
【櫻井ジャーナル】2025.09.22XML: 退任間近のMI6長官がアル・カイダ系武装集団との連携を認める発言
国際政治イギリスの対外情報機関MI6の長官が10月1日にリチャード・ムーアからブレーズ・メトレベリに交代するのだが、そのムーアが9月19日にトルコのイスタンブールにあるイギリス領事館で退任の演説をした。その中で彼はハヤト・タハリール・アル・シャム(HTS)との関係を築いていたことを認めている。バシャール・アル・アサド政権が倒される「1、2年前」のことだという。
HTSはアル・カイダ系武装集団のアル-ヌスラ戦線を改名した組織。アル・カイダの仕組みを作ったCIAと密接な関係にあるMI6、その長官は早い段階から結びついていただろう。
現在、シリアの暫定大統領を務めるアーメド・フセイン・アル-シャラー(アブ・モハメド・アル-ジュラニ)はダーイッシュ(ISIS、ISIL、IS、イスラム国などとも表記)を創設したアブ・バクル・アル-バグダディの副官を務めていた人物で、アル-バグダディの命令でシリアへ入り、アル-ヌスラ戦線を結成している。
バラク・オバマが2009年1月にアメリカ大統領となった当時、ジョージ・W・ブッシュ政権が正規軍を投入して始めた中東制圧戦争は泥沼化していた。そこでオバマは師にあたるズビグネフ・ブレジンスキーの戦法を採用する。CIAの訓練を受けた戦闘員で武装集団を編成、その集団に戦わせようというのだ。
その戦闘員の登録リストが「アル・カイダ」にほかならないと、イギリスの外相を1997年5月から2001年6月まで務めたロビン・クックが05年7月に書いている。CIAの訓練を受けた「ムジャヒディン」の登録リスト、あるいはデータベースが「アル・カイダ」にほかならないとしている。
オバマ大統領は2010年8月にPSD-11を承認、ムスリム同胞団を使った体制転覆作戦を始動させる。そして引き起こされたのが「アラブの春」にほかならない。その流れの中でアメリカ、イギリス、フランスを含む国々がリビアやシリアに対する軍事侵略を始めた。
2011年2月に侵略戦争が始まったリビアのムアンマル・アル・カダフィ体制は同年10月に倒され、カダフィ本人はその際に惨殺された。その際にアル・カイダ系武装集団のLIFG(リビア・イスラム戦闘団)とNATO軍の連携が明らかになる。反カダフィ勢力の拠点だったベンガジでは裁判所の建物にアル・カイダの旗が掲げられていた。
シリアへの侵略戦争は2011年3月に開始、リビアが倒された後、12年からオバマ政権はシリア侵略に集中する。リビアから戦闘員や武器をNATO軍がシリアへ運び、軍事支援を強化するのだが、そうした行為を正当化するためにシリア政府を悪魔化するための偽情報を流した。
例えばシリア北部ホムスで2012年5月に住民が虐殺されると、西側の政府やメディアは政府軍が実行したと宣伝した。イギリスのBBCはシリアで殺された子どもの遺体だとする写真を掲載しているが、この写真は2003年3月にイラクで撮影されたもの。オーストリアのメディアは写真を改竄し、背景を普通の街中でなく廃墟に変えて掲載していた。
こうした西側有力メディアの偽報道をローマ教皇庁の通信社が伝えている。メルキト東方典礼カトリック教会の修道院長を務めていたフィリップ・トルニョル・クロはホムスでの住民虐殺事件を調べるために現地へ入り、西側の宣伝が嘘だという結論に達する。「もし、全ての人が真実を語るならば、シリアに平和をもたらすことができる。1年にわたる戦闘の後、西側メディアの押しつける偽情報が描く情景は地上の真実と全く違っている」と2012年6月に報告している。
アル・カイダの戦闘員を募集する活動をしていたオサマ・ビン・ラディンを西側では「アル・カイダのリーダー」だと宣伝、イコンとして扱われる。このビン・ラディンは2011年5月、つまりリビアやシリアでアメリカなど外国勢力がアル・カイダ系武装集団を利用して侵略戦争を推し進めている間に、アメリカ海軍の特殊部隊によって殺害されたとされたとされている。リビアでカダフィ体制が倒された時にはイコンが消されていたとも言えるだろう。
当初、シリア軍はアル・カイダ系武装集団に倒されず、しかもNATO軍を投入できない。そこでオバマ政権はアル・カイダ系武装集団に対する支援を強化するのだが、それを危険だと警告するアメリカの機関が存在した。アメリカ軍の情報機関DIA(国防情報局)である。
DIAが2012年8月にホワイトハウスへ提出した報告書によると、外部勢力が編成した反シリア政府軍の主力はAQI(イラクのアル・カイダ)であり、その集団の中心はサラフィ主義者やムスリム同胞団だと指摘している。さらにオバマ政権の政策はシリアの東部(ハサカやデリゾール)にサラフィ主義者の支配地域を作ることになると警告していた。その時にDIAを率いていた軍人がマイケル・フリン中将にほかならない。
この警告通り2014年には新たな武装集団ダーイッシュが登場した。この武装集団はこの年の1月にイラクのファルージャで「イスラム首長国」の建国を宣言、6月にはモスルを制圧。その際にトヨタ製の真新しい小型トラック、ハイラックスを連ねてパレードし、その後、首を切り落とすなど残虐さをアピールし、NATO軍の介入を誘う。
オバマ大統領はシリアでの戦争を念頭において政権の布陣を変える。例えば、2015年2月に国防長官をチャック・ヘーゲルからアシュトン・カーターへ、同年9月には統合参謀本部議長をマーチン・デンプシーからジョセフ・ダンフォードへ交代させ、アメリカ軍をシリアで侵攻させた。そして作り上げた20以上の基地のひとつがアル・タンフである。
ところが、デンプシーが退任した直後の9月末、シリア政府の要請でロシア軍が介入、ダーイッシュを一掃してしまう。その時に世界はロシア軍が強いことを知り、アメリカを恐れなくなっていく。
こうした展開を見てシリア人の間でロシアへの評価が高まるが、これはシリア軍の幹部にとって面白くなかった。その結果、シリア軍の内部には、ロシアが「12月8日よりずっと前に我々を裏切った」という感情を生み出す。そしてシリア政府軍とロシア軍との間に亀裂を産むことになる。
しかも、その政府軍は欧米諸国の経済戦争で疲弊していく。兵士の給料はアル・カイダ系武装集団の数分の1という状態になり、結局、2024年12月、アル・アサド政権はHTSを中心とする武装勢力に倒された。
ムーアMI6長官はウクライナでも重要な役割を演じた。アメリカ海兵隊の元情報将校でUNSCOM(国連大量破壊兵器廃棄特別委員会)の主任査察官を務めたスコット・リッターのドキュメンタリーによると、ウクライナ大統領を名乗っているウォロディミル・ゼレンスキーはイギリスの対外情報機関であるMI6のエージェントであり、そのハンドラー(エージェントを管理する担当オフィサー)はリチャード・ムーアMI6長官だと推測されている。
バシャール・アル・アサドは医者で、イギリスの病院において研修している人物。妻のアスマはロンドン大学を卒業したのち、JPモルガンを含む金融界で働いていた。そこでバシャールがシリアの大統領になった際、イギリスの支配層は喜んだと言われている。その関係が崩れたのは2003年にブッシュ政権がイラクへ軍事侵攻してからだ。
アメリカやイギリスの情報機関と関係が深く、イスラエルには逆らわなかったHTSのアル-シャラーがシリアの暫定大統領に就任したことをイギリスの支配層は喜んでいるのだが、イスラエルはシリアへ軍事侵攻し、そうした行為を許しているイギリスを含む欧米諸国に彼が疑念を抱いても不思議ではない。
アル-シャラは9月12日、自身とシリアの元アルカイダ系組織「ハヤト・タハリール・アル・シャム(HTS)」の支持者たちが、ロシアとの合意の一環としてダマスカスで権力を掌握したと語っている。昨年11月27日にHTSがアレッポを制圧する作戦を開始した際、部隊がほとんど抵抗を受けなかったのはそのためだという。そしてアサド政権が倒された後の12月8日、イスラエルはシリアに対し前例のない数の空爆を実施した。
イスラエルが9月9日にカタールのドーハを空爆したことを受け、そのドーハでアラブ・イスラム緊急首脳会議が開かれた。カタールは「親米国」であり、イスラエルとも友好的な関係にあると考えられていた。しかも、カタールは防空のため、アメリカ製の防空システム、「パトリオット(MIM-104 Patriot)」や「ナサムス(NASAMS)」を配備、数千人以上のアメリカ兵が駐留しているのだが、今回の攻撃でパトリオットやナサムスは反応しなかった。イスラエルが攻撃する前、アメリカ軍は「シャットダウン機能」を使って防空システムを「オフ」にしていたと噂されている。サウジアラビアはロシアの防空システムS-400に興味を示していたが、今回の攻撃でその気持ちは強まっただろう。
イスラエルの攻撃はハリル・アルハヤ議長率いるハマスの代表団を皆殺しにすることが目的だったが、アルハヤ議長を含むハマスの政治局員は生存している。代表団がドー入りしたのは、アメリカ政府が提案した新たな停戦案について協議するためだった。アメリカに誘い出されたと推測する人もいる。
この攻撃について協議するために開催された緊急首脳会議にはアル-シャラーも参加、マスード・ペゼシュキアン大統領をを含むイラン高官と会談している。MI6の計画は再び破綻するかもしれない。
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