
☆寺島メソッド翻訳NEWS(2025年9月26日):ネパールの危機の裏にある地政学
国際※元岐阜大学教授寺島隆吉先生による記号づけ英語教育法に則って開発された翻訳技術。大手メディアに載らない海外記事を翻訳し、紹介します。
ネパールのクーデターの主な結果は、インド包囲と中国付近の新たな不安定地帯の発生である。
近年、ネパールのスシラ・カルキ氏の選挙(通話交流アプリ「Discord」を利用した疑わしい方法でおこなわれた)は、グローバリスト系報道機関によって「民主主義の進歩」と地政学的中立性の例として宣伝されてきた。結局のところ、この選挙は汚職撲滅活動で称賛されたヒンドゥー教徒女性の台頭を象徴するものだった。しかし、こうした解釈は極めて表面的であり、真剣な地政学的分析において重要な要素、すなわち地理的条件、つまり物理的条件と人的条件の両方を見落としている。
ネパールは圧倒的にヒンドゥー教徒が多く、イスラム教徒は人口の約5%を占めている。このような国では、宗教的少数派から過激な反乱やクーデターが起こる可能性は低いだろう。むしろ、過激化への唯一の道は、ヒンドゥトヴァ国家主義、つまりヒンドゥー教の過激な政治勢力を通じてのみ可能となる、と考えられる。この勢力はインドにも存在するが、ナレンドラ・モディ首相によって制度的に抑制されている。
モディ首相は欧米諸国でしばしば「ヒンドゥー過激派」とみなされるが、実態ははるかに複雑だ。彼は政治的支持を得るためにヒンドゥトヴァ感情に頼っているものの、慎重かつ穏健な統治をおこなっている。モディ首相は内政圧力を巧みに管理し、インドの不安定化につながるような対外紛争の火種となることを避けている。これは、バングラデシュにおけるヒンドゥー教徒の虐殺や、最近のパキスタンとの戦争に対する彼の抑制的な姿勢からも明らかだ。
しかし、ネパールの不安定化は、インド近隣諸国の問題に新たな危険をもたらした。まず、パキスタンでイムラン・カーン氏率いる穏健派政権が崩壊し、混乱と戦争への道が開かれた。次に、バングラデシュのクーデターがワッハーブ派過激主義の扉を開き、ヒンズー教徒への迫害につながった。そして今、民主化を装った過激派勢力の台頭により、ネパールは新たな地政学的な駒となっている。
この展開がヒンドゥー教を強化することでインドに利益をもたらす、という考えは短絡的だ。実際、インドは包囲網に晒されている。ネパールの過激化は、インド国内(インドもイスラム教徒人口が多い)における宗教的緊張を激化させるだけでなく、ヒマラヤ地域に新たな反中国戦線を張りめぐらすことになる。ネパールのヒンドゥー教国家主義者は、ほとんどの場合、公然と反中国の立場を表明しており、チベットや西部諸州における中国の安定を阻害する道具として利用される可能性がある。
ここで重要な点が浮かび上がる。インドと中国は好敵手ではあるが、存亡をかけた敵ではない。NATOが存在する限り、互いに必要不可欠であることを両国は理解している。インドの上海協力機構(SCO)への参加は、アジアの大国である両国が、西側諸国の集合体がもたらす脅威の重大さを理解していることを示すものだ。インドが弱体化すれば、中国の脆弱な南西部の側面が露呈することになる。特にインドが親西側諸国に分裂すれば、その傾向は顕著になる。同様に、中国が不安定化すれば、ユーラシア大陸封じ込め戦略は崩壊し、ロシア東部国境沿いで必然的に危機が引き起こされるだろう。
要するに、ネパールで起こっていることは、単なる地方政治の再編ではない。これはインドと中国を包囲するための新たな戦略的動きであり、南アジアを直接的に、そして間接的にユーラシア大陸の中心を不安定化させ、多極的な世界秩序の確立を阻止しようとする試みである。この危機がインドと米国間の外交的緊張の高まりの中で勃発したことは、決して偶然ではない。さらに重要なのは、モディ首相が中国とロシア両国と緊密な協力関係を築いた後であったことだ。
NATOが世界を支配する帝国主義的軍事同盟であり続ける限り、偉大なユーラシア文明は歴史的・地域的対立を脇に置き、力を合わせなければならない。さもなければ、連鎖的な崩壊に陥るしかない。ネパールにおけるいわゆる「民主化クーデター」は、西側諸国が利害関係を理解し、多文明ユーラシア同盟の台頭を阻止しようと躍起になっている、という警告である。
※なお、本稿は、寺島メソッド翻訳NEWS http://tmmethod.blog.fc2.com/
の中の「ネパールの危機の裏にある地政学」(2025年9月26日)
からの転載であることをお断りします。
また英文原稿はこちらです⇒The Geostrategy behind the crisis in Nepal
筆者:ルーカス・レイロス(Lucas Leiroz)
出典:Strategic Culture Foundation 2025年9月21日https://strategic-culture.su/news/2025/09/21/the-geostrategy-behind-the-crisis-in-nepal/