領がジョー・バイデンに交代したあとの22年1月27日にビクトリア・ヌランド国務次官はロシアがウクライナを侵略したらNS2を止めると発言、同年2月7日にはジョー・バイデン大統領がNS2を終わらせると記者に約束していた。

 

ジャーナリストの​シーモア・ハーシュによると、アメリカ海軍のダイバーがノルウェーの手を借りてノードストリームを破壊した​という。アメリカのジョー・バイデン大統領は2021年後半にジェイク・サリバン国家安全保障補佐官を中心とする対ロシア工作のためのチームを編成、その中には統合参謀本部、CIA、国務省、そして財務省の代表が参加してい他としている。12月にはどのような工作を実行するか話し合ったという。そして2022年初頭にはCIAがサリバンのチームに対し、パイプライン爆破を具申している。ロシアがウクライナに対する攻撃を始める前の話である。

 

つまり、ドイツをはじめとするヨーロッパにおける経済を破壊したのはアメリカ政府なのだが、EUの「エリート」たちはアメリカ政府の政策に従っている。アメリカやイギリスの金融資本を中心に築かれた支配システムの手先として個人的な富と名声を手に入れたヨーロッパの「エリート」たちは自分の国やヨーロッパの破壊を厭わない。そうしなければ彼らは破滅するからだ。

 

国民の怒りが彼らの支配者へ向かないように敵役を作り上げ、そこへ怒りが向かうように有力メディアは仕向ける。その敵役は米英金融資本のライバルであるロシア、中国、イランなど。世界的に見るとその手口は通用しなくなってきたのだが、日本に対しては今でも有効なようだ。

 

米英金融資本の利益を増大させるために活動してきたネオコン(新保守)はシオニストの一派で、ジェラルド・フォード政権で台頭した。言うまでもなく、フォードはリチャード・ニクソンの失脚を受け、副大統領から昇格した人物だ。

 

1980年代にはイラクのサダム・フセイン体制をどのように評価するかで石油資本と結びつきの強い旧保守勢力とネオコンは対立した。旧保守に属していたジョージ・H・W・ブッシュ大統領は1990年8月から91年3月にかけての湾岸戦争を戦い、イラクを叩くが、フセイン体制を破壊しなかった。そこでネオコンは激怒するのだが、その際にソ連が出てこなかったことからネオコンは自分たち勝手気ままに軍事力を行使できるという考えを強めた。

 

そのソ連は1991年12月に消滅、92年2月にアメリカの国防総省は新たな軍事戦略DPG(国防計画指針)の草案を作成した。作成の中心は国防次官を務めていたポール・ウォルフォウィッツだったことから、この文書は「ウォルフォウィッツ・ドクトリン」とも呼ばれている。

ソ連の消滅でアメリカは唯一の超大国になったとネオコンは確信、世界制覇戦争を始めようというわけだが、そのドクトリンにはドイツと日本をアメリカ主導の集団安全保障体制に統合し、民主的な「平和地帯」を創設すると書かれている。要するに、ドイツと日本をアメリカの戦争マシーンに組み込み、アメリカの支配地域を広げるということだ。

 

また、旧ソ連の領土内であろうとなかろうと、かつてソ連がもたらした脅威と同程度の脅威をもたらす新たなライバルが再び出現するのを防ぐことが彼らの目的だともしている。西ヨーロッパ、東アジア、そしてエネルギー資源のある西南アジアが成長することを許さないということだが、東アジアには中国だけでなく日本も含まれている。

 

1990年代以降、日本の経済が衰退、社会が疲弊する一方、軍事力の増強が顕著だが、そのベースにはウォルフォウィッツ・ドクトリンがあると言える。消費税(付加価値税)が日本に導入された1989年4月はソ連の消滅が見通されていた頃。日本社会を破壊する工作は1970年代から始まってはいたが、消費税の導入は大きな出来事だ。この税金は大手輸出企業に大きな利益をもたらすが、日本の社会システムを破壊し、大多数の国民を苦しめる。日本の破壊を大企業に推進させるということにほかならない。こうした悪い影響はさまざまな人が指摘しているが、それこそが導入の目的だったと言える。

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