民主主義とは相いれないー「新しい戦前」国家情報局検討 宮城えみこ(ノーモア沖縄戦命どぅ宝の会・発起人、ISF理事)

宮城恵美子

本紙10月25日のトップ記事には度肝を抜かれた。「政府、国家情報局検討 市民への監視社会強化恐れも」と見出しにあった。おっしゃる通りの市民監視社会の到来を公に推進という。進軍ラッパが鳴ったのである。既に、政府には内閣情報調査室(内調)のほか、警察庁の公安部門や公安調調査庁の情報組織がある。「一元的に情報を集約する機能」を強めて「(内調を格上げした)国家情報局に集める」。

高市首相はスパイ防止法制定と国家情報局設置が持論で、2021年に出版した著書で、日本には米中央情報局(CIA)や英国MI6のような組織がないと指摘していたという。安倍政権時代に特定秘密の保護に関する法律や「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ改正組織犯罪処罰法を成立させた政府は、水面下でCIAのような情報機関の設置を検討していたという。

本紙28日付社説が述べるように「新しい戦前」体制の完成にまた一歩近づいているのではなかろうか。

「国家情報局」とは、一般的に国家の安全保障や対外・対内の諜報活動を担う中央機関のことを指す。これは警察や防衛省とは異なり、より広範かつ秘密裏に情報を収集・分析・操作する役割を持つ政府機関である。主な活動は、テロ対策、サイバー攻撃への対応、外国勢力のスパイ活動の監視と活動範囲は広く、時に国民のプライバシーにも踏み込むことがあると推察される。

情報機関が設置されると政府は情報収集による統治を志向する傾向が強まるであろう。つまり、国民や外国の動きを事前に把握し、必要であれば未然に対処するという考え方から、国家はいつも、「何が起きそうか」に基づいて行動するようになると思われる。一見すると、国民を守るための仕組みに見えるが、国民を常に監視し、制御する体制とも言える。特に、国家情報局に強い権限が集中すれば、政府は情報の一極集中によって、民主的なプロセスを飛び越えて政策決定を行うようになる恐れがある。

また、このような政府では情報の公開が極端に制限され、「何が本当か」を市民が知ることは難しくなる可能性がある。つまり、真実情報も偽情報も政府が一元管理して国民を恣意的にコントロールできる方向に道を開くであろう。そして、報道の自由が制限されたり、都合の悪い情報が隠蔽されたりすることで、国民は正確な判断材料を得ることができなくなってしまう。要するに、「国家情報局」がある政府は、透明性よりも「機密性」、説明責任よりも「統制」、自由よりも「秩序」を優先する傾向が強まり、民主主義とは相容れない社会に向かう危険性がある。国家情報局の設置を認めないように声を上げよう。

論壇・琉球新報・2025.11.7掲載(宮城えみこ 那覇市、独立言論フォーラム理事)

宮城恵美子 宮城恵美子

独立言論フォーラム・理事。那覇市出身、(財)雇用開発推進機構勤務時は『沖縄産業雇用白書』の執筆・監修に携わり、後、琉球大学准教授(雇用環境論・平和論等)に就く。退職後、那覇市議会議員を務め、現在、沖縄市民連絡会共同世話人で、市民運動には金武湾反CTS闘争以来継続参加。著書は『若者の未來をひらく』(なんよう文庫2005年)、『沖縄のエコツーリズムの可能性』(なんよう文庫2006年)等がある。

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