ウチナーンチュから聞こえる<沖縄の不条理>50年(後)
琉球・沖縄通信■沖縄は日本の植民地か、ならばそこからの解放の途は
問:沖縄は、今(も)日本の植民地だと認識されていますか。
[大城]植民地です。だって島津に侵略されて以来、そこでも植民地状態におかれ収奪された。琉球併合によって植民地化されて、日本との関係は植民地主義がずっと継続している。
[金城]ずっと植民地だと思っている。日本もアメリカの植民地だが。基地を押し付けるし反対の意思を示しても無視するし。沖縄の意思決定権を認めない。[宮城]植民地的な状況下にありますね。
[安里]植民地状態だと思う。はっきり言って植民地ですよ。
[伊佐]植民地。その根拠は自分たちでほとんど何も決められないところです。手足を縛られている。
[島袋]今も植民地である、それを日本政府は植民地でないかの如く装う。
[比嘉]植民地だ。
[新垣]植民地ですね。こういうことすら考えない無関心の人が一杯いる。
[高良]かつても現在も植民地的に扱われています。植民地と植民地的とは違います。植民地的に扱われているというのは沖縄を尊重するように見せながら、最終的には沖縄を安保の担保にしているんです。50年の今日までまったく変わらずに踏襲されている。例えばグアムなどはアメリカの植民地である。アメリカの議会に代表は送れるけれど議決権がない。沖縄は1県という扱いを日本の憲法のもとに置かれている。そういう意味では日本の国民ではあるんですよ、ところが扱われ方はそれがないかのようだから植民地的なのです。
問:植民地からの解放はいかにして実現されるとお考えですか。
[島袋]まず精神的独立。人さらいにさらわれて児童労働に売り飛ばされていた子どもが、年季が終わって親元に帰るのだと言って人さらいの元に帰った、それが日本。日本は親でも本家でもなかった。今、それに気が付いたと。でも日本は本家であるかのように、温かく迎えるようなポーズをして復帰式典をやり、また売り飛ばした。我々の本家は沖縄自身なんだ。もともと自分たちは一つの国だったということに気が付かなければいけない。それが精神的独立。別に日本と大喧嘩する必要もないし、周りと良き隣人関係を作りながら、自立の方向をゆっくりつくっていく。周りの隣人というのは日本だけでなく、中国もアメリカも台湾もアジアの国もそうだ。沖縄の独立が必要かというよりも、経済的な豊かさの呪縛からの独立が必要だ。
[比嘉]自立の思想すなわち経済的自立と精神的・文化的自立、この二つが大切。解放の前に自立と言うのは沖縄人自身が歴史に目覚め、人間性に覚醒して、人間として自立していく。それをしようと思ったら同時に経済が大事だから生活力をつけていく。自治政府、特別自治県、独立政府、この三つからどれを選択するかは時期が来た時に決めれば良いと思う。
[安里]植民地からの解放は琉球民族として独立することだ。沖縄は日本の人たちに気付かせるための教材ではないんです。
[大城]ヤマトのみなさんは沖縄を植民地にしているという意識は持ってないのかな、気付かないでしょう。1対100%のみなさんに理解出来るようにぼくらはがんばらねばいけないのか、それは違うと思う。99を説得するのは永遠に無理なんです。植民地主義から解放されるには独立しかないけれども、いきなり独立では意識の面でウチナーンチュはそうはならない。まずは自己決定権の運動を通しながら、自分たちの歴史、文化、アイデンティティを取り返す。自己決定権は独立への道なんです。
[伊佐]一国二制度のようなものを沖縄だけに特化して試しにやってみればと思う。
[新垣]それは世論です。世論を高めるかしかないです。基地問題と違う人とつながる、枠を広げるというのも大切なことで、今はもう精神論だけでは誰もついて来ない。
[宮城]本土にいる多数派の日本人が変わらないと難しいですね。そういう意味で「基地引き取り論」は評価できます。琉球大学を国立大学にしたのは間違いだったという人もいます。復帰前は琉球政府立だった。復帰によって日本国の一地方になってしまい、自己決定権が遠ざかってしまった。自己決定権は大事な権利で、植民地的状況から脱け出る一つの可能性です。
[高良]植民地的な状況からの解放は沖縄から米軍基地が削減されていくこと、沖縄を安保の担保にしないということです。
共同通信社が2022年3~4月におこなった世論調査に「沖縄独立論」を問う項目があり、結果は「共感できる」が「どちらかといえば」を含め29%を占めていた。9名の方々はこの29%の分類に入るのであろうと推察される。
「独立論」に関して次のような発言も出された。
[島袋]「独立論」は今の若い世代には多分突拍子もない話ではないか。若い人だと「何で沖縄は日本じゃあないの、日本でいいじゃあないの」というのも出て来るだろうし。
[宮城]今後増えることはあっても減ることはないと思います。
[比嘉]以前の調査では5%や10%だったから3倍に増えている。新川明だが、彼は基本的には独立志向だと思う。「独立かどうか?」と言われたら「独立だ」と言わざるを得ないだろう。
[大城]復帰50年の現実ですよね。今の枠組みでは沖縄の問題は解決しないし、むしろ米軍と一体となって軍事要塞化に持って行かれたら沖縄の将来はないなという危機感がある。そういう意味での29%でしょうね。ここ数年、自己決定権というのがよく出て来ているのも背景にあるんでしょうね。
■エピローグ
ここに挙げた質問のほかに、1971年10月19日の沖縄青年同盟3名による国会爆竹闘争、1977年5月15日の復帰協解散、新崎盛暉の「居酒屋独立論」、『うるまネシア第5号』(2003年5月)「新川明さんインタビュー:『反復帰・反国家』と『独立』のはざまで」、ILO169号条約の先住民族規定、共同通信世論調査などについて質問したが、紙面の関係上割愛せざるを得なかった。別稿で論じたい。
前述したように聞き取りに協力いただいた9名の方々は、いわゆる活動家とは限らないが沖縄の現状と真摯に向き合おうとされている。各自が直面している課題には幅があるものの、今回の聞き取りで顕在化、可視化されたのは<沖縄の不条理>である。そして各自がこの<沖縄の不条理>に抗い、それぞれの領域において生活を営みながら格闘されていることも伝わってきた。
2022年5月15日付『沖縄タイムス』に「県内2紙編集局長寄稿」が掲載されている。
沖縄タイムス編集局長・与那嶺一枝は次のように言う。
「憂鬱。/復帰50年を迎える沖縄にいて、一言で表わすならこの言葉がしっくり来る。/復帰して「良かったと思う」と答えた沖縄県民が94%に達しているにもかかわらず、祝意でも失望でもなく憂鬱である」。
琉球新報編集局長・松本剛は次のように言う。
「『不平等』よりも険しい響きを宿す『差別』を用いざるを得ない民意の地殻変動が起きているのだ。(中略)今後も『手段』として用いられかねない沖縄に、この国の民主主義が成熟しているかを問うリトマス試験紙のような役割をいつまで課すのか。日本政府を下支えしている本土の国民にも問わなければならない」。
聞き取りに協力いただいた方々と両編集局長の寄稿は、通底していると言えよう。
かくして、2022年5月16日、<沖縄の不条理>は日本再併合51年の1日目を迎えた。この状況の変革はウチナーンチュのみならずヤマトンチュにこそ、その責があるといえるのではなかろうか。
最後に、調査に協力くださったみなさまに再度心から感謝申し上げます。
(脚注)
[i] ナイチャーは「内地の人」という意味で、沖縄県以外の都道府県の人を指す。岸政彦は『はじめての沖縄』で、日常用語でこれほど明確に自分の県とその他を分けて表現する言葉は他にないといい、この区別を「内地の側からの沖縄への差別の、裏返しである」と書いている。
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2005年、琉球大学大学院修士課程修了。2009年、大阪市立大学(現・大阪公立大学)大学院博士課程単位取得退学。研究テーマは「沖縄・琉球とヤマトゥの関係史」、「琉球独立論の思想的系譜」。