【連載】今週の寺島メソッド翻訳NEWS

☆寺島メソッド翻訳NEWS(2025年8月28日):欧米の優秀大学は、質の高い教育ではなく、英国領インドを彷彿とさせる教育制度を育んでいる。

寺島隆吉

※元岐阜大学教授寺島隆吉先生による記号づけ英語教育法に則って開発された翻訳技術。大手メディアに載らない海外記事を翻訳し、紹介します。

1_20250828100036ed9.jpg
© Getty Images/Rattankun Thongbun

国家安全上の懸念を理由に、米国のドナルド・トランプ大統領は他国からの留学生のハーバー大学への入学を禁じた。

この動きにより学会や他国政府からの非難の声が広がり、米国の国際的な影響力や学問の開放を害する可能性がある、との警告を受けている。危機に瀕しているのは、ハーバード大学の世界的な影響力だけではなく、学会における開かれた交流という前提だ。この前提が、米国の先鋭的な高等教育を長年定義するものであり続けてきたからだ。

しかし、そもそもハーバード大学に入学する過程はどれだけ「開かれている」のだろうか?毎年、高い能力をもった生徒、その多くがSAT(大学進学適性検査)やGMAT(経営学大学院入学検査)で一流の点数を取っている生徒でさえ、入学が拒まれているのに、落とされた説明がほとんどない。 批判する人々は、この名高いアイビー・リーグに属した名門大学という銘柄が、不透明な親族優遇措置やDEI(多様性・平等性・包括性)政策によるゆがみ、地政学的な利益、さらにはむき出しの賄賂に汚されているのでは、と主張している。例えば、ジョージ・ソロスは以前、10億ドルの投資を約束して、彼のオープン・ソサエティ財団の意に沿うような劣等生をこの優秀な大学に入学させようとしていた。

中国がトランプのこの政策にすぐに批判したことは、この議論について一連の地政学的な皮肉を付け加えることになった。なぜ中国政府が、中米が激しい貿易戦争をしているさなか、「米国の国際的立場」に懸念を表明する必要がある、というのか。米国の大学の国際的立場については、ウォーク派の精神病のせいで、すでに汚されているのに。そしてこの精神病は、政府の全ての機関にガンのように広まっているのだ。

では、最近中国から出されたこの不満の裏には何があるのだろうか?その答えはソフトパワーに関する語られることのない決まりの中にあるのかもしれない。アイビー・リーグの大学の構内は影響力を求める戦場なのだ。米国のディープ・ステイトは海外留学生を利用して、自分たちの利益を海外にまで促進しようとしてきた。そしてその資金には少なからぬ米国民の血税が充てられてきた。おそらく中国も同じようなことをやっており、米国の優秀諸大学をテコにして、将来の自国の指導者たちを、地政学的戦略の囲いの中に取り込もうとしているのだ。

2_20250828100146136.jpg
関連記事:Trump bans Harvard from admitting foreign students

当座のところ、裁判官がハーバード大学側の要求を受け入れ、トランプが課した禁止令を一時的に保留にしている。今後どうなるかは分からないが、すべての側がこの騒ぎの中で避けたいと思っている共通の解決方法がある。それは、アイビー・リーグの諸大学への入学に関わる道筋を一般の人々の調査の対象にしないことだ。 開かれた国境や開かれた社会、全てが開かれていることを標榜しているこれらの教育機関が、自学への入学の道筋について明らかにすることは、少しの仄めかしさえ許そうとしていないのだ。明らかにしてしまえば、国際的な腐敗が明らかになるというパンドラの箱を開けることになり、今の世界各国を体系的に破壊することになってしまうだろう。

腐敗といえば、触れざるを得ない皮肉な話がある。意思決定と不正行為の研究で自身の経歴を打ち立ててきたハーバード大学の花形女性教授がついこの間解雇され、在職期間を反故にされたが、それは自身のその研究において、嘘の数値をでっち上げていたからだった。

富と卒業生の人脈の集中

アイビー・リーグには、富の蓄積と教育の不均等を永続させることにおいて既得権を有している。
それこそが、これらの諸大学が、他の資金力に欠ける大学を犠牲にして、世界大学格付けで上位を維持し続けられている唯一の手段なのだ。

ハーバード大学やスタンフォード大学、マサチューセッツ工科大学などの優秀大学は、超富裕層の卒業生(純資産3000万ドル以上)が最も多い教育機関として君臨している。例えば、ハーバード大学だけでも、1万8000人の超富裕純資産家の卒業生がおり、この数は世界の超富裕層資産家のうちの4%を占める。

母校への入学手続きが、卒業生が望むように操作されているのだとしたら、卒業生は金を出す以外の選択肢はないだろう。少なくとも自分の子どものためには。そしてその子どもゆくゆくはこの特権的な循環を長続きさせることになるのだ。

プリンストン大学の総寄付金は、2024年で341億ドル、学生一人あたり371万ドルに上っており、豊富な金融支援や最先端の施設の設置が可能となっている。こんな金額であれば、あまり有名でない大学は太刀打ちできない。

3_20250828100217987.jpg
関連記事:Harvard defends ‘core principles’ against Trump threats

大学格付けと汚職、不吉な流れ

世界の大学の格付け機関 (QSやTHEなど)は、寄付金の規模が大きい大学や学生一人あたりの支出が高い大学、学生全体が裕福な大学を厚遇している。例えば、「米国ニュース及びワールドレポート最良大学」が選ぶ米国の上位50大学は、寄付金を最ももらっていることを自慢している大学や上位1%の富裕層の家庭出身の学生の割合が最も高い大学と重なっている。

「社会流動性指標(SMI)」によると、格付けを上げるためには、何千万ドルもの年間支出が必要となり、授業料の値上げや格差の拡大が伴わねばならない、とのことだ。格付けの低い大学は、授業料を抑えたり、交通の便の良さを優先したりしているのだが、これらの大学は伝統的な格付け機関から、影が薄い評価を出されることが多く、社会に与える影響力よりも富の方が優先される状況が浮き彫りになっている。さらに昨今、社会的地位の向上の有無はその人の生まれにかかっている。これは世界の富の格差が、取り返しがつかないほど広がっている中でのことだ。

さらに悪いことに、世界の大学格付け体制自体が、汚職により栄えている事実がある。大学が調査を不正利用し、基礎情報を水増しし、調査者に賄賂を渡すこともあるようだ。東南アジアのディプロマ・ミルの例を見てみよう。最初に入学した女子学生たちの中に売春行為により逮捕されたものがいた。学問的誠実さが明らかに不足しているにもかかわらず、この大学はQSによる世界大学格付けで、急速に異常に高い結果を手にし、レオナルド・ダ・ビンチが学び、3人のノーベル賞受賞者を出したイタリアのパヴィーア大学よりも上に格付けされた。

これまでの功績が全く逆転するようなこんなおかしな格付けに意味があるのだろうか?

政府の政策においては、ますます優秀大学が厚遇されつつある。先日、ホワイトハウスが、税金の削減や規制緩和を発表したが、この政策により企業と連携した大学が利益を得ることになり、格差はますます広がることになる可能性がある。そのいっぽうで、他の大学への公的資金投入は減らされている。この動きを歓迎していたのは主にアイビー・リーグの大学であった。それを止めたのがトランプによるハーバード大学への攻撃だった。

このような不吉な兆候が見えるなかで、2030年までに世界の教育分野において発生するであろう爆発について身構えておかないといけない。この爆発は2008年におこった金融危機を彷彿とさせるものだが、それよりも大きな影響が出ることになるだろう。そして2008年の金融危機について言えば、「このすべての金融大災害の裏にはハーバード大学の経済学者がいる」といった人がいたことを覚えておられる人はいるだろうか?

前回の思わぬ大惨事から学んだ人は誰もいないようだ。言わせてもらえば、「学び」とはアイビー・リーグという銘柄にしがみついた人たちが偶然もらえるものにすぎないのだから。

4_20250828100314d51.jpg
関連記事: White House halts new grants for Harvard

学力偏重主義という罠

リーマン・ブラザーズとその下部会社が2008年に破綻したとき、シンガポールを拠点とする多くの企業が、これらの会社をクビにされた重役らを熱心に拾い上げた。その根拠は?失敗した人が出世する、ということか。

これらの身代わりの早い人々に本当に才能があったのだとしたら、なぜ、世界大恐慌以来最悪の経済崩壊に向かっている際の警告的なあきらかな兆候を見て取れなかったというのか?その答えは、学歴偏重主義を崇拝する集団やいつでも支援してもらえるという体制の中にある。アイビー・リーグの大学の経営学修士や中央銀行員とのコネという人脈の中にそのすべての問題があるのだ。その結果は大惨事しか引き起こさない。世界的な人材不足が止められなくなっているなか、2030年には含み益年度収益でいうと8兆4520億ドルの損失に達することになるとされている。これは同年のインドの予想GDP以上の額だ。

アイビー・リーグの大学の経営学修士は、自身の関わりを正当化するために、簡単な作業を面倒なお役所仕事に変えることで複雑化することがよくある。そしてその際に使われる口実は、効率や機敏な体系、進化し続ける「最善の実践」などだ。その結果、どうなった?医師たちは患者の治療よりも書類仕事に多くの時間を割かれ、教員たちは山積みの行政上の仕事を与えられ、虐待を受けている。

結局のところ、アイビー・リーグの大学の専門技術者たちの役割は、公共団体に大きく寄生することであり、市民や個人所有の富を吸いあげ、特権階級の手に回すことしかない。これらの大学が世界に遺産として残すのは、いったいどんな普遍的な社会経済の型なのだろうか?この先の見通しの手がかりとして、私が考えつく歴史上の唯一の例は、植民地時代のインド、別名英領インドだ。誇張と思われる方もおられるだろうか、まあ聞いて欲しい。

英領インドからの教訓

英国の歴史家ノーマン・デイヴィスの指摘のとおり、オーストリア・ハンガリー帝国がプラハを抑えるのに必要だった官僚の数よりも、英国が植民地インドを統治するのに必要な官僚は少なかったのだ。当時のインド亜大陸は、今のパキスタンとバングラディシュも含まれていた。実際、第一次世界大戦まで、植民地インドを統治していたのは1500人あまりの白人のインド高等文官(ICS)だけだった。

理解に苦しむ事実だが、英国とインド社会が硬直した階級(とカースト)制度により形作られていたことを考えれば、そうおかしな話でもない。両国の腐敗した封建制度が相まれば、その後の顛末は、暗黒世界の青写真となる。

インドはこの新封建主義という風潮から回復することはなかった。私が誇張しているのでは、と思われる読者の方に申し上げるが、1850年から(文化大革命が公式に終了した)1976年のあいだの、英領インドと中国の状況を比較してみよう。その間、中国は無数の社会的挫折に耐えてきた、反乱や基金、疫病の流行、不法行為、そして世界大戦だ。その結果、合わせて約1億5000万人の中国人が亡くなった。太平天国の乱という、歴史上最も破壊的だった内戦だけでも、2000万~3000万人が亡くなった。これは当時の中国の人口の5~10%にあたる。

5_20250828100520db6.jpg
関連記事: AI hallucinations: A budding sentience or a global embarrassment?

同時期のインドと大まかな比較をおこなうと、インド側の死者数は総計5000万~7000万であり、その多くは感染病の蔓延や飢饉によるものだった。さらに植民地インドとは違い、中国の多くの地方は中央政権の統治下にはなかった。

インドの国家主義者たちなら即座に、自分たちの社会がずるずると落ち込んでいった容疑者として多くの悪者を責め立てることだろう。だが、まず自問すべきことは、上位カーストに属するヒンドゥー教徒が最高経営責任者をつとめる米国の巨大IT企業が所有する通信社が、先日のインド・パキスタン間の軍事衝突に関して、決定的に親パキスタン的立場を示すことがなぜ少なくないのか、についてだ。これらの最高経営責任者たちは、英領インド時代の前任者たちとまったく同様に、国民に背を向けた売国奴なのだろうか?彼らは公共領域(すなわちインターネット)の良き管理者であったのだろうか?彼らは外国において実力主義を推進してきたのだろうか?(具体的な事例はこちらこちらこちらで確認できる)。

しかしこれらのインドの巨大IT諸会社はCovid-19の世界的流行の際には、熱心で主導的な姿勢を示し、自社の従業員にワクチンを打たせ、打たない従業員は解雇していた。これらの企業は「世界的流行の対応に関する国際対策委員会」の裏で主導的な役割を果たし、その中には「企業部門による前例のない主導のもとCovid-19との戦いにおいてインドを成功裡に援助」することも含まれていた。ここに信頼の置ける「専門家」として上げられているものを確認いただきたい。このような使命はインドの疫学者や医療専門家の手に任すべきではないのだろうか?覇権者に奉仕するほんの一握りの人々のみが残り数十億人の国民の運命を握っている。インドにおける収入の不平等は、英国による支配を受けていた時代よりも悪化している。

出口は?

世界の大学の格差がよりいっそう拡がるなか、教育界の機会均等の実現にむけた新たな方策を考える次期に来ているのではないだろうか。それは、不安定な2025年から2030年という期間に、多くの実在する大学がつぶれる可能性がある中での話だ。

教育に人工知能を使うことについては、私は楽観的に見ている。教育の機会均等に繋がる可能性があるからだ。同時に危惧しているのは、巨大IT企業が政府に自社の教育技術製品を使わせようとしないか、という点だ。その製品が人工知能による幻想という暴走を引き起こす兆候が既に見られているのに、だ。私がそう危惧する理由は、この大胆な新世界は、励ますことではなく、支配と力によって成り立つものだからだ。そう、英領インドと同じく。

 

※なお、本稿は、寺島メソッド翻訳NEWS http://tmmethod.blog.fc2.com/

の中の「欧米の優秀大学は、質の高い教育ではなく、英国領インドを彷彿とさせる教育制度を育んでいる。(2025年8月28日)

http://tmmethod.blog.fc2.com/

からの転載であることをお断りします。

また英文原稿はこちらです⇒Elite Western universities form a corrupt and parasitic empire
これらの教育機関が育成しているのは、高品質の教育ではなく、英領インドを彷彿とさせる国際的な新封建体制である。
筆者:マシュー・マーバク博士(Dr. Mathew Maavak)
システム科学や国際危機、地政学、戦略的予見、統治、人工知能についての研究者 drmathewmaavak.substack.com
出典:RT 2025年5月30日https://www.rt.com/news/618349-elite-universities-corrupt-empire/

寺島隆吉 寺島隆吉

国際教育総合文化研究所所長、元岐阜大学教授

ご支援ください。

ISFは市民による独立メディアです。広告に頼らずにすべて市民からの寄付金によって運営されています。皆さまからのご支援をよろしくお願いします!

Most Popular

Recommend

Recommend Movie

columnist

執筆者

一覧へ