【連載】今週の寺島メソッド翻訳NEWS

☆寺島メソッド翻訳NEWS(2025年11月17日):フョードル・ルキャノフ:米国と中国が衝突する中、他の文明は独自の進路を準備している

寺島隆吉

※元岐阜大学教授寺島隆吉先生による記号づけ英語教育法に則って開発された翻訳技術。大手メディアに載らない海外記事を翻訳し、紹介します。

筆者:フョードル・ルキャノフ(Fyodor Lukyanov)
ロシア・グローバル情勢編集長、外交防衛政策評議会幹部会議長、ヴァルダイ国際討論クラブ研究ディレクター

ドナルド・トランプ米大統領と習近平中国国家主席は、2025年10月30日、韓国・釜山の金海国際空港で会談前に握手した。© AP Photo / Mark Schiefelbein

よく使われるビジネス用語「押して引く」は、今日の米中関係の本質を端的に表している。かつては競争的なパートナーシップに見えた関係が、意志と力とアイデンティティ(独自性)を賭けた対立へと硬化しつつある。この対立が今後何年にもわたり世界秩序を形作っていくことになる。

20世紀後半から21世紀初頭にかけて、西洋社会では世界が自由主義的な普遍的秩序へと向かっているという前提が支配的であった。経済的相互依存、グローバル市場、統一されたルール体系が、歴史的な怨恨や文化的な差異を解消すると考えられていた。この構想において、文明のアイデンティティ——伝統、文化、世界観の深層構造——はほぼ遺物として扱われていた。

しかし、その時代は終わった。リベラルな秩序は、ドナルド・トランプがホワイトハウスに入るずっと前から亀裂が生じ始めていたが、彼の登場によってその断絶は明らか、かつ不可逆的なものとなった。古い枠組みが揺らぐにつれて、振り子はアイデンティティ、差異、文明の自己主張へと逆戻りした。今、問題となっているのは、この変化が起こっているかどうかではなく(それは明らかである)、その変化の中で世界がどのように機能していくかである。

トランプ効果

ジョージ・W・ブッシュはかつて「思いやりのある保守主義」を約束した。バラク・オバマは雄弁な多国間主義の文脈で権力を位置づけた。トランプはそのような包装を捨てた。就任から1年も経たないうちに、彼はアメリカの外交政策だけでなく、それを取り巻く世界の期待そのものを変えた。トランプ政権下のワシントンは、過去の世代が制度的な洗練の層の下に葬り去ろうとした率直さを再発見したのである。


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これは一種の個人的なパフォーマンス(行動様式)でもある。彼の無愛想さ、儀礼を軽んじる態度、そして不満や要求を公の場でぶちまける習慣だ。支持者たちはこれを新鮮な本音と捉え、権力層の専門化された偽善からの脱却と見なす。批判派は危険だと断じる。いずれにせよ、この手法は他のプレイヤー(交渉参加者)に協調を迫る上で効果を発揮してきた。

形式が内容を決定する。「強さによる平和」という長年の米国の基本方針は、今や強圧的な交渉、関税脅迫、露骨な恐喝、そしてライバルも同盟国も区別しないで大っぴらに恥をかかせる、などへと変質した。この政権はこの手法を統治哲学として採用した。外交は戦場であり、躊躇は弱さであり、礼儀も選択のひとつである。

文化的観点から見ると、トランプ大統領はかつてヨーロッパ人がアメリカ人を描いた風刺画を蘇らせている。それは、厚かましく、自信過剰で、微妙なニュアンスを軽蔑し、力こそが最も誠実な議論だと確信している姿だ。19世紀の観察者がアメリカに帰した「農民共和制」(訳注:アメリカの伝統的なイメージや、素朴さ・自己確信・力信仰を象徴する表現)の本能――自らの正しさへの確信、曖昧な言い方を信じない――が再び露わになっている。トランプ大統領はこれを誇りに思っている。好むと好まざるとにかかわらず、彼は依然として地球上で最も強力な国の指導者である。他の誰もがその現実を自らの戦略に組み込まねばならなくなった。

ここには皮肉な面もある。トランプ大統領の率直さは耳障りではあるが、ワシントンの洗練された二枚舌よりも対応しやすい場合がある。ウラジーミル・プーチン大統領が示唆したように、抽象的な表現で意図を隠す笑顔のテクノクラート(技術官僚)よりも、要求を明言する人物との交渉の方が単純だ。しかし度を越した率直さは危険であり、トランプ大統領は外交をテレビ番組の舞台のように扱うことが多い。 そこでは「エスカレーション」は結果ではなく視聴者に見せるためのドラマとなってしまっている。

異なる文明

そのスタイルと最も顕著な対照をなすのは中国だ。純粋な能力において、北京はワシントンと互角に達しているか、あるいは間もなくそうなるだろう。そのため、中国はアメリカにとって最大の地政学的ライバルとなっている。これは個人がどうのこうの、ということを超越した構造的な事実である。


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文化的に、両大国はこれ以上ないほど異なる。トランプが支配と華々しい見せ場を重んじる一方、北京は継続性、規律ある忍耐、面子を保つ妥協、そして漸進的で管理された進化への信念を重視する。中国は相互利益と予測可能なルールを期待して国際システムに参入した。米国が露骨な威圧へと転じることは予想しておらず、それをいいと思っているわけでもない。

トランプ大統領の第1期政権下、中国当局者はこれが一時的な局面だと期待していた。第2期政権は中国の幻想を打ち砕いた。圧力はより強まり、自信はより強大に、挑発はより意図的となった。中国はこれに対抗し、従来の控えめな姿勢を捨て、より鋭い言葉遣いと応酬的シグナル(反応)へと転換した。

北京は、不本意ながらも率直な態度には率直さで応じるようになっている。公然と対立することは、中国の文化からして、依然として違和感を抱いている。しかし指導部は、礼儀正しい戦略的曖昧さの時代は終わったことを理解している。この段階―強制と決意、脅威と反脅威の対峙―は一時的な混乱ではない。新たな常態なのである。

押して引く

米中関係の未来は、ビジネス交渉担当者にはお馴染みのリズムをたどるだろう:圧力、一時停止、部分合意、決裂、繰り返し。双方は、破滅に陥ることなく脅威を与えうる損害の度合いを試す。ワシントンが先に押し進める。それがトランプ大統領の本能だ。北京は押し返す。もはや黙って打撃を受け入れるつもりはない。

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これは新たな冷戦ではない。より流動的で予測不可能なものである。今日の世界は二極化ではない。ロシアやインドから中東・ユーラシア・ラテンアメリカの地域連合に至るまで、他の主要なプレイヤー(変革への参加者)が自らの存在を主張するシステムだ。しかし変革の中心軸は分岐した米中関係にある。過去40年間を特徴づけてきた利害の共生は終焉を迎えた。相互依存は今や安定化要因ではなく、戦場となった。

トランプ以降

大統領トランプは永遠に大統領であり続けるわけではない。中国自体も変化している。より穏やかな局面が続くかもしれないし、緊張がさらに高まるかもしれない。決定的な変数はイデオロギーではなく、力の配分である。文明的アイデンティティが対立に深みを与え、経済と技術が緊迫感をもたらし、指導者のスタイルがそのテンポを決める。

唯一確かなのは、我々が一時的な対立ではなく構造的転換を目の当たりにしているということだ。グローバリゼーション(地球一体化)の最も野心的な段階は終わった。文明圏のプレイヤーたちが時に協力し、しばしば競い合う世界が到来した。そして米国と中国の関係こそが、他のいかなる単一要因よりもその輪郭を決定づけるだろう。

※なお、本稿は、寺島メソッド翻訳NEWS http://tmmethod.blog.fc2.com/

の中の「フョードル・ルキャノフ:米国と中国が衝突する中、他の文明は独自の進路を準備している(2025年11月17日)

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また英文原稿はこちらです⇒Fyodor Lukyanov: As the US and China collide, other civilizations prepare their own course
礼儀正しいグローバリゼーションの時代は終わり、文明が戻ってきた
出典:RT  2025年11月1日https://www.rt.com/news/627245-fyodor-lukyanov-china-us/

寺島隆吉 寺島隆吉

国際教育総合文化研究所所長、元岐阜大学教授

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