
【櫻井ジャーナル】2025.10.17XML : 米財務長官が加藤財務大臣にロシア産エネルギーの輸入を停止するように伝えた
国際政治アメリカのスコット・ベッセント財務長官10月15日、日本がロシアからのエネルギー輸入を停止することを期待すると加藤勝信財務大臣に伝えたという。日本がロシアからLNG(液化天然ガス)を輸入していることにドナルド・トランプ大統領が苛立っているようだ。そのトランプは今月下旬に東京を訪問する。
この件に関し、加藤大臣は「ウクライナ和平を公正な方法で実現するため、G7諸国と連携するという基本原則に基づき、日本としてできることはすべて行う」と述べた。
ロシアからドイツへ天然ガスをバルト海経由で輸送するために建設されたパイプライン、「ノードストリーム(NS1)」と「ノードストリーム2(NS2)」が爆破されたのは2022年9月26日から27日にかけてのこと。このテロ工作でドイツの製造業は壊滅的な打撃を受け、社会は崩壊しつつあるが、その影響はヨーロッパ全域に広がっている。この冬の寒波が襲来した場合、壊滅的な状況になりかねない。
調査ジャーナリストのシーモア・ハーシュは2023年2月8日、アメリカ海軍のダイバーがノルウェーの手を借りてノードストリームを破壊したとする記事を発表している。ジョー・バイデン大統領は2021年後半にジェイク・サリバン国家安全保障補佐官を中心とする対ロシア工作のためのチームを編成、そして2022年初頭にはCIAがサリバンのチームに対し、パイプライン爆破を進言して実行されたというのだ。
ロシア連邦保安庁(FSB)の元長官で、現在は大統領補佐官を務めているニコライ・パトルシェフは9月7日、NS1とNS2の爆破テロは高度に訓練されたNATO特殊部隊の関与のもとで計画、監督、実行された可能性が高く、実行犯は深海での作戦経験が豊富で、バルト海での活動にも精通していたとしている。こうした条件に合致する情報機関として彼はイギリスの特殊舟艇部隊(SBS)を挙げている。
状況を考えると、アメリカかイギリスの情報機関や特殊部隊が実行した可能性が高いのだが、そもそもバラク・オバマ政権が2013年11月から14年2月にかけてキエフでクーデターを仕掛けた理由のひとつは、ロシア産天然ガスをヨーロッパへ運ぶパイプラインを抑えることにあったと見られている。そのウクライナを迂回するために建設されたのがNS1とNS2だった。
その2022年、サハリンでの天然ガス開発に参加している日本にもアメリカから圧力がかかっていた。このプロジェクトから手を引くように日本や欧米の企業にアメリカ政府は圧力をかけ、エクソンモービルは2022年3月にロシア事業からの撤退を決めているのだが、日本は継続を決めている。
プロジェクトのひとつであるサハリン1の場合、エクソンモービルが運営権益30%を保有、日本のサハリン石油ガス開発も同じく30%を保有していた。サハリン石油ガス開発には経済産業省、伊藤忠商事、丸紅、石油資源開発などが共同出資している。エクソンモービルはアメリカ政府の圧力で撤退を決めた。
もうひとつのプロジェクトであるサハリン2では2022年8月に三井物産と三菱商事が新たな運営会社であるサハリンスカヤ・エネルギヤに出資参画することを明らかにした。出資比率はそれぞれ12.5%と10%。27.5%を保有していたイギリスのシェルは同年2月に撤退、ロシアのガスプロムが50%プラスから77.5%へ増加している。
日本はロシア産天然ガスの開発を重要だと認識、アメリカの圧力を跳ね除けて出資を継続したのだろうが、その決定が発表される直前、2022年7月8日に安倍晋三は射殺された。
ウクライナではロシア軍の進撃スピードが速まり、NATO/アメリカは苛立っている。2014年の「ミンスク1」と15年の「ミンスク2」で西側諸国に煮湯を飲まされたロシアは停戦に応じる気配は感じられない。
アンゲラ・メルケル元独首相やフランソワ・オランド元仏大統領は、ミンスク1やミンスク2はキエフ政権の戦力を増強する時間稼ぎが目的にすぎなかったことを認めている。
ドナルド・トランプ米大統領は、ロシアの収入源である天然ガスや石油のマーケットを潰し、クレムリンに圧力を加えて停戦に持ち込もうとしているのだろうが、すでにアメリカの「制裁」がロシアや中国より西側諸国に大きなダメージを与えることが明確になっている。
日本にとって、2023年時点でロシアからのLNG輸入量はオーストラリアとマレーシアに次ぐ第3位。総輸入量の9.3%を占めていた。日本がロシアからのエネルギー輸入を停止した場合、日本も厳しい冬を過ごさなければならない。
トランプはインドのナレンドラ・モディ首相がロシアから石油を購入しなくなることを確約したと宣伝したが、これまでの流れから考えて疑問だ。これが事実なら、インドのエネルギー戦略が劇的に転換することを意味するのだが、この発言の翌日、エネルギー政策の選択は国民の利益に基づいているとインド政府は改めて表明した。エネルギー価格の安定と安定供給の確保がエネルギー政策の優先事項だとしているインド政府は割安なロシア産原油に依存している。この状況が変化したとは思えない。トランプ大統領はプロレスのマイクパフォーマンスをまた行ったという見方もある。
【追加】
インド外務省のランディール・ジャイスワル報道官は10月16日の記者会見で、10月15日にインドとアメリカの首脳が会談したとは承知していないと語った。BRICSが崩壊するという話も含め、ドナルド・トランプ米大統領の話は何者かの作り話だということであろう。
【Sakurai’s Substack】
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