
【櫻井ジャーナル】2025.09.02XML: 舌先三寸でロシアを騙せると高を括っていた欧州の好戦派は自暴自棄
国際政治ロシアは目的を達成するまでウクライナでの戦闘を止めないと推測されていたが、常識通りの展開になっている。西側諸国はロシアを舌先三寸で騙し、停戦に持ち込んで時間を稼いで戦力を回復させ、あわよくばNATO諸国の軍隊をウクライナへ入れようとしていたが、その目論見は外れた。おそらくインドや中国への配慮で話し合いには応じる姿勢を見せているものの、ロシアは妥協しないはずだ。
これまでNATO諸国の好戦派は「核戦争を恐れるな」とか、「核兵器をひとつ落とせばロシアは屈服する」といったハッタリを口にしてきたが、アメリカ欧州アフリカ陸軍のクリストファー・ドナヒュー司令官はカリーニングラードを制圧のための計画を策定すると公言している。すでに兵器が枯渇しているNATO諸国がカリーニングラードをどのように制圧するのか不明だが、勿論、ロシアが傍観するはずはない。
1991年12月にソ連が消滅して以降、ネオコンをはじめとする新世代の好戦派はソ連との約束を無視してNATOを東へ拡大させてきた。これはバルバロッサ作戦の再現にほかならない。ウクライナを支配下に置くため、ネオコンたちは2004から05年にかけて「オレンジ革命」、そして2013年11月から14年2月にかけてネオ・ナチのクーデターを実行したわけである。彼らの誤算は、オレンジ革命もクーデターもウクライナを完全に征服することができなかったことだ。現在の戦闘はそうした計算違いから始まったと考える人もいるだろうが、そもそも、その計算自体が間違っていた。
誤算を認めたくないのか、ロシア征服を仕掛けた勢力はウクライナの敗北が決定的になる中、自分たちが前面に出ざるをえなくなってきた。その結果、NATO諸国は傭兵を送り込むだけでなく、自国の将兵や技術者を派遣、死傷者を増やしている。
ウクライナでの戦闘でロシアが勝利したことを認識しているアメリカはウクライナから離れようとしているが、イギリス、フランス、ドイツをはじめとするヨーロッパ諸国はロシアとの戦争にのめり込んでいる。そこでロシアはNATOと戦うと腹を括ったようで、ヨーロッパ諸国の部隊を攻撃するようになった。
例えば、ロシアのFSB(連邦保安庁)はドイツが資金を出した戦術弾道ミサイル「サプサン」とミサイルの発射装置を製造する工場を破壊、その際にドイツの技術者が死亡している。
その1週間後には、ドニプロペトロウシクのパウロフラード(パブログラード)にあり、射程距離3000キロメートルという巡航ミサイルの「フラミンゴ」を組み立てていた工場をロシア軍は破壊、その時にはイギリスの技術者が死亡している。フラミンゴを保管していた兵器庫も破壊された。
8月2日には、オチャコフでロシアのスペツナズ(特殊部隊)がオチャコフでイギリス陸軍のエドワード・ブレイク大佐とリチャード・キャロル中佐、そしてイギリスの対外情報機関MI-6の工作員ひとりを拘束したと報道されている。
ところで、ウィンストン・チャーチルの側近でNATOの初代事務総長になったヘイスティング・イスメイはNATO創設の目的について、ソ連をヨーロッパから締め出し、アメリカを引き入れ、ドイツを押さえつけることにあるとしていた。ソ連からの攻撃に備えるためではないということを認めているのだが、実態はヨーロッパを支配する仕組みだった。
第2次世界大戦でドイツと戦った国は事実上、ソ連のみ。西部戦線で戦っていたのはレジスタンスだった。その一方、ナチスが支配するドイツはアメリカやイギリスの金融機関が資金面から支えていた。
大戦の終盤からアレン・ダレスをはじめとするウォール街人脈はフランクリン・ルーズベルト大統領には無断でナチスの高官や協力者を逃亡させ、さらに保護、訓練、雇用している。サンライズ作戦、ラットライン、ブラッドストーン作戦、ペーパークリップ作戦などだ。こうした工作ができた理由のひとつは、ルーズベルトが1945年4月12日に急死したことにある。
イギリスとアメリカの支配層はヨーロッパを統合するため、1948年にACUE(ヨーロッパ連合に関するアメリカ委員会)を設置、翌年の4月にはNATO(北大西洋条約機構)を創設した。
その時期、米英の支配層が警戒していたのはドイツと戦ったレジスタンスのメンバー。この抵抗運動の参加者はコミュニストが多かったが、そうでない人もいた。そのひとりがシャルル・ド・ゴール。大戦後、彼が命を狙われたのはそのためだ。ド・ゴールはNATOの軍事組織からフランスを離脱させ、本部を追い出した。
大戦中、レジスタンス対策で米英はゲリラ組織ジェドバラを創設したが、戦後、その人脈はアメリカの軍や情報機関へ入り込む一方、NATOへも潜り込み、その人脈は1951年からCPC(秘密計画委員会)の下で活動するようになる。1957年にはCPCの下部組織としてACC(連合軍秘密委員会)が創設された。
この委員会を通じてアメリカのCIAやイギリスのMI-6はNATO内に設置された秘密部隊のネットワークを操る。そのネットワークの中で特に有名な組織がイタリアのグラディオだ。
秘密部隊は全てのNATO加盟国に設置され、それぞれ固有の名称がつけられている。イタリアのグラディオは有名だが、そのほかデンマークはアブサロン、ノルウェーはROC、ベルギーはSDRA8といった具合。このネットワークは現在も存在していると見られている。
このネットワークを作った勢力は遅くとも1992年にロシアを征服するプロジェクトを始めた。第2期目のビル・クリントン政権にしろ、ジョージ・W・ブッシュ政権にしろ、バラク・オバマ政権にしろ、このプロジェクトに基づいて動いている。選挙期間中、ロシアとの関係修復を訴えていたドナルド・トランプだが、やはりこの流れから逃れることはできなかった。そしてジョー・バイデンはルビコンを渡った。彼らはロシアとの戦争を止めることができない。
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