【連載】櫻井ジャーナル

【櫻井ジャーナル】2025.10.21XML : 予想された通り、イスラエル軍がガザで住民虐殺を再開

櫻井春彦

 1917年11月にアーサー・バルフォアがウォルター・ロスチャイルドへ「ユダヤ人の国」を建設する第一歩と言われる書簡を出して以来、パレスチナでは多くの人が殺されてきた。ドナルド・トランプ米大統領はガザにおける和平合意の第1段階をクリアさせたと誇っているが、この合意で地域に平和が訪れると考える人がいたとするならば、その人はパレスチナ問題に関する基本的な知識がないと言える。

 

この和平合意とは、イスラエル政府とパレスチナ人との間で2023年春から続く一連の衝突に関するものだ。その年の4月1日にイスラエルの警察官がイスラム世界で第3番目の聖地だというアル・アクサ・モスクの入口でパレスチナ人男性を射殺したところからイスラエル政府の挑発は始まった。4月5日にはイスラエルの警官隊がそのモスクへ突入、ユダヤ教の祭りであるヨム・キプール(贖罪の日/今年は9月24日から25日)の前夜にはイスラエル軍に守られた約400人のユダヤ人が同じモスクを襲撃している。そしてユダヤ教の「仮庵の祭り」(今年は9月29日から10月6日)に合わせ、10月3日にはイスラエル軍に保護されながら832人のイスラエル人が同じモスクへ侵入した。

 

そして2023年10月7日、ハマス(イスラム抵抗運動)を中心とするパレスチナの武装グループがイスラエルを奇襲攻撃する。この攻撃では約1400名(後に1200名へ訂正)のイスラエル人が死亡したとされ、その責任はハマスにあると宣伝された。

 

しかし、イスラエルのハーレツ紙によると、​イスラエル軍は侵入した武装グループを壊滅させるため、占拠された建物を人質もろとも砲撃、あるいは戦闘ヘリからの攻撃で破壊、殺されたイスラエル人の大半はイスラエル軍によるものだと現地では言われていた​。イスラエル軍は自国民を殺害するように命令されていたというのだ。いわゆる「ハンニバル指令」である。ハマスの残虐さを印象付ける作り話も流された。

 

ガザでは建造物が徹底的に破壊され、多くの遺体は瓦礫の下にあるため、何人が殺されたかは明確でない。​医学雑誌「ランセット」は2023年10月7日から24年6月30日までの間にガザで外傷によって死亡した人数は6万4260人と推計、そのうち女性、18歳未満、65歳以上が59.1%だとする論文を発表した​。

 

「ハーバード大学学長およびフェロー」のウェブサイト「データバース」に掲載されたヤコブ・ガルブの報告書では、イスラエル軍とハマスの戦闘が始まる前には約222万7000人だったガザの人口が現在は185万人に減少、つまり37万7000人が行方不明になっている​という。状況から考え、行方不明者の大半は死亡している可能性が高いが、死亡者の約4割は子どもであり、女性を含めると約7割に達すると言われている。

 

襲撃の直後、ベンヤミン・ネタニヤフ首相は「われわれの聖書(キリスト教における「旧約聖書」と重なる)」を持ち出し、パレスチナ人虐殺を正当化している。聖書の中でユダヤ人と敵だとされている「アマレク人があなたたちにしたことを思い出しなさい」(申命記25章17節から19節)という部分を彼は引用、「アマレク人」をイスラエルが敵視しているパレスチナ人に重ねたのだ。

 

その記述の中で、「アマレク人」を家畜と一緒に殺した後、「イスラエルの民」は「天の下からアマレクの記憶を消し去る」ことを神は命じたというわけだ。「アマレク人」を皆殺しにするという宣言だが、このアマレク人をネタニヤフたちはアラブ人やペルシャ人と考えているのだろう。

 

サムエル記上15章3節には「アマレクを討ち、アマレクに属するものは一切滅ぼし尽くせ。男も女も、子供も乳飲み子も牛も羊も、らくだもろばも打ち殺せ。容赦してはならない。」と書かれている。これこそがガザでイスラエルによって行われていることだと言えるだろう。ネタニヤフによると「われわれは光の民であり、彼らは闇の民」なのである。

 

ネタニヤフは8月23日、ナイル川からユーフラテス川に至る大イスラエルを創設するという「歴史的かつ精神的な使命」を宣言している。だからこそ、ネタニヤフはイランを攻撃したがっているのだ。そうした行為や計画を支援してきた欧米諸国には帝国主義的な野望がある。

 

イギリスは1920年から1948年の間パレスチナを委任統治、ユダヤ人の入植を進めた。1920年代に入ってアラブ系住民の入植に対する反発が強まると、イギリス政府はそうした動きを抑え込もうとする。

 

デイビッド・ロイド・ジョージ政権で植民地大臣に就任したウィンストン・チャーチルはパレスチナへ送り込む警官隊の創設するという案に賛成、アイルランドの独立戦争で投入された「ブラック・アンド・タンズ」のメンバーを採用したが、この組織はIRA(アイルランド共和国軍)を制圧するために設立され、殺人、放火、略奪など残虐さで有名だった。そして1936年から39年にかけてパレスチナ人は蜂起する。

 

1938年以降、イギリス政府は10万人以上の軍隊をパレスチナに派遣する一方、植民地のインドで警察組織を率いていたチャールズ・テガートをパレスチナへ派遣、収容所を建設する一方、残忍な取り調べ方法を訓練した。イギリス軍はパトロールの際、民間のパレスチナ人を強制的に同行させていたともいう。

 

委任政府は外出禁止令を出し、文書を検閲、建物を占拠、弁護人を受ける権利を停止する一方、裁判なしで個人を逮捕、投獄、国外追放している。この政策はイスラエル政府の政策につながる。

 

反乱が終わるまでにアラブ系住民のうち成人男性の10パーセントがイギリス軍によって殺害、負傷、投獄、または追放された。植民地長官だったマルコム・マクドナルドは1939年5月、パレスチナには13の収容所があり、4816人が収容されていると議会で語っている。その結果、パレスチナ社会は荒廃、1948年当時、イスラエルの「建国」を宣言したシオニストの武装組織に対して無防備な状態となっていた。

 

第2次世界大戦後、パレスチナにはイスラエルなる国が作られ、そのイスラエルがアラブ系住民に対する弾圧を始める。イギリスの代理人として活動し始めたと言えるだろう。

 

イギリスはアメリカやオーストラリアで先住民を虐殺、自分たちの国を作り上げた。同じことが中東でも展開されている。今回の和平合意でパレスチナに平和が訪れるとは思えない。イスラエル人にしろ欧米諸国の政府にしろ、アラブ系住民をパレスチナから一掃したいのだとしか考えられない。虐殺の原因をハマスにあると主張する人は、パレスチナ人虐殺を容認しているにすぎない。パレスチナの住民は戦闘に巻き込まれていいるのではない。イスラエル軍のターゲットになっているのだ。

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