第36回 素晴らしいと思った日本は夢のまた夢
メディア批評&事件検証ISF独立言論フォーラムのホームページで展開している緊急連載「絶望裁判 今市事件」のコーナーで、初めての試みとして読者の感想文を掲載した。「どうか、私の将来の夢を失望させないで」と切実に綴った裁判官を目指す東京都立大生から見た今市事件の捜査、裁判の感想文は、もの凄い反響があった。
今市事件は、DNA型鑑定結果の改ざん、取り調べ時の暴力、解剖医への圧力、捜査機関に頼まれて法廷で偽証した法医学者たち、それらの捜査側の違法捜査を見て見ぬふりをした一審の裁判官、さらに裁判員制度を破壊した控訴審。こんな、腐りきった日本の司法を許していいのか。今こそ国民が集い、このねじ曲がった司法をただす必要があると、ひしと思わずにはいられない。本連載を拝読してくださった読者から手紙を頂いたので紹介したい。
まず、東京都在住の27歳の女性から頂いた手紙。書き出しから衝撃的なものだった。
副編集長の梶山天さんの連載記事を読んで私の思い描いていた素晴らしい法治国家である日本の安全で幸せな国というイメージが歪みました。
昔海外にいた頃、海外から見た日本はとても誇らしい国だと感じました。日本人の礼儀の正しさ、周りの人を思いやる優しい心、日本という国を大切にする愛国心、子供からお年寄りまで安全に暮らせる治安の良さ、日本にいるだけでは気づけない自分の生まれ育った国の良さに改めて気づかされ、この先もこの安全安心に幸福に暮らせる日本に住み続けたいとそう思っていました。
そして外国人の友人からも自分が日本人であることは、とても誇らしいことなんだとよく言われ、私自身日本人であることにとても誇りを持っています。
でも、今市事件の連載を読んで杜撰な警察の捜査や筋の通らない裁判官による判決、身に覚えのない罪で大切な一度きりの人生を刑務所で過ごすことになってしまった勝又拓哉さんのこと、私の大好きな日本には、実際はそんな到底弁解の許されないような事件が起きていることを知りました。
この記事を読んで、また添付されている記事を裏付ける捜査機関の内部文書や写真を見て、いったい何のための警察による捜査なのか、いったい誰のためになる判決なのか、それをこの事件に関係した警察、検察、裁判官に聞きたいと思いました。一生懸命に誠実に真実を追求しない捜査に何の意味があるのでしょうか。
法廷で示された証拠に真正面から向き合わず、ただただ誰かが描いたストーリーに当てはまるように進める裁判によって誰を救うことができるのでしようか?いったい何を追求しているのでしょうか?検察が起訴したら99%は有罪。一連の連載を読んで日本の司法がこんなひどいことをして作り上げた数字なんだと確信しました。ひどい、ひどすぎる。
一日本人として、この一連の冤罪といってもいいと思われる事件は、勝又さんのような外国から日本に移住し、日本を愛し、大切にする外国人の方々皆さんに対しても、その信頼を裏切る行為であり、取り返しのつかない重大な出来事であると私は思います。日本人として恥ずかしい。悔しくてたまらない。
今のこの時代に、こんな人権をないがしろにしている事件が実際に起き、その冤罪により、一個人のかけがえのない人権が現に侵害されていること、この事実をもっと日本中に、世界中に、この世の中の皆さんに知ってもらうべきだと思います。
そして、誠実な日本人としてそれぞれ自分自身日本人であることを誇るためにも、この間違った冤罪事件を皆で正しくしていけるように声を上げていくことが大切なのではないでしょうか。皆さんたちあがりましょうよ!!
つぎに、ISF独立言論フォーラムの連載「絶望裁判 今市事件」を読むために月曜日と金曜日は待ち遠しいという勝又受刑者の母より。
東京都立大学の学生さん、あなたの思い、私たち家族の心に響きました。こうしてつたない文章しかお礼が言えませんが、涙が止まりません。どうか、あなたの夢が叶うように心から応援しています。
先日、拓哉が梶山さんの連載記事を読んで、その感想を手紙に書いて送ってくれました。私もその連載は初回から欠かさず読み、少しずつ今まで疑問に思っていたことに対しての答えが見えてきたような気がしました。
ただ、どうしてもその中で解明したいことがあったので、弁護士のところに行き、拓哉が書き綴った「被疑者ノート」を確認してきました。このノートは見ることだけは出来ますが、持ち出しもコピーもできないものなのです。
拓哉本人も想定していた以上の話の展開にいろいろ気になるところがあったようで、当時逮捕されてから記した被疑者ノートを読み返したようです。商標法違反容疑で勾留されてから、留置場での毎日は、地獄のような日々だったようです。
毎日精神的にダメージを受け、「クズだ」などの言葉の暴力を受け、あんな過酷な日々を体験することになるなんて本当に信じられなかったそうです。拓哉の被疑者ノートの一文字一文字に私は涙が止まりませんでした。
私のような打たれ強い人間でも到底耐えられませんでした。私も当時の様子を拓哉が手紙で書いた内容から少しずつ蘇ってきました。本当はそんな過酷な過去は記憶から消したい長い長い地獄です。でも自分の冤罪を晴らすためには、忘れてはならない記憶です。
梶山さんの連載記事のおかげで、拓哉も忘れかけていた記憶が戻ってきたようですが、まさか当時の栃木県警の捜査の杜撰さや解剖担当の本田克也先生の話、亡くなった被害者の未だ解明されていない傷、不明な第三者のDNAなどの存在だけでなく、そのほかにも有識者の論文などこんなにもたくさんの隠ぺいされた正式文書の数々が明らかになるなんて、思いもしませんでした。
結局、そんな杜撰な捜査や隠ぺいされ、歪曲された事実のせいで、こんなに理不尽な裁判が行なわれ、公正公平なはずの裁判所によって無期懲役という判決か出されました。日本は先進国家であり、それは世界自由の国々と比べても様々な面で先進しているはずですが、本当はこれだけ、歪曲された事実によって冤罪が起きていて、いったいこのままどうするつもりでしょうか?
梶山さんのような正義感を持つ方々にもっと関心を持って頂き、拓哉の冤罪を晴らすための活動に参加して頂きたいと切に思います。
最後に、もう一人は、栃木県在住の70歳の女性の手紙を紹介する。
連載28回「偽証を誘導され、迎合した法医学会元理事長」を読んでの感想。
法医学と言えば、テレビドラマとかでも見たことがあれば、「ご遺体が何を語りかけているのか」とか、亡くなった時の状況を分かろうとして、献身的に懸命に真実を探そうとしている姿が印象的です。そして、どうか、真実を探し当ててほしいとドラマを祈るような気持ちで見ています。
法医学者は正義の味方で、頼りになると感謝したい思いになります。しかし、今市事件の裁判では、その法医学会の元理事長が真実を追求するどころか、なんと冤罪助長するために検察官の求めに応じて、うその証言をしているのです。この連載でその事実を知ったときは、私はこの元理事長に「恥を知れ!!」と言いたい思いになりました。そして、裁判所は本当にひどい、恐ろしい、と思いました。
勝又拓哉君という一人の若者の未来、自由を奪う権利など誰にもあるはずないのに、こういう嘘の裁判で8年以上も拘束され続けているのです。ISF独立言論フォーラムの連載「絶望裁判」に期待しています。希望を感じます。拓哉君の一日も早い再審開始を願っています。
連載「データの隠ぺい、映像に魂を奪われた法廷の人々」(毎週月曜、金曜日掲載)
https://isfweb.org/series/【連載】今市事件/
(梶山天)
※ご支援のお願いのチラシ作成しました。ダウンロードはこちらまで。
独立言論フォーラム(ISF)副編集長(国内問題担当)。1956年、長崎県五島市生まれ。1978年朝日新聞社入社。西部本社報道センター次長、鹿児島総局長、東京本社特別報道部長代理などを経て2021年に退職。鹿児島総局長時代の「鹿児島県警による03年県議選公職選挙法違反『でっちあげ事件』をめぐるスクープと一連のキャンペーン」で鹿児島総局が2007年11月に石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞などを受賞。著書に『「違法」捜査 志布志事件「でっちあげ」の真実』(角川学芸出版)などがある。