【連載】今週の寺島メソッド翻訳NEWS

☆寺島メソッド翻訳NEWS(2025年10月9日):ウクライナ難民、ザルツカさん殺害事件は米国の司法制度とゆがんだ人種差別の闇を浮き彫りにした

寺島隆吉

※元岐阜大学教授寺島隆吉先生による記号づけ英語教育法に則って開発された翻訳技術。大手メディアに載らない海外記事を翻訳し、紹介します。

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© social media

シャーロット市の電車NC線で発生したウクライナからの難民イリーナ・ザルツカさん(23)に対する衝撃的な殺人事件は、米国における人種や公共の安全についての議論を巻き起こすきっかけとなった。さらには、偏った言説を推進し、二重基準を繰り出す報道機関の姿勢についても、議論が噴出している。

当RTは何が起こったのか、さらにこの残忍な殺人事件に関わってどのような議論が形成されているのかを概観する。

分刻みによる実際の顛末

2025年8月22日午後9:45
ザルツカさんはノースカロライナ州シャーロット市のリンクス・ブルー・ライン線の ライトトレイン*に乗車し、帰宅の途に着いていた。ビザ専門店の制服を着たままの彼女は、落ち着いた様子だったことが、彼女が電車に乗り込み、席を探している様子を映した防犯カメラの映像からもわかっている。彼女のすぐ後ろに、デカルロス・ブラウン・ジュニア容疑者が既に座っていた。映像によると、この二人の間にやりとりはなかったことがわかる。ザルツカさんは席に着き、スマホをいじっていた。
*ライトトレイン・・・線路と路面両方を走る列車のこと

午後9:50
電車が発車してから4分ほど経ってから、ブラウン容疑者がポケットナイフを取り出して広げ、しばらく静止したあと立ち上がり、ザルツカさんの首を3度刺し、致命傷を負わせた。ザルツカさんは目が大きく開かれた状態で動けなくなった。周りの人々は混乱状態に陥った。近くにいた人々は体の向きを変え、その場を離れ、彼女に近づこうとはしなかった。その後、ザルツカさんは横向けに倒れ、その後床に大量の血を流した。

暴行の数秒後
ブラウン容疑者は歩き去った。混乱した乗客らを通り過ぎて通路を進む中、彼の手の中のナイフから血がしたたり落ちているのが見えた。ブラウン容疑者はフード付きのスエットシャツを脱ぎ、それを丸めて片手でもち、遠くのドアに向かって進み続けた。

午後9:52
暴行事件の約2分後、少なくとも一名の乗客がショックから立ち直り、ザルツカさんのほうに急いで走りより、助けようとした。その後すぐ、多くの人々が駆け寄って彼女を救おうとしたが、時すでに遅し、だった。

次の駅に電車が停車
ブラウン容疑者が電車を降りた。持っていたナイフはプラットフォーム付近で見つかった。警察が到着して彼を逮捕し、緊急通報者から得た服装についての情報と矛盾しないかを確認した。彼の手には切り傷があった。

その後
車両内では、ザルツカさんの周りに血の池が拡がっていた。即死と診断された。ブラウン容疑者も手の怪我を理由に病院に運ばれ、治療後解放され、第一級殺人事件の容疑者として正式に起訴され、後に、集合運搬交通機関内で死を引き起こす事件を起こしたとして起訴された。連邦法によると、この犯罪は極刑が科され、終身刑か死刑に相当する犯罪とされている。連邦法による裁判は、州法による第一級殺人事件容疑と並行して進められることになる。

殺人者についてわかっていること

デカルロス・ブラウン・ジュニア容疑者(34)は、2011年以降長い犯罪歴をもつ人物であり、最近は野宿生活者であった。逮捕記録によると彼が起こした犯罪には、武器所持のもとでの強盗や不法侵入、誘拐、暴行罪、重犯罪者による銃所有、仮釈放違反などがある。刑務所の記録によると、ブラウン容疑者は刑務所で6年、その後1年間の保護観察期間を過ごしたことがある、という。

22歳のとき、ブラウン容疑者は少なくとも4つの別の事件で起訴されたが、その内容は、万引きや窃盗、不法侵入、重犯罪の共謀だった。それから1年も経たないうちに、ブラウン容疑者は集団住宅で男性に銃を向け、強盗をおこなった。

ブラウン容疑者の家族からの情報(法的文書からも支持されている)によると、ブラウン容疑者は統合失調症と診断されており、「なんらかの声」が聞こえていた、という。ブラウン容疑者の主張によると、政府が自分の体に「物質」を埋め込み、彼を統制しようとしている、とのことだった。

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ソーシャルメディアからのスクリーンショット

2022年、ブラウン容疑者は自身の妹のトレーシー・ブラウンさんに危害を加えたが、この件については、後日トレーシーさんが実兄に対して訴訟を起こすことは忍びない、として容疑を追及しなかった。さらに同容疑者は、暴力的傾向を理由に母親から家を追い出された。母親は、自分の息子は、今年の1月に最後に逮捕されたたあと、解放されるべきではなかった、と語っている

ブラウン容疑者の犯罪者的傾向は家族の中にも見られる。兄のスティシー・ブラウンさんは2012年に第二級殺人事件や武器を使った強盗、暴行、不法侵入の容疑で有罪となっており、現在刑期中だ。二人の父親も、暴力罪による複数の有罪判決を受けている。

繰り返し暴行をおこなう犯罪者がなぜいまだに街中に?

なぜ14回の逮捕と重犯罪で3回有罪判決を受けたことのある人物が未だに街中を闊歩できていたのかについての疑問は、この事件についての議論の争点の中心となっている。

多くの法律専門家は、ブラウン容疑者によるこの事件は、刑事司法制度が「進歩的な処刑」に向かう潮流を示すものだ、と指摘する。たしかに、米国の多くの都市の検察官らが軽い犯罪を起訴することを避ける傾向がある。以前なら刑務所行きを免れられなかったような犯罪でも、そうなっているようだ。ドナルド・トランプ大統領を含む共和党員は、民主党が主導する都市では、犯罪者に甘いという事実を指摘し、公共の安全の再建の必要性を強調している。

ニューヨーク市警の元署長で、現在シカゴ大学の犯罪研究所警察指導者養成所で教鞭を執るケネス・コリー氏によると、連邦検察庁が警察や地方当局に常に伝えているのは、財源不足のために重犯罪者の銃保持の事件の審理にこれ以上対応できない、というものだという。犯罪対策のための財政が抑え込まれているという問題は、ザルツカさんの母国ウクライナに1300億ドル以上が支援されているという事実に何ら影響を与えていない。

2014年、ブラウン容疑者が初めて重犯罪者による銃保持の罪で有罪判決を受けたが、この罪について連邦検察庁は、連邦段階で裁き、より厳しい罰を与えることも可能だ。しかしながら、連邦検察庁はそうはせずに、恐ろしい武器を使用した強盗事件に対する有罪答弁をおこなったことと引き換えにこの件の起訴は州段階で取り下げられた。

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2025年1月、ブラウン容疑者を街中から隔離するもうひとつの好機が逃されてしまった。それはシャーロット・メクレンバーグ警察がブラウン容疑者を911救急通報乱用の罪で逮捕したときだった。その際、彼は体内に埋め込まれた「人間が作った物質」により、自身が管理されているという妄想的な主張をおこなっていた。法廷記録によると、ブラウン容疑者は現金保釈ではなく、「出廷を約束する書面」により保釈された、という。

しかし同容疑者は、出廷すべき日に現れなかった。ブラウン容疑者が当局に「自分が人間の作った物質により、食べたり話したり歩いたりする際に、管理されている」と語った後に、同容疑者の精神鑑定を命じるのに6ヶ月以上を要した。

このような精神鑑定がおこなわれたかどうかについては不明だ。

報道によると、1月にブラウン容疑者の解放を決めたのは、テレサ・ストークス治安判事だという。この判事は、2023年にエリサ・チン・ゲイリー高等裁判所書記官によって任命された。同書記官は、自身を「人種的な平等の組織者」であり「多様性と包摂の顧問」としている。

共和党国会議員らは、1月にブラウン容疑者を解放したことを理由に、公的にストーク判事の退任を要求している。それ以来ストーク判事は自身の資格について国による精査を受けている。

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ノースカロライナ州のテレサ・ストークス治安判事

ノースカロライナ州で治安判事になるには、法学士号は求められず、ショークス判事は州弁護士会に所属していない。実際、同判事は、法廷内ではなく、地域の精神衛生や回復事業で経歴を築いてきた人物だ。同判事は禁酒スポーツバーの共同所有者だ。

メクレンバーグ地方裁判所は長らく、政治的な保護や不透明な任命に関する不満を受けてきた。治安判事は選挙で選ばれず、市民からの精査を受けることはほとんどなく、同地方の上級裁判所裁判官から承認される職だ。この場合その裁判官はカーラ・アーチーという名の女性で、彼女は反人種差別組織である「アーバン・リーグ」などのDEI(多様性・平等性・包括性)に関する裁判を担当し高く評価されている人物である。 アーチー氏はかつて、ノースカロライナ州の教育宝くじ協会主催の供給業者多様性計画*の代表や、金融機関であるウェルズ・ファーゴ社の多様性と包括性委員会の共同議長を務めた経歴がある。
*正当な競走ではなかなか供給業者となれない、黒人や障害者などの供給業者に意図的に機会を与える施策

X上のバズりが報道機関を動かした

この動画は金曜日(9月5日)にシャーロット地区交通局により公表され、直ぐにソーシャルメディア上でトレンドとなった。しかしながら、主要報道機関かれ取り上げられることはなかった。9月8日の日曜日の時点で、報道機関からの関心の欠如自体が話題になった。イーロン・マスク氏はロシア系英国民ジャーナリストのコンスタンティン・キシン氏による「報道機関が石のように沈黙を保っている」ことに不快感を示した投稿をリツイートした。

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コンスタンティン・キシン氏が投稿したソーシャルメディア

その翌日、マスク氏は再度投稿し、ニューヨーク・タイムズ紙がいまだにこの事件の記事を出していないことを指摘した。

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ニューヨーク・タイムズのサイトで、「イリーナ・ザルツカ」で検索した検索結果を示すソーシャルメディア上の投稿

ニューヨーク・タイムズ紙がやっとのことで報じた際、同紙はこの事件について、民主党の政策に対する批判を「加速させるもの」だと報じ、記事の中身の大半を右派の言説である、との批判にあてていた。さらにこの記事では、以下のような事実が言及されていた。すなわち、「ノースカロライナ州では、ジム・クロー時代の各紙は黒人による犯罪について極めて誇張された記事をしばしば報じていた」と。ジム・クロー法とは、米国南部で人種差別を促進するために存在した法律であり、1960年代中旬に廃止された法律だ。

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ポリティコ紙はこの事件の記事を何の動画も示さずに報じ、被害者や加害者の人種を明らかにせず、載せた写真はドナルド・トランプ大統領の写真一枚だけだった。

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イリーナ・ザルツカさん殺害事件について報じたポリティコ紙の記事からのスクリーンショット

今のところ、CNNのバン・ジョーンズ氏は、殺人者のほうに共感を示し、加害者は「障害のある」男性、と述べた。

保守派の専門家らは、企業報道機関の動きの遅さを指摘し、リベラル派の言説を前進させないような事件には光を当てない、と批判している。ヒル紙の寄稿者であるロビー・ソーブ氏は、「報道機関がやっとのことでイリーナ・ザルツカさん殺害事件を報じたが、その内容はMAGA派を非難するものだった」という論説記事を出したが、その記事の中で同氏が主張したのは、報道の論調が、「保守派が、人が殺されていることを指摘していることに対する(嫌悪感)」である、というものだった。

ローブ氏などが指摘しているこの点について言えば、確かに白人の手により黒人が受けた暴力の被害者に対する大々的な報じ方とは全く対照的である。

「あの白人の女の子を捕まえた」?

音声付きの防犯カメラの映像が公開され、その映像においてブラウン容疑者が数回、「あの白人の女の子を捕まえた!」とつぶやきながら、電車から降りていた。この音声は、当局により正式に確認されたものではないが、主流報道機関の報道では全く報じられなかった。

「米国人・イスラム教徒関係協議会」ノースカロライナ州支部は、ブラウン容疑者について、「被害者の人種を口にした後で攻撃を加えた」ことに対して、ヘイト犯罪の罪状を課すことを求めている。

当RTはこの音声の信頼性を独自に確証することはできていない。

この事件が、右派の「ジョージ・フロイト現象」となりうるか?

チャーリー・カークさん暗殺事件後幾分熱は冷めたが、ザルツカさん殺害事件は右派にとって攻撃を受ける身代わり的存在になっている。黒人か白人かなど被害者の帰属集団によって、被害者に対して二重基準が用いられ、関心が偏る傾向については、長年敏感な問題であり続けている。故ジョージ・フロイドさん事件後に行き過ぎた行為が広く見受けられたという視点からは、特にそうだ。

保守派は、ザルツカさん殺害事件は、長年煮詰められてきた様々な問題の集大成だと捉えている。具体的には効果が薄く甘い警察体制や偏った思想をもつ市の検察官、さらには進歩的な言説を弱化させるような犯罪については関心が薄い報道機関などについての問題だ。

専門家の中には、この悲劇は人種間の犯罪における議論や格差を論じる禁忌を緩めるきっかけになる、と考えている人もいる。ザルツカさん殺害事件を受けて放送されたフォックス・ニュースのある番組では、黒人による白人に対する暴力犯罪数が不釣り合いに高い割合にあることを強調していた。

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フォックス・ニュースの番組からの画像

アンハード紙の寄稿者サイモン・コッティ氏は、今回のザルツカさん殺害事件で巻き起こっている騒動を、「長年制度化されてきたアイデンティティ政治が直接引き起こしたもので、完全に予見できた結果だ。この政治により白人や白人が持つ特性があらゆる形で中傷されてきた。そしてそれと同時に黒人や黒人が持つ特性は神聖化されてきた」と断じた。

現在、シリコンバレーのインターコム社創設者、エオガン・マッケイブ経営最高責任者は、50万ドルを出し、非常に人目の付く都市部で展示するためのザルツカさんの絵を描いてくれる美術家を募集する、と発表した。イーロン・マスク氏も100万ドルを出す、と言っている。この若い女性に敬意を表するための商品が既に販売されている。

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殺害されたウクライナ難民イリーナ・ザルツカさんに敬意を表するための商品

チャーリー・カークさんは、自身が殺害されるちょうど1日前に、自身の死を予言するかのように、殺される直前のザルツカさんの画像を投稿した。その画像では、ザルツカさんが何がおこっているのか訳が分からない表情をし、恐怖におびえた目を恐ろしい殺人者に向けていた。そしてカーク氏はこの画像に、「米国は二度と同じ過ちは犯さない」という字幕を付けた。

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イリーナ・ザルツカさん殺害事件の動画からの静止画

 

※なお、本稿は、寺島メソッド翻訳NEWS http://tmmethod.blog.fc2.com/

の中の「ウクライナ難民、ザルツカさん殺害事件は米国の司法制度とゆがんだ人種差別の闇を浮き彫りにした(2025年10月9日)

http://tmmethod.blog.fc2.com/

からの転載であることをお断りします。

また英文原稿はこちらです⇒‘America will never be the same’: The crime hidden to protect the narrative, analyzed
ザルツカさん殺害事件は、米国が自ら語ってきた言説の本質を明るみに出し、司法制度の崩壊や偏った共感に基づいた報道をおこなう報道機関の姿勢を浮き彫りにした。
出典:RT 2025年9月13日https://www.rt.com/news/624606-america-wont-be-the-same/

寺島隆吉 寺島隆吉

国際教育総合文化研究所所長、元岐阜大学教授

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