
【櫻井ジャーナル】2025.08.28XML : イスラエルの首相から恫喝された豪首相はイラン大使に国外へ退去するように命令
国際政治欧米諸国の支援を受けてガザの住民を大量虐殺しているイスラエルを非難する声が世界的に高まっている。オーストラリアもそうした国のひとつだが、そのオーストラリアの政府は駐豪イラン大使のアフマド・サデギと3名の同僚に対し、反ユダヤ主義的な放火事件を画策したとして7日以内に国外へ退去するよう8月26日に命じた。
アンソニー・アルバニージ豪首相は8月17日、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相から手紙を受け取っている。アルバニージ政権によるパレスチナ国家承認の決定はオーストラリア国内に蔓延する反ユダヤ主義を煽ると批判、6月にメルボルンのシナゴーグが破壊され、7月にもユダヤ人が標的になったと指摘し、ユダヤ暦の新年である2025年9月23日までに政策をかえろと要求している。ガザでの大量虐殺に抗議する人びとを厳しく取り締まることも求めているのだろう。
ところで、オーストラリアにはASIOのほか、対外情報機関のASISや電子技術を利用して情報を収集するDSD、またJIOはアメリカの情報機関CIAの分析部門の下部機関として機能している。
DSDはアメリカのNSAとイギリスのGCHQを中心に組織されたアングロ・サクソン系情報機関の連合体であるUKUSAに含まれているが、米英の情報機関と同格ではない。NSAとGCHQの下部機関としてオーストラリア政府の動向も監視している。
オーストラリアの情報機関は国外でもアメリカの支持で動いているのだが、1972年12月月の総選挙で勝利、首相に就任したゴウ・ウイットラムはASISに対し、CIAとの協力関係を断つように命令、アメリカの情報機関は危機感を募らせた。(David Leigh, “The Wilson Plot,” Pantheon, 1988)
ウィットラム政権の司法長官は1973年3月、情報を政府に隠しているという理由でASIOのオフィスを捜索、翌年8月には情報機関を調査するための委員会を設置している。(前掲書)
アメリカは国家安全保障大統領補佐官を務めていたヘンリー・キッシンジャーの指揮下、CIAの破壊工作部門がオーグスト・ピノチェトを利用したクーデターでサルバドール・アジェンデ政権を倒したが、この工作でもASISはCIAに協力していた。
また、オーストラリアのパイン・ギャップにはCIAの通信傍受施設があり、1976年までに秘密協定を更新しないと基地を閉鎖しなければならなかった。その重大な時期の首相がウィットラム。彼が更新を拒否することをアメリカ側は懸念した。
そこでCIAは1975年11月、イギリス女王エリザベス2世の総督であるジョン・カー卿を動かしてウイットラム首相を解任した。総督は名誉職だと考えられていたが、そうではなかったのである。
アメリカのジャーナリスト、ジョナサン・ウイットニーによると、カーは第2次世界大戦中の1944年、オーストラリア政府の命令でアメリカへ派遣されてCIAの前身であるOSS(戦略事務局)と一緒に仕事をしている。大戦後はCIAときわめて深い関係にあった。(Jonathan Kwitny, “The Crimes of Patriots,” Norton, 1987)
これがオーストラリアの実態。この国の政府はアメリカ、イギリス、この2カ国と緊密な関係にあるイスラエルの命令に従わざるをえないのだが、今回、イラン大使を追放したのはイスラエルの対イラン攻撃が迫っているからだという見方がある。
イスラエル軍は6月13日にイランをミサイルとドローンで攻撃した。相当数はイラン国内から発射され、イラン軍のモハンマド・バゲリ参謀総長や革命防衛隊(IRGC)のホセイン・サラミ司令官を含む軍幹部、さらに少なからぬ核科学者を殺害、その直後、アメリカのドナルド・トランプ大統領はその攻撃を「素晴らしい」と表現した。
これでイランは屈服すると考えていたのかもしれないが、間もなくしてイランは報復攻撃を開始、テルアビブやハイファといったイスラエルの都市がイランのミサイル攻撃を受け、ビルが破壊された。ネゲブ砂漠にあり、F-15戦闘機とF-35戦闘機の大半が配備されているネバティム空軍基地をはじめとする軍事基地、あるいはイスラエル軍のアマン情報本部が破壊され、同時にモサドの本部にも命中。軍事研究の中枢であるワイツマン科学研究所も壊滅的な被害を受けた。またイランはイスラエルの兵器企業「ラファエル」への攻撃にも成功し、ハイファの港湾施設も大きな被害を受けた。
イランの攻撃がイスラエルや欧米諸国の予想を上回り、イスラエルやアメリカのミサイルが足りなくなったところで停戦になったが、続けていたならイスラエルは数日、あるいは数週間以内に崩壊していたと言われていたが、イランは停戦に応じた。宗教的な理由からだと言われているが、イランのアッバース・アラグチ外相は最近、「もし侵略が繰り返されるならば、われわれは躊躇することなく、より断固とした方法で、そして隠蔽不可能な方法で対応する」とXに投稿している。
イスラエルとアメリカがイランを攻撃する準備ができたと判断すれば攻撃すると推測されている。国内で追い詰められているネタニヤフは攻撃のタイミングを早めるかもしれないが、攻撃する場合、アメリカ軍をイランとの全面戦争に巻き込まなければならない。
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