
【櫻井ジャーナル】2025.09.30XML: 英政府は移民問題を口実にしてデジタルIDを導入、社会の収容所化を推進
国際政治社会を混乱させている野放図な移民政策に対する怒りの声が高まっているが、イギリスでは移民問題の解決策として人びとの管理を容易にするデジタルIDの義務化が打ち出された。キア・スターマー英首相は9月26日、イギリス市民と永住権保有者は就労する際、デジタルIDカードの提示を義務付けると発表したのである。新しいIDシステムは2029年までに予定されている次回選挙までに導入されるという。
イギリスに限らず、西側の移民受け入れ策は度を越し、社会問題を生みいだしてきた。それを口実にして、支配層が以前から目論んできたデジタルIDの義務化を実現しようとしているように見える。社会を混乱させることが明確な移民政策を強行してきた理由はここにあったのかもしれない。
デジタルIDの推進が表面化したのは2015年9月のことである。国連で「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択され、その中で示された「SDGs(持続可能な開発目標)」を実現するため、デジタルIDの導入が推進されることになったのである。個人を特定するためのシステムに記録されていない人びとを管理する必要があるというのだ。こうしたアジェンダを作り出した「エリート」たちは人口を問題にしている。
デジタルIDにはチップ化して体内へインプラントする計画がある。例えばWEF(世界経済フォーラム)のクラウス・シュワブは2016年1月にスイスのテレビ番組に出演し、マイクロチップ化されたデジタル・パスポートについて話している。チップを服に取り付けるところから始め、次に皮膚や脳へ埋め込み、最終的にはコンピュータ・システムと人間を融合、人間を端末化しようと考えているようだ。
RFID、つまり識別情報を無線でやりとりする小型チップを商品でなく皮膚下に埋め込む技術も実用化されつつある。そのチップにはID番号が記録され、個人情報が集積されているデータベースにアクセス、犯罪歴、病歴、学歴を含む個人データを引き出すことができる。IC乗車券を持たずに電車やバスに乗車でき、支払いも電子的に決済することが可能で、身分証明書としても機能する。便利だと感じる人もいるだろうが、囚人化とも言える。人間が何を考えているかを外部から探る技術も研究され、すでに脳波を測定することで心理状態をある程度把握することは可能になっている。(South China Morning Post, 29 April 2018)
拙著『テロ帝国アメリカは21世紀に耐えられない』(三一書房、2005年)でも書いたことだが、アメリカの場合、監視技術の開発は国防総省のDARPA(国防高等研究計画局)が中心になっている。DARPAで開発されていたTIA(総合情報認識)では個人の学歴、銀行口座の内容、ATMの利用記録、投薬記録、運転免許証のデータ、航空券の購入記録、住宅ローンの支払い内容、電子メールに関する記録、インターネットでアクセスしたサイトに関する記録、クレジット・カードのデータなどあらゆる個人データを収集、分析できた。(William D. Hartung, “Prophets Of War”, Nation Books, 2011)このプロジェクトが発覚した後、2001年9月にはMATRIXと名づけられた監視システムの存在が報じられている。(Jim Krane, ‘Concerns about citizen privacy grow as states create ‘Matrix’ database,’ Associated Press, September 24, 2003)
ACLU(アメリカ市民自由連合)によると、このシステムを開発した会社はスーパー・コンピュータを使い、膨大な量のデータを分析して「潜在的テロリスト」を見つけ出そうとしていた。どのような傾向の本を買い、借りるのか、どのようなタイプの音楽を聞くのか、どのような絵画を好むのか、どのようなドラマを見るのか、あるいは交友関係はどのようなっているのかなどを調べ、個人の性格や思想を洗い出そうとしたのだ。図書館や書籍購入の電子化、スマートテレビの普及などと無縁ではない。勿論、インターネット上でのアクセス状況も監視される。そうしたシステムの能力は飛躍的に「向上」しているだろう。
アメリカ国防総省にはCIFA(対諜報分野活動)というデータ収集活動があり、TALON(脅威地域監視通告)というデータベースに情報を記録、このデータを分析することで情報活動をモニターし、将来の脅威を見通すのだという。(William D. Hartung, “Prophets Of War”, Nation Books, 2011)
アメリカやイギリスの電子情報機関の活動を1970年代から暴いてきたジャーナリストのダンカン・キャンベルによると、1993年から西側諸国の捜査機関高官は毎年、会議を開いて通信傍受について討議を重ねてきた。(Duncan Campbell, “Development of Surveillance Technology and Risk of Abuse of Economic Information Part 4/4: Interception Capabilities 2000,” April 1999)そうした国際的な流れの中で、日本でも1999年に通信傍受法(盗聴法)が制定された。日本も社会の刑務所化が図られてきたわけだ。
どのようにデジタルIDの導入を進めるかについて2016年5月に国連本部で話し合われ、ID2020というNGOが設立されている。こうした計画の実施に最も積極的なのはEUの執行機関である欧州委員会だ。
2019年に同委員会が公表した指針の中には、EU市民向けの「ワクチン・カード/パスポート」を2022年に導入する計画が示されていた。欧州委員会のステラ・キリアキデスは2022年12月、WHO(世界保健機関)のテドロス・アダノム事務局長と「世界的な健康問題に関する戦略的協力を強化する」協定に署名している。
WHOと欧州委員会は2023年6月5日、GDHCN(グローバルデジタルヘルス認証ネットワーク)を実現するために「画期的なデジタル・ヘルス・イニシアティブ」を開始、世界的な相互運用可能なデジタル・ワクチン・パスポートを推進すると発表した。これは2022年12月に署名された協定の一部だ。
日本で導入された「マイナンバーカード」も一種のデジタルID。岸田文雄内閣は2022年10月13日、「マイナンバーカード」と健康保険証を一体化させる計画の概要を発表、それにともない、それまで使われてきた健康保険証を2024年の秋に廃止。「カード取得の実質義務化」を打ち出したのだ。
発表時、河野太郎デジタル大臣は「デジタル社会を新しく作っていくための、マイナンバーカードはいわばパスポートのような役割を果たすことになる」と述べ、「日本は国民皆保険制度であり、保険証と一体化するということは、ほぼすべての国民にマイナンバーカードが行き渡るということで、格段に普及が進む。」と寺田稔総務大臣は主張した。「語るに落ちる」とはこのことだが、「机上の空論」でもあった。この政策は現実を無視したもので、現場は混乱、計画を実現させることは難しい状況だ。
現在、日本もデジタル通貨に向かっているようだが、金融システムのデジタル化が進むと人びとの交友関係、活動、趣味などを把握することが容易になり、支配層に「好ましからぬ人物」と判断された場合、銀行口座が封鎖されるということになる。実際、ヨーロッパではウクライナ情勢で西側支配層の意向に反する事実を報じたジャーナリストの中には銀行口座が封鎖された人もいる。ウィキリークスのジュリアン・アサンジを支援するキャンペーンも複数の銀行口座が解約されたという。現物の通貨が廃止されたなら、対処することが困難だ。
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【Sakurai’s Substack】
※なお、本稿は「櫻井ジャーナル」https://plaza.rakuten.co.jp/condor33/
のテーマは「英政府は移民問題を口実にしてデジタルIDを導入、社会の収容所化を推進 」(2025.09.30XML)
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