
【櫻井ジャーナル】2025.10.14XML : 元英首相とハーボーンの関係が明らかにされたが、戦争の黒幕については沈黙
国際政治2019年7月から22年9月までイギリスの首相を務めたボリス・ジョンソンは首相を辞任した後、22年10月に「ボリス・ジョンソン事務所」なる民間会社を設立した。ガーディアン紙によると、ジョンソンの議員利益登録簿にはその翌月、同社へ彼の大口スポンサーであるクリストファー・ハーボーンが100万ポンドの寄付したと記録されている。100万ポンドの寄付があった2022年11月、ジョンソンとハーバーンはシンガポールで2度会食した。ハーバーンはウクライナにドローンを供給しているイギリスの兵器メーカーの大株主だ。
ジョンソンは首相時代の2022年4月9日にキエフへ乗り込み、ウォロドミル・ゼレンスキー政権に対してロシアとの停戦交渉を止めるように命令、ウクライナでの本格的な戦闘を長期化させる切っ掛けを作った人物としても知られている。(ココやココ)
2022年2月24日にロシア軍はドンバス(ドネツクとルガンスク)周辺に終結していたウクライナ軍の部隊だけでなく、軍事基地、あるいは生物兵器の研究開発施設を攻撃し始めたが、その直後からイスラエルやトルコを仲介役とする停戦交渉が開始された。仲介役のひとりだったイスラエルの首相だったナフタリ・ベネットは交渉の内容を長時間のインタビューで詳しく話している。
ベネットは2022年3月5日にモスクワへ飛んでウラジミル・プーチン露大統領と数時間にわたって話し合い、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領を殺害しないという約束をとりつけることに成功、その足でベネットはドイツへ向かってオラフ・ショルツ首相と会った。
ところが、その3月5日、SBU(ウクライナ保安庁)のメンバーがキエフの路上でゼレンスキー政権の交渉チームで中心的な役割を果たしていたデニス・キリーエフを射殺した。クーデター後、SBUは事実上、CIAの下部機関として活動していた。
停戦交渉はトルコ政府の仲介でも行われ、やはり停戦でほぼ合意に達している。その際に仮調印されているのだが、「ウクライナの永世中立性と安全保障に関する条約」と題する草案をプーチン大統領はアフリカ各国のリーダーで構成される代表団が2023年6月17日にロシアのサンクトペテルブルクを訪問した際に示している。
こうした和平の流れを止めたのがイギリスの首相だったボリス・ジョンソンにほかならない。NATO諸国は2014年の「ミンスク1」と15年の「ミンスク2」を利用してキエフ体制の戦力を増強していたことから、戦闘が続けばロシアが疲弊すると思い込んでいた可能性がある。しかもロシア軍が攻撃を始めた当時、投入されたロシア軍の戦力はウクライナ軍の数分の1だったとされている。アメリカ政府のプロパガンダはともかく、西側でもロシアは戦争の準備ができていないと考える専門家が少なくなかった。
ロシア外務省によると、戦闘が始まった直後にロシア軍が回収したウクライナ側の機密文書には、ウクライナ国家親衛隊のニコライ・バラン司令官が署名した2022年1月22日付秘密命令が含まれていた。これにはドンバスにおける合同作戦に向けた部隊の準備内容が詳述されていた。
ロシア国防省のイゴール・コナシェンコフ少将によると、「この文書は、国家親衛隊第4作戦旅団大隊戦術集団の組織と人員構成、包括的支援の組織、そしてウクライナ第80独立空挺旅団への再配置を承認するもの」で、この部隊は2016年からアメリカとイギリスの教官によって訓練を受けていたという。
NATO側は8年かけ、兵器の供与や兵士を育成するだけでなく、マリウポリ、マリーインカ、アブディフカ、ソレダルの地下要塞を結ぶ要塞線をドンバスに築いている。ウクライナの軍や親衛隊はドンバスへ軍事侵攻して住民を虐殺、ロシア軍を誘い出して要塞線の内側に封じ込め、その間に別働隊でクリミアを攻撃するという計画だったのではないかと元CIA分析官のラリー・ジョンソンは推測している。
イギリスのベン・ウォレス元国防相はワルシャワ安全保障フォーラムで講演した際、クリミアを居住不可能にする長距離攻撃能力をウクライナが持てるように支援するべきだと主張、核弾頭を搭載できる巡航ミサイルのトマホークをウクライナへ供与するべきだとする声もある。アメリカのJ・D・バンス副大統領は9月28日、アメリカがNATO加盟国へトマホークを提供し、その後、それをウクライナへ供給することを検討していると語った。
こうした種類のミサイルはアメリカがターゲットに関する衛星や地上の情報を提供、さらにGPS衛星を利用して誘導する必要がある。フィナンシャル・タイムズ紙はイギリスが対ロシア戦争への資金と武器の供与するだけでなく、ロシアの深奥部攻撃を支援しているとしている。
また、アンゲラ・メルケル元独首相はハンガリーのメディアに対し、バルト三国やポーランドの反対でウラジミル・プーチン露大統領との直接対話が実現しなかったと語った。
2022年2月24日にロシア軍は攻撃を開始した当時、数的にウクライナ軍より劣勢で、戦争の準備はできていなかった可能性が高い。それにもかかわらず回線を決意、ドンバスの反クーデター軍と連携してウクライナ/NATO軍を押していく。
戦力不足を承知でロシア軍がキエフに迫ったのは、ウクライナ軍の別働隊にクリミアへ向かわせないためだと見られ、ロシアとウクライナが停戦でほぼ合意した段階でロシア軍は撤退した。その流れをジョンソン英首相は壊したのだ。
イギリスをはじめとする西側が戦争を望んでいることを理解したロシア政府は2022年9月に部分的動員を発表した。どのような展開でもウクライナ軍の敗北は不可避だが、戦闘が長期化すればロシアは疲弊するとネオコンは考えていていたようだ。その後も戦争を仕掛けたアメリカやイギリスの支配層はウクライナに対し、最後のひとりまでロシア軍と戦い、ロシアにダメージを与えるように命令している。「総員玉砕せよ」ということであり、ウクライナ人が死滅しても構わないということだ。
しかし、ロシアはウクライナ/NATOとの戦闘で疲弊していない。戦争の過程でロシアの生産能力は高まり、兵器の性能が西側を凌駕していることを世界に示している。1970年代から金融中心の社会にしてきた西側諸国は生産能力が低下していることから戦闘の長期化は西側諸国を苦境に追い込んでいる。エネルギー資源や鉱物資源の不足は西側の社会を破壊しつつあり、人びとの不満を抑え込むために社会の収容所化を進めている。
ジョンソンとハーボーンがカネで結びついていることは確かなのだろう。2023年9月にジョンソンが支援者を伴ってウクライナを訪問、ヤルタ欧州戦略(YES)フォーラムでウクライナの閣僚のほか、情報機関や軍の幹部らと交流したとされている。ジョンソンがウクライナ政府の高官と会談した際にはハーボーンが「ボリス・ジョンソン事務所顧問」として出席していたともいう。
しかし、ウクライナをクーデターを引き起こしてロシアとの戦争を始めたの西側世界を支配している勢力であり、ハーボーンは歯車のひとつにすぎない。ドイツ首相もフランス大統領も自国のことを顧みず、ウクライナを舞台としたロシアとの戦争に必死だが、フリードリヒ・メルツ独首相は巨大金融機関ブラックロックの元幹部、エマニュエル・マクロン仏大統領はロスチャイルド銀行出身。現在、イギリスの首相を務めているキア・スターマー首相はシオニストであることを公言している。
ゼレンスキーは大統領時代の2020年10月にイギリスを公式訪問したが、その際、同国の対外情報機関MI6のリチャード・ムーア長官を非公式に訪問している。これは異例の行動だ。
このドキュメンタリーにはマクロンの政策を批判していたフランス軍情報部の元分析官、エリック・ドゥネセも出演しているが、今年6月9日に死亡した。経済的な理由による自殺とされているが、家族や友人は強く疑っている。
ソ連が消滅して以来、西側の支配層はソ連との約束を無視してNATOを東へ拡大させてきた。これはナチ時代のドイツが実行したバルバロッサ作戦を同じだ。ウクライナをNATOが支配下に置くことをロシア政府が許すはずはなかった。つまり、ウクライナでのクーデターは対ロシア戦争の始まりにほかならない。だからこそ、その時に動かなかったウラジミル・プーチンがロシア国内で批判されたのだ。
プーチンは戦争を回避したかったのだろうが、本ブログでは繰り返し書いてきたことだが、イギリスの支配層は19世紀以来、ロシアと中国の征服を目指している。ウクライナで勝負に出たイギリスやアメリカの支配層、つまり巨大金融資本は負けることができないが、ウクライナでの敗北は必至だ。
「勝利か死か」ということで核戦争へ突き進むのか、原子力発電所を破壊してロシアに深刻なダメージを与えるようとするのか、あるいは誰かに敗北の責任を押し付けて自分たちは一時的に撤退するのか、西側世界の支配層では対立が生じているかもしれない。
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