【連載】櫻井ジャーナル

【櫻井ジャーナル】2025.10.05XML : 米国防総省の戦略に従って戦争の準備を進めている日本に右翼キャラの首相誕生へ

櫻井春彦

 与党の新たな総裁が決まったようだ。この人物に限らず、著名人にはさまざまなタグがつけられているのだが、それは所詮「キャラ付け」にすぎない。自分自身の価値観を持ち、自分で調査し、物事を考え、判断するような人物は排除され、有力な政治家にはなれないだろう。いわゆる「首なし鶏」だ。

 

本ブログでは繰り返し書いてきたように、日本は中国やロシアと戦争をする準備を整えてきた。経済界は中国やロシアとの関係を維持したいようだが、アメリカ政府はそうしたことをやめるよう、圧力をかけてきた。

 

アメリカ大統領だったリチャード・ニクソンは1972年2月に中国を訪問して中国共産党中央委員会の毛沢東主席と会談、米中両国は友好的な関係を築くことになる。両国の国交が樹立されるのは1979年1月だ。

 

第2次世界大戦後、ハリー・トルーマン政権は蒋介石に中国を支配させようと考え、20億ドルを提供しただけでなく、軍事顧問団も派遣していた。ソ連ヨシフ・スターリンも蒋介石体制の樹立を容認している。当時の戦力を比較すると、国民党軍は200万人の正規軍を含め、総兵力は430万人。それに対し、紅軍(コミュニスト)は120万人強にすぎず、装備は日本軍から奪った旧式のもの。勝負は明らかのように見えた。

 

ところが、1947年の夏に農民の支持を背景として人民解放軍(同年3月に改称)が反攻を開始。兵力は国民党軍365万人に対し、人民解放軍は280万人で接近、48年の後半になると人民解放軍が国民党軍を圧倒するようになり、49年1月には解放軍が北京に無血入城、コミュニストの指導部も北京入りし、10月には中華人民共和国の樹立が宣言された。

 

当時、アメリカは極秘の秘密工作組織OPCが上海を拠点にして活動していたのだが、日本へ撤退せざるをえなくなる。厚木基地をはじめとする6カ所に拠点を作った。アメリカは態勢を整えてから中国へ攻め込もうとするのだが、そうなると日本は兵站の拠点になる。(Stephen Endicott & Edward Hagerman, “The United States and Biological Warfare”, Indiana University Press, 1998)

 

そこで問題になったのは激しくなっていた労働運動。輸送が止まったなら戦争できない。輸送の中心は海運と鉄道。労働者を押さえ込まなければならない。そこで神戸港の管理を任されたのが山口組の田岡一雄であり、横浜港を任されたのが藤木幸太郎だ。

 

そして1949年7月と8月に国鉄で「怪事件」が続発、それを口実にして政府は国鉄の労働組合に大きなダメージを与えた。その事件とは、7月5日から6日にかけての下山事件、7月15日の三鷹事件、そして8月17日の松川事件だ。OPCが関係していた可能性が高い。1949年7月には沖縄の軍事施設費を次年度予算に計上することが決定された。朝鮮半島で本格的な戦争が始まったのは1950年6月だ。

 

ニクソンが中国を訪問した7カ月後、田中角栄は北京を訪問して周恩来国務院総理と会談、両者は日中共同声明に調印し、両国の国交は正常化されている。田中角栄の動きは素早かった。

 

その際、尖閣諸島の領土問題は「棚上げ」にすることで合意。日本の実効支配を認め、中国は実力で実効支配の変更を求めないというものであり、日本に有利な内容だった。そして1978年8月に日中平和友好条約が結ばれ、漁業協定につながる。

 

その田中はスキャンダル攻勢で1974年12月に首相を辞任、76年2月にロッキード事件が浮上する。ロッキードによる航空機売り込みのリベート疑惑だが、裏で動いていたカネの額は軍用機が圧倒的に多く、それは別の政治家が関係していたと言われている。

 

田中は1976年7月に逮捕されたが、その約半年前、アメリカで出されていた高額のニューズレターに「田中の逮捕が決まった」とする記事が掲載されていたという。その記事について取材するため田中邸を訪ねたジャーナリストがいるのだが、田中自身は検察も警察も押さえているので大丈夫だと考えていたようだ。

 

日本と中国の友好的な関係を築いた田中は失脚するが、田中が築いた両国の友好的な関係は維持された。その構図を壊したのは菅直人政権にほかならない。

 

菅政権は2010年6月の閣議決定で尖閣諸島周辺の中国漁船を海上保安庁が取り締まれることに決め、2000年6月に発効した「日中漁業協定」を否定。そして2010年9月、石垣海上保安部は中国の漁船を尖閣諸島の付近で取り締まり、日本と中国との関係は悪化する。

 

こうした行為は田中角栄と周恩来が決めた尖閣諸島の領土問題を棚上げにするという取り決めを壊すもの。2010年10月に前原誠司外務大臣は衆議院安全保障委員会で「棚上げ論について中国と合意したという事実はございません」と発言しているが、これは嘘だ。

 

日本では中国を敵視する発言をよく聞くが、これはアメリカにおける「ロシアゲート」のようなもので、アメリカやイギリスに支配されている現実を隠す役割を果たしている。

 

1991年12月にソ連が消滅した直後の92年2月、アメリカの国防総省は新たな軍事戦略DPG(国防計画指針)の草案を作成した。作成の中心は国防次官を務めていたポール・ウォルフォウィッツだったことから、この文書は「ウォルフォウィッツ・ドクトリン」とも呼ばれている。

ソ連の消滅でアメリカは唯一の超大国になったとネオコンは確信、世界制覇戦争を始めようというわけだが、そのドクトリンにはドイツと日本をアメリカ主導の集団安全保障体制に統合し、民主的な「平和地帯」を創設すると書かれている。要するに、ドイツと日本をアメリカの戦争マシーンに組み込み、アメリカの支配地域を広げるということだ。

 

また、旧ソ連の領土内であろうとなかろうと、かつてソ連がもたらした脅威と同程度の脅威をもたらす新たなライバルが再び出現するのを防ぐことが彼らの目的だともしている。西ヨーロッパ、東アジア、そしてエネルギー資源のある西南アジアが成長することを許さないということだが、東アジアには中国だけでなく日本も含まれている。

 

1990年代以降、日本の経済が衰退、社会が疲弊する一方、軍事力の増強が顕著だが、そのベースにはウォルフォウィッツ・ドクトリンがあると言える。

 

国防総省系のシンクタンク「RANDコーポレーション」が発表した報告書によると、GBIRM(地上配備中距離弾道ミサイル)で中国を包囲する計画を彼らは持っている。​自衛隊は2016年に与那国島でミサイル発射施設を建設、19年には奄美大島と宮古島、そして23年には石垣島でも施設を完成させた。

専守防衛の建前と憲法第9条の制約がある日本の場合、ASCM(地上配備の対艦巡航ミサイル)の開発や配備で日本に協力することにし、ASCMを南西諸島に建設しつつある自衛隊の施設に配備する計画が作成されたとされていたが、すでにそうした配慮は放棄されている。

 

2022年10月になると、「日本政府が、米国製の巡航ミサイル『トマホーク』の購入を米政府に打診している」とする報道​があった。亜音速で飛行する巡航ミサイルを日本政府は購入する意向で、アメリカ政府も応じる姿勢を示しているというのだ。

 

トマホークは核弾頭を搭載できる亜音速ミサイルで、地上を攻撃する場合の射程距離は1300キロメートルから2500キロメートル。中国の内陸部にある軍事基地や生産拠点を先制攻撃できる。「専守防衛」の建前と憲法第9条の制約は無視されていると言えるだろう。

 

そして2023年2月、浜田靖一防衛大臣は亜音速巡航ミサイル「トマホーク」を一括購入する契約を締結する方針だと語った。ところが10月になると木原稔防衛相(当時)はアメリカ国防総省でロイド・オースチン国防長官と会談した際、「トマホーク」の購入時期を1年前倒しすることを決めたという。

 

日本は中国やロシアと戦争する準備を進めているのだが、そうした時期に「首なし鶏」が日本を動かすことになるようだ。

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