【連載】櫻井ジャーナル

【櫻井ジャーナル】 2025.09.29XML : NS1とNS2が爆破されてから3年後の欧州では経済が崩壊、生活も破綻

櫻井春彦

 ロシアからドイツへ天然ガスをバルト海経由で輸送するために建設されたパイプライン、「ノードストリーム(NS1)」と「ノードストリーム2(NS2)」が2022年9月26日から27日にかけての間に爆破された。今から3年前の出来事だ。このテロ工作でドイツの製造業は壊滅的な打撃を受け、社会は崩壊しつつある。

爆破の目的はドイツとロシアを結びつけていたパイプラインを破壊することで、ドイツから安価な天然ガスの供給を断ち、ロシアから巨大な天然ガスのマーケットを奪うことで両者を弱体化させることにあったと見られている。

 

ヨーロッパでは爆破犯はウクライナの治安機関SBU(ウクライナ安全保障庁)のメンバーだと宣伝、首謀者としてセルゲイ・クズネツォフ元大佐を逮捕した。2022年9月にドイツ企業から借りたヨットを利用し、パイプラインに少なくとも4つの遅延起爆装置付き爆発物を仕掛けた7名のグループをクズネツォフが率いたというのだが、このシナリオでは減圧装置など必要な装備を運ぶことすらできず、パイプラインを爆破できない。

 

調査ジャーナリストの​シーモア・ハーシュは2023年2月8日、アメリカ海軍のダイバーがノルウェーの手を借りてノードストリームを破壊したとする記事を発表​している。ジョー・バイデン大統領は2021年後半にジェイク・サリバン国家安全保障補佐官を中心とする対ロシア工作のためのチームを編成、そして2022年初頭にはCIAがサリバンのチームに対し、パイプライン爆破を進言して実行されたという。

 

ロシア連邦保安庁(FSB)の元長官で、現在は大統領補佐官を務めているニコライ・パトルシェフは9月7日、NS1とNS2の爆破テロは高度に訓練されたNATO特殊部隊の関与のもとで計画、監督、実行された可能性が高く、実行犯は深海での作戦経験が豊富で、バルト海での活動にも精通していたとしている。こうした条件に合致する情報機関として彼はイギリスの特殊舟艇部隊(SBS)を挙げている。

 

ノードストリーム以外にもロシアからヨーロッパへ天然ガスを輸送するパイプラインは存在していた。その主要ルートはウクライナを通過している。そのウクライナでアメリカのバラク・オバマ政権は2013年11月から14年2月にかけてクーデターを仕掛け、ビクトル・ヤヌコビッチ大統領を排除した。この計画を作成、実行したネオコンはアメリカの軍事や外交をコントロールしてきた集団だ。その際、アメリカ側はネオ・ナチの戦闘員を利用、クーデター後の体制はネオ・ナチの影響を強く受けることになる。

 

このクーデターによって、ヨーロッパはロシア産天然ガスを入手することが難しくなった。NS1とNS2はそのウクライナを迂回するルートであり、その破壊によってロシア産天然ガスを入手することがさらに難しくなる。

 

NS1とNS2の爆破をアメリカ政府は予告していた。例えばドナルド・トランプ政権下の2020年7月に国務長官のマイク・ポンペオがNS2を止めるためにあらゆることを実行すると発言した。2021年1月に大統領がジョー・バイデンに交代した後の22年1月27日にビクトリア・ヌランド国務次官はロシアがウクライナを侵略したらNS2を止めると発言、同年2月7日にはバイデン大統領がNS2を終わらせると記者に約束している。

 

1991年12月のソ連消滅によってソ連は解体され、ロシアとウクライナは別の国になったが、東部や南部はロシアから割譲された国であるウクライナではさらに分離する動きもあった。西側諸国はこうした動きを抑え込んだものの、カトリック文化圏でウクライナ語を話す西部とロシア正教文化圏でロシア語を話す東部や南部をまとめるのは簡単でない。

 

戦争やクーデターで少なからぬ体制を破壊してきた​ヘンリー・キッシンジャーもウクライナの微妙な状況を理解、2014年3月6日にワシントン・ポスト紙でこの問題の見解を明らかにしている。

 

ウクライナが生き残り、繁栄するためにはどちらかの陣営にとっての拠点であってはならないと主張しているが、これはキッシンジャーの論評が掲載される前に破綻している。クーデターの目的はウクライナを対ロシア戦争の拠点にし、ロシアとヨーロッパを分だすることにあったことは明白だ。

 

また、キッシンジャーはロシアとウクライナの歴史を理解するように求めている。ロシアの歴史はキエフ・ルーシと呼ばれた場所で始まり、ロシアの宗教はそこから広まったとした上で、ウクライナは何世紀の間ロシアの一部であり、それ以前から両国の歴史は複雑に絡み合ってきたと指摘している。

 

問題をさらに複雑化しているのは、ロシア領がソ連政府の独断でウクライナへ割譲されたことにある。西部は1939年にソ連に編入され、54年にはニキータ・フルシチョフがロシア領だったクリミアをウクライナへ割譲、東部のドンバスやオデッサを含む南部地域もソ連時代にロシアからウクライナへ割譲されている。このため、ウクライナ議会がソ連からの独立を宣言した当時、東部や南部ではウクライナからの独立を求める声が小さくなかった。

 

それに対し、ソ連が消滅した直後の1992年2月、アメリカの国防総省は新たな軍事戦略DPG(国防計画指針)の草案を作成した。作成の中心になったのは国防次官を務めていたポール・ウォルフォウィッツだったことから、この文書は「ウォルフォウィッツ・ドクトリン」とも呼ばれている。

 

ソ連の消滅でアメリカは唯一の超大国になったとネオコンは確信、世界制覇戦争を始めようというわけだが、そのドクトリンにはドイツと日本をアメリカ主導の集団安全保障体制に統合し、民主的な「平和地帯」を創設すると書かれている。要するに、ドイツと日本をアメリカの戦争マシーンに組み込み、アメリカの支配地域を広げるということだ。

 

また、旧ソ連の領土内であろうとなかろうと、かつてソ連がもたらした脅威と同程度の脅威をもたらす新たなライバルが再び出現するのを防ぐことが彼らの目的だともしている。西ヨーロッパ、東アジア、そしてエネルギー資源のある西南アジアが成長することを許さないということだが、東アジアには中国だけでなく日本も含まれている。

 

2022年当時、日本もロシア産天然ガスをめぐり、アメリカ政府と対立していた。サハリンでの天然ガス開発だ。このプロジェクトから手を引くように日本や欧米の企業にアメリカ政府は圧力をかけ、エクソンモービルは2022年3月にロシア事業からの撤退を決めている。

 

撤退を決める前、エクソンモービルはサハリン1の運営権益30%を保有していたが、日本のサハリン石油ガス開発も同じく30%を保有していた。サハリン石油ガス開発には経済産業省、伊藤忠商事、丸紅、石油資源開発などが共同出資している。

 

サハリン2では2022年8月に三井物産と三菱商事が新たな運営会社であるサハリンスカヤ・エネルギヤに出資参画することを明らかにした。出資比率はそれぞれ12.5%と10%。27.5%を保有していたイギリスのシェルは同年2月に撤退、ロシアのガスプロムが50%プラスから77.5%へ増加している。

 

日本はロシア産天然ガスの開発を重要だと認識、アメリカの圧力を跳ね除けて出資を継続したのだろうが、その決定が発表される直前、その間、2022年7月8日に安倍晋三は射殺された。

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【​Sakurai’s Substack​】
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のテーマは「NS1とNS2が爆破されてから3年後の欧州では経済が崩壊、生活も破綻 」(2025.09.29XML)
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