【連載】今週の寺島メソッド翻訳NEWS

☆寺島メソッド翻訳NEWS(2025年9月27日):キット・クラレンバーグ:ネパールでカラー革命?

寺島隆吉

※元岐阜大学教授寺島隆吉先生による記号づけ英語教育法に則って開発された翻訳技術。大手メディアに載らない海外記事を翻訳し、紹介します。

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ここ数週間、ネパールは混乱に包まれている。民間や公共の建物に火が付けられ、何十人もの市民が殺害された、と報じられている。9月9日、K. P.シャルマ・オリ首相が辞任した。西側報道機関は、総じてこの騒乱をカトマンドゥの「Z世代」の人々による自発的な革命の情熱が引き起こしたものであり、腐敗や失業、ソーシャル・メディアを検閲しようとする国家の施策などが引き金となっている、と決めつけている。しかし、この反乱的混乱がずっと前から計画されたものであり、姿が見えない外国の力により幇助されたものであることを示すハッキリとした兆候が見受けられる。

「Z世代」による抗議活動は、一連の地元の若い活動家組織から構成されており、「指導者のいない活動」と広く伝えられているが、実のところは「ハミ・ネパール」という組織が明らかに主導的な役割を担っている。 英紙のネパーリ・タイムズ紙の記事によれば、 今のところ正体不明のNGOが、「デモを主導する中心的役割を果たしており、インスタグラムやディスコードというSNS媒体を利用して抗議活動の情報を拡散し、指針を共有している」という。この組織は、この地域で頻発している地震の被害者を支援する組織として樹立され、食糧や医療などの支援を、恵まれないネパールの共同体の人々に届ける仕事をおこなってきた。

その後、「ハミ・ネパール」が9月12日のネパール政府暫定首相にスシラ・カルキ氏を選出する選挙を監督したが、その選挙方法は極めて異例で、全く前例のないもので、ディスコードというSNSを使った便宜的なオンライン選挙だった。報道によると 、この組織のチャットは、14万5千人の利用者がこのSNSに参加していたことを自慢していた、という。ただし、最終的にそのうち何人がカルキ氏に票を投じたか、は不明だ。西側報道機関や地元のジャーナリストであるプラヤナ・ラナ氏は、この騒乱を熱烈に支援し、宮殿でのクーデターを完全に正当で自然発生的なものであると捉えているのだが、こんな方法で指導者を選ぶことには大きな問題点がある、としている。

「投票にいく方法がなく投票所に出向いて投票できない人々もいることを考えれば、このやり方のほうがずっと平等だ。さらに、オンライン上で匿名で投票できるので、報復を恐れることなく言いたいことが言える、という点もある。しかし問題点もある。誰でもなりすまし行為を使って利用者を操作できることや、複数のアカウントを使って世論や投票を揺るがすことができる点、などだ。」

カルキ氏は自分が暫定首相の座に就くのは、選挙がおこなわれるまでの6ヶ月間だけである、と固く明言している。彼女自身、革命家としての強烈な経歴を持っており、1990年の「民衆運動」に参加した。この運動により、ネパールの絶対君主制は排除されたが、カルキ氏はその君主制のもと投獄されていた。1973年6月、彼女自身の夫は飛行機を乗っ取り、 多額の金銭を盗み、ネパールの残忍な政権に対する武装抵抗の資金に充てようとしたが、そのためカルキ氏の夫も投獄された。 最高裁判所長官として、深く腐敗と戦おうと取り組んできたことにより、長官に就任したたった一年後の2017年6月に、カルキ氏は政治的な意図を受けた弾劾処分を受けた。

カルキ氏のあとに誰が、あるいはどんな組織が指導者になるのかについては全く不透明だ。さらには、どのような枠組みでそのような指導者が職に就くかについても、全く分かっていない。しかしながら、「ハミ・ネパール」というこれまで政治活動をおこなった経歴のない曖昧なNGOが、このような非常に重要な役割を果たし、3000万の人口を持つ国の政府の権力者を追放し、数日後に新たな支配者を選出できた、という事実には戸惑ってしまうしかない。この組織の活動は慈悲に満ちたものだが、「わが国を支援する組織」という同組織の呼びかけ文句には、完全な懸念とはいえないまでも、困惑させられるような内容が隠れている。

「匿名の個人情報」

「ハミ・ネパール」が、資金提供者から受けている「支援」がどんな形式なのか、あるいはいつ与えられたのかは不明だが、その支援は多岐にわたっている。例えば、支援者の一覧にはカトマンドゥの贅沢な西洋的なホテルや衣服業者、靴のブランド社、ネパール最大の民間投資会社である、複合企業のシャンカー社、イスラエル所有のメッセージアプリのバイバー社、南半球における無数の人権侵害問題の共犯者として名高いコカコーラ社などが名を連ねている。グルカ福祉トラストの名前もある。

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グルカ福祉トラストは何世紀にもわたって英国軍内の特権的かつ独特な組織として機能しており、しばしば機密性の高い任務を担ってきた。この組織はグルカ*兵の退役軍人やその未亡人、家族に対して金銭的な支援をおこない、英国外務省と防衛省がその資金を出している。また現在、「自由なチベットを求める学生団」の名も記載されている。このNGOは全米民主主義基金(NED)から資金提供を受けているが、NEDはCIAのフロント組織である。驚くべき偶然なのだが、NEDはネパールで最近発生した抗議活動のきっかけとなった問題について深く懸念を示している。
*グルカ・・・ネパールの山岳少数民族からなる軍隊。かつて英国の影響下にあった。

2023年8月、ネパール政府は「国家サイバー安全保障」政策に署名したが、これは中国がおこなっている「グレート・ファイアウォール(防火長城)」政策を模倣したものであった。中国のこの政策は、外国からのインターネット通信が国内に流れることを制限した上で、国内の電子商取引やSNSなどのオンライン上の資源の普及を可能にする政策だ。この動きに対して激しく非難したのが、「デジタル・ライツ・ネパール」という組織であるが、この組織にはジョージ・ソロスの「オープン・ソサエティ財団」が資金提供している。この財団は、他国政府の転覆に何度も資金を出している財団である。「deliver・ライツ・ネパール」の主張によると、この政策は大規模な検閲につながり、市民の個人情報にとって脅威になる、とのことだった。

時間を早送りさせてもらうが、今年の2月、NEDは「世界各国」を警告する報告書を出したが、その対象はカンボジアとネパール、パキスタンであり、これらの国々は中国がおこなっているインターネット主権を「可能性のある型」と見なし模倣しようとしている、という内容だった。これらの国々のこのような目論見により、世界のオンライン上での米国政府の支配力が弱まる脅威を認めるのではなく、NEDは真の脅威は中国側の「威信」が国際的に高められ、中国共産党にとって、「世界が安全な場所」となる助けとなっていることだ、と指摘していた。同月、ネパールの国会議員たちは「国家サイバー安全保証政策」を支持する議案に対する投票を始めていた。
*インターネット主権・・・インターネット上の規制はデータが作成された国の法律に従うべきだ、という主張

この法律のもとでは、外国のソーシャル・メディアやメッセージ・アプリはネパール政府の「コミュニケーションと情報技術」省に正式に登録することが求められる。この施策の意図は、これらのプラットフォームに法律上より責任を持たせることだけではなく、政府がこれらの企業がネパール現地で生み出す儲けに対して確実に税金を徴収できるところにもあった。「ジャーナリスト保護委員会(CPJ)*」は声明をだし、国会議員にその法案を却下するよう嘆願し、このような法案は報道の自由にとって大きな脅威となり、報道内容の制限や「匿名のアカウントの使用や創設」を禁止することにつながる、と指摘していた。
*ジャーナリスト保護委員会・・・ジャーナリストの権利を守り、世界各国の言論弾圧を監視する目的で創設・運営されている非営利団体

CPJは「オープン・ソサエティ財団」や一連の西側の主要報道機関、米国の巨大企業や巨大金融機関、グーグル社やメタ社から資金提供を受けている。(グーグル社もメタ社もこの法案が可決すれば大きな影響を受けることになっていた)。しかしながら、この法案は通過し、その立法化の締め切りが9月3日とされた。TikTokやバイバー社はそれを受け入れたが、米国のプラットフォーム、具体的にはFacebookや Instagram、LinkedIn、WhatsApp、YouTubeが拒絶したため、ネパール政府は、外国資本が所有する26件のサイトの使用を禁止した。この動きが最終的にネパール政府の転覆の火花となってしまった。

「安全な環境」

9月4日、「ネパールジャーナリスト連合(FNJ)」は22の市民社会組織の署名付きの声明を出し、このような多数のソーシャル・メディアのプラットフォーム封鎖に対して「激しい反対の意」を表明した。FNJはNEDと「オープン・ソサエティ財団」から資金提供を受けている。この声明に署名を書いた団体は同じ資金源や西側のいくつかの財団、政府、ソーシャル・メディアのプラットフォームから資金を受け取っていた。「ハミ・ネパール」にとって、この禁止措置は、「転換点」となり、この組織はその4日後に大規模な集会を計画した。「ハミ・ネパール」は前もって積極的に参加者のための準備をおこなっており、「抗議活動者に対する問い合わせ電話先」まで用意していた。

9月8日の抗議活動はすぐに暴力的なものになった。「Z世代」の指導者たちは破壊行為からは距離を置き、自分たちの平和的な行動が「便乗者たち」により「乗っ取られてしまった」と主張した。しかしながらその数日前、「ハミ・ネパール」の「Discord」サイト上には好戦的な書き込みで盛り上がっていた。政治家やその子どもたちの殺害をあからさまに主張する利用者までいた。マシンガンなどの武器を求める投稿もあり、自分たちの意図は「全てを焼き尽くす」ことにある、と公言する投稿もあった。予想に違わず、ネパール議会と首相官邸は放火され、大臣らはヘリコプターで逃走する羽目になった。

翌晩、K. P.シャルマ・オリ首相の辞任を受けて、ネパール軍の幹部らが抗議活動者と面会し、この先の政権の形について話し合った。ニューヨーク・タイムズ紙の報道によると、9月11日、「Z世代」運動の幹部が軍の役人に対して、スシラ・カルキ氏を臨時首相として迎えたい、という意向を伝えたという。そしてそれは、その数日前に「Discord」サイト上でおこなわれた投票により確定された、とのことだった。ネパールの強力で人気の高い軍は、「選挙がおこなわれるまで安全な環境を作り出す」ことを誓約したが、この行為は事実上、暴力的なクーデターを認可することになった。

重要と考えてよい問題がある。それは「ハミ・ネパール」への寄付者のなかで、そのサイト上に名前が記載されていなかった人物がいることだ。それは武器商人であるディーパク・バッタ氏だ。同氏はネパール軍や治安部隊に武器を調達してきた長い経歴があり、そのような取引を通じて多くの汚職をおこなってきた、という噂がある。例えば、2022年7月、バッタ氏はイタリアの業者から、実際の値段の4倍で地域の警察のために銃を売ったことで非難されている。バッタ氏の長年にわたる軍との関係が、軍が抗議活動の指導者たちと友好な接触をもてたことに貢献したことは、十分考えられる。

ユーゴスラビアで2000年に起こった、CIAとNED、USAID(米国国際開発庁)が画策した「ブルドーザー革命」が、世界発の「カラー革命」だった。その後の数十年間にわたり、米国は、戦略や戦術を使って、世界各国の政府を追放してきたが、その戦略や戦術は、ユーゴスラビアのスロボダン・ミロシェヴィッチ大統領を首尾よく退陣させたのと同じ手法だった。ほぼすべての事例において、若者の集団が政権交代の主要な歩兵としての役割を果たした。ベルグラードでは、ほぼ10年にわたる致命的に破壊的な制裁に端を発し、最終的にはNATOによる78日間にのぼる犯罪的な爆撃をうけ、ユーゴスラビアの人々から本格的に不満の声が上がり、ミロシェビッチ大統領の退陣を求めるようになった。

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しかし、その後しばらくしてから分かった教訓は、人々が願っていることについては慎重に事を進めることが重要である、ということだ。ミロシェビッチ大統領の失脚は、「ブルドーザー革命」と名付けられたが、それはある象徴的な場面が広く取り上げられたからだ。その場面では、ホイールローダーが反政府活動家たちが国家の建物を選挙するのを幇助し、警察からの発砲から抗議活動者を守る盾となっていた。ただしそのホイールローダーの運転手は、すぐに「革命」側にそっぽを向けた。

その後に続いた西側が押しつけた民営化により、ユーゴスラビア経済は破壊され、そのせいで成功していたミロシェビッチ大統領の独立した事業は崩壊し、彼は破産することになった。同大統領は残された余生を、国が支給する細々とした福祉資金で続けることになってしまった。

ここに問題がある。多くのネパール市民が自国政府に幻滅していて、変化を求めていたことにはほとんど疑いはない。だが、カラー革命は常に草の根の市民たちの不満を利用して、前の政権よりもかなり劣る政権を据えようとするものだ。その文脈においては、ネパールに王政を復活させることを支持している地元の不名誉な事業家ドゥルガ・プラサイ氏を軍が招聘し、「Z世代」の活動家たちとの話し合いに登用したことは、深い疑念を生む行為だ。BBCがプラサイ氏を「活動家たちの指導者である」と間違って賞賛したことも、非常にうさんくさい。

ネパールの「革命」を熱烈に支持する人々でさえ認めていることは、スシラ・カルキ氏が6ヶ月後の選挙を本当に実行させることができるかどうかが不確実である点だ。いずれにせよ同様に残された疑問は、全ての既成政党は抗議活動者たちから非難を受ける対象となっており、この先の選挙に誰が候補者として出るのか、ということだ。ネパール政府には現在政治的空白が生じており、歴史を振り返れば、NEDやオープン・ソサエティ財団や諜報機関とつながりをもつ西側のいくつかの財団は、このような「絶好の機会」を虎視眈々と狙っていることが分かるからだ。この先の展開から目を離してはいけない。

 

※なお、本稿は、寺島メソッド翻訳NEWS http://tmmethod.blog.fc2.com/

の中の「キット・クラレンバーグ:ネパールでカラー革命?(2025年9月27日)

http://tmmethod.blog.fc2.com/

からの転載であることをお断りします。

また英文原稿はこちらです⇒A Colour Revolution in Nepal?
筆者:キット・クラレンバーグ(Kit Klarenberg)
出典:Internationalist 360° 2025年9月17日https://libya360.wordpress.com/2025/09/17/a-colour-revolution-in-nepal/

寺島隆吉 寺島隆吉

国際教育総合文化研究所所長、元岐阜大学教授

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