
☆寺島メソッド翻訳NEWS(2025年9月2日):ガザ地区の「飢餓による絶滅戦術、民族浄化作戦」はなぜ特別なのか。 世界中の「飢餓危機」と呼ばれている他の国・地域と何が違うのか 。
国際※元岐阜大学教授寺島隆吉先生による記号づけ英語教育法に則って開発された翻訳技術。大手メディアに載らない海外記事を翻訳し、紹介します。
もう何ヶ月も続いていることなのだが、疑問を挟む余地が全くないのは、イスラエル政府やイスラエル軍、イスラエルの政界や社会の一部が、外国の支援者や扇動者と一緒になって、意図的にガザ地区の人々を飢えさせている、という事実だ。その目論見は、ガザ地区の人々を逃走させるか、凄惨な状況に直面させ、最終的には苦しみながら死なせるかのどちらかに追い込む、というものだ。さかのぼること2023年の時点からその様な恣意的な意図があったことを示す明確な証拠が残っている。この証拠は明らかにこの行為が大量虐殺行為という犯罪であることを示すものだ。
「イスラエルの保護者」という立場に立つものは、すぐにこう主張することだろう。「実際、ガザ地区で食料支援活動はおこなわれている」と。, しかし、飢餓についての歴史かつ援助の専門家である英国の人類学者アレックス・デ・ワール氏が、ガーディアン紙に載せた力強い記事の中で示したとおり、「イスラエルの食糧配布地点は単なる死の罠ではない。それは口実でもある・・・。『ガザ人道基金』体制は、池の縁に立って(植えた)魚にパンくずを投げて餌付けしているのと同じようなものだ。そんな食糧を食べようとする人がいるだろうか?」だ。食糧を空から投下する行為も、同じ行為の繰り返しにすぎない。
つまり、飢餓を使った民族浄化政策なのだ。
政治的武器としての基金に関心のある方は、この件に関するデ・ワール氏の筆による恐ろしい歴史を調べられてはいかがだろうか?
デ・ワール氏が示してくれたとおり、意図的な飢饉については、ポーランドのラファエル・レムキン氏が初めておこなったジェノサイドについての議論の中心だった。この議論は1940年代にナチによるポーランド占領を受けて出されたものだったのだが、20世紀にあった過去の恐怖として、われわれの理解からは薄れていた。
私はアジアのことについて触れてからこの記事を書き始めようと決め、当初はデ・ワール氏の著書に基づいて「歴史的な」ことを書こうと思っていた。しかしすぐに、いまはそのような歴史的なことを書くときではない、と分かった。いまは顎を擦りながら過去の政策の歴史との比較を悠長にやっている時ではない、と。
今ここでおこなわれている暴力の話に限った話をしよう。
イスラエルは「自衛している」という立場から出されるもうひとつの反対意見を予想してみよう。明らかに、2025年の夏に、世界で人々が苦しみ、飢えているのは、ガザだけではない。空腹が政治的武器として使われているのも、ガザだけではない。
このような話をすれば、こんな主張を耳にすることだろう。「イスラエルを批判しないで。イスラエル政府の犯罪的な政策については口にさえしないで。その前に、恐ろしいことがおこなわれている他の地域について議論すべきなのでは」と。
この主張がややこしいのは、イスラエルもしばしば自国の例外性を主張するからだ。ホロコーストの悲劇を受けて建国された国だからなおさらだ。イスラエルの例外性も強調して主張されているのだから。しかしそのような底なし沼のようなややこしさや悪意はおいておき、頑張って批判を一般化してみよう。イスラエル政府のガザ政策を、今この瞬間に広がる惨状や戦争、そして飢餓という世界的な状況に照らし合わせて考えてみよう。
この問いに真剣に向き合いたい人、さらにはこの不透明な状況にただとらわれているだけではない人ならば、世界で「厳しい飢饉状態におかれている地域」の概要を調べてみることをお勧めする。 これは「国際連合食糧農業機関(FAO」と「世界食糧計画(WFP)」が私たちのために親切に編集してくれたものだ。
以下は、2025年夏に厳しい飢饉が予想される地域を明らかにした世界地図だ。背筋が寒くなる状況がここにはある。今夏、ガザ以外で、世界で約1億5200万人が深刻な飢餓や飢饉状態にある。今のところその大多数は、アフリカのサハラ以南地域だ。ミャンマーがアジアで唯一激しい飢餓状態にある地域である。
これらの苦しんでいる地域の共通の要因は、軍事による暴力だ。
FAOとWFPは以下のように説明している。
「スーザンとパレスチナ、南スーダン、ハイチ、マリは、最も懸念される状況のままであり、喫緊の注意が必要である。イエメンとコンゴ民主共和国、ミャンマー、ナイジェリアは、非常に懸念される厳しい飢餓状態にある地域として分類され、命と暮らしを救い、これ以上悪化しないよう緊急の注意が求められる。他に厳しい飢餓状態にある地域は、ブルキナファソやチャド、ソマリア、シリア・アラブ共和国だ。13の厳しい飢餓状態にある地域の中で12地域で、武器による暴力が、急性食糧危機を引き起こす要因となっている。最も警戒を要する厳しい飢饉状態にある地域においては、全ての地域が拡大し激化する武力による暴力が、.食糧の安定供給を悪化させる主要な要因となっており、「壊滅的状況(「統合食料安全保障段階分類【IPC】による)」及び「調和された枠組み【CH】による分類で第5段階」と判断される状況をこれらの地域において引き起こしている。スーダンは、飢饉に近い状況(IPCで分類5)であり、現在進行中の戦闘や今後近づく食糧不足期のせいでこの状況が継続する可能性がある。ガザ飛び地において飢饉の危険性は、長引く大規模な軍事行動のせいでますます高まる可能性があり、加えて、人道支援をおこなう機関が十分な支援をおこなえていない、という事実もある。南スーダンでは、地方における戦闘行為や 政治的緊張の高まりのせいで、巨視的経済上の問題や洪水が起こる危険性が高まっている。ハイチでは、暴力組織による暴力や社会不安が記録的に高まっているため、 大規模な人口移動が生じ、人道支援が遮られ、壊滅的な食糧不足が、首都ポルトープランスの中心地域において逃避した人々のあいだで引き起こされている。マリでは、北部と中央の地域で、長引く軍事衝突と人の行き来が大きく制限されているため、食糧体系の混乱や、支援がなかなか行き届いていない状況が継続している。」
上記の報告は、控えめに言っても、抑えた表現だ。
スーダンや南スーダン、ミャンマー、コンゴ民主共和国は全て内戦状態にある。ハイチは無政府状態だ。これらの状況は、多極的な危機に陥っている地域、あるいは慢性的な貧困のある地方(例えば北ナイジェリア地方)といって間違いないだろう。これらの地域については、より詳しい説明が必要となろう。
対照的に、ガザでの「長引く大規模な軍事行動」は、この地区での飢饉の要因となっているのだが、ここには危機の兆候は見えない。これらの軍事行動はイスラエルという裕福で完全な主権国家の慎重な継続により実行されているからだ。ガザへの食糧供給はすべてイスラエルが掌握しており、意図的に全く不十分な規模に「規制」されている。現在、淡水化施設がスマート爆弾の標的にされている。 調理するための燃料はない。ガザでの軍事行動をおこなうのに、イスラエルは米国や欧州各国の政界の主流派から惜しみなく、公然とした支援を受けてきた。イスラエルによるこの軍事行動は、間違った行動として否定されていない。例えば、アラブ首長国連邦がスーダンでおこなっている様な介入は間違った行為である、と否定されているのだが、イスラエルの場合は、数十億ドルの「支援予算」が公然と与えられている。
ここ数ヶ月のあいだ、欧州や米国の政界支配者層は、パレスチナの子どもたちが餓死するという姿に「悩まされて」いる。これに対して、これらの支配者層は極端な婉曲表現を駆使して、ガザで起こっていることは「危機」のせいではなく、イスラエル政府による意図的な政策のせいである、という明白な事実から目を逸らそうとしている。
米国や欧州の政治家たちは、イスラエルの新聞ハアレツ紙が毎日見出しで報じていることについて声を大にして非難しようとはしない。
ガザにおける餓死は、不慮の事故でもなく、あいまいで誰がやったのかわからない形のない危機の結果起こったものでもない。この餓死はイスラエル政府側の意図的な政策の結果であり、高度に洗練された一国家が、資源を駆使して、ガザでパレスチナの人々が生きることを不可能にする、と決めておこなっていることだ。
世界には、ガザよりも厳しい危機的な飢餓状態に置かれている地域が11あるが、世界の飢餓をこのように幅広く見たとしても、ガザが「普通である」ことにはならず、実態はその真逆だ。「先進的な経済国」という特権的な地位にあると普通に見なされている強力な国家による意図的な政策の結果、2025年夏、ガザでは大規模な飢饉が発生しているのであり、世界のほかの地域の飢饉とはまったくな異常が違う。
ガザの状況が例外的状況であることをさらに強調する結果は、「ガザにおけるパレスチナの人々のうちどれほどの割合の人々が苦しめているのだろうか?」と問うだけで見つけることができる。
意図的な大量殺人について評価する際、この結果は重要な指標となる。この指標は、例えばナチスがポーランドのユダヤ人を殺害した数とポーランドの非ユダヤ人を殺害した数の違いの比較として示されることが多い。どちらの大量虐殺についても厳しいものだったが、ポーランドにおけるナチスによるユダヤ人殺害行為は、あきらかに、初めから、ユダヤ人を完全に殲滅することを狙っていた。
2025年、世界で厳しい飢饉に置かれている地域の中で、危機的状況にある割合はどの程度だろうか?
ナイジェリアでは、主に北部において、人口の6分の1が危機的状況にある。ミャンマーやコンゴ民主共和国においては、およそ人口の4分の1だ。イエメンやスーダン、南スーダン、ハイチは、イスラエルへの「特別な基準」として適用されることについて最も議論に持ち出される地域だが、危機的状況にあるのは人口の49%~57%だ。ガザではその割合は100%だ。つまりすべての人々が飢餓の危機にある、とうことだ。
FAO やWFPの説明は以下のとおり:
「2025年5月にIPC(統合食料安全保障段階分類)が出した分析によると、ガザ飛び地のすべての人々(約210万人)が危機的状況、あるいはそれよりも悪い(IPC分類3かそれ以上)状況にあるとみられており。2025年5月~9月においては、深刻な食糧不足の状態に置かれている。この中には壊滅的状況(IPC分類5)に置かれている人が47万人、緊急事態(IPC分類4)に置かれている人々が100万人以上いる。必要最小限の食糧供給品が届けられたとしても、その量と分配方式と時期が不十分なため、急速かつ統制できない規模の飢餓状態に突入するおそれがある。そのような懸念は非常に高いままで、食糧不足の主要原因は悪化の一途だ。各家庭においては、ますます極端な対応が迫られており、中にはごみを集めて売ることで食料を得ている人々もいる。また、社会秩序が崩壊しつつある様子がうかがえる」だ。
完全な全面的な飢餓という状況は、本当に普通ではない。現地の状況は、疑いなく、不平等と身分階層が徐々に進行する様子を示しているが、その様子は国連の統計ではつかみ切れていない。しかしこのような観点からも、ガザにおける例外的な状況が示されており、ガザが包囲され、刑務所あるいはゲットー(強制居住地区)のようになっていることがうかがえる。そしてそのような地域に恐ろしい圧力が加えられているのだ。以下はデ・ワール氏による描写だ。
「大規模な飢餓が共同体を襲えば、まれなことや恐ろしいことが発生する。飢餓とは身体がさいなまれるという肉体的な現象だけではない。社会が死の喘鳴(ぜんめい)状態になるのだ。飢餓になれば、人々がごみの山から残飯をあさる姿が見られる。女の人は飢えた従兄弟から食べ物を隠し、こっそり料理する。家族がおばあちゃんの宝石を売って一食の食費にする。顔つきにはなんの感情もうつらず、視線はギロっとしている。人間性が低下し、屈辱的で、恥な姿にある。そう、人間が人間でなくなるのだ。こんな状態になるのは、人間が動物のように食料をあさり始める時だ。こんな現実はどんな統計でもつかめない。私たちが目にしている社会の崩壊は人間の劣化であり、イスラエルの攻撃によって起きた被害の副産物などではない。これこそ、この犯罪の主要な部分なのだ。つまり、パレスチナ社会の破壊を狙っているのだ。」
200万人に対する大規模飢餓に対して明らかに責任があるイスラエル国家から目を逸らし、「危機」などという婉曲的な表現に逃げている人は誰も、歴史的なこの犯罪に加担しているのと同じことだ。
※なお、本稿は、寺島メソッド翻訳NEWS http://tmmethod.blog.fc2.com/
の中の「ガザ地区の「飢餓による絶滅戦術、民族浄化作戦」はなぜ特別なのか。 世界中の「飢餓危機」と呼ばれている他の国・地域と何が違うのか 。」(2025年9月2日)
からの転載であることをお断りします。
また英文原稿はこちらです⇒Chartbook 400: Murder not crisis – Why Israel’s starvation of Gaza is exceptional in a global context.
筆者:アダム・ドゥーズ。英国の歴史学者
出典:自身のサブスタック 2025年7日27日https://adamtooze.substack.com/p/chartbook-400-not-crisis-but-murder